10 / 14
第一章 風の谷“ミスティア”
第九話
しおりを挟む
何も言わず黙々と進んでいく女性をイアンは追いかけようとして、暫し考えた。タイグルオーガはどうするべきだろうか?
「なあ、アヤト」
「何……」
打ちひしがれて肩を落としている彩斗を見ない振りして、イアンは問いを放つ。こればかりはどうしようもない。
「タイグルオーガはどうすべきだろう」
「知らないよ。突っ立ってるギルド職員に預ければいいでしょ。俺は逃げたい」
後ろ向きながらもまともな意見をした彩斗に、イアンはなるほどと思いベンに向き直る。
さり気なくタイグルオーガの足を差し出したら、怖そうに後退りした。
「ベン、頼む」
「え、マジで!? ちょっ……!?」
「行くぞアヤト」
「いやだぁぁぁ!!」
イアンが強制的に彩斗を引きずって行くと、女性--ギルドの受付長が静かにその場で待機していた。
「スミスさん、お待たせしてすみません」
「いいえ。さあ、此方に」
「あの、俺は帰って……」
「此方にお越し下さい。旅のお方」
「……はい」
イアンがスミスと呼んだ女性の有無を言わせない迫力に、なんとか逃げ出そうと足掻いていた彩斗は降参した。
その様子を見ていたイアンは感心する。
この街にはスミスに逆らおうだなどと考える者はいない。それは、スミスの威厳ある姿と厳しい性格に引いてだ。
それなのに彩斗は反抗しようとした。なかなかの心意気だ。
「あの、旅のお方って止めませんか? 俺はアヤトです。……えっと、スミスさんと呼んでも?」
「わかりました、どうぞご自由に。アヤト様」
「は、ははは」
「良かったな、アヤト」
彩斗に怨めしげに睨まれてもどこ吹く風のイアン。
そんなたわいない会話をしているうちに、彩斗たちはギルドの奥まった豪奢な部屋に辿り着いた。
ペコリと頭を下げて中に入るように促された彩斗は、何のためらいもなく扉を開けた。
一瞬ちりってした寒気を感じて彩斗は首を引っ込める。そこを通り過ぎて深々とドアに突き刺さったフォークに、彩斗はやっぱりと自分の勘を褒めた。
「流石だね、少年。タイグルオーガを倒しただけある」
ぱちぱちぱちと乾いた拍手の音が響く。彩斗はそちらに意識を向けて相手を見た。イアンは刺さったフォークに驚愕している。
部屋の主は椅子に座り微笑んでいた。茶髪を横に流していて、整った顔には思慮深い碧眼だった。
彩斗は祖父から教わった。相手のことを知りたければしっかり相手を見ろと。だからじっと見詰める。
「どなたですか?」
警戒して問い掛けた彩斗に、男は唐突に嘯いた。それが彩斗とランドの出会いだった。
「ランド・マークだ。君に模擬戦を申し込む」
「ーー……は?」
彩斗の間の抜けた声が響いた。
「なあ、アヤト」
「何……」
打ちひしがれて肩を落としている彩斗を見ない振りして、イアンは問いを放つ。こればかりはどうしようもない。
「タイグルオーガはどうすべきだろう」
「知らないよ。突っ立ってるギルド職員に預ければいいでしょ。俺は逃げたい」
後ろ向きながらもまともな意見をした彩斗に、イアンはなるほどと思いベンに向き直る。
さり気なくタイグルオーガの足を差し出したら、怖そうに後退りした。
「ベン、頼む」
「え、マジで!? ちょっ……!?」
「行くぞアヤト」
「いやだぁぁぁ!!」
イアンが強制的に彩斗を引きずって行くと、女性--ギルドの受付長が静かにその場で待機していた。
「スミスさん、お待たせしてすみません」
「いいえ。さあ、此方に」
「あの、俺は帰って……」
「此方にお越し下さい。旅のお方」
「……はい」
イアンがスミスと呼んだ女性の有無を言わせない迫力に、なんとか逃げ出そうと足掻いていた彩斗は降参した。
その様子を見ていたイアンは感心する。
この街にはスミスに逆らおうだなどと考える者はいない。それは、スミスの威厳ある姿と厳しい性格に引いてだ。
それなのに彩斗は反抗しようとした。なかなかの心意気だ。
「あの、旅のお方って止めませんか? 俺はアヤトです。……えっと、スミスさんと呼んでも?」
「わかりました、どうぞご自由に。アヤト様」
「は、ははは」
「良かったな、アヤト」
彩斗に怨めしげに睨まれてもどこ吹く風のイアン。
そんなたわいない会話をしているうちに、彩斗たちはギルドの奥まった豪奢な部屋に辿り着いた。
ペコリと頭を下げて中に入るように促された彩斗は、何のためらいもなく扉を開けた。
一瞬ちりってした寒気を感じて彩斗は首を引っ込める。そこを通り過ぎて深々とドアに突き刺さったフォークに、彩斗はやっぱりと自分の勘を褒めた。
「流石だね、少年。タイグルオーガを倒しただけある」
ぱちぱちぱちと乾いた拍手の音が響く。彩斗はそちらに意識を向けて相手を見た。イアンは刺さったフォークに驚愕している。
部屋の主は椅子に座り微笑んでいた。茶髪を横に流していて、整った顔には思慮深い碧眼だった。
彩斗は祖父から教わった。相手のことを知りたければしっかり相手を見ろと。だからじっと見詰める。
「どなたですか?」
警戒して問い掛けた彩斗に、男は唐突に嘯いた。それが彩斗とランドの出会いだった。
「ランド・マークだ。君に模擬戦を申し込む」
「ーー……は?」
彩斗の間の抜けた声が響いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
565
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる