異世界で【俺は】歌姫を目指す!

如月はるな

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異世界で【俺は】歌姫を目指す!

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「あの方は誰? エミリアの知り合い?」
「知りません」
 店の前には豪華な馬車が横付けされてる。おかげで野次馬が群れて来た。俺は逃げたのにあいつは追って来たのだ。知らん顔するのも限界がある。そこは騒ぎを聞きつけてベラがやってきた。ベラはジュベールの顔を見るなり驚きをあらわにする。まぁ、当たり前か。
「な、何で、ジュベール王子がここに?」
 小声でそっと耳打ちしてきた。王子だと知れたらもう大騒ぎでは済まないかもしれないからな。
「わからない」
「エミリア。おかわり頼んでも良いかな」
 能天気な王子はカツレツのおかわりをしてきた。王子もよほどカツレツは気に入った様子だ。
「何人前食うんだよ」
「いやぁ、凄く美味しいよ。いつもは食の細いロアンもペロリだ」
 ロアンとは濡れた様な瞳をしている美少年だ。恥ずかしそうに下を向いて口元を拭っている。
「それは良かった」
「今は旅の途中なんだ。出来ればお弁当にカツサンドも頼みたいのだが・・・」
「カツを食べたいのはお前達だけじゃ無いんだよ!」
「そうか。残念だな・・・」
「だ、大丈夫です。食材は十分にありますから・・・」
「そうか。無理言ってすまないね。これで足りるかな」
 テーブルの上に従者が金貨を大量に置いた。その多さにみんなの目の色が変わる。
「こ、こ、こんなに・・・」
「できれば今夜泊まれる場所も紹介してもらえると嬉しいのですが・・・」
「はい、かしこまりました。お任せ下さい」
 お金に目がくらんだベラとステイシーは二つ返事で了承した。全く、これだから平民は・・・人の事は言えないけど。
「それより、どこかへ行かれるのですか?」
「ああ。近く叔母上の誕生日会があるので」
「叔母上様とは?」
「テネール王国のアシアナ王妃なんだけど・・・」
「まあ! それはそれは・・・」
 さすが王子。親族も王族なのか。
「叔母上は歌が好きでね。いつも何人かの歌手を招待するのだが・・・」
 そう言って俺を見た。見るんじゃ無い!
「エミリアの歌を聴かせたいと思っていたんだ」
「!」
 そう言いながら、俺に近づいてきた。
「初めてエミリアの歌を聴いた時に思ったんだ。エミリアの歌を叔母上に聞かせてみたいってね」
 そう言うと特上の笑みを浮かべた。
「王子様・・・」
「なんてお優しい・・・」
 俺は騙されないからな!

「はぁ~~?」
「だから、王子について行って叔母上様に歌を聴かせてあげたら良いんじゃないの? 叔母上様もきっとお喜びなるわよ」
「そうよ。それにテネール国の王妃様の前で歌ったとあれば、エミリアの歌のファンも増えるかもよ」
「俺はテネール国でどんな料理流行ってるとか、あと、宮廷でどんな料理食べてるのか知りたいな」
 ジョッシュお前もか!
 ドアが開きジュベール王子達が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます、王子様。良くお休みになれましたか」
「はい。ステキな宿屋を紹介してくださってありがとうございます。おはようエミリア」
「・・・おはよう」
 奴らは俺の前の椅子に座ると、にこやかに微笑みかけてきた。 わぁー、やな予感。
「ところでエミリア。昨日の話し考えてくれたかな」
「はっ?」
「一緒に叔母上の誕生日会を祝いたいんだ」
「・・・それはちょっと・・・」
「行って来なさいよ。王宮の誕生日会なんて素敵だわ」
「本当! 私が出席したいくらいよ」
「・・・なら、代わりにどうぞ」
「そ、それは…ほら、私、歌えないし・・・、ねぇ」
「そうそう。そもそも王子はエミリアの歌を聴かせたいとおもってるんだから、ねぇ」
「俺は、宮廷の料理のレシピが欲しい」
 三人揃ってしきりにジュベールと行くことを勧める。
(さては買収されたな)
 俺はジュベールの顔をキッと見た。みんなの言葉にジュベールはうんうんと頷いている。
(さては買収したな)
 結局俺は皆んなの説得に負け、ジュベールと不本意ながらも同行するこになった。善は急げとばかりに馬車に乗せられテネール王国になってしまった。
「いってらっしゃーい」
「料理のレシピお願いしますね!」
 皆んな言いたい放題だ。
「ありがとうエミリア」
「・・・どういたしまして・・・」
 俺はそっぽを向きながらぶっきらぼうに答えた。
「本当に王妃様に聴かせるのか」
「ん?」
「僕は反対だな。何処の誰とも分からない女の歌なんて」
(おい。随分と差別的な発言だな。綺麗な顔してさ)
「大丈夫。エミリアは何処の誰とも分からない女じゃないから」
「ふん。そう」
 気まずい雰囲気の馬車の中、夕暮れにはテネール国との国境近くの町に付いた。ここからは船で移動する様だ。
「大きな川だな。海の様に見える」
「えっ? エミリアは海を見たことあるの?」
「えっ? あ、まぁ・・・」
(日本は島国だからな。海に囲まれてるし・・・)
「凄いな。僕はまだ一度も見た事無いんだ」
「えっ? あ、ああ…そうなんだ。でも、大きな船だな」
 話題を切り替える。
「テネール国との貿易は船が不可欠だからね。商売の為の荷物を多数積み込まれるからね」
「なるほど。道理で樽とか木箱が多いと思った」
「あと、誕生日会に出席して歌や芸を披露する人達も多く乗ってると思うよ」
 さすが王妃様の誕生日会。
「馬車とはここでお別れだ。さぁ、乗ろう」
 ジュベールが手を伸ばして来た。
「おっ、おお・・・」
 断るのも何なので俺はその手を取った。しっかり握られ船に掛けられた板の橋を上がっていく。
 さすが王族とあって部屋は一般の人とは離れて特別室だ。でも、行き来は自由なので、王子が居ると言うことを聞きつけた人々が一目ジュベールを見ようと遠回しに観に来る。
「さすが王子様だね。大変な人気者だ」
「まあ、滅多に王族にはお目にかかれないからね」
 自覚しているジュベールは女性達に手を振っている。そんな女性達の声が聞こえてくる。
「王子様、素敵ね」
「隣にいるお方も凄いお綺麗な殿方ね」
 そんな中、俺のことも囁いているのか聞こえた。
「あの女の方は付き添いの方?」
「侍女か何かかしら」
「それにしてはお召し物かみすぼらしくありません」
(みすぼらしい?)
 三人は一斉に俺の着ているドレスを見た。
(別に普通の普段着だよな)
 そりゃぁ、ジュベールとロアインの高価な服から見れば劣るけど・・・いつも女性はシビアだな。
「気がつかなかった。向こうに着いたら早速ドレスを新調させよう」
「そんなにみすぼらしいか?」
「いや、僕はエミリアらしいと思うけど・・・」
「ククク」
 ロアインは面白そうに笑った。
(チッ。嫌な奴だ)
 貴族って面倒だな。まぁ、着る物なんてどうでも良いけど。そうこうしている内に街並みが見えて来た。赤い屋根や青い屋根、それが手前から奥へと段々畑の様に連なっている。
「やっと着いたな」
 港が近くなって来ると大勢の人影も見える。
「おおーー!」
 波止場の真ん中に場違いな馬車がドーンと停まっている。多分、ジュベールを迎える馬車なのだろう。

「ジュベール。良く来てくれたな」
「ジグ」
 身分のある男性なのだろう。タメ口だし。
「ロアインも。相変わらず美人だな」
 ジグと呼ばれた彼は俺の顔を見て不思議なそうな表情を見せた。
「このご婦人は?」
「彼女はエミリア。叔母上の為に歌を披露しようと思ってね」
「おお。母上も喜ぶよ。歌が大好きだからね」
 そう笑顔で答えながらも俺の服装にチラリと目を落とした。
「エミリアです。みすぼらしい姿で失礼します」
「ハハハ。すまない。他意はないんだ」
 俺達はジグ王子が用意した馬車に乗り込む。
「僕はジュベールが恋人を同伴したのかと思ったんだよ」
「えっ?」
「無い無い」
 俺とロアインが同時に発した。何でこいつも否定するんだよ。
「可愛い方なのに・・・」
 まぁ、エミリアは可愛い方だと思うけど、何せ中身は男だからな。
「並だろう」
 またもチャチャを入れたのはロアインだ。こいつ何の恨みが? まさか、ジュベールの事好きなのか?
 俺はロアインを睨んだが、あいつは窓の外を見ている。俺も仕方ないので、外の風景を楽しむ。空気も爽やかで、街の人達が手を振ってくれてる。
 俺も貴族では無いが振り返す。気分はお姫様だ。
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