【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

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「はぁ~~キミは本当に人の気も知らないで……。」

ライランド様はだいぶ頭が痛そうである。

やはり、昨日ボクが抱き枕にならなかったからだ。昨夜はあまりよく眠れなかったに違いない。

「どうして自ら安全で快適なところを捨てて、好きでもない男をわざわざ追いかけてきた。」


どうして…どうして……。
それは……。

「ライランド様がボクがいないとよく眠れないからです。」

、俺が眠れないことがキミにどんな関係があると聞いているんだ。

ジャコブは一生キミを愛でて養ってくれるだろうし、ここにはキミが好きな本だって無い。
ジャコブのところにいた方がよっぽど良いだろう。」


「えっと…それは…それは……。
ライランド様はボクの恩人だからです。」

首をひねるのは、今度はライランド様の方だった。

「恩人?俺が?
あぁ、本を沢山読ませてやった事か。
あれはキミを殺そうとした詫びだ。だから、気にしなくていい。」

「正しく、そのボクを殺さなかったじゃ ありませんか。だから命の恩人です。」


ライランド様の尻尾は、ぶんぶんと勢いよく振れていて、本当にイラついているのがわかる。


「ハァ~~。キミは恩人という言葉の定義を間違えている。
いいか、最初に、キミを殺そうとしたのがだ。後で思い直してやめただけだ。それは別に恩人でもなんでもない。

第一、これは戦争だ。遊びではないんだぞ。
目の前で人が、キミの同胞が沢山死ぬんだ。それにキミは耐えられるのか?」

確かにライランド様が草食獣人達を殺すところはあまり見たくない気がする。

「それに、死ぬのはなにも敵だけではない。
キミだって死ぬ可能性があるんだ。

せっかく安全なところを用意したのに、なんだってわざわざ……。」


「だって、ライランド様は殺すべきだったのにボクを殺さなかったじゃないですか。
だから、この命はライランド様のものです!
ライランド様が死ぬ時は、ボクも一緒です!」

あれ?ボク、そんなこと思ってたっけな?でも、なんとなくライランド様が死んで、ボクだけが生き残るのは、絶対に嫌だと思った。

うん。そうだ。
よく考えればよく考えるほど嫌だ。

もし、ジャコブの屋敷で本を読んでいるボクのもとに、ライランド様の訃報が届いたとしたら……。
ライランド様との思い出が沢山詰まった本だ。ボクはもう一生、どんな本も読む気にはならないだろう。

そうなると、本を読まずにして長い余生をどう過ごそうかと考えてみる。が、さっぱり思いつかない。

この異国の地で、何の目的もなくただただ生かされるだけならば、ライランド様と共に往きたい。

うん。何気なく口にしてしまったが、この考えはだいぶ真実の様だと気が付いた。


「本当に勘弁してくれよ。
この子これで俺の事好きじゃないって言うんだぞ……。」

ライランド様の尻尾の揺れが、先程より緩やかになった。


「殿下、ちょいと失礼しても良いですかね。」

そこに首を挟んできたのはロムニーだった。口じゃない。文字通り、天幕から首だけを挟んでこちらに話しかけている。

「なんだ。」

「今回の出発は少々急だったので、ちょうど、従軍の娼夫を一人も連れてきておりませんで。
今夜あたり、早速若い兵士達が被害に遭う所でした。

いやぁ~メリノが来てくれて良かったなと。これで、若い奴らも喜びます。
私はメリノくんの滞在を歓迎しますよ。」


「娼夫…。」

そういえば、ボクの始めの職業は羊花魁だったっけか。それをすれば、ライランド様の側に置いて貰える?

いやでも、それは…それは…。なんだか凄く嫌だ。
ライランド様以外の人に触れられたくない。

あれ?ライランド様なら良いの?


「ロムニー!!何を言っている!!!
この前俺の気持ちを話しただろうが!!!」

ライランド様がこんなにも怒りを露わにして怒鳴っているのは、初めてみるかもしれない。

「えぇ、もちろん、ライランド殿下専用でも良いんですよ。
ライランド殿下は指揮官ですから、専用を持つその権利がお有りです。

今夜あたり近くの村で調達しようと思っていたんですが、安全の為にも、見知らぬ獣人を近づけるより、見知った者の方が良い。

ほら、私らの爪やキバは丸腰でも人を殺せるでしょう?指揮官であるライランド殿下の寝首をかかれては堪りませんからね。」

そう言うと、ロムニーは自らの爪とキバを出してボクに見せた。

なるほど。これは確かに丸腰でも人を殺せる。
対するボクのすり鉢状の歯では、殺そうとした瞬間に起きて逆襲されるだろう。
うんうん、なるほど。ボクは安全という訳だ。


「じゃあ、ボク、ライランド様の専属娼夫になります!」

「えっ」

思わず声が漏れたのはライランド様である。尻尾がピンと立っていてかわいい。

「ボク、他の人は嫌だけど、ライランド様ならいいです。」

なぜか言い出しっぺのロムニーが、口元を押さえて笑っている。

「もともと、抱き枕になるつもりで来ましたし、ついでに性欲処理も任せて下さい!

見て下さい!ボクの歯を!これなら安全ですよ!」

ボクは大きく口を開けて、ボクの安全なお口をアピールした。

ロムニーはとうとう笑いが堪えなくなったようで、首を挟むのをやめて、遠くに走っていって大笑いしている様だった。

ライランド様はなんとも複雑そうな顔で、「よろしく頼む。」とだけ言った。


良かった!
ボク、ライランド様のお側に残ってもいいんだ。


メリノ、34歳。
羊花魁に復職しました。



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