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王都街道編 6・7日目
2-7-2 サーベルタイガー?小さな勇者?
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どうやらサーベルタイガーに発見されてしまったようで、このままだと戦闘になりそうだ。足を止め、皆を集める。
「小鳥遊君、どうしました?」
「龍馬? 猿は無視して走り抜けるんじゃなかったのか?」
高畑先生と三田村先輩が不審げに聞いてくる……この間にも追いついてきた猿共が石やら糞を投げつけてきている。
「猿は無視して良いですが、サーベルタイガーに見つかったようで、凄い速さでこっちに向かってきています! 皆、密集してください! 美弥ちゃん、フィリア、俺で3重の【エリアシールド】を張ります!」
「やはり来たのね……そんな気はしてたのよ。だって龍馬君が何度もフラグ立ててたもん」
「ん、フラグ立てまくり」
エエッ~~俺のせい? 桜も雅も酷くない?
「兄様はこういうお約束事は、自らフラグを立てて引き込んじゃいますからね……」
菜奈まで……。
「俺は悪くないと思うんだが……」
「龍馬……俺もなんとなくお前のせいのような気もするが、この際根拠のないそんな事は良い。どうするんだ? 死人が出ないように指示を出してくれ」
三田村先輩がまともな意見を真っ先に出してきた……死人が出ないようにという言葉に責任を感じるが、リーダー的な事をやっているのだから仕方がないか。
「美咲先輩と俺とで迎撃します。他の者は【エリアシールド】内で、非戦闘員は密集して座って、戦闘員は戦闘態勢で非戦闘員を守るように囲んで待機していてください」
「龍馬、俺も腕試しがしてみたい……」
「ん! 私も参加する!」
「あの、龍馬先輩! 私もやってみたいです!」
「「私も参加します!」」
三田村先輩・雅・穂香・桜・薫が参加意思を伝えてくる……でもな~。
『……やらせてみてはどうですか? フィリア様に参加してもらえば、早々死人は出ない筈ですよ?』
『そうだな……フィリアに頼むか』
「フィリア、ヒーラーとして参加してくれるか? 【エリアシールド】は最後に一番外に掛け、俺以外の戦闘者のシールドのリバフを頼む」
「うむ、了解じゃ」
「美弥ちゃん先生、一番内の【エリアシールド】を半径10mで頼みます。切れたり壊れる前にリバフお願いします。2番目に俺が半径11mで掛けるので、フィリアは半径12mで最後に頼むな」
「「了解」」
全員が密集し座った所で、美弥ちゃんから順番にエリアシールドを張って行く。
フィリアが最後に張った後に更にシールドが張られた。どうやら菜奈が4重目を更に張ったようだ。菜奈の方を見たらプイってされた……菜奈もコピーして【エリアシールド】を持っているのに、声を掛けなかったのを拗ねているようだ。面倒だが後で、フォローがいるな……。
ヒーラーの未来にもコピーしてあげたいが、関係が深まってからじゃなきゃね……コピー限度数が有るので、結局御免なさいとかになった場合、『じゃあ、あげたスキル返せ』とかしょぼい事は言いたくない。
20kmほど距離があったのに、奴は6分ほどでやってきた。
街道を塞ぐように、進行方向から足音もさせず現れる。
足音も気配もなく現れ、直ぐ側に居た猿をバクッと一噛みで咥えてバキバキと骨ごと咀嚼する。
何せ猿共のいる木の高さに丁度ヤツの口元が有るのだ……2匹目を咥えた時に猿共は蜘蛛の子を散らしたように一目散に逃げ出した。
「龍馬! さっきはああ言ったが、悪い! 俺は無理っぽい! 結界内に入れてくれ!」
「「私もごめんなさい!」」
三田村先輩・桜・薫から速攻で泣きが入るがもう無理だ。
「以前に言ったけど、1回出たら中には入れないんだよ! もう来ちゃってるから再掛けも出来ない! 諦めろ!」
「お前サーベルタイガーって言っただろ! こいつは別モノだろ! デカすぎるんだよ!」
正直俺も怖い! 何だよこのデカさ!
「デカけりゃイイってもんじゃない! エイッ!」
果敢にも穂香が前に出て【挑発】スキルを発動してから投げナイフを投げつける。だが、投げたナイフは長い牙で打ち弾かれてあさっての方向に飛んで行った。
「穂香、ナイフを投げた後に挑発した方が良かったね……注目させた後に投げてもそりゃ簡単に躱されちゃうよ」
「あぅ……ですよね……」
体高5m、体長7m……尻尾までいれたら更に大きい。トラのような鮮やかな縞々は無く、豹の様な茶と黄色と黒っぽい色の混じった斑点模様をしている。これはこれで綺麗な色艶をしていて、良い毛並みだと言える。
牙は地球の古代のサーベルタイガーのように、上牙2本がやたらと長く発達している……1mは有りそうだ。
ナビー情報だと地球のサーベルタイガーは体長2m、牙も25cmほどだったらしい。こいつはそれより3倍ほどデカいのだ……2mほどの地球のサーベルタイガーでも、何倍もデカいマンモスを簡単に狩っていたそうなので、こいつはどれだけ強いのか想像がつかない。
穂香が2本目のナイフを投げようとしたときに、前足でバシッと猫パンチを喰らった。
『ドンッ!』という大きな音とともに穂香は空に吹っ飛んで行った。盾で防御していたので殆どシールドにもダメージは及んでないのだが、50mは吹き飛ばされている。俺は慌てて【レビテト】を掛けてやる。この魔法は重力系魔法で、上手く使えば浮遊する事ができるのだ。
『穂香! 大丈夫か!?』
ダメージは負ってないが、念のため念話で安否確認をする。
『龍馬先輩! ありがとうございます! 一瞬でやられちゃいました! 強いですね! このまま飛んでゆっくり戻りますね』
『ああ、慌てなくて良いからな! 地上にも魔獣はいるから、上空を飛んでくるんだぞ』
そのまま、桜に襲いかかろうとしていたトラとの間に三田村先輩が割り込んでくれたのだが、何もできないまま猫パンチで空を舞う……70mは行ったようだ……南無~。
次は雅が【俊足】を使って足元まで一気に間合いを詰め、そのままジャンプして奴の首を薙ぎに行った。
奴は長い牙を横に振って雅を切り裂こうとしたが、逆に雅に刀で牙を根元付近で切り落とされる。
だが、雅は2本目の牙で薙ぎ払われてしまう……シールドが4割も削れた上に、HPが1割減っている。
『シールドはまだあるのに、何でだ!?』
雅が空中を飛んでいる間にフィリアが回復、シールドのリバフ、【レビテト】の発動まで行ってくれる……流石だ。でも、そこまで瞬間的にできるなら、三田村先輩にも【レビテト】掛けてあげようよ……。
『……直接攻撃は【マジックシールド】で吸収していましたが、牙の打撃の衝撃波が内臓に伝わったようですね』
どうやら、余波は間接ダメージとして有効なようだ。
デンジャーオストリッチの足蹴りは防いでいたのに、奴の牙はそれ以上という事か。
雅が攻撃を受け、100m近く飛ばされダメージが入ったのを見て、沙希に抱っこされて大人しく見ていたハティがエリアシールドから飛び出してきた。
「ミャン!」
上級魔法の【アクアガカッター】を放つが、牙で防がれてダメージは入らない。
その際に俺が死角から【ウィンダガカッター】を放って首筋に当てたのだが、奴の毛皮は魔法耐性が高いのか、大きなダメージは与えられなかった。
それならばと【サンダガスピア】を放ってみたのだが、牙を避雷針のように地面に突き立て地面に散らされてしまった。コイツ、なかなか戦い慣れている。
美咲先輩が前に出ようとしていたところで、ハティが可愛く唸り声をあげ【王の威圧】を最大で【王の咆哮】を放つ。
「ガゥルル~~ミャン!」
【王の威圧】はその名の通り威圧系の魔法で、放った後に恐慌状態にし、硬直させる事ができる魔法だ。
【王の咆哮】も同系統の魔法だが【王の威圧】を被せて使用する事によって、より効果が倍増される。
奴の尻尾の毛が一瞬ブワッと逆立った後、そのまま硬直状態に入る……なんか尻尾は項垂れて、足はガクブル状態だ。
その隙にハティは、奴の首に飛びついて噛み付いた。
ハティ……残念だが、お前の生えたての乳歯じゃ、大きなダメージは入らないよ。
むしろ折角の美咲先輩の一撃必殺の【斬鉄剣】が首を狙ってたのに、そこに居たら邪魔になる。
ところが、ハティは噛み付いた状態で【サンダガスピア】を小さな牙から直接放ったようだ。
ゼロ距離だと自滅攻撃なのだが、ハティには【雷耐性】をMAXで振っているので、大したダメージは負っていない……ちょっとハティの綺麗な毛並が乱れた程度だ。
アニメのようなチリチリアフロにならなくてよかった……ハティのモフモフは皆の至高の癒しになっているのだ。
直接体内に上級魔法を打ち込まれたサーベルタイガーは、ゆっくりと街道横の木々をなぎ倒しながら絶命する……ハティ、恐ろしい子。
ハティは倒したサーベルタイガーの頭の上に登ってお座りをした……あいつ何してるんだ?
「ミャオオ~~ン!」
何とも可愛い遠吠えで勝鬨をあげる……小さな勇者の誕生だ。
そしてこっちを見て尻尾をゆっくり振っている……どう見てもアレって褒めて欲しいんだろうな……。
「ハティ! 良くやった! 偉いぞ~おいで!」
手を広げて呼んであげると、そのまま一足飛びで俺の方にジャンプしてきた。
「ウグッ!」
結構な衝撃だ……シールドがなかったら幾らかダメージが入っていたかもしれない。
そして余程嬉しかったのか、いつもは抑えてやらない顔ペロ攻撃をしてくる。
「ハティ、落ち着け! 顔ペロペロは勘弁してくれ!」
そして興奮あまった揚句、ジョロジョロと生暖かい液体を胸に掛けられる……嬉ションしやがった。
「NO~~! おしっこダメ~~!」
エリアシールド内で、穂香と三田村先輩と雅が有り得ないほど空を飛んでいくのを見て青ざめていた者たちの緊張が、俺たちの戯れを見て一気に解けていく。
二重の意味でナイスだハティ!
おしっこは【クリーン】が有るので、どうって事はない。子犬のうちや老犬の嬉ションは仕方がない。生理現象なのだ。失態をしたとシュンとなってしまったハティに優しく声を掛ける。
「ハティ、怒ってないから大丈夫だぞ。皆が苦戦していた魔獣を良くそのちっちゃな体で倒したな。今日の夕飯にご褒美として牛肉の筋肉とオークの腸で作ったソーセージを付けてやるからな」
『お肉~♪ すじ肉ってな~に? そ~せ~じ?』
「筋肉はコリコリした、ハティ向きな固いお肉だ。ソーセージも美味しいぞ。今日は軟骨も付けてやろう」
『なんこつ! やった~♪』
余程嬉しいのか、ハティの尻尾が千切れるかと思うくらいブンブン振られている。
エヘヘ……何て可愛いんだろう。
それにしても三田村先輩帰って来ないな……念話で聞いてみるか。
「小鳥遊君、どうしました?」
「龍馬? 猿は無視して走り抜けるんじゃなかったのか?」
高畑先生と三田村先輩が不審げに聞いてくる……この間にも追いついてきた猿共が石やら糞を投げつけてきている。
「猿は無視して良いですが、サーベルタイガーに見つかったようで、凄い速さでこっちに向かってきています! 皆、密集してください! 美弥ちゃん、フィリア、俺で3重の【エリアシールド】を張ります!」
「やはり来たのね……そんな気はしてたのよ。だって龍馬君が何度もフラグ立ててたもん」
「ん、フラグ立てまくり」
エエッ~~俺のせい? 桜も雅も酷くない?
「兄様はこういうお約束事は、自らフラグを立てて引き込んじゃいますからね……」
菜奈まで……。
「俺は悪くないと思うんだが……」
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三田村先輩がまともな意見を真っ先に出してきた……死人が出ないようにという言葉に責任を感じるが、リーダー的な事をやっているのだから仕方がないか。
「美咲先輩と俺とで迎撃します。他の者は【エリアシールド】内で、非戦闘員は密集して座って、戦闘員は戦闘態勢で非戦闘員を守るように囲んで待機していてください」
「龍馬、俺も腕試しがしてみたい……」
「ん! 私も参加する!」
「あの、龍馬先輩! 私もやってみたいです!」
「「私も参加します!」」
三田村先輩・雅・穂香・桜・薫が参加意思を伝えてくる……でもな~。
『……やらせてみてはどうですか? フィリア様に参加してもらえば、早々死人は出ない筈ですよ?』
『そうだな……フィリアに頼むか』
「フィリア、ヒーラーとして参加してくれるか? 【エリアシールド】は最後に一番外に掛け、俺以外の戦闘者のシールドのリバフを頼む」
「うむ、了解じゃ」
「美弥ちゃん先生、一番内の【エリアシールド】を半径10mで頼みます。切れたり壊れる前にリバフお願いします。2番目に俺が半径11mで掛けるので、フィリアは半径12mで最後に頼むな」
「「了解」」
全員が密集し座った所で、美弥ちゃんから順番にエリアシールドを張って行く。
フィリアが最後に張った後に更にシールドが張られた。どうやら菜奈が4重目を更に張ったようだ。菜奈の方を見たらプイってされた……菜奈もコピーして【エリアシールド】を持っているのに、声を掛けなかったのを拗ねているようだ。面倒だが後で、フォローがいるな……。
ヒーラーの未来にもコピーしてあげたいが、関係が深まってからじゃなきゃね……コピー限度数が有るので、結局御免なさいとかになった場合、『じゃあ、あげたスキル返せ』とかしょぼい事は言いたくない。
20kmほど距離があったのに、奴は6分ほどでやってきた。
街道を塞ぐように、進行方向から足音もさせず現れる。
足音も気配もなく現れ、直ぐ側に居た猿をバクッと一噛みで咥えてバキバキと骨ごと咀嚼する。
何せ猿共のいる木の高さに丁度ヤツの口元が有るのだ……2匹目を咥えた時に猿共は蜘蛛の子を散らしたように一目散に逃げ出した。
「龍馬! さっきはああ言ったが、悪い! 俺は無理っぽい! 結界内に入れてくれ!」
「「私もごめんなさい!」」
三田村先輩・桜・薫から速攻で泣きが入るがもう無理だ。
「以前に言ったけど、1回出たら中には入れないんだよ! もう来ちゃってるから再掛けも出来ない! 諦めろ!」
「お前サーベルタイガーって言っただろ! こいつは別モノだろ! デカすぎるんだよ!」
正直俺も怖い! 何だよこのデカさ!
「デカけりゃイイってもんじゃない! エイッ!」
果敢にも穂香が前に出て【挑発】スキルを発動してから投げナイフを投げつける。だが、投げたナイフは長い牙で打ち弾かれてあさっての方向に飛んで行った。
「穂香、ナイフを投げた後に挑発した方が良かったね……注目させた後に投げてもそりゃ簡単に躱されちゃうよ」
「あぅ……ですよね……」
体高5m、体長7m……尻尾までいれたら更に大きい。トラのような鮮やかな縞々は無く、豹の様な茶と黄色と黒っぽい色の混じった斑点模様をしている。これはこれで綺麗な色艶をしていて、良い毛並みだと言える。
牙は地球の古代のサーベルタイガーのように、上牙2本がやたらと長く発達している……1mは有りそうだ。
ナビー情報だと地球のサーベルタイガーは体長2m、牙も25cmほどだったらしい。こいつはそれより3倍ほどデカいのだ……2mほどの地球のサーベルタイガーでも、何倍もデカいマンモスを簡単に狩っていたそうなので、こいつはどれだけ強いのか想像がつかない。
穂香が2本目のナイフを投げようとしたときに、前足でバシッと猫パンチを喰らった。
『ドンッ!』という大きな音とともに穂香は空に吹っ飛んで行った。盾で防御していたので殆どシールドにもダメージは及んでないのだが、50mは吹き飛ばされている。俺は慌てて【レビテト】を掛けてやる。この魔法は重力系魔法で、上手く使えば浮遊する事ができるのだ。
『穂香! 大丈夫か!?』
ダメージは負ってないが、念のため念話で安否確認をする。
『龍馬先輩! ありがとうございます! 一瞬でやられちゃいました! 強いですね! このまま飛んでゆっくり戻りますね』
『ああ、慌てなくて良いからな! 地上にも魔獣はいるから、上空を飛んでくるんだぞ』
そのまま、桜に襲いかかろうとしていたトラとの間に三田村先輩が割り込んでくれたのだが、何もできないまま猫パンチで空を舞う……70mは行ったようだ……南無~。
次は雅が【俊足】を使って足元まで一気に間合いを詰め、そのままジャンプして奴の首を薙ぎに行った。
奴は長い牙を横に振って雅を切り裂こうとしたが、逆に雅に刀で牙を根元付近で切り落とされる。
だが、雅は2本目の牙で薙ぎ払われてしまう……シールドが4割も削れた上に、HPが1割減っている。
『シールドはまだあるのに、何でだ!?』
雅が空中を飛んでいる間にフィリアが回復、シールドのリバフ、【レビテト】の発動まで行ってくれる……流石だ。でも、そこまで瞬間的にできるなら、三田村先輩にも【レビテト】掛けてあげようよ……。
『……直接攻撃は【マジックシールド】で吸収していましたが、牙の打撃の衝撃波が内臓に伝わったようですね』
どうやら、余波は間接ダメージとして有効なようだ。
デンジャーオストリッチの足蹴りは防いでいたのに、奴の牙はそれ以上という事か。
雅が攻撃を受け、100m近く飛ばされダメージが入ったのを見て、沙希に抱っこされて大人しく見ていたハティがエリアシールドから飛び出してきた。
「ミャン!」
上級魔法の【アクアガカッター】を放つが、牙で防がれてダメージは入らない。
その際に俺が死角から【ウィンダガカッター】を放って首筋に当てたのだが、奴の毛皮は魔法耐性が高いのか、大きなダメージは与えられなかった。
それならばと【サンダガスピア】を放ってみたのだが、牙を避雷針のように地面に突き立て地面に散らされてしまった。コイツ、なかなか戦い慣れている。
美咲先輩が前に出ようとしていたところで、ハティが可愛く唸り声をあげ【王の威圧】を最大で【王の咆哮】を放つ。
「ガゥルル~~ミャン!」
【王の威圧】はその名の通り威圧系の魔法で、放った後に恐慌状態にし、硬直させる事ができる魔法だ。
【王の咆哮】も同系統の魔法だが【王の威圧】を被せて使用する事によって、より効果が倍増される。
奴の尻尾の毛が一瞬ブワッと逆立った後、そのまま硬直状態に入る……なんか尻尾は項垂れて、足はガクブル状態だ。
その隙にハティは、奴の首に飛びついて噛み付いた。
ハティ……残念だが、お前の生えたての乳歯じゃ、大きなダメージは入らないよ。
むしろ折角の美咲先輩の一撃必殺の【斬鉄剣】が首を狙ってたのに、そこに居たら邪魔になる。
ところが、ハティは噛み付いた状態で【サンダガスピア】を小さな牙から直接放ったようだ。
ゼロ距離だと自滅攻撃なのだが、ハティには【雷耐性】をMAXで振っているので、大したダメージは負っていない……ちょっとハティの綺麗な毛並が乱れた程度だ。
アニメのようなチリチリアフロにならなくてよかった……ハティのモフモフは皆の至高の癒しになっているのだ。
直接体内に上級魔法を打ち込まれたサーベルタイガーは、ゆっくりと街道横の木々をなぎ倒しながら絶命する……ハティ、恐ろしい子。
ハティは倒したサーベルタイガーの頭の上に登ってお座りをした……あいつ何してるんだ?
「ミャオオ~~ン!」
何とも可愛い遠吠えで勝鬨をあげる……小さな勇者の誕生だ。
そしてこっちを見て尻尾をゆっくり振っている……どう見てもアレって褒めて欲しいんだろうな……。
「ハティ! 良くやった! 偉いぞ~おいで!」
手を広げて呼んであげると、そのまま一足飛びで俺の方にジャンプしてきた。
「ウグッ!」
結構な衝撃だ……シールドがなかったら幾らかダメージが入っていたかもしれない。
そして余程嬉しかったのか、いつもは抑えてやらない顔ペロ攻撃をしてくる。
「ハティ、落ち着け! 顔ペロペロは勘弁してくれ!」
そして興奮あまった揚句、ジョロジョロと生暖かい液体を胸に掛けられる……嬉ションしやがった。
「NO~~! おしっこダメ~~!」
エリアシールド内で、穂香と三田村先輩と雅が有り得ないほど空を飛んでいくのを見て青ざめていた者たちの緊張が、俺たちの戯れを見て一気に解けていく。
二重の意味でナイスだハティ!
おしっこは【クリーン】が有るので、どうって事はない。子犬のうちや老犬の嬉ションは仕方がない。生理現象なのだ。失態をしたとシュンとなってしまったハティに優しく声を掛ける。
「ハティ、怒ってないから大丈夫だぞ。皆が苦戦していた魔獣を良くそのちっちゃな体で倒したな。今日の夕飯にご褒美として牛肉の筋肉とオークの腸で作ったソーセージを付けてやるからな」
『お肉~♪ すじ肉ってな~に? そ~せ~じ?』
「筋肉はコリコリした、ハティ向きな固いお肉だ。ソーセージも美味しいぞ。今日は軟骨も付けてやろう」
『なんこつ! やった~♪』
余程嬉しいのか、ハティの尻尾が千切れるかと思うくらいブンブン振られている。
エヘヘ……何て可愛いんだろう。
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