異世界で【俺は】歌姫を目指す!

如月はるな

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異世界で【俺は】歌姫を目指す!

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「!!!!」
 鏡を見て俺は驚きを隠せない。何故ならそこに写っていたのはまだうら若い美少女だったから。
(俺? いや違う)
 俺は目を瞬《しば》たかせ再度鏡を見つめる。だが姿は変わらない。今度は頬を叩き、つねる。
「イッテェ!」
「お嬢様? 何をなさっているのですか」
「あ、ああ・・・」
 俺はは水が張ってある洗面器に手を入れ、水を掬うとバシャバシャと少し力を入れて顔を叩いた。そして再び鏡に向かう。だがやはり写っいるのは茶色の髪に大きな青みがかった瞳をした少女だった。
(何でだ・・・・)
 俺は昨夜のことを思い返してみる。昨夜は『歌手、瑛人』のコンサートの最終日で皆んなで打ち上げをした事を思い出した。楽しい酒だった。ちょっと羽目を外して飲み過ぎたと思ったが、打ち上げだから良いかと酔い潰れるまで飲んでしまった。その後マネージャーに家まで送った貰った事までは、朧げながら覚えている。
(ベッドにそのまま寝転んで・・・そうだ、夢を見た)
 夢の中で出て来たのがこの少女だった。
 夢の中で少女は泣いていた。
(何で泣いてるの?)と、尋ねたら少女は自分は歌が下手なのだと言っていた。
(歌が好きなのに、上手くなりたいのに・・・)
 そして俺は少女を慰めた。
(歌は心の叫びだ。自分の好きな様に歌えば良いんだよ)
(・・・貴方は歌が上手なのね)
(いちおう歌手だからね)
(私も貴方の様に上手に歌いたい・・・)
 そうだ、確かにあの少女だった。今鏡に写っているのは。
(ええーー、入れ替わったのか?)
「お嬢様、タオルをどうぞ」
「あ、ああ、ありがとう・・・」
 少し強めに顔を拭く。だが状況は変わらない。
(どうするよ、この子の名前さえ知らないのに。第一ここは何処よ!)
「お嬢様、エミリアお嬢様!」
「は、はい」
(名前はエミリアか)
「昨日階段から落ちたのですから、まだ寝ていて下さい」
「・・・階段から・・・」
「そうですよ。全然目を覚さなくて心配致しました。お医者様は大事無いとおっしゃってましたが・・・ご気分はいかがですか?」
「あ、ああ~、ちょっとまだフラフラするかも・・・」
「それは大変です。お食事はどうなさいますか」
「あ・・・酒が欲しいかも・・・」
「はい?」
「あ、こ、ここで・・・えーと・・・」
「・・・ベラです、お嬢様。本当に大事無いですか」
「だ、大丈夫、ちょっ、ちょっとド忘れ、ハハ、ハハハ」
 ベラだと名乗った少し首を傾げながらも、部屋を出ていった。
 それを確認すると俺は再び鏡の前に走った。どうにか間違いであれと願いつつ…。
(やっぱり…エミリアちゃんだ・・・)
 寝て起きたら元に戻るのか? 俺は肩を落としベッドに座り込む。
(エミリアちゃん・・・君の魂は何処へ行ったんだ)
 歌が上手になりたいと言っていた。だから俺なのか?
歌の上手い女の子じゃ駄目だったのか?
 どうすれば良いと落ち込んでいたが、目に白魚の様な手が写り、小さな膨らみが目に入った。
(俺、女の子なんだよな。と、言うことは・・・)
 手で胸元を押さえると確かに自分には無かった柔らかな膨らみが感じられる。思わず上を向く。
(ヤ、ヤバイヤバイ!)
 コンコンとドアがノックされ、ワゴンに食事を乗せてベラが戻って来た。
「だ、大丈夫ですか、お嬢様!」
「・・・え?」
 慌ててベラが布で俺の鼻を抑える。どうやら鼻血を出していたらしい。
「まだ何処かお悪いのですね。お医者様を呼んで参ります」
「あ、いや、こ、これは・・・」
(どんだけ女に飢えてんだよ俺! まだ子供じゃないか)

「何処も異常はない様ですな」
(当たり前だ。本当の事言える訳ないし・・・)
「頭を打っていらっしゃいますから、そのせいかもしれませんな。もうしばらく安静していらした方が良いかと・・」
「そうします。ありがとうございました」
 医者が戻るとベラは安堵したのか、枕元に来ると、
「お食事はお召し上がりになりますか」
「そうだね・・・」
 俺は腹を押さえた。本当は腹ペコだ。
「ベッドの上でお召し上がりますか」
「大丈夫」
 俺はベッドから降りると、ソファに座った。テーブルの上にベラがパンなサラダ、スープなどを並べる。
(少ないな・・・)
 男の俺からしてみれば量が少ない。だが、そうも言えない。
(肉食べたいなぁ・・・)
 ベラが呆れながら見てる前で、瑛人はあっと言う間に全てを平らげてしまった。その上で空腹の合図である、腹の虫がグゥ~と鳴った。
「アハ、アハハ・・・」
「早く回復する為にもう少し持って参りましょう」
「あ、ありがとう…」
 その後、満腹すると俺は眠気には勝てず昼寝してしまった。
 窓から柔らかな日差しと爽やかな風に起こされた。窓の外からは何やら賑やかな声が響いてくる。
(何だ・・・)
 窓から下を見やると広い庭には大勢の少女達の姿が見てとれた。
(何だ、ずいぶんと沢山いるな)
 窓越しに外をみれば、ここはずいぶんと大きな建物の様だ。
(お城? エミリアは王女様か?)
 外で少女達は歌ったり、踊ったりしている。その中の一人が俺に気づくと手を振って来た。
(えっ、俺? 手を振りかえした方が良いのか?)
 ずっと降り続けているので、恐る恐る振り返す。そうすると少女達は顔を見合わせて笑った。
(な、何だよ! ここは何処なんだ)
 俺が住んでいた日本で無いのは確かだ。少女達は様々な髪の色をしているし、優雅にドレスを着ている。
(ヨーロッパか? 二十一世紀じゃ無いよな)
 もう何がなんだか分からない。言語が喋れるのが救いだ。
(こうなったら頭を打って記憶を失った振りをするしか無い)
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