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王都街道編 1~3日目

2-2-3 クイーンアント?穂香無双?

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 ギチギチギチと歯を打ち鳴らしながら、2回りほど大きな蟻が出てきた。

 クイーンだ!

 出てくるなり奴は一番近くにいた雅に蟻酸を吐いた!
 バックステップで華麗にかわした雅だが、地面から跳ね返った酸液を数滴浴びてしまった。

「んちち! 未来ありがとう!」
「はい! 気を付けて!」

 すぐさま飛んできた未来のヒールで事なきを得たが、少量飛び散っただけなのに雅のジャージが溶けて、穴の開いた所からおへそと白い太ももが覗いている。

「雅、美咲先輩、後退だ! 穂香、盾を少し練習してみようか?」
「はい!」

「ん! 私が倒したいのに……」
「斬鉄剣の試し切り……」

 2人から少し不満の声が上がる……。

「穂香の盾の練習に奴は丁度いいんだよ」

「ん、解った……」
「解りました……」


『ナビー、こいつ倒したらレベルアップに行くのでよろしく』
『……了解しました。バスケ部の娘と茜が丁度レベルが上がりそうですね』

 レベルアップ者の毎に度々白黒世界に飛んでしまうのは面倒なので、OFFにしていたのだが丁度いい。


「穂香、龍に魔法を喰わせる。盾をこっちに向けて!」
「はい! お願いします」

 俺は龍に向かって2発上級魔法の【アイスガボール】を喰わせて魔法の補填をさせた。
 穂香の盾は、盾中央に鎮座する黒龍に魔法を喰わせてストックし、任意のタイミングで吐かせて攻撃できるような仕様になっている。

「ありがとうございます!」
「念のために【マジックシールド】は掛けておくので、蟻酸にビビらないで冷静に見極めるんだぞ」

 クイーンは穂香に蟻酸を吐いたが、穂香は盾で難なく防ぐ。盾は酸に浸蝕されることもなく、何かにコーティングされてるかのように流れ落ちて地面を溶かした。ブラックメタルの特性で酸や毒に対してはこの世界最強の耐酸、耐毒を誇る。

 それを見たクイーンは穂香に突進してきた。

「キャッ!」

 ヒラリとかわしてクイーンを後ろにいなしたが、それじゃダメだ。

「穂香、後ろにいなしてどうする! 後ろには仲間がいるのだぞ! 盾の下部にある踏込ストッパーを使って耐えてみろ!」

「はい! やってみます!」

 再度のクイーンのぶちかまし攻撃を、両手を使って踏ん張り、同時に足元のストッパーを地面に踏み込んで地中に盾を固定して耐える。

 『ドンッ!』と大きな衝突音が響いて地面が揺れる。でも穂香は10cmほど地面を抉って後退したが、難なくぶちかましに耐え切った。

 大きな攻撃の後には大きな隙ができる。
 穂香はチャンスとばかり龍にストックした【アイスガボール】を足元と頭に撃ち放った。

「エイッ!」

 足が凍り付いて動きがなくなったクイーンの首めがけて、盾の上部の刃が付いてる部分を可愛い掛け声とともにぶちかます。

 蟻の弱点は、蜂同様、体の割に細い首と、柔らかい腹の部分だ。

「エイッ! エイッ!」

 3度目ぐらいでクイーンの細い首がポロッと落ちた。ビクンッと痙攣したかと思った瞬間レベルアップ部屋に来ていた。

「あ! 龍馬先輩ごめんなさい! 練習なのに倒しちゃった!」
「何言ってるんだ。上出来だ穂香。凄く良かったぞ」

「ホントですか? 良かった」
「ん、悪くない。初見の魔獣相手にあれだけやれれば満点。周りの事もちゃんと見れてた。穂香上手」

「戦闘上手な雅ちゃんに言われると嬉しいな~」

「クイーンにはシールドがあったのに、頭を凍らされたことでリバフもできなかったみたいだね」

「「「穂香ちゃん凄かった! かっこ良かった!」」」

 皆に褒められて嬉しそうだ。悪くない戦闘だった。

「穂香、今回は凄く良かったけど、次はちゃんと自分で考えながら行動するんだよ。皆もちゃんと考えてから攻撃する事を学ぼうね。今回昆虫が相手だったので、俺は穂香に昆虫の動きの鈍るアイス系の魔法を撃たせたんだけど、火も弱点なのを覚えておいてね。ただ素材がダメになるので火はお薦めしないけどね。弱点の首を狙ったのは良かったよ。それと足元と頭の2カ所に放ったのも正解だ。特に足から攻めたのは良かったね」



「龍馬、さっきの蟻なのだが、大体どのくらいの強さなんだ?」
「そうですね、普通の蟻は武器持ちオークよりちょっと強いくらいですが、さっきのクイーンはシールド持ちでしたのでおそらく特殊個体でBランク魔獣に相当するでしょう。中級冒険者なら1PTで、上級冒険者が2・3人ほどで相手をする魔獣です。結構強い部類ですね。ちなみに武器持ちオークで10段階の下から2番目のFランクです。只、巣の討伐になるとSランク扱いです。数が多いですからね」

「俺はどのくらいの強さなんだろう?」
「三田村先輩の戦闘を1度も見た事ないので何とも言えませんね。多分強いとは思いますけどね」

「なんで見てもないのに強いって言うんだ?」
「中等部から剣道を5年もやっているのでしょ? スキルだけで技術を上げた俺なんかより鍛えた肉体というのは基本スペックが段違いに良いのです。それで弱いなら元から全く才能の欠片も無かったんでしょうね。キャプテンを務めるほどなんだし、それなりに強いんでしょ?」

「俺にも分からん。比べる相手が居ないからな」

「まぁ努力すれば報われる世界なので頑張ればいいだけですよ。それよりスキルを獲得しましょう。制限時間がありますからね」


「「「わ! 一杯レベルが上がってる!」」」
「ん? ホントだ! 蟻んこ結構経験値良いんだな」

「龍馬先輩! 私のスキル構成調整してください!」
「どれどれ、薫ちゃんはこれで完璧じゃないかな。槍使いだし、このままで良いよ。そろそろ【拳術】を取っておくのも良いかもね。槍使いは間合いは広いけど、懐に入られたら脆いからね。近距離も対応できるようにしとけば弱点はなくなるよね」

「解りました。今回は【拳術】のレベルを上げておきます。槍とかの武器を持ち込めないエリアにも対応できますからね」

 素直で良い娘だ。俺の意見と自分の理想を踏まえてちゃんと判断して、自分で選んで獲得している。俺の言いなりとかだときっと後で後悔する。相談には乗るが、獲得は自己判断でさせている。


「あの小鳥遊君、私の構成もアドバイスしてほしいんだけど良いかな?」

 今回のじゃんけんで勝って入ってきたバスケ部の人だ。

「ええ、良いですよ。先輩はどういう風なものを目指しているのですか? それによって全く構成は変わってきます」

「今は、回復の支援魔法しかないのだけど、冒険者に成れる構成にしたいの」

「冒険者ですか。冒険者にもいろいろ居ます。穂香のようなタンク、最前線で全てのダメージを引き受ける、危険で技術もいる守りの要。桜のようなアタッカー、一撃の威力は絶大で攻撃の要ですね。雅のような遊撃手、状況判断が上手く、前衛も中間攻撃もいけて、支援にも入れるオールラウンダー。美加や沙織のような魔法職、範囲攻撃も可能で一撃はアタッカーに及びませんが最大攻撃力は魔法職と言っていいでしょう。そしてヒーラー、支援も含め回復職が居ると死亡率が格段と減るため、初級ヒールだけでも大歓迎されるようです。回復職は圧倒的に数が少ないそうで、どこの街でも引っ張りだこで食いっぱぐれはないでしょう」

「うわー、いろいろあるのね。じゃあ、回復系をこのまま伸ばせばいいのかな?」
「回復職を目指すならそれが一番いいでしょうけど、回復職は攻撃力が乏しいため、強い人に依存しないとダメなんですよね。良いパーティーに入れれば良いですが、中には性質の悪い奴も居るようです。絡まれても攻撃力が無いので脅されて無理やりパーティーに強制加入とかもあるようですよ」

「それは嫌だな……うーん」
「回復に拘るけど火力もほしいとかなら、美弥ちゃん先生のようなバトルヒーラーという変わり種を目指すのもありですね」

「え? あの優しげな先生がバトルヒーラー?」
「ええ、ジョブに【魔法剣士】や【聖騎士】【僧侶】を選んで、【拳術】や【剣術】を上げながら、回復系も上げていくのです」

「私それにする! ジョブを【魔法剣士】にして、【剣術】を伸ばしながら、回復系も取る事にします」

「俺たちは勇者補正でこうやって選んで獲得できるので、【魔法剣士】はかなり良いと思います。実は俺もファーストジョブは魔法剣士です」

 今はクラスアップさせて魔法騎士なんだけどね。

「そうなの? やっぱりこの構成で行きます。小鳥遊君ありがとう。参考になったわ。今回一気に9レベルも上がってたから、どうしようか迷ってたの」

「真っ先に【身体強化】だけはレベル10にすることをお勧めします。あれは別格なので、あれだけで人間辞められちゃう程です」

「ええ、今回の移動で身に染みて解っています。あれだけの距離歩いたのに、一晩寝たらケロッと治っていてびっくりしたわ」


 彼女は種族レベル自体が低いから、今回の狩りで9レベルも上がったようだ。凄く生き生きとしていてとても嬉しそうだ。やっぱ他の娘たちの基本レベルも上げてあげた方が良いな。
 誰かに騙されたり強制されたりしたとか、後で嫌な噂が俺の耳に入ってくるのは良い気がしない。


 話し終えたのを見計らって、桜と茜がやってきた。

「早く味見してみましょ! 蟻蜜出して!」
「茜……お前先にスキル獲れよ。危機感が足らないぞ」

「何で? あなたが居る限り私は何の心配もしていないわよ? 私たちに何かあれば、あなた3秒以内にどこに居ても転移してくるでしょ?」

「…………」

 絶句してしまった。

「確かにそうなんだが……茜は自分で何とかしようという気はないのか?」
「私は基本ソロで活動する気はないわ。かといって龍馬君に寄生もしないので安心してね。皆が巣立つまではあなたが用意してくれた拠点で居るつもりよ。そこでこの世界の料理を研究したいかな。いろんなこの世界特有の食材でいろんなものを食べてみたいわ」

「私もその意見に一票!」

「やっぱ変態料理部の部長と副部長だ……まぁいい、好きな構成で取ればいいよ。蟻蜜は現実世界に戻ってからな。この白黒世界の中では飲食はできないんだ。それに、皆をあまり待たせちゃダメだ。はやくスキルを振るように」

「「解ったわよ!」」


 そんな怒んなくても良いじゃんか。食い物の恨みは恐ろしいと言うけど、こいつらはマジ怖い。

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 お読みくださりありがとうございます。

 この話で丁度100話のようです。
 一度は止めてた作品ですが、読者様の希望で再開し、いつの間にか100話にもなっていたのですね。

 キリも良いので評価・感想等頂けると嬉しいです。
 皆様の応援があると執筆の励みになります。
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