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王都街道編 1~3日目

2-2-2 キラーアント?禁呪?

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 今夜は皆の入浴時間中に狩りに出かける事になっている。

 蟻の巣があるのは野営地から3kmほど離れた地点だ。蟻の活動エリアが2kmほどあるので、そのエリアを避けるために川辺に留まっているのだ。

 狩りに向かう前に、川に30個のカゴ網を仕掛けて回る。ついでに作ったウナギ筒も50本放り込んでおく。

「じゃあ、行きますかね? 柴崎先輩はそんな目で見ても連れて行きませんからね」
「わざわざ名指しで言わなくても解ってるわよ!」

 実は俺のレイドPTには後1名空きがあるのだが、下手に言うと他の者たちの間で揉めるのが目に見えているので黙っている。

「おい小鳥遊? あと1名空きがあるんじゃないか? 今29人だぞ?」
「水谷! お前バカだろ! 龍馬が黙ってる理由ぐらい俺でも解るぞ?」

 本物のバカがいやがった! バカな三田村先輩にバカ呼ばわりされている可哀想な人だ。
 水谷先輩の方が、三田村先輩より賢いと思ってたのに、残念なほどのバカだったようだ。

「兄様! こいつは置いて行った方が良いですよ? こんなバカにレベルを与えてはいけません! きっと周りに将来迷惑をかけます!」

「ん! 置いて行こう!」
「「「賛成~~!」」」

「ああ! 待ってくれ! 俺が悪かった! 連れてってくれよ! 皆でバカバカって酷いよ!」

「「あの空きが1つあるのですか?」」

 女子剣道部の娘が期待した目で聞いてきた。この人たちにはいろいろ世話にはなっているんだよな……。
 勿論例の我が儘ぷーも黙ってない。

「タ・カ・ナ・シ・クン! 空きがあるのね!」
「あなたは空きがあっても却下です。危険なキラーアントという、集団戦が得意な1mもある殺人蟻です。自己中で我が儘なあなたに何かされたら、700匹以上の蟻が一斉に襲ってきますので、こっちが全滅しかねない」

「何時までそんな過去の失敗を持ち出すのよ!」
「何時までもです! 1度なら許しますが、あなたは2度もやったのです。そう簡単に信用されると思わないでください」

 俺の言い方がかなりきつかったのか泣き出してしまったが、そうそう甘い顔をしていてはケジメがつかなくなる。

「じゃあ、私は何時あなたに恩を返せるのよ! チャンスさえくれないなら恩も返せないじゃない!」

 へ? 恩? 泣きじゃくりながら何言ってるんだ? おーいナビー先生! お願いします!

『……仕方ないですね。ナビーは今忙しいのですよ……彼女はキングに撲殺されかけたあの時、空からやってきたマスターが神様のように見えたようですね。【魔糸】で釣り上げられて空を飛んだのも非現実的で夢でも見ているのかと魔素毒で意識が朦朧としているなかでそう感じていたようです。それにマスターが魔素を散らすマッサージをしたのでしょ? 彼女もその中の1人です。直接命を救われて感謝していない筈がないでしょ? 本人は恋と思ってはいないようですが、それに近い感情を抱いています。オークで穢された身で桜たちのような超絶美少女の間に割り込む勇気もないようです。マスターが、オークに犯された身でもなんとも思わない人だと知れたらどういう態度に変わるか興味はありますね』

『じゃあ、なんだ? 穂香や沙織のように助けた俺に好意を感じているのか? でも、穢れた体だからと桜たち美少女と自分を比べて負い目を感じて割り込む自信もない。せめて恩を少しでも返したくて、力をつけて戦闘で役立ちたいと思ってるという事か?』

『……要約するとそうなりますかね。この感情は大影美姫も抱いてる感情です。柴崎友美ほどではないですが、恋愛感情まではいかないけど、感謝とともに、とってもマスターの事が気になっている状態です』

『いくら可愛くても、あの2人は嫌だな……トラブルメーカーはちょっとね。う~ん、分かった、聞かなかった事にしよう』

『……そうですか。どっちの娘も人望があって皆に慕われている良い娘だと思うのですが……まぁ、これまでの言動があれでしたからね……』

 人望あるんだ? 部のキャプテンだからあるのかもな……。桜や綾ちゃんだって部員の人望は厚いしな。

「恩を返したいのなら、他の人が迷惑になるような行為をしないでくれるだけで良いです。それ以上は望んでいませんので、大人しくしていてくれると一番嬉しいです」

 ちょっと言い方きついかな? でも俺の本心だ。空回りされて被害をこうむるのは俺なのだからね。

「水谷先輩が責任とって収拾付けてください」
「え!? 俺には無理だよ! 勘弁してくれ!」

「じゃあ、先輩は置いて行きますね」
「待ってくれ! ジャンケンだ! 1枠を巡ってジャンケンにしよう! な、それなら公平だろ?」

 なんともありきたりだが、有用な手段を提示してきた。
 じゃんけん大会に参加してきた女子はなんと26名も居た。

「予想以上に多いですね。皆さんに聞きます、レベル上げの目的は何ですか?」

 1、街で身の危険を感じる
 2、自衛手段をやはり持っていたい
 3、欲しいスキルがある

 回答の多い順にこんな意見だった。

 このレベルアップ希望者の中に、1人ハティが避ける女子がいる。特に何かしているわけではないのだが、個人香に性格がでるなら注意が要ると思っている。下手に力を与えると危険な思想を持ったりしないか不安だが、何もしてないうちから邪険にするのは違う気もする。気には掛けるようにしておくが、差別はしない。余計に歪む可能性があるからだ。

「レベルアップ希望者が思ったより多いので、どこかで対処しようかと思います」
「「「お願いします!」」」

「でも今日はじゃんけんで1人だけです。街に着くまでに、今、名乗り出てる26名はレベル上げの狩りを行います。今のレベルで個人差はあると思いますが、3~5レベルほどの狩りだと思っていてください」

 皆の不満が募ってもイヤなので、レベル上げの約束をして場を収めた。気持ちは解らないでもない。教頭やバスケ部員、佐竹たちの暴挙を見てきた彼女たちが、自衛手段が欲しいと思うのは当然の事だろう。

 じゃんけんで勝ったのは女子バスケ部の2年生だった。

「今回ジャンケンんで負けた人も近いうちに必ず狩りに連れて行きますので、今日はお風呂に入ってお待ちください。それと新しく付けたお風呂の機能なのですが、全て魔道具ですのでMPを消費します。どれも下級魔獣の魔石利用なので消費MPは少ないのですが、数が多いので各自で機能停止したら魔力を与えてください。1回の補充で1時間は機能しますので、支援要員の方で補填の方はお願いします」

「「「はーい」」」



 現在30名で蟻塚から2kmの地点に居る。

「みなさん、このキラーアントという蟻は触角を地面に当てて、振動を感知して敵の索敵をするそうです。夜間は巣穴に全個体が帰って眠るそうですが、巣穴の入り口で数匹が出て警戒しているようです。そういう習性は蜂にも似ていますね。徒歩で歩いて行くと、この警戒中の蟻に発見され、向かってる先が自分たちの巣穴だと分かった時点で集団で襲ってきます。なのでここからは【フロート】を使って浮遊して巣穴に近付きます」

「龍馬先輩、【フロート】の魔法を使った事ないけど大丈夫かな?」
「思い通りに動くので大丈夫だよ。浮遊するだけならそれほど難しくはないよ」

「近くまで行ったらどうするんだ?」
「入り口の蟻を即効で倒して、俺が禁呪を撃ち込んで巣穴ごと一気に壊滅させて終わりです」

「そう上手くいくのか?」
「いかなければ、浮遊したまま向こうがあきらめるまで逃げるしかないですね。流石に700匹以上を相手にしたくはないです」

「解った」

 浮遊して巣穴前まで移動した。
 使った事がない者は最初は戸惑っていたものの、200mほどの実地訓練で使いこなせるようになっていた。

「巣の外に6匹居るな? 龍馬どうする?」
「美咲先輩が右のやつ2匹、三田村先輩が1番左、雅が左から2番目と3番目、右から3番目を俺が狩って、巣穴の中に禁呪を撃ち込みます」

「「「了解」」」
「ん、でも禁呪って何?」

「今回用に創った俺のオリジナル魔法だ」

 【寒冷地獄】
 ・着弾地点より半径50mのエリア内を絶対零度の世界に誘う
 ・発動時間は3~180秒、任意で途中解除できる

「ん! これヤバい! こんなのダメ! 危険! でもカッコいい!」
「うん、普段は使わないよ。だから禁呪なんだ。今回のように地中に向けてとか上空から地上に向けてとか特殊な条件下の時にしか使わない」

 雅はカッコいいと言ってくれたが……他の人の声もちゃんと聞こえているんだぞ!
 ボソボソと厨二臭いとか、ダサッとか聞こえてくる。

「桜がダサいって言った! 小声だったけど聞こえた!」
「普通に【アイスボール】で良いじゃない。なんでわざわざ厨二全開のネーミングするの?」

「ん! 桜はセンスが無い!」
「おお! 雅は解ってくれるか!? 流石だ雅! 愛してるぞ!」


「龍馬、盛り上がってるところ悪いが、俺は巻き添えで死にたくない。禁呪は使っちゃいけないから禁呪なんだと思うぞ? 普段は使わないとか……そういうレベルのモノじゃないだろ……これ、使っちゃマズいだろ?」

「ん、フレンドリーファイアとか最悪。笑えない……」

 皆には浮遊したまま待機してもらって、戦闘が上手い者だけで入り口の6匹を瞬殺した。そして詳細MAPから蜜蟻の居るポイントにピンポイントで【寒冷地獄】弾を撃ち込んだ。【ホーミング】機能で巣穴の中を自動で他の個体を避けながら奥まで到達し炸裂した。イメージはナパーム弾の氷バージョンと思ってもらえばいい。周囲が土ごと一気に凍りつく。

 蜜蟻が凍死して【インベントリ】に格納されたのを確認後一気に連弾を放って巣穴全てを凍らせる。
 巣穴1つ壊滅させるのにわずか30秒もかかっていない。

「龍馬よ……其方が相手じゃと、戦って死ぬことすら許されんのじゃな。少し可哀想じゃ……」
「そんな事言われても……なんかごめん」

 女神のフィリアからすれば、生ある物全てが愛おしい存在なのだ。ただ経験値として戦闘もさせないで命を奪ったのを見て悲しんでいるのだろう。

「勘違いするでないぞ? 皆を安全に強くするためとちゃんと妾は解っておる。ただあまりにも圧倒的で、ありんこたちが可哀想に見えただけじゃ……」

「龍馬、前から気にはなってたんだが、その変な言葉遣いの、めちゃくちゃ可愛い幼女は何なんだ? お前がなんか下手に出ているようにも見えるのだが……」

 チッ、気付きやがった。どう答えるかな……三田村先輩なら問題ない気もするが、他の者がどういう態度をとるか解らない以上喋る訳にはいかない。

 特に柴崎先輩のように、オークたちから散々酷い目に遭ったような娘たちは、フィリアに恨みを感じてもおかしくない。

「三田村君、秘密ですよ? 彼女は本当なら年明けから中等部の私のクラスに編入する事になっていた某王国の姫君なのです。日本が大好きで独学で日本語を学んだようなの……語学の教材に何を使ったか知らないけど、ちょっと時代錯誤な言葉遣いをしますが、14歳の中学3年生です」

「もうすぐ15じゃ!」

 ナイスだ美弥ちゃん先生! 良いフォローだ! 姫なら俺が下手に出ていてもそれほどおかしくはない。

「姫! マジモノの姫様か! うわー! 可愛い! お姫様初めて見た!」

 水谷先輩、なんか発想が可笑しいぞ? 姫=可愛いは絶対ないぞ? それは幻想だ!

『……マスター! クイーンが生きています! 怒り狂って地上に這い出てきています! ご注意を!』

「入り口から退避! 女王蟻が生きてた!」

 最奥に居たとはいえ、マイナス273℃をどうやって生き延びたんだ?

『……スキルの【マジックシールド】ですよ。オークしか所持してないとお思いでしたか?』

「どうやら、【マジックシールド】持ちのようだ! 雅と美咲先輩以外は全員安全圏まで下がって! 2人とも蟻酸に注意! 未来ちゃんと優ちゃんとで念のためにヒール担当よろしく!」

「「了解です!」」


 流石女王と言ったところか。
 可哀想だが硬いそうなので、刀の試し切りにさせてもらおう。
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