赤い糸(20年の時を越えて)

平尾龍之介

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魔法

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  約束の場所、香織を見つけた! 車を飛び降り、駆け足で香織の元に走った。

「香織!」
「裕ちゃん!」

すぐに香織が俺を見つけて駆け寄る。二人は吸い込まれるように抱きしめあった。20年分の思いが爆発した瞬間だった・・。周囲の行きかう人々の視線など目に入らない・・

「ごめんな・・俺・・」

涙で言葉が出ない・・

「裕ちゃん、会いたかったよ・・」
「俺も香織にずっと会いたかった・・」

自然と抱きしめる腕に力が入った。きつくきつく抱きしめた。

「裕ちゃん・・苦しいよ・・」
「あっごめん・・力がはいっちゃった・・」

腕をほどき見つめ合うと、二人とも笑顔になった。

「あっプレゼントがあるんだ!」

ポケットに手を入れ、俺は香織に差し出した。それはパック入りのイチゴ牛乳。ここに来る前に慌ててコンビニで買ったのだ。

「これ好きだっただろ?」

香織は驚き喜び

「覚えててくれたんだ・・」

涙を流し受け取る。

「当たり前だろ! ケンカした時、こいつにどれだけ助けられたか笑」
「本当、子供扱いされてたよね。機嫌を直すのがイチゴ牛乳だもんね笑」

もう二人の間に20年間の隙間は感じられなかった。

「時間あるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、どこか行こうか?」
「うん」

二人で車に乗り込み何処へともなく走り始めた。

「すごいイイ車だね」
「一応、俺、弁護士だからね・・」
「大人になったね・・」

俺の横顔を見つめながら香織が言う。

「香織のおかげで弁護士になれたんだよ! みんなが否定した俺の夢を応援して支えてくれた。香織だけが・・ありがとう・・」

香織は下を向き頷く・・泣いているのはすぐにわかった。

「ずっと言えなかったから・・俺、誰よりも香織に弁護士になったことを伝えたかった・・そしておめでとうって言ってもらいたかった・・」
「おめでとう・・実は私、知ってたんだ・・ネットで検索してた・・ごめん・・」

俺のことを調べてくれていた・・忘れられているってずっと思っていたのに・・愛おしさが溢れた・・。

「そっか・・俺のこと覚えててくれたんだね・・」
「当たり前じゃない・・忘れることなんてできないよ・・」
「うん・・俺もだよ・・」

夜の街を駆け抜ける車、少し開けた窓から流れ込む風が二人を優しく包んでいく。

「少し落ち着いたね・・」
「うん・・ごめんね。急に呼び出したりして・・」
「俺は良いんだよ! 香織は大丈夫なの?」
「う、うん」
「結婚してるんでしょ?」

俺は少し突っ込みをいれた。

「今日は大丈夫なの・・私・・裕也に会いたくて家族に嘘ついたんだ・・」
「どうして?」
「裕也の39歳の誕生日の日、私には奇跡が起きたんだ! 本当なら今日は有給を取って家族で法事に出掛けてた・・でも、会社の同僚が病気になっちゃって、急遽代役を頼まれたの。その中のひとつの仕事が今日のセミナーだった・・講師の名前を見て胸がときめいた・・『弁護士・神崎裕也』もう裕ちゃんに会いたくて、会いたくて、自分を抑えきれなくなって・・嘘ついた・・」
「奇跡かぁ・・本当に奇跡だね・・もう二度と会えないって思ってた・・香織、ありがとう・・香織が俺を見つけてくれたんだね・・家族にまで嘘ついて・・ごめん。俺さぁずっと彷徨ってた・・大海原で遭難した感じ。どこに戻ったらいいのか、今どこにいるのかもわからなくなってた・・。でも今日さ、やっと戻ってこれた!」

俺は笑顔になっていた。

「良かった・・裕ちゃんがどんな反応するか、本当は怖くて怖くてたまらなかったんだ・・今日会うまでずっと裕ちゃんのことばかり考えてた。あの頃みたいに・・」
「じゃあ時間が許す限り、あの頃に戻ろうよ」
「うん・・ありがとう」

香織も笑顔になった。

「お腹空かない?」
「空いたねぇ~いっぱい泣いたからね~」

笑顔の香織がそう言う。

「目が腫れてるよ笑」
「ちょっと見ないでよ!」
「アハハ!」
「いつもケンカして、裕ちゃんに泣かされたなぁ」
「そんなことしてないよう笑」
「その度に、目が腫れてからかわれた」
「アハハ! 変わらないね」

そうだ。そんな日々が当たり前にあったんだ・・。幼くて、お互い強がって・・あの日あの時、少年と少女は恋をしていた。

「あっいいの見つけた!」
「なに?」

香織が驚いて見せる。

「モスバーガー!」
「モス!?」
「よく食べたよね!」
「食べに行ったね~!二人のご褒美みたいなものだよね」
「食べよっか?」
「うん、いいよ笑」

他の女性との夕食となれば、色々と考えさせられるものだ。しかもこの年齢で職業が弁護士となれば、勝手に高級なものを要求される。そういうことがたまらなく嫌で、煩わしくもう長い間、女性との食事などしていない。
それが、香織となら変な気を使わなくても自然なままの自分でいられる。なんだろう・・この感じは・・俺の心は、やけに落ち着いた気持ちになった。

「そんだけしか食べないの?」
「普通だよ」
「昔は、ハンバーガー3つも食べてたじゃん」
「あの頃は若かったからね。もう歳とったからぁ」
「そっかぁ・・」

やけに笑顔の香織が俺を見つめている。ニヤニヤして・・。そっと俺の口元に手を伸ばしてきた。優しく香織の指が口元を撫でる。その指を自分の口元へ・・俺はその仕草に息をのんだ・・愛おしさが溢れた。

「もうソースついてるよ~」
「えっ! あっ! ありがとう」
「昔もよくつけてたよね!」
「うん」
「子供のままじゃん笑」

昔から不器用だった俺・・そんな俺に時には母親以上の愛情を注いでくれた。

「ねぇ裕ちゃん・・聞いていい?」
「なに? どうした?」

急に真面目な顔をして尋ねてきた。

「裕ちゃんは、今、彼女とかいないの? 結婚とかしてないの?」
「彼女なんていないよ! 結婚は1度だけしたけど長くは続かなかったんだ」
「そうなんだ・・でも、なんで彼女もいないの? 弁護士だよ! それに裕ちゃん、イケメンじゃん。モテるでしょ??」
「なんでだろう・・そんなにモテないよ」
「嘘だぁ・・何人も彼女いてそうだよ」
「あのさぁ・・それよく言われるんだけど、俺はそんなことできる人間じゃないよ。知ってるでしょ!」

すこしふてくされた。

「ごめん・・知ってるけど、聞いてみただけ・・」
「香織は、家族ってさっき言ってたけど、子供いるんでしょ?」

ずっと気になっていた事を勢いで聞いていた・・。本当は聞きたくない! そう思う自分がいた。

「裕ちゃんは?」

質問に質問で返してきた香織を見て、香織も答えにくい質問なんだとわかった。

「俺はいてないよ」
「そっかぁ・・私には7歳の男の子と4歳の女の子がいるんだ・・」

勇気を振り絞るように香織は言った。

「二人もいるんだぁ。写真とかないの?」

俺は香織の子供が無性に見たくなった。不思議な感情だ。嫉妬で狂いそうになる自分と、幸せに生活していることが嬉しいと思える自分がいて分裂しそうだった。

「あるよ! 写メでいい?」

香織も俺の以外な反応に戸惑っている感じだった。

「男の子がね、航太。女の子の方が春音っていうの・・」
「香織・・お母さんになったんだね・・」
「そうだね・・」

これが現実なんだ! 20年の時が経つってことなんだ・・受けとめるしかない現実・・。愛する人が幸せならそれで良い・・なんて言えたらそれは偽善だ・・そう俺は思っていた・・。俺ならもっと幸せに出来たのに! 悔しいさがこみ上げる。

「俺たちがもし結婚していたら、もっと大きな子供がいてもおかしくないんだよね・・」
「そうだね・・」

切なく笑ってみせた・・。

「家族のみんなはいつ法事から帰ってくるの?」
「明後日」

時間があることがわかって戸惑った。でも次の瞬間、本能が俺を突き動かす。

「じゃあさ、家族が戻ってくるまでの時間を俺にくれない?」

少しの沈黙・・『頼むお願いだ!』大声で叫びたかった。

「うん。いいよ・・」
「ありがとう」

クールに答えたけど、心は激しく揺さぶられていた。

「最初っから、そのつもりだったんだ・・私」

そう言い放つ香織は大人の女性だった。

「裕ちゃんは仕事とか大丈夫なの?」

香織は心配気に聞いた。

「大丈夫! なんとでもなるから」

香織のこと以上に大切なものはない。もう離したくない・・できればこのまま時間を止めてしまいたい。

そのあと、行く当てもなく街をさまよい、二人は俺の部屋へと吸い込まれていった。

「ここが裕ちゃんの家なの!?」
「そうだよ」
「すごいじゃん! タワーマンションてやつだよね! 私、こんなところ入ったこともないよ!」
「何もない部屋だよ。期待しないで」
「すごいなぁ・・」

香織はまるで少女のようにはしゃいでみせた。
本当に、俺が成功したことがうれしのだ。そんなことぐらい鈍感な俺にでもわかっていた。
部屋に入るなり俺はシャワーを浴びた。

「俺、ちょっと休ませてもらってもいいかな?」
「うん。いいよ。どうかしたの?」
「実は昨日寝てなくてさ。今日は色々あったし、ちょっと疲れちゃって」
「そっか。そうだよね。急だったからね。わかったよ」
「ごめんな、わがまま言って。部屋好きに使っていいから」
「じゃあ、私もお風呂入ろうかな?」
「ゆっくり入っておいで・・」

俺は疲れた体をベットに放り投げ眠った。2時間ぐらい眠っただろうか・・急に不安になり目が覚めた。香織・・今日の出来事が夢だったらどうしよう・・不安、胸騒ぎがして起き上がった。足早にリビングへ向かう。扉の向こうに香織がいた・・その顔を見て不安は吹き飛んだ。そのまま子供のように香織に抱きついた・・まるで子供の頃、夜中に怖い夢を見て母親に抱きついたように・・

「ちゃんと休めた?」

俺の顔を見て少し心配気に聞いた。

「うん。休めたよ」

優しく俺の頭を撫でる手がたまらなく温かい。

「しっかしこの部屋なんもないんだね!」
「うん。引っ越してきたばかりだから・・」

ぎこちない返事をした。

「ここに来る前に、コンビニで大量に買い物した意味がわかったよ」

話しを遮るように俺はカーテンを開けベランダへと出た。外に出ると少しむッとした空気がありそのあと少しだけ空気が冷たくなる。

「香織、こっち来てみなよ」
「わぁーすっごくキレイじゃん! こんなに高いんだねぇ」
「今日は月が真ん丸だよ」
「すごい!」

ベランダから景色を眺めていると香織が言う。

「20年前は20年経ってこんなところに住んでるなんて思いもしなかったよ・・夢叶えたんだね・・裕ちゃん・・ほんとすごいね」
「なにもすごくないよ・・こんなの欲しくもなんともない・・本当に欲しいものはいつも手に入らないから・・いつもさ、ここから月を眺めては、もしもまだ願いが叶うならって思ってた」
「本当に欲しいものって・・何?・・」

俺はもう自分の心を偽ることはできなかった。今、この瞬間に本当の気持ちを伝えようと心に決めた。もう2度と後悔はしたくない。

「俺さ、昔、ある女の子に魔法をかけられたんだ。その魔法は誰にもとけない不思議な魔法。誰かが別の魔法をかけようとしてもダメでさ・・今もずっと魔法にかかったままなんだ。その魔法をかけたのは香織だよ・・ずっと好きだった! 20年間ずっと! 香織は俺にとってかけがえのないものなんだ・・」

そう言って香織のことを引き寄せた。

「キスしていい・・」

もう言葉なんて必要なかった・・。小さく頷く香織・・二人は熱く激しく抱き合った。何度も何度も・・胸が締め付けられる。こんなに愛おしいさを感じさせられる女性は、他にいない。本能が求めあう・・もっともっと・・香織をベットに押し倒し、引き裂くように服を脱がせた。俺の激しい熱情を、香織は愛情で包み込む・・激しくこすれ合い火花が散るように燃え上がる・・汗ばむ香織の肌が、余計に色気を感じさせた。こんなに熱く激しく女性を抱いたことはない。香織は俺のすべてを受けとめた・・。

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