5 / 17
再会
しおりを挟む
「お疲れ様で~す。お世話になります」
現場のホールには2時間ぐらい前に入った。何度か仕事で来たことがある。500人は収容できる小さいが立派な建物。こんな所でセミナーの講師を務めるようになった裕也が誇らしい。まもなく裕也も、現場に来ると思うと居ても立っても居られない感情に襲われた。こんな気持ちになるのはいつぶりだろう・・『20年の時を越える』その瞬間、私はどんな顔をすればいいのだろう・・そんなことを考えていると声がかかった。
「森山さん」
私の現在の名字。
「はい!」
「講師の先生がお越しになりましたんで、打ち合わせよろしいですか?」
「はい、今行きます!」
裕也が来た! 焦る気持ちで吐き気がした。心臓が口から飛び出そう、なんて表現が正しい。
恐る恐る裕也へと近づく、一歩、また一歩。名刺交換のための準備をしていると、ホールの責任者の滝沢さんが気を利かせて、私を裕也に紹介してくれた。
「神崎先生、今日のセミナーの司会を担当してくれます、こちら森山さんです」
裕也はうつむきながらカバンに手を入れ、名刺入れを探す、まだ私には気がつかない・・『裕ちゃん、あまり変わらないなぁ・・体型も20年前のままじゃん』そんなことを思いながら、目を合わす瞬間を待つ・・『ドキッドキッと心臓が鳴る』
「はじめまして、弁護士の神崎と申します」
その瞬間は来た! 一瞬戸惑い、そのあと裕也は目をまるくし驚く! すぐ喜びの表情へと変わり
「香織?? 香織だよね??」
私は私のことに気がついてくれたことに安堵した。
「うん! 裕ちゃん久しぶり!」
「えっなんでここに?」
事態が呑み込めないそんな表情を浮かべる。
「司会だよ、司会!」
「あっそうか・・そういうことか・・」
二人とも初めて会った時のように、恥ずかしく、ぎこちなく、初々しく、20年ぶりの再会を迎えた。自然とお互い笑顔になれた。照れ臭さが垣間見えた。するととなりにいたホールの責任者の滝沢さんは何が起こったのか分からず不思議そうに聞いた。
「お二人はお知り合いですか?」
私たちはどちらからともなく答えた。
「はい、地元の同級生です」
「そうでしたか!」
やっと納得できたと、滝沢さんは
「では、簡単に打ち合わせをと」
諭した。
「申し訳ありません。すぐ始めましょう」
と裕也が言った。
「あっごめん! 名刺交換がまだだったね」
「うん」
「改めまして、弁護士の神崎です」
「本日、司会を務めます森山です」
名刺交換のあと、名刺を見ながら少しだけ時が止まった。『弁護士になったんだね。おめでとう・・』何故だろう口に出来ずに心の中で言った。裕也は名刺を見て、そっと私の左の薬指に光る指輪を見た。私の旧姓は『中山』名字が変わっていたので、やはり気になったのだろう。切ない気持ちになった。私も同じことをした。裕也の薬指には指輪は無かった。『ホッ』とした気持ちになる私はなんなのだろう・・そんな気持ちを笑顔でごまかした。
打ち合わせが終わると、セミナーが始まるまでの間、少しだけ話しが出来た。
「急だったから、本当に驚いたよ」
「そうだよね」
「香織・・」
そう言って言葉に詰まる。
「って呼んでいいんだよね?」
「もちろんじゃん」
ほっとして、切ない気な表情を浮かべながら裕也が言った。
「香織、結婚したんだね・・おめでとう・・」
「あっありがとう」
「森山って名字が変わっていたから、気がついた」
「そっか・・」
私は何故か話題を変えた・・。
「私、おばさんになったでしょ??」
すぐに少し語気を強めて裕也が言う
「そんなことないよ! すごくキレイだよ!」
自分で顔が赤くなるのがわかった。
「馬鹿な事言わないでよ」
精一杯強がって見せたけど、動揺は隠せない。『私、まだ裕也が好き! まだ裕也に恋をしてた・・』
「馬鹿な事じゃないよ」
裕也がすねる。
「裕ちゃんこそ全然変わらないじゃん。ちょっと痩せた? ご飯ちゃんと食べてるの?」
一瞬ギクッとなった裕也。結構、不摂生とかをしてるみたいだった。
「ちゃんと食べてるよ!」
まるで20年もの月日が流れたとは思えなかった。ここに来るまでの不安や恐怖はすべて消え去り、20年ぶりの再会を楽しんでいた。
今日のセミナーには300人以上の人が集まり「事業承継とM&A」という難しいテーマだったけど、裕也のわかり易い説明に耳を傾け、参加した誰もが満足そうだった。
「最後に今日の講師、弁護士の神崎裕也先生に盛大な拍手を!」
私のセミナーを締めくくる言葉に拍手が鳴りやまなかった。裕也が本当に大きく見えた。ついこの前まで高校生だったのに・・住んでる世界の違いを感じてしまっていた。
「お疲れ様です」
セミナー終了後も色々な人達に囲まれ、私は話しかけられずにいた。ついさっきまであんなに近くに感じられたのに・・。20年ぶりの再会・・もう終わりなの?・・私は帰り支度をしタイミングを見て裕也に声かけた。
「裕ちゃん、お疲れ様。今日はありがとう」
「お疲れ様。こちらこそありがとう」
それ以上、言葉が続かない・・お互い、このまま離れたくないそう思っていた。
「じゃあね」
軽く会釈をし、小さく手を振り、その場を離れた。裕也の切ない表情に涙が出そうになった。でも『泣いちゃいけない』せっかく再会出来たのに、なんで泣くの・・無理に笑顔を作った・・夢のような日だった。こんな気持ちになれたのはあなたとだから・・あの日あなたの名前を見た日、溢れ出した感情に胸が躍った。短い間だったけど夢を見られたんだ。泣いちゃいけない。裕也の視線を遮るように足早に帰途についた。
部屋には誰もいない・・ここ何年もこんな静寂を感じたことはない。心はモヤモヤでいっぱい。もっと顔を見ていたかった、もっと声を聞いていたかった、もっと話しをしたかった、もっと・・もっと・・ベットに着替えもせずに、部屋の電気もつけずにうつ伏せに寝転がった。もう力が入らない。今日まで約一カ月、今日の日だけを考えて来たから、もうエネルギーが残っていなかった。そのまま少しだけ眠った。眠りの中、裕也の夢を見たような気がした。『プルプルルッ・プルプルルッ」『ブーブー』スマホが鳴り響く! 私は『裕ちゃん』と思い飛び起き慌てて電話に出る。
「ママ? 俺だけど」
肩の力が抜けた・・。『なんだパパか』こう感じる自分が嫌になる。
「はい、パパどう無事に着いた?」
元気そうに声を張った。
「うん着いたよ。さっき夕ご飯を済ませたとこ」
「そっかぁ良かった」
少し声が低いのが気になったようだ
「いやっ別に何もないよ」
「ラインも既読にならないからさ・・」
「あっごめん。ちょっと寝てたから」
「そっか、寝てたんだ」
「子供達は?」
「ばあばが居るから二人とも機嫌がいいよ」
「お母さんによろしく言っておいてね! お世話になって申し訳ないって」
「大丈夫。仕事なんだから仕方ないって、お袋も言ってたよ」
胸が痛む・・義理のお母さんまで騙しているんだ。
「ほんとごめんね」
「いいよ。こっちは任せといて」
「ありがとう」
「じゃねぇ・・」
真っ暗な部屋、外はとっくに日が暮れていた。私は玄関に置きっぱなしにしていたカバンの中から名刺入れを取り出し、今日もらった裕也の名刺を手にした。まるで衝動に突き動かされるように名刺に書かれている裕也の携帯番号に電話をかける・・呼び出しが鳴る、お願い電話に出て! まるで子供のように神様に願った。
「はい、神崎です」
裕ちゃんだ!
「裕ちゃん? 香織・・」
声に元気がないのが裕也は気になった。
「香織? どうしたの? 今日はありがとうね」
優しく裕也が話しかける。それを遮るように言った!
「裕ちゃん! 会いたいよ!!」
「どうした? 会いたいって、いつ?」
「いますぐ会いたい! 迎えにきてよ!」
昔、父親や姉とけんかをした時、泣いて裕也に電話をかけた。その時のことがフラッシュバックする。
「何かあった?」
「お願い・・・」
泣かないって決めていたのに涙が止まらない。
「わかった。どこに行けばいいの?」
こうして私は裕也の胸に飛び込んだ。20年ぶりの再会はまだ終わってはなかった。
現場のホールには2時間ぐらい前に入った。何度か仕事で来たことがある。500人は収容できる小さいが立派な建物。こんな所でセミナーの講師を務めるようになった裕也が誇らしい。まもなく裕也も、現場に来ると思うと居ても立っても居られない感情に襲われた。こんな気持ちになるのはいつぶりだろう・・『20年の時を越える』その瞬間、私はどんな顔をすればいいのだろう・・そんなことを考えていると声がかかった。
「森山さん」
私の現在の名字。
「はい!」
「講師の先生がお越しになりましたんで、打ち合わせよろしいですか?」
「はい、今行きます!」
裕也が来た! 焦る気持ちで吐き気がした。心臓が口から飛び出そう、なんて表現が正しい。
恐る恐る裕也へと近づく、一歩、また一歩。名刺交換のための準備をしていると、ホールの責任者の滝沢さんが気を利かせて、私を裕也に紹介してくれた。
「神崎先生、今日のセミナーの司会を担当してくれます、こちら森山さんです」
裕也はうつむきながらカバンに手を入れ、名刺入れを探す、まだ私には気がつかない・・『裕ちゃん、あまり変わらないなぁ・・体型も20年前のままじゃん』そんなことを思いながら、目を合わす瞬間を待つ・・『ドキッドキッと心臓が鳴る』
「はじめまして、弁護士の神崎と申します」
その瞬間は来た! 一瞬戸惑い、そのあと裕也は目をまるくし驚く! すぐ喜びの表情へと変わり
「香織?? 香織だよね??」
私は私のことに気がついてくれたことに安堵した。
「うん! 裕ちゃん久しぶり!」
「えっなんでここに?」
事態が呑み込めないそんな表情を浮かべる。
「司会だよ、司会!」
「あっそうか・・そういうことか・・」
二人とも初めて会った時のように、恥ずかしく、ぎこちなく、初々しく、20年ぶりの再会を迎えた。自然とお互い笑顔になれた。照れ臭さが垣間見えた。するととなりにいたホールの責任者の滝沢さんは何が起こったのか分からず不思議そうに聞いた。
「お二人はお知り合いですか?」
私たちはどちらからともなく答えた。
「はい、地元の同級生です」
「そうでしたか!」
やっと納得できたと、滝沢さんは
「では、簡単に打ち合わせをと」
諭した。
「申し訳ありません。すぐ始めましょう」
と裕也が言った。
「あっごめん! 名刺交換がまだだったね」
「うん」
「改めまして、弁護士の神崎です」
「本日、司会を務めます森山です」
名刺交換のあと、名刺を見ながら少しだけ時が止まった。『弁護士になったんだね。おめでとう・・』何故だろう口に出来ずに心の中で言った。裕也は名刺を見て、そっと私の左の薬指に光る指輪を見た。私の旧姓は『中山』名字が変わっていたので、やはり気になったのだろう。切ない気持ちになった。私も同じことをした。裕也の薬指には指輪は無かった。『ホッ』とした気持ちになる私はなんなのだろう・・そんな気持ちを笑顔でごまかした。
打ち合わせが終わると、セミナーが始まるまでの間、少しだけ話しが出来た。
「急だったから、本当に驚いたよ」
「そうだよね」
「香織・・」
そう言って言葉に詰まる。
「って呼んでいいんだよね?」
「もちろんじゃん」
ほっとして、切ない気な表情を浮かべながら裕也が言った。
「香織、結婚したんだね・・おめでとう・・」
「あっありがとう」
「森山って名字が変わっていたから、気がついた」
「そっか・・」
私は何故か話題を変えた・・。
「私、おばさんになったでしょ??」
すぐに少し語気を強めて裕也が言う
「そんなことないよ! すごくキレイだよ!」
自分で顔が赤くなるのがわかった。
「馬鹿な事言わないでよ」
精一杯強がって見せたけど、動揺は隠せない。『私、まだ裕也が好き! まだ裕也に恋をしてた・・』
「馬鹿な事じゃないよ」
裕也がすねる。
「裕ちゃんこそ全然変わらないじゃん。ちょっと痩せた? ご飯ちゃんと食べてるの?」
一瞬ギクッとなった裕也。結構、不摂生とかをしてるみたいだった。
「ちゃんと食べてるよ!」
まるで20年もの月日が流れたとは思えなかった。ここに来るまでの不安や恐怖はすべて消え去り、20年ぶりの再会を楽しんでいた。
今日のセミナーには300人以上の人が集まり「事業承継とM&A」という難しいテーマだったけど、裕也のわかり易い説明に耳を傾け、参加した誰もが満足そうだった。
「最後に今日の講師、弁護士の神崎裕也先生に盛大な拍手を!」
私のセミナーを締めくくる言葉に拍手が鳴りやまなかった。裕也が本当に大きく見えた。ついこの前まで高校生だったのに・・住んでる世界の違いを感じてしまっていた。
「お疲れ様です」
セミナー終了後も色々な人達に囲まれ、私は話しかけられずにいた。ついさっきまであんなに近くに感じられたのに・・。20年ぶりの再会・・もう終わりなの?・・私は帰り支度をしタイミングを見て裕也に声かけた。
「裕ちゃん、お疲れ様。今日はありがとう」
「お疲れ様。こちらこそありがとう」
それ以上、言葉が続かない・・お互い、このまま離れたくないそう思っていた。
「じゃあね」
軽く会釈をし、小さく手を振り、その場を離れた。裕也の切ない表情に涙が出そうになった。でも『泣いちゃいけない』せっかく再会出来たのに、なんで泣くの・・無理に笑顔を作った・・夢のような日だった。こんな気持ちになれたのはあなたとだから・・あの日あなたの名前を見た日、溢れ出した感情に胸が躍った。短い間だったけど夢を見られたんだ。泣いちゃいけない。裕也の視線を遮るように足早に帰途についた。
部屋には誰もいない・・ここ何年もこんな静寂を感じたことはない。心はモヤモヤでいっぱい。もっと顔を見ていたかった、もっと声を聞いていたかった、もっと話しをしたかった、もっと・・もっと・・ベットに着替えもせずに、部屋の電気もつけずにうつ伏せに寝転がった。もう力が入らない。今日まで約一カ月、今日の日だけを考えて来たから、もうエネルギーが残っていなかった。そのまま少しだけ眠った。眠りの中、裕也の夢を見たような気がした。『プルプルルッ・プルプルルッ」『ブーブー』スマホが鳴り響く! 私は『裕ちゃん』と思い飛び起き慌てて電話に出る。
「ママ? 俺だけど」
肩の力が抜けた・・。『なんだパパか』こう感じる自分が嫌になる。
「はい、パパどう無事に着いた?」
元気そうに声を張った。
「うん着いたよ。さっき夕ご飯を済ませたとこ」
「そっかぁ良かった」
少し声が低いのが気になったようだ
「いやっ別に何もないよ」
「ラインも既読にならないからさ・・」
「あっごめん。ちょっと寝てたから」
「そっか、寝てたんだ」
「子供達は?」
「ばあばが居るから二人とも機嫌がいいよ」
「お母さんによろしく言っておいてね! お世話になって申し訳ないって」
「大丈夫。仕事なんだから仕方ないって、お袋も言ってたよ」
胸が痛む・・義理のお母さんまで騙しているんだ。
「ほんとごめんね」
「いいよ。こっちは任せといて」
「ありがとう」
「じゃねぇ・・」
真っ暗な部屋、外はとっくに日が暮れていた。私は玄関に置きっぱなしにしていたカバンの中から名刺入れを取り出し、今日もらった裕也の名刺を手にした。まるで衝動に突き動かされるように名刺に書かれている裕也の携帯番号に電話をかける・・呼び出しが鳴る、お願い電話に出て! まるで子供のように神様に願った。
「はい、神崎です」
裕ちゃんだ!
「裕ちゃん? 香織・・」
声に元気がないのが裕也は気になった。
「香織? どうしたの? 今日はありがとうね」
優しく裕也が話しかける。それを遮るように言った!
「裕ちゃん! 会いたいよ!!」
「どうした? 会いたいって、いつ?」
「いますぐ会いたい! 迎えにきてよ!」
昔、父親や姉とけんかをした時、泣いて裕也に電話をかけた。その時のことがフラッシュバックする。
「何かあった?」
「お願い・・・」
泣かないって決めていたのに涙が止まらない。
「わかった。どこに行けばいいの?」
こうして私は裕也の胸に飛び込んだ。20年ぶりの再会はまだ終わってはなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる