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第二章
静かな夜と鮮やかなる朝 3
しおりを挟む「…ぁ、かっちゃん…」
てらてらと吸い込まれてゆく白濁を追いかけて、和也の身体を辿る夕貴の手のひらに持ち主の手が重なった。
ひやりとした感覚に恋人の顔を思い出す。
次はまだ達していない彼の番だと動こうとした夕貴の身体を固定して、和也は夕貴をベッドに寝かせた。
そっと優しく口付けをして、自身を引き抜く。
「えっ、…」
そしてそのまま夕貴から離れて、身体を拭くためのティッシュを手に取った。
「なん、で?カッちゃんまだイってない…」
愛情の交換はまだ続くと思っていた夕貴は、恋人の行動が理解できずに狼狽えた。
和也は手際よく後処理を済ませると、衣服を整えて目立たないところに置かれた小箱を手に取る。
やや間があって、小さな赤い炎がともるのを夕貴は見た。
それは、情事の終了の合図だった。
淡い煙が星明りに照らされて登ってゆく。
「僕はいい。毎日溜まらんし、連続で出したら続かんようになるから」
「っ、でも、俺だけ」
「お前が欲しがったから応えたんや。お前が善がって、満足したらいい」
ふ、和也の口から白い吐息が吐き出された。
いつの頃からだろうか、喜怒哀楽に関わらず高ぶった自分を押さえるために、和也は煙草を吸い始めた。
依存しているわけではない。吸わないなら吸わないで一向に構わなかったし、対外的にアピールするものでもない。
当初は情事の後に吸う時は夕貴の眠った後に吸っていたのだが、まぁ、眠っていると思っていたら実は起きていた、なんてことはよくあることで。
嫌煙家の夕貴は、しかし和也を見て何も言わなかった。
そしていつしか、情事の後は必ず吸うようになった。
だから、和也の喫煙を知るのは夕貴だけだ。
二人だけの禁忌。きっとそれが恋人であるが故の秘匿だった。行為のみを知り、その理由は訊ねず語らないーー
夕貴は今回もそれ以上の追及をやめ、床に落ちたままの枕を拾って布団にくるまった。
和也の咥える炎を頼りに、裸のまま恋人を見つめる。
「したくないなら言えばいいのに」
「そうじゃない。イく必要がなかっただけだ」
「ふぅん?」
「お前の顔を見られただけで満足や」
「そう言われたら悪い気はせんけどね」
この違和感はいつまで、ほんの少し、で片付けられるだろう?
0.1度のズレはいつ、二つの行き先を背中合わせにするんだろう?
(物理はわかんないなぁー。俺文系やし)
夕貴の口の端に浮かんだ薄い笑みは和也に対してのものではなく、自分を慰めるためのものだったかもしれない。
少しして、煙草を吸い終わった和也を迎えて指先を絡め、情事の最中より近い距離で、二人は同時に眠りに落ちた。
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