19 / 34
19.
しおりを挟む
「はぁ~~キミは本当に人の気も知らないで……。」
ライランド様はだいぶ頭が痛そうである。
やはり、昨日ボクが抱き枕にならなかったからだ。昨夜はあまりよく眠れなかったに違いない。
「どうして自ら安全で快適なところを捨てて、好きでもない男をわざわざ追いかけてきた。」
どうして…どうして……。
それは……。
「ライランド様がボクがいないとよく眠れないからです。」
「だから、俺が眠れないことがキミにどんな関係があると聞いているんだ。
ジャコブは一生キミを愛でて養ってくれるだろうし、ここにはキミが好きな本だって無い。
ジャコブのところにいた方がよっぽど良いだろう。」
「えっと…それは…それは……。
ライランド様はボクの恩人だからです。」
首をひねるのは、今度はライランド様の方だった。
「恩人?俺が?
あぁ、本を沢山読ませてやった事か。
あれはキミを殺そうとした詫びだ。だから、気にしなくていい。」
「正しく、そのボクを殺さなかったじゃ ありませんか。だから命の恩人です。」
ライランド様の尻尾は、ぶんぶんと勢いよく振れていて、本当にイラついているのがわかる。
「ハァ~~。キミは恩人という言葉の定義を間違えている。
いいか、最初に、キミを殺そうとしたのが俺だ。後で思い直してやめただけだ。それは別に恩人でもなんでもない。
第一、これは戦争だ。遊びではないんだぞ。
目の前で人が、キミの同胞が沢山死ぬんだ。それにキミは耐えられるのか?」
確かにライランド様が草食獣人達を殺すところはあまり見たくない気がする。
「それに、死ぬのはなにも敵だけではない。
キミだって死ぬ可能性があるんだ。
せっかく安全なところを用意したのに、なんだってわざわざ……。」
「だって、ライランド様は殺すべきだったのにボクを殺さなかったじゃないですか。
だから、この命はライランド様のものです!
ライランド様が死ぬ時は、ボクも一緒です!」
あれ?ボク、そんなこと思ってたっけな?でも、なんとなくライランド様が死んで、ボクだけが生き残るのは、絶対に嫌だと思った。
うん。そうだ。
よく考えればよく考えるほど嫌だ。
もし、ジャコブの屋敷で本を読んでいるボクのもとに、ライランド様の訃報が届いたとしたら……。
ライランド様との思い出が沢山詰まった本だ。ボクはもう一生、どんな本も読む気にはならないだろう。
そうなると、本を読まずにして長い余生をどう過ごそうかと考えてみる。が、さっぱり思いつかない。
この異国の地で、何の目的もなくただただ生かされるだけならば、ライランド様と共に往きたい。
うん。何気なく口にしてしまったが、この考えはだいぶ真実の様だと気が付いた。
「本当に勘弁してくれよ。
この子これで俺の事好きじゃないって言うんだぞ……。」
ライランド様の尻尾の揺れが、先程より緩やかになった。
「殿下、ちょいと失礼しても良いですかね。」
そこに首を挟んできたのはロムニーだった。口じゃない。文字通り、天幕から首だけを挟んでこちらに話しかけている。
「なんだ。」
「今回の出発は少々急だったので、ちょうど、従軍の娼夫を一人も連れてきておりませんで。
今夜あたり、早速若い兵士達が被害に遭う所でした。
いやぁ~メリノが来てくれて良かったなと。これで、若い奴らも喜びます。
私はメリノくんの滞在を歓迎しますよ。」
「娼夫…。」
そういえば、ボクの始めの職業は羊花魁だったっけか。それをすれば、ライランド様の側に置いて貰える?
いやでも、それは…それは…。なんだか凄く嫌だ。
ライランド様以外の人に触れられたくない。
あれ?ライランド様なら良いの?
「ロムニー!!何を言っている!!!
この前俺の気持ちを話しただろうが!!!」
ライランド様がこんなにも怒りを露わにして怒鳴っているのは、初めてみるかもしれない。
「えぇ、もちろん、ライランド殿下専用でも良いんですよ。
ライランド殿下は指揮官ですから、専用を持つその権利がお有りです。
今夜あたり近くの村で調達しようと思っていたんですが、安全の為にも、見知らぬ獣人を近づけるより、見知った者の方が良い。
ほら、私らの爪やキバは丸腰でも人を殺せるでしょう?指揮官であるライランド殿下の寝首をかかれては堪りませんからね。」
そう言うと、ロムニーは自らの爪とキバを出してボクに見せた。
なるほど。これは確かに丸腰でも人を殺せる。
対するボクのすり鉢状の歯では、殺そうとした瞬間に起きて逆襲されるだろう。
うんうん、なるほど。ボクは安全という訳だ。
「じゃあ、ボク、ライランド様の専属娼夫になります!」
「えっ」
思わず声が漏れたのはライランド様である。尻尾がピンと立っていてかわいい。
「ボク、他の人は嫌だけど、ライランド様ならいいです。」
なぜか言い出しっぺのロムニーが、口元を押さえて笑っている。
「もともと、抱き枕になるつもりで来ましたし、ついでに性欲処理も任せて下さい!
見て下さい!ボクの歯を!これなら安全ですよ!」
ボクは大きく口を開けて、ボクの安全なお口をアピールした。
ロムニーはとうとう笑いが堪えなくなったようで、首を挟むのをやめて、遠くに走っていって大笑いしている様だった。
ライランド様はなんとも複雑そうな顔で、「よろしく頼む。」とだけ言った。
良かった!
ボク、ライランド様のお側に残ってもいいんだ。
メリノ、34歳。
羊花魁に復職しました。
ライランド様はだいぶ頭が痛そうである。
やはり、昨日ボクが抱き枕にならなかったからだ。昨夜はあまりよく眠れなかったに違いない。
「どうして自ら安全で快適なところを捨てて、好きでもない男をわざわざ追いかけてきた。」
どうして…どうして……。
それは……。
「ライランド様がボクがいないとよく眠れないからです。」
「だから、俺が眠れないことがキミにどんな関係があると聞いているんだ。
ジャコブは一生キミを愛でて養ってくれるだろうし、ここにはキミが好きな本だって無い。
ジャコブのところにいた方がよっぽど良いだろう。」
「えっと…それは…それは……。
ライランド様はボクの恩人だからです。」
首をひねるのは、今度はライランド様の方だった。
「恩人?俺が?
あぁ、本を沢山読ませてやった事か。
あれはキミを殺そうとした詫びだ。だから、気にしなくていい。」
「正しく、そのボクを殺さなかったじゃ ありませんか。だから命の恩人です。」
ライランド様の尻尾は、ぶんぶんと勢いよく振れていて、本当にイラついているのがわかる。
「ハァ~~。キミは恩人という言葉の定義を間違えている。
いいか、最初に、キミを殺そうとしたのが俺だ。後で思い直してやめただけだ。それは別に恩人でもなんでもない。
第一、これは戦争だ。遊びではないんだぞ。
目の前で人が、キミの同胞が沢山死ぬんだ。それにキミは耐えられるのか?」
確かにライランド様が草食獣人達を殺すところはあまり見たくない気がする。
「それに、死ぬのはなにも敵だけではない。
キミだって死ぬ可能性があるんだ。
せっかく安全なところを用意したのに、なんだってわざわざ……。」
「だって、ライランド様は殺すべきだったのにボクを殺さなかったじゃないですか。
だから、この命はライランド様のものです!
ライランド様が死ぬ時は、ボクも一緒です!」
あれ?ボク、そんなこと思ってたっけな?でも、なんとなくライランド様が死んで、ボクだけが生き残るのは、絶対に嫌だと思った。
うん。そうだ。
よく考えればよく考えるほど嫌だ。
もし、ジャコブの屋敷で本を読んでいるボクのもとに、ライランド様の訃報が届いたとしたら……。
ライランド様との思い出が沢山詰まった本だ。ボクはもう一生、どんな本も読む気にはならないだろう。
そうなると、本を読まずにして長い余生をどう過ごそうかと考えてみる。が、さっぱり思いつかない。
この異国の地で、何の目的もなくただただ生かされるだけならば、ライランド様と共に往きたい。
うん。何気なく口にしてしまったが、この考えはだいぶ真実の様だと気が付いた。
「本当に勘弁してくれよ。
この子これで俺の事好きじゃないって言うんだぞ……。」
ライランド様の尻尾の揺れが、先程より緩やかになった。
「殿下、ちょいと失礼しても良いですかね。」
そこに首を挟んできたのはロムニーだった。口じゃない。文字通り、天幕から首だけを挟んでこちらに話しかけている。
「なんだ。」
「今回の出発は少々急だったので、ちょうど、従軍の娼夫を一人も連れてきておりませんで。
今夜あたり、早速若い兵士達が被害に遭う所でした。
いやぁ~メリノが来てくれて良かったなと。これで、若い奴らも喜びます。
私はメリノくんの滞在を歓迎しますよ。」
「娼夫…。」
そういえば、ボクの始めの職業は羊花魁だったっけか。それをすれば、ライランド様の側に置いて貰える?
いやでも、それは…それは…。なんだか凄く嫌だ。
ライランド様以外の人に触れられたくない。
あれ?ライランド様なら良いの?
「ロムニー!!何を言っている!!!
この前俺の気持ちを話しただろうが!!!」
ライランド様がこんなにも怒りを露わにして怒鳴っているのは、初めてみるかもしれない。
「えぇ、もちろん、ライランド殿下専用でも良いんですよ。
ライランド殿下は指揮官ですから、専用を持つその権利がお有りです。
今夜あたり近くの村で調達しようと思っていたんですが、安全の為にも、見知らぬ獣人を近づけるより、見知った者の方が良い。
ほら、私らの爪やキバは丸腰でも人を殺せるでしょう?指揮官であるライランド殿下の寝首をかかれては堪りませんからね。」
そう言うと、ロムニーは自らの爪とキバを出してボクに見せた。
なるほど。これは確かに丸腰でも人を殺せる。
対するボクのすり鉢状の歯では、殺そうとした瞬間に起きて逆襲されるだろう。
うんうん、なるほど。ボクは安全という訳だ。
「じゃあ、ボク、ライランド様の専属娼夫になります!」
「えっ」
思わず声が漏れたのはライランド様である。尻尾がピンと立っていてかわいい。
「ボク、他の人は嫌だけど、ライランド様ならいいです。」
なぜか言い出しっぺのロムニーが、口元を押さえて笑っている。
「もともと、抱き枕になるつもりで来ましたし、ついでに性欲処理も任せて下さい!
見て下さい!ボクの歯を!これなら安全ですよ!」
ボクは大きく口を開けて、ボクの安全なお口をアピールした。
ロムニーはとうとう笑いが堪えなくなったようで、首を挟むのをやめて、遠くに走っていって大笑いしている様だった。
ライランド様はなんとも複雑そうな顔で、「よろしく頼む。」とだけ言った。
良かった!
ボク、ライランド様のお側に残ってもいいんだ。
メリノ、34歳。
羊花魁に復職しました。
75
あなたにおすすめの小説
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜
れると
BL
【第3部完結!】
第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります!
↓↓あらすじ(?)
僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ!
僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから!
家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。
1人でだって立派に冒険者やってみせる!
父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。
立派な冒険者になってみせます!
第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル
第2部エイルが冒険者になるまで①
第3部エイルが冒険者になるまで②
第4部エイル、旅をする!
第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?)
・
・
・
の予定です。
不定期更新になります、すみません。
家庭の都合上で土日祝日は更新できません。
※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*
亜沙美多郎
BL
銀狼アシェルは、一週間続いた高熱で突然変異を起こしオメガとなった。代々アルファしか産まれたことのない銀狼の家系で唯一の……。
それでも医者の家に長男として生まれ、父の病院を受け継ぐためにアルファと偽りアルファ専門の学校へ通っている。
そんなある日、定期的にやってくる発情期に備え、家から離れた別宅に移動していると突然ヒートが始まってしまう。
予定外のヒートにいつもよりも症状が酷い。足がガクガクと震え、蹲ったまま倒れてしまった。
そこに現れたのが雪豹のフォーリア。フォーリアは母とお茶屋さんを営んでいる。でもそれは表向きで、本当は様々なハーブを調合して質の良いオメガ専用抑制剤を作っているのだった。
発情したアシェルを見つけ、介抱したことから二人の秘密の時間が始まった。
アルファに戻りたいオメガのアシェル。オメガになりたかったアルファのフォーリア。真実を知るたびに惹かれ合う2人の運命は……。
*フォーリア8歳、アシェル18歳スタート。
*オメガバースの独自設定があります。
*性描写のあるストーリーには★マークを付けます。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
抹茶砂糖
BL
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
第13回BL大賞にエントリーしています。
応援いただけるとうれしいです!
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる