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錬金術士の弟子になる
魔力講座/黒猫の名/的当てゲーム
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「魔力の話だったわね。脱線してしまってごめんなさいね」
「いや、むしろ聞けてよかったと思うぞ。使い魔について俺は甘く見ていたようだしな」
「ご主人様が素敵でしたので~、私もいいと思います」
「お前は何を言ってるんだ?」
「ま、まぁ、それなら良かったわ」
黒猫は聞き取れない声で『ちょっとカッコ良かったし』と付け加えた。
「それで、魔力の話を聞かせてくれ」
「そ、そうね。その魔力についてだけど・・・・・・」
1.魔力は無色透明でどこにでも存在している
2.魔力は基本的に感じる事も触る事もできない
3.魔力は周囲の環境に左右され僅かに性質が変化する
「基本はこの3つかしらね」
「あの~、環境に左右されるというのは?」
「それは、やってみた方が早いわね」
「やってみた方がって――」
ゾクリ・・・・・・。
何か冷たい感じがした。
なんだ?なんか怖い・・・・・・。
「こんな感じかしらね。少しは感じた?」
ゾクリとした何かは霧散でもしたかのように消えた。
「感じたっつーか、怖いっつーか・・・・・・。ミィナはどうよ?」
「よく分かりません~。少し涼しくなったような気がしたようなしないような?」
「なんだそりゃ・・・・・・」
「今やったのは、魔力を少し集めて殺気に変化させたの」
「なんで殺気」
「生存本能を刺激した方が感じやすいからよ。これについては例外で、使い魔でなくても感じる子は多いの。で、これが環境に左右されて性質が変化する、その中の1つね」
「殺気は無くなったようだが、殺気になっていた魔力はどうなった?」
「ただの魔力に戻ったのよ。これも環境に左右された結果ね」
つまり、黒猫の殺意に当てられ集めた魔力が殺気に変化するも、黒猫の殺意が無くなったので周囲のただの魔力に合わせるように元に戻ったのだ。
「今私がしたような事ができないと、鑑定は厳しいわ。使い魔であるはずの今のミィナさんの反応をみると、先はかなり長そうね」
「一応、その魔力を使った鑑定とやらを聞かせてくれるか?」
「いいわよ。鑑定の仕方はシンプル。魔力を集めて鑑定する物にぶつける、これだけよ」
「シンプルすぎだろ!殺気に変化させたりしないのかよ!」
「落ち着きなさい。さすがに鑑定で殺気に変化はさせないけど、他の変化はさせるわよ。当てたときの魔力の反応を調べていくのだけど、その際に何パターンも魔力を変化させながら大きさも変えて何度もぶつけるの。複雑な物だと、1つ鑑定するだけで一日潰れるわ」
「うげ・・・・・・」
「そこまで特殊なアイテムとかだと、鑑定専門の錬金術士に依頼する事が多いわね」
「ぷしゅ~」
ミィナは頭から煙を出していた。鑑定という壁を前にして現実逃避したようだ。
「ミィナしっかりしろ!錬金術士をめざすんだろうが!」
「い、今のはまだ早い内容だから忘れて!ミィナさんは魔力を感じ取れるように訓練していく事、今はそれだけ理解してくれればいいのっ!」
煙が収まり目に生気が戻ってきた。
「そ、そうですよね~。まずは目の前の訓練をがんばらないと、ですね」
「おう!ミィナその調子だ。で、訓練は何をするんだ?」
「ミィナさんはすでに使い魔だから、基本的には魔力を扱う下地は出来上がってる状態のはずなの。なので魔力を呼び出す訓練かしらね」
「魔力を感じ取れるようにする訓練じゃなかったのか?」
「これもその為の訓練よ。契約の首輪覚えてるかしら?契約の首輪は消滅したのではなくて、魔力になって首の模様になってる状態なの。だから首には相応の濃い魔力が宿っているはず。まずは、その魔力を感じ取って呼び出す訓練よ」
やり方はシンプルだった。
目を閉じて肩幅に足を開き、自然体の姿勢で首の模様に意識を集中するだけ。
「うまく意識を集中させれば、首の魔力が反応してくれるようになるわ。その反応を感じ取ってコントロールするの」
黒猫が言うには首の魔力が反応すると、黒い刺繍が赤紫色に変化するらしい。
目で見て判断できるので、黒猫がいなくてもできる訓練らしい。
「なんか~、できてる気がします」
ミィナはそう言うがトラジは真顔で答える。
「何も変化はないようだが・・・・・・」
「う~。出来た気がしたのに・・・・・・」
「いきなり出来るとまでは思ってないから大丈夫よ。繰り返し頑張って頂戴」
ミィナは目を閉じ再度同じ事をやり始めた。
「一応聞くが、他の訓練はない?」
トラジはこの訓練だけでは足りないかもしれない、そう思い他の方法も聞いた。
「あとは、そうね。他の使い魔にも協力してもらって、色んな場所で魔力を集めてぶつけて貰うとか、かしらね。魔力は環境によって色々な性質に変化するから、ミィナさんが感じやすくて扱いやすい物があるかもしれない。それが見つかれば、足掛りにして魔力をコントロールできるようになるかもしれないわね」
「なるほど。助かったぜ黒猫!」
それを聞いて、黒猫はちょっと機嫌を悪くする。
「このままでもいいかと、思っていたのだけどね。やっぱり言っとくべきかしらね・・・・・・」
「何の話だ黒猫?」
また、さらに黒猫は機嫌を悪くした。
「ご主人様がみんなの前で呼ぶのが悪いのだけど。私の名前はノワール。ノワール・ナイ・・・・・・。いえ、ただのノワールよ!」
「今何か言いかけなかったか?ナイなんとかって」
「なんでもナイわよ!とにかく、私はノワール覚えておいて頂戴!」
「わ、分かったよ黒猫」
「ご主人様~、さすがにここは名前で呼んであげないと・・・・・・」
「そ、そうか?」
このニブチン対応にさすがのミィナも可哀相と思ったのか、訓練をやめて名前を呼ぶよう言ってきた。
「わ、悪かったな。ノワール」
黒猫はこちらに背を向けていたが、名前を呼ばれた途端耳がピクピク動き身震いさせた。
その後、ゆっくり申し訳なさそうに振り返って言った。
「・・・・・・ごめんさい。やっぱり黒猫でいいわ」
「なんでだよっ!」
「そ、それは・・・・・・」
黒猫はトラジに聞き取れない声で『気恥ずかしくて、まともに顔を見れないからよ・・・・・・』とボソボソと呟いた。
「よく聞こえないんだがー?」
「聞こえなくていいのっ!もう話は終わり!今日は帰らせてもらうわ!」
黒猫は話は終わったと言わんばかりに走り、窓から出て行ってしまった。
「ご主人様~、ちょっといじわるです。ドキドキ」
なんでミィナがドキドキするんだよ。
というか意地悪な事を何かしたか?
「ちなみに~、ご主人様はどんな女性が好みですか?」
「そうだなぁ。見た目はミィナみたいなのがいいな」
唐突になぜそんな事を聞くんだ?そうトラジは思ったが、咄嗟にお世辞のつもりでミィナがいいと言った。
見た目はというのが余計ではあったが、咄嗟の事で考えが及ばなかったのだ。
「えっと~、ありがとうございます?」
『ありがとう・・・・・・ふふっ』
「あれ~?」
ミィナの『ありがとう』の部分に重なるように別の声の『ありがとう』が、ミィナには聞こえた気がした。
「どうしたんだ?キョロキョロして・・・・・・」
やっぱり、見た目はとか言ったの怒ったのか?
「何か~、聞こえませんでしたか?」
「何かってなんだ?何も聞こえないぞ。いいか?猫や犬は人間より聴覚が優れてるんだぜ。俺が聞こえてないんだから気のせいだろう」
ミィナが怒った訳ではなさそうなのでトラジは安堵した。
「ん~。そう言われてみるとそんな気もしてきました」
トラジの言う事を信じミィナは気のせいだと思う事にしたのだが、これが幻聴とかではなかった事をミィナとトラジはまだ知らない。
「まだだ!がんばれー、ミィナ!」
「ふぬぬぬ~~!」
あの後、俺とミィナは黒猫が教えてくれた訓練法を実践していた。
さすがに一日で出来るわけも無いのだが、4時間もぶっ続けて進展ないと不安にもなる。
「こりゃ、もう一つの練習方法もやってかないとダメだな」
「もう一つって~、なんですか?」
「そういや、ミィナは訓練に集中してたもんな」
トラジは黒猫に聞いた方法をミィナに話す。
「ただ、今日はもう暗くなってきたし明日からだな。それとミィナ」
「なんでしょ~?ご主人様」
「今日から暗くなったら、俺の課題を手伝って貰うぞ」
「もちろん~。OKです」
「今夜は朝まで寝かせないぜ」
「ご主人様~、睡眠はちゃんととりましょうよ」
「ネタが通じねぇ!」
「?」
こうして、朝は組合で仕事。明るいうちはミィナの課題、暗くなったらトラジの課題。
と、次の試験に向けた生活が始まった。
「おはよう、待っていたわ。早速だけど、あなた達に任せるのは掃除とクエスト依頼の整理ね」
早朝、仕事をしに組合に行くと黒猫が俺達を待っていた。
昨日の事はもう気にしては無いように見える。
「掃除はいいとしてクエスト依頼ってなんだ?」
「それも知らないのね・・・・・・。クエストは町や国から錬金術士用のお願い事を組合が請けた物なの。基本的に可能な範囲のものしかなく報酬もちゃんとしてて、それを組合が錬金術士達に分配しているの。クエストを錬金術士に分配(依頼)する事を、クエスト依頼と呼んでるの。業界用語・・・・・・、になるのかしらね」
クエスト依頼は難易度を加味した上で錬金術士達に回される仕事で選ぶ事が出来ないが、他の依頼や何らかの事情でクエスト依頼が達成されず放置される事がある。
組合として請けた以上、未達成のままになるのは信頼に関わる為に非常にまずい。なので長らく未達成のクエスト依頼があれば、組合で直接働いている錬金術士が責任をもって処理する事になっている。
今回はクエスト依頼の完了・未達成・組合処理案件に整理する事である。
「クエストって沢山ある中から選んで請けるもんだと思ってたなぁ」
「そういうのもあるわよ?まぁ、ここは首都から離れてるし数は多くないわね。他にも個人で引き受ける依頼もあるにはあるけど、何があっても自己責任になるから注意してね」
なんかゲームっぽくていいな。
まぁ、厄介な依頼に引っかかったら大変だろうが。
ただなぁ、ゲーム知識でいうと、何コレうまみゼロじゃん!というクエストでもやっておかないと後々のイベントやEDに影響したりするんだよなぁ・・・・・・懐かしい。
トラジとミィナは・・・・・・、主にミィナが仕事をこなしていく。トラジはミィナが失敗とかしないように注意する事に徹する。猫で文字も勉強中なので仕方なかった。
ミィナは何度もトラジに注意されながらもなんとか仕事を終える。
まるで初めて掃除をしたかのような手際だったな。
そして書類整理を舐めてるな。
書類はたった一枚でも紛失なんて許されない!きっちりしっかりやる、それが書類整理だ!
とトラジは思った。
実際は掃除などは初めてでは無いのだが、手際が悪いそれがミィナである。
組合にいた先輩様とミケに再びトラジは会ったのだが・・・・・・。
「先無しっ子、主人でなく・・・・・・。使い魔、驚いた」
「使い魔にゃくて、主にゃんて尊敬にゃ!アニキと呼ぶにゃ!」
なぜかトラジは、ミケに尊敬されアニキと呼ばれるようになってた。
トラジとミィナは仕事を終え、その分のお金を貰いついでに組合にいた使い魔達に魔力を当ててもらえるようお願いしていた。
そんな生活を3日ほど過ごした時、町中で変な気配をミィナから感じるようになった。
「ご主人様~、どうしたんですか?」
トラジは相変わらずミィナが背負う鞄の中にいたのだが、妙な気配を感じて鞄の中から顔を出し周囲を警戒していた。
「なんだろな。なんか・・・・・・、あれ?ミィナがキラキラして見える」
「え~と、そのお付き合いはもっとお互いの事を知ってからといいますか」
「何を言ってるんだお前は・・・・・・」
もじもじした様子でプロポーズを断る台詞を言い出すミィナに、ちょっと呆れつつ状況整理をする。
気になるのは使い魔らしき動物どもだな。
残念ながら俺は猫語しか理解できないが、聞こえてくる会話からしておそらく関係してる気がする・・・・・・。
「ミィナ。さっきから使い魔らしい動物をよく見かけるんだが、使い魔であってるか?」
「ですね~。町中の使い魔さんに、魔力をぶつけて貰えるようお願いした甲斐があります」
「それが原因だぁ!」
「はい~?」
ミィナは使い魔達の魔力の玉当てゲームの的になってたらしい。
使い魔じゃない俺まで感じるとか・・・・・・。
軽くやばくね?
これは黒猫先生案件だな・・・・・・。
「行き先変更。黒猫の所へGO!」
「は~い。了解です」
黒猫の所へ行くと呆れられた。
なんでも、ぶつけられた大量の魔力を無意識にミィナが溜め込んでいたらしい。
なんで気が付かないんだ!ってクラスとのこと。
ちなみに魔力を溜め込みすぎてると、触った魔道具を暴走させたりするので危険な状態だったらしい。
この世界の照明などは魔道具であり、電化製品などの機械が無い代わりに便利な魔道具が生活を支えている。さらにミィナの親は錬金術士だ。家には何か不明な魔道具がそれなりにある。
正直、無事だったのは運がいいと言えるかもしれない。
魔道具を暴走させて家ごとボカン!と爆発でもしたらシャレにならんな。
溜め込んだ魔力は、黒猫がミィナの胸に手を当ててゴッソリ抜き取って散らした。
「あ~、はっきり何か抜けていく感じがします」
一応その甲斐はあったのか魔力を以前より感知できるようになったようだ。
「もしかしたら~、何度も繰り返せば魔力のコントロールできるかもしれません」
「ダメだ!」
「ダメよ!」
黒猫とトラジがハモる。
家にも組合にも魔道具はわんさかあるのだから、当然許可されるわけもなかった。
「いや、むしろ聞けてよかったと思うぞ。使い魔について俺は甘く見ていたようだしな」
「ご主人様が素敵でしたので~、私もいいと思います」
「お前は何を言ってるんだ?」
「ま、まぁ、それなら良かったわ」
黒猫は聞き取れない声で『ちょっとカッコ良かったし』と付け加えた。
「それで、魔力の話を聞かせてくれ」
「そ、そうね。その魔力についてだけど・・・・・・」
1.魔力は無色透明でどこにでも存在している
2.魔力は基本的に感じる事も触る事もできない
3.魔力は周囲の環境に左右され僅かに性質が変化する
「基本はこの3つかしらね」
「あの~、環境に左右されるというのは?」
「それは、やってみた方が早いわね」
「やってみた方がって――」
ゾクリ・・・・・・。
何か冷たい感じがした。
なんだ?なんか怖い・・・・・・。
「こんな感じかしらね。少しは感じた?」
ゾクリとした何かは霧散でもしたかのように消えた。
「感じたっつーか、怖いっつーか・・・・・・。ミィナはどうよ?」
「よく分かりません~。少し涼しくなったような気がしたようなしないような?」
「なんだそりゃ・・・・・・」
「今やったのは、魔力を少し集めて殺気に変化させたの」
「なんで殺気」
「生存本能を刺激した方が感じやすいからよ。これについては例外で、使い魔でなくても感じる子は多いの。で、これが環境に左右されて性質が変化する、その中の1つね」
「殺気は無くなったようだが、殺気になっていた魔力はどうなった?」
「ただの魔力に戻ったのよ。これも環境に左右された結果ね」
つまり、黒猫の殺意に当てられ集めた魔力が殺気に変化するも、黒猫の殺意が無くなったので周囲のただの魔力に合わせるように元に戻ったのだ。
「今私がしたような事ができないと、鑑定は厳しいわ。使い魔であるはずの今のミィナさんの反応をみると、先はかなり長そうね」
「一応、その魔力を使った鑑定とやらを聞かせてくれるか?」
「いいわよ。鑑定の仕方はシンプル。魔力を集めて鑑定する物にぶつける、これだけよ」
「シンプルすぎだろ!殺気に変化させたりしないのかよ!」
「落ち着きなさい。さすがに鑑定で殺気に変化はさせないけど、他の変化はさせるわよ。当てたときの魔力の反応を調べていくのだけど、その際に何パターンも魔力を変化させながら大きさも変えて何度もぶつけるの。複雑な物だと、1つ鑑定するだけで一日潰れるわ」
「うげ・・・・・・」
「そこまで特殊なアイテムとかだと、鑑定専門の錬金術士に依頼する事が多いわね」
「ぷしゅ~」
ミィナは頭から煙を出していた。鑑定という壁を前にして現実逃避したようだ。
「ミィナしっかりしろ!錬金術士をめざすんだろうが!」
「い、今のはまだ早い内容だから忘れて!ミィナさんは魔力を感じ取れるように訓練していく事、今はそれだけ理解してくれればいいのっ!」
煙が収まり目に生気が戻ってきた。
「そ、そうですよね~。まずは目の前の訓練をがんばらないと、ですね」
「おう!ミィナその調子だ。で、訓練は何をするんだ?」
「ミィナさんはすでに使い魔だから、基本的には魔力を扱う下地は出来上がってる状態のはずなの。なので魔力を呼び出す訓練かしらね」
「魔力を感じ取れるようにする訓練じゃなかったのか?」
「これもその為の訓練よ。契約の首輪覚えてるかしら?契約の首輪は消滅したのではなくて、魔力になって首の模様になってる状態なの。だから首には相応の濃い魔力が宿っているはず。まずは、その魔力を感じ取って呼び出す訓練よ」
やり方はシンプルだった。
目を閉じて肩幅に足を開き、自然体の姿勢で首の模様に意識を集中するだけ。
「うまく意識を集中させれば、首の魔力が反応してくれるようになるわ。その反応を感じ取ってコントロールするの」
黒猫が言うには首の魔力が反応すると、黒い刺繍が赤紫色に変化するらしい。
目で見て判断できるので、黒猫がいなくてもできる訓練らしい。
「なんか~、できてる気がします」
ミィナはそう言うがトラジは真顔で答える。
「何も変化はないようだが・・・・・・」
「う~。出来た気がしたのに・・・・・・」
「いきなり出来るとまでは思ってないから大丈夫よ。繰り返し頑張って頂戴」
ミィナは目を閉じ再度同じ事をやり始めた。
「一応聞くが、他の訓練はない?」
トラジはこの訓練だけでは足りないかもしれない、そう思い他の方法も聞いた。
「あとは、そうね。他の使い魔にも協力してもらって、色んな場所で魔力を集めてぶつけて貰うとか、かしらね。魔力は環境によって色々な性質に変化するから、ミィナさんが感じやすくて扱いやすい物があるかもしれない。それが見つかれば、足掛りにして魔力をコントロールできるようになるかもしれないわね」
「なるほど。助かったぜ黒猫!」
それを聞いて、黒猫はちょっと機嫌を悪くする。
「このままでもいいかと、思っていたのだけどね。やっぱり言っとくべきかしらね・・・・・・」
「何の話だ黒猫?」
また、さらに黒猫は機嫌を悪くした。
「ご主人様がみんなの前で呼ぶのが悪いのだけど。私の名前はノワール。ノワール・ナイ・・・・・・。いえ、ただのノワールよ!」
「今何か言いかけなかったか?ナイなんとかって」
「なんでもナイわよ!とにかく、私はノワール覚えておいて頂戴!」
「わ、分かったよ黒猫」
「ご主人様~、さすがにここは名前で呼んであげないと・・・・・・」
「そ、そうか?」
このニブチン対応にさすがのミィナも可哀相と思ったのか、訓練をやめて名前を呼ぶよう言ってきた。
「わ、悪かったな。ノワール」
黒猫はこちらに背を向けていたが、名前を呼ばれた途端耳がピクピク動き身震いさせた。
その後、ゆっくり申し訳なさそうに振り返って言った。
「・・・・・・ごめんさい。やっぱり黒猫でいいわ」
「なんでだよっ!」
「そ、それは・・・・・・」
黒猫はトラジに聞き取れない声で『気恥ずかしくて、まともに顔を見れないからよ・・・・・・』とボソボソと呟いた。
「よく聞こえないんだがー?」
「聞こえなくていいのっ!もう話は終わり!今日は帰らせてもらうわ!」
黒猫は話は終わったと言わんばかりに走り、窓から出て行ってしまった。
「ご主人様~、ちょっといじわるです。ドキドキ」
なんでミィナがドキドキするんだよ。
というか意地悪な事を何かしたか?
「ちなみに~、ご主人様はどんな女性が好みですか?」
「そうだなぁ。見た目はミィナみたいなのがいいな」
唐突になぜそんな事を聞くんだ?そうトラジは思ったが、咄嗟にお世辞のつもりでミィナがいいと言った。
見た目はというのが余計ではあったが、咄嗟の事で考えが及ばなかったのだ。
「えっと~、ありがとうございます?」
『ありがとう・・・・・・ふふっ』
「あれ~?」
ミィナの『ありがとう』の部分に重なるように別の声の『ありがとう』が、ミィナには聞こえた気がした。
「どうしたんだ?キョロキョロして・・・・・・」
やっぱり、見た目はとか言ったの怒ったのか?
「何か~、聞こえませんでしたか?」
「何かってなんだ?何も聞こえないぞ。いいか?猫や犬は人間より聴覚が優れてるんだぜ。俺が聞こえてないんだから気のせいだろう」
ミィナが怒った訳ではなさそうなのでトラジは安堵した。
「ん~。そう言われてみるとそんな気もしてきました」
トラジの言う事を信じミィナは気のせいだと思う事にしたのだが、これが幻聴とかではなかった事をミィナとトラジはまだ知らない。
「まだだ!がんばれー、ミィナ!」
「ふぬぬぬ~~!」
あの後、俺とミィナは黒猫が教えてくれた訓練法を実践していた。
さすがに一日で出来るわけも無いのだが、4時間もぶっ続けて進展ないと不安にもなる。
「こりゃ、もう一つの練習方法もやってかないとダメだな」
「もう一つって~、なんですか?」
「そういや、ミィナは訓練に集中してたもんな」
トラジは黒猫に聞いた方法をミィナに話す。
「ただ、今日はもう暗くなってきたし明日からだな。それとミィナ」
「なんでしょ~?ご主人様」
「今日から暗くなったら、俺の課題を手伝って貰うぞ」
「もちろん~。OKです」
「今夜は朝まで寝かせないぜ」
「ご主人様~、睡眠はちゃんととりましょうよ」
「ネタが通じねぇ!」
「?」
こうして、朝は組合で仕事。明るいうちはミィナの課題、暗くなったらトラジの課題。
と、次の試験に向けた生活が始まった。
「おはよう、待っていたわ。早速だけど、あなた達に任せるのは掃除とクエスト依頼の整理ね」
早朝、仕事をしに組合に行くと黒猫が俺達を待っていた。
昨日の事はもう気にしては無いように見える。
「掃除はいいとしてクエスト依頼ってなんだ?」
「それも知らないのね・・・・・・。クエストは町や国から錬金術士用のお願い事を組合が請けた物なの。基本的に可能な範囲のものしかなく報酬もちゃんとしてて、それを組合が錬金術士達に分配しているの。クエストを錬金術士に分配(依頼)する事を、クエスト依頼と呼んでるの。業界用語・・・・・・、になるのかしらね」
クエスト依頼は難易度を加味した上で錬金術士達に回される仕事で選ぶ事が出来ないが、他の依頼や何らかの事情でクエスト依頼が達成されず放置される事がある。
組合として請けた以上、未達成のままになるのは信頼に関わる為に非常にまずい。なので長らく未達成のクエスト依頼があれば、組合で直接働いている錬金術士が責任をもって処理する事になっている。
今回はクエスト依頼の完了・未達成・組合処理案件に整理する事である。
「クエストって沢山ある中から選んで請けるもんだと思ってたなぁ」
「そういうのもあるわよ?まぁ、ここは首都から離れてるし数は多くないわね。他にも個人で引き受ける依頼もあるにはあるけど、何があっても自己責任になるから注意してね」
なんかゲームっぽくていいな。
まぁ、厄介な依頼に引っかかったら大変だろうが。
ただなぁ、ゲーム知識でいうと、何コレうまみゼロじゃん!というクエストでもやっておかないと後々のイベントやEDに影響したりするんだよなぁ・・・・・・懐かしい。
トラジとミィナは・・・・・・、主にミィナが仕事をこなしていく。トラジはミィナが失敗とかしないように注意する事に徹する。猫で文字も勉強中なので仕方なかった。
ミィナは何度もトラジに注意されながらもなんとか仕事を終える。
まるで初めて掃除をしたかのような手際だったな。
そして書類整理を舐めてるな。
書類はたった一枚でも紛失なんて許されない!きっちりしっかりやる、それが書類整理だ!
とトラジは思った。
実際は掃除などは初めてでは無いのだが、手際が悪いそれがミィナである。
組合にいた先輩様とミケに再びトラジは会ったのだが・・・・・・。
「先無しっ子、主人でなく・・・・・・。使い魔、驚いた」
「使い魔にゃくて、主にゃんて尊敬にゃ!アニキと呼ぶにゃ!」
なぜかトラジは、ミケに尊敬されアニキと呼ばれるようになってた。
トラジとミィナは仕事を終え、その分のお金を貰いついでに組合にいた使い魔達に魔力を当ててもらえるようお願いしていた。
そんな生活を3日ほど過ごした時、町中で変な気配をミィナから感じるようになった。
「ご主人様~、どうしたんですか?」
トラジは相変わらずミィナが背負う鞄の中にいたのだが、妙な気配を感じて鞄の中から顔を出し周囲を警戒していた。
「なんだろな。なんか・・・・・・、あれ?ミィナがキラキラして見える」
「え~と、そのお付き合いはもっとお互いの事を知ってからといいますか」
「何を言ってるんだお前は・・・・・・」
もじもじした様子でプロポーズを断る台詞を言い出すミィナに、ちょっと呆れつつ状況整理をする。
気になるのは使い魔らしき動物どもだな。
残念ながら俺は猫語しか理解できないが、聞こえてくる会話からしておそらく関係してる気がする・・・・・・。
「ミィナ。さっきから使い魔らしい動物をよく見かけるんだが、使い魔であってるか?」
「ですね~。町中の使い魔さんに、魔力をぶつけて貰えるようお願いした甲斐があります」
「それが原因だぁ!」
「はい~?」
ミィナは使い魔達の魔力の玉当てゲームの的になってたらしい。
使い魔じゃない俺まで感じるとか・・・・・・。
軽くやばくね?
これは黒猫先生案件だな・・・・・・。
「行き先変更。黒猫の所へGO!」
「は~い。了解です」
黒猫の所へ行くと呆れられた。
なんでも、ぶつけられた大量の魔力を無意識にミィナが溜め込んでいたらしい。
なんで気が付かないんだ!ってクラスとのこと。
ちなみに魔力を溜め込みすぎてると、触った魔道具を暴走させたりするので危険な状態だったらしい。
この世界の照明などは魔道具であり、電化製品などの機械が無い代わりに便利な魔道具が生活を支えている。さらにミィナの親は錬金術士だ。家には何か不明な魔道具がそれなりにある。
正直、無事だったのは運がいいと言えるかもしれない。
魔道具を暴走させて家ごとボカン!と爆発でもしたらシャレにならんな。
溜め込んだ魔力は、黒猫がミィナの胸に手を当ててゴッソリ抜き取って散らした。
「あ~、はっきり何か抜けていく感じがします」
一応その甲斐はあったのか魔力を以前より感知できるようになったようだ。
「もしかしたら~、何度も繰り返せば魔力のコントロールできるかもしれません」
「ダメだ!」
「ダメよ!」
黒猫とトラジがハモる。
家にも組合にも魔道具はわんさかあるのだから、当然許可されるわけもなかった。
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