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錬金術士の弟子になる

サニーフラワー/景色/音?

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 トラジとミィナは昼食後。サニーフラワー百式の種を求めて町を出た。
 といっても町の近くの川周辺を探すだけだ。
 野生動物や毒虫に注意する必要があるものの、魔獣まではいないし問題ないように思われた。
 ミィナはクオの森の出来事がトラウマなのか、なにやら準備をしていた。
 おかげで、鞄の中のトラジのお尻にゴツゴツした物が当たって痛い。

  ミィナが大丈夫ですって言うから今まで甘えてきてしまったが・・・・・・。
  もう、いい加減自分で歩くべきだよなぁ。
  そう思って、ミィナに遠まわしに重くないかと聞いたら『重くないです~、大丈夫ですから鞄に入っててください』って言うから、自分で歩く機会を潰してしまったんだよなぁ。
  どうも、俺が近くに居ないと不安らしい『鞄が嫌なら~、私に抱っこされて下さい』とも言ってたしな。

 順調に歩いてたミィナの足が急に止まる。

「何かようですか・・・・・・?」
「ポ、ポンコツッ子。お、お前もサニーフラワー探すんだろ?」

  この呼び方は前見たいじめっ子か?
  とはいえ、何もしないうちから俺が出るのは良くないな。
  少し様子を見るか、なんかどもってるし。

「だったら何?」
「ポンコツッ子おま・・・・・・いでぇ!!」
「あんたはまたそうやってぇ!学習しなさいよねー!!」

 猛スピードで女の子がスカートを手で押さえながらとび蹴りをかまし、男の子ことグランド・スカイくんは大空にスカイした。
 危険とび蹴り問題に発展しそうだが、この世界の住人は体が丈夫なので大丈夫だ。たぶん!

「コイツがごめんなさいね。私はリーヤ・ステルノフと言う金髪美少女よ」
「自分で美少女言うかよ!あと、いきなり何すんだ!!」
「な・に・か!言ったかしら!」
「な、何も言ってないぜ!」
「ならばよし。ミィナちゃん一緒にサニーフラワー探しに行きましょう」
「わ、私は・・・・・・」

 突然の事でミィナは返答に困った。
 トラジ的には良い事のように思えたので、口を挟まず成り行きを見守る。

「町の外には色んな動物や魔獣がいるの。私達が行くのは町の近くだけど、それでも一人はよくないわ。それにね、実はトーマスさんにも一緒に探してあげて欲しいってお願いされてるの」

 実はそれは嘘である。リーヤはミィナと仲良くしたげな不器用な男の子の為に仲を取り持とうとしていたのだ。

「どうして~、トーマスさんが?」
「簡単よ、本来採集は一人でしない物だからね。魔獣や危険な動物に遭遇するかもしれないから、冒険者や腕の立つ他の錬金術士にお願いしたり、雇ったりするものなの。その為の採集訓練でもあるらしいよ。この為だけに町中に売らないよう手を回すなんて驚きよねー」

 リーヤは笑う。
 元気で活発で優しさも兼ねる。
 ミィナとは別の魅力を持つ子だった。

「えっと・・・・・・」
「ミィナ、ここは一緒に探させて貰おう」

 トラジはミィナの後ろから小声で耳打ちする。

「わ、わかりました~。ご一緒させてください」
「足、ひっぱんなよ。ミ・・・・・・」
「みー?」

 リーヤがニヤニヤして恥ずかしそうにする男の子の様子を見る。

「みな子・・・・・・。もうこれでいいだろ!」
「はぁ・・・・・・、ほんと意気地がないんだから。普通に言えばいいじゃない。ま、あんたにしては良くやった方かもしれないけど」
「ふん!えらそーに・・・・・・」
「えらそーなのはあんたの方でしょうが!ほんと、自覚が無いんだから」

 ミィナは不思議そうな顔でその様子を眺めた。
 どこか違う慣れない雰囲気の中・・・・・・。というより、ミィナの感覚では右も左も分からない異世界に放り込まれた気分だった。

「ミィナちゃんはなんて呼んでほしい?私はリーヤでいいわよ」

 他人事を見るような、そうお芝居を見る客になっていた。
 そんなミィナをリーヤは見抜き、ミィナに話を振って引っ張り込んだ。

「わ、私は~・・・・・・、ミィナちゃんで・・・・・・」
「うん、オッケー。よろしくミィナちゃん」
「よ、よろしく~、り、リーヤ・・・・・・ちゃん」

 リーヤは芸人みたいにコケた。
 土埃が髪の色に合わせたと思われる黄色いスカートに付くが気にする様子はない。
 もともと町の外に採集しに行くのだ、多少の汚れも覚悟の服装なのだろう。

「ま、まぁ。慣れるには時間が要るものよね。で・・・・・・」

 リーヤはグランド・スカイくんを見る。

「で?」
「で?じゃないわよ!自己紹介よ!流れ・読・み・な・さ・い・よーー!!」
「べ、別にしなくても大丈夫だろ?同じ候補生だしさ」
「ミィナちゃん、コイツの事わかる?」
「えっと~・・・・・・」

 ミィナにまっ先に思い浮かんだのが、意地悪な子だった。
 でもこれから一緒に行くのだ、悪口みたいな事はいえない。
 どうしようか悩んで、答えが出ずどんどん不安になっていく。

「グランド・スカイくんでいいだろ」
「グランド・スカイ・・・・・・くん?」

 ミィナの鞄から飛び降りて、ミィナの前でそう助言をしたのはトラジだった。
 ちなみにリーヤはお腹を抱えて爆笑。男の子は笑うリーヤを微妙な顔で見てた。

「ミィナ、不安がる必要ないぞ。自然体でいいんだ。なんだったら嫌な奴でもいけたかもしれん。それに俺がついてるからな」

 ミィナは頷き、トラジを抱きかかえる。
 それだけでミィナは安心して落ち着いていく。

  ありがとうございます!

 ついでにトラジも嬉しそうだった。

「ちっ、俺はヤガタ・・・・・・。ヤガタ・フライトだ。ヤガタでいい、分かったかみな子」
「はぁ、ほんと・・・・・・。もうちょっとあいそ良く言いなさいよね。ミィナちゃんコイツ照れてるだけだから、気にしないであげてね。と言うかむしろ好――」
「うがぁぁぁぁ!!ああああああ!!!」
「もう!うっさいわね!あたしがどれだけ塩送ってるか分かってるの!?」
「送ってねー!むしろ塗り込んでるわ!!傷に!!!」
「うまい事を言うわね」

 トラジとミィナは2人の漫才を楽しそうに見ていた。

「面白いやつらだな。な、ミィナ」
「ですね~。ところで、・・・・・・や、ヤガタ・・・・・・くん」
「な、なんだよ」
「みなこって~、何ですか?」

 ヤガタは唖然とし、リーヤとトラジは爆笑した。
 ミィナは少し恥ずかしそうにしながらも、トラジの笑いにつられて微笑んだ。

「ミィナちゃんって天然さんねー!お腹痛いー!あと、可愛い!」

 ちなみに亀を選んだもう一人の女の子は、風邪引いてしまっていた。
 リーヤとヤガタはその子の分のサニーフラワー百式の種も頼まれてるらしい。



 トラジ達は目的の川に付いた。町から徒歩で15分といった所だ。
 川の上流の方を見ると、離れちゃいるがクオの森があった。
 川幅は20mくらいで川底は深いところで1mくらいだろう。
 視界に入る範囲にサニーフラワーらしきものは見えない。
 もっとも、背丈の高い雑草が生えまくってるようで死角が多く無いとも言えなかった。

「さて、どう探したもんか」
「手分けして~、探しますか?」
「大丈夫よミィナちゃん。ここはヤガタの出番だから」
「クロクスッ!来い!」

 ヤガタがそう言うと、1羽の鷹がヤガタの右腕に巻きつけてあった皮に止まる。

「なるほど、使い魔か・・・・・・。こりゃ一緒に来て正解だな、俺とミィナだけじゃ難航しただろうな」

 ヤガタは得意げだった。褒め称えろ的なオーラが出てる。

「クロクスさん~、今日はお願いしますね」
「キュォーーン!」
「オイィ!!ここは俺に注目する所だろぉ!」
「残念ねー。日頃の行いが悪いからそうなるのよ」

  わかるぞ少年!
  きゃ~素敵!頼りになる~!
  的な感じを想像してたんだろうな。
  だが、これが現実。それを繰り返す事で現実を知り大人になっていくんだ・・・・・・。

 クロクスは空から探しに行き、ヤガタは座り込んでしょんぼりしてた。

「あの~。リーヤ、ちゃん」
「どうしたの?」
「リーヤ、ちゃんは~、使い魔連れてないんですか?」
「いるけど、今の時間だと寝てるわ。あと、言いにくいならちゃん付けても大丈夫だから」

 そう言って腰につけたポシェットの中を見せてくれた。
 丸くなって寝ているムササビがいた。

「名前はリリ。小さくて可愛いんだけど、気分屋でね。用がない限り起こさないで欲しいって言ってよく寝てるの。ミィナちゃんの使い魔は?」
「私・・・・・・、の使い魔は~。トラジと言う名前で、賢くて優しくてカッコよくて暖かくてね。もう私の家族みたいなもの・・・・・・、かな」
「ミィナそれちょっと褒めすぎだ」
「そこまで褒めるなんてすごい子ねー!組合で見た時はそこまですごい子だとは思わなかった」

  そういや、傷跡がーとかなんとか言われたなぁ。もうずいぶん昔に感じる。

「キュオォーーーン!!」
「お!クロクスッ!見つけたか!」

 サニーフラワーを見つけたらしく、ヤガタの使い魔が戻ってきた。
 だが、見つけたまではいい。そこに行くにはミィナよりもある背丈の草が生い茂り道もなく、分け入るしかない状況だった。

「クロクス。他の場所のはないのか?」
「キュオォ・・・・・・」
「そうか、なかったか」
「私とミィナちゃんにも分かるように、ちゃんと教えなさいよ!」
「あ、ああ・・・・・・」

 どうやら見つけたのはいいが、この辺ではそこしかなかったらしい。その分密集してて沢山あったようだが。

「どうっすかな・・・・・・」
「男らしくないわね。たかが草なんだから、なぎ倒していけばいいのよ」
「お前は男らしすぎだ!」
「失礼ね。私はれっきとした美少女よ。だから先頭は任せたわ!」
「あ、ずるい!ここはじゃんけんだろぉ!」
「あの~、私が先頭を・・・・・・」

 ミィナには考えがあった。ミィナの背中の鞄には両親が作ったミィナのお友達がいる。
 だが、それを知らない二人からすればミィナにだけは任せるわけにはいかない、そう考えていた。

「あんたねぇ・・・・・・、まさかミィナちゃんに行かせたりしないでしょうね?」
「わ、わりぃ。やっぱ俺が先頭行くわ」
「えっと~、考えがあるので任せてください」

 ミィナはトラジと背中の鞄を降ろし、ごそごそと鞄の中を探し始める。
 不思議そうに、みんなそれを見つめる。当然、トラジもだ。
 なにか準備をしている事は分かっていたものの、何に使うのか分からない。一見ガラクタにしか見えない物ばかりだった。
 気になるのも仕方ない。

 ミィナが取り出したのは丸い土の塊。以前、使った事のある泥団子である。
 それを地面に叩きつけた。
 地面から現れたのは、手足のない間の抜けたまったり顔。風船のような丸い体で大きさは約1.8mほどで、短く太い尻尾を持つドラゴンみたいなゴーレムだった。

「ぷくちゃん~、お願いね」

 ぷくちゃんに声を出す機能はない、当然泣き声も出ない。ただ、呼び出した主人の意を感じ取ったように転がり雑草の森に突撃していく。

「おおおお!すげぇ!!」
「何あれ、こんなの見た事ない!ミィナちゃんすごいわ!」
「ゴーレムってやつか?この世界の錬金術すげぇな!」
「えへへ~」

 褒められる事に慣れてないミィナは、照れながらしまりのない顔で笑う。
 だが、次に来るのはあのぷくちゃんについての質問の嵐で、ミィナはあたふたするのだった。
 ぷくちゃんが作った道をミィナを先頭にして歩いていく。

「みな子がいてくれて助かったぜ。どっかの誰かさんは何もしてないようだけどなぁ」
「何を言ってるの?私は可愛いマスコットみたいなもので、ミィナちゃんをこのチーム引き込んだの。その時点で既に仕事してるのよ?誰のおかげだと思ってるのかしらねー」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 そうこうしてる間に目的の場所につく。

  なんか、話に聞いた以上にでかくね?

「うわぁ、ジャンプしても手が上まで届かないー!すごーく大きい!」
「こんなでかいの初めて見たぞ・・・・・・」

 リーヤはぴょんぴょん跳ねながら手を伸ばし、初めて見るビッグサイズのサニーフラワーを見てはしゃいでいた。
 そのサニーフラワーは2mをゆうに超えている。

「ミィナ、ぷくちゃんの頭を下に下げさせてくれないか?」
「了解です~。ぷくちゃんお願い」

 ぷくちゃんが転がり頭が地面に付く、そこを見計らってトラジはぷくちゃんの頭にしがみつく。

「ミィナ今度は頭を上に上げさせてくれ」
「は~い。ぷくちゃんお願い」

  そういや、よくお願いだけで動かせるな。
  もしかしたら言葉は何でもよくてイメージが大事とかなのか?

 ぷくちゃんの頭がゆっくり上がっていく。
 それに目を付けたリーヤが、トラジの上からぷくちゃんの角を掴みしがみついてきた。

  ミィナ程ではないな。だが十分いいもの持ってやがる。

「おお!なかなかいい眺めじゃない」
「ちっ!サニーフラワーの花がまだ邪魔で向こう側が見えん」
「採集忘れんなよ!あと、そこ代わってくれよな!」
「いーやーよー!」

 トラジとリーヤはぷくちゃんの上で立ち上がる。
 リーヤはサニーフラワー畑な光景を楽しんで見ていた。
 だが、トラジは高さが足りず上からの景色が見えない。

  いっそリーヤにでも抱っこしてもらうか?

 トラジはリーヤに目を向けて、ゆっくり視線を戻す。
 何がとは言わないが、リーヤはミィナより大人だとトラジは思った。
 採集を無事終えて、ミィナはぷくちゃんを元の泥団子に戻し鞄にしまう。
 気が付けば日は傾き空の色が変わりつつあった。

「採集なんて面倒なーんて思ったけど案外楽しかったわねー。トーマスさんに感謝ね!」
「ちょっと煩いけどな」
「ですね~。でもいい人そうではあるんですよね」
「ちょっっと煩いけどな」
「性格ならコイツより断然いいけど、元気すぎなのがねー・・・・・・」
「そこは、俺も同意だな」

 今日の事を話のタネにしつつ帰ろうとした時、トラジの耳に不思議な音が聞こえてきた。
 トラジの野生の勘だろうか?嫌な感じがしてならなかった。

「な、なんだこれ。みんな!止まれ!変だ!ミィナ通訳!」
「は、はい~!みんな止まって!!」
「どうした?みな子」
「何これ、なんか気持ち悪いんだけど・・・・・・」
「り、リーヤちゃん~!」

 ミィナとヤガタは平気そうだが、リーヤの様子がおかしい。

「ミィナ・・・・・・、たぶんこの不思議な音のせいだ、俺もだいぶヤバイ。意識がふんわりぼやけそうになる。ミィナ、リーヤの耳をふさぐんだ・・・・・・」
「は、はい!ヤガタくん!リーヤちゃんの耳を塞いであげて!」
「わ、わかった」

 ヤガタは座り込んだリーヤの、ミーナはトラジの耳を軽く塞ぐ。

「少しマシになったわ。どうなっているの?」
「え~と。ご、トラジさんが言うには、不思議な音のせいだって・・・・・・」
「音・・・・・・。それで耳か」
「不思議な音なんて聞こえないけど、耳がいいのね」
「その~、犬や猫は人間より耳がいいらしいですから」

 すでに日は沈みかけていた。
 だが、これから長い夜が始まる事をミィナ達は知らなかった。
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