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第一章
ここはどこ?
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チフチャフ。チフチャフ──。
『ハッ』
陽向は、部屋の中ではありえない冷気に息を呑み、聞き覚えのない小鳥の囀りで飛び起きた。
『ここは……どこだ?
確か昨晩は、傷心のままにHeadbook上の同級生の活躍をぼーっと眺めながら寝落ちした……はず』
子供が生まれたヤツ、転職に成功したヤツ、昇格したヤツ、海外駐在に行っているヤツ、論文が権威ある雑誌に掲載されたヤツ。みんなそれぞれの世界でそれなりに活躍していた。
実名で呟かれるあらゆる幸福は、眩しすぎてめまいがしたくらいだ。
大学時代にバイトをクビになった友人が沢山のいいねを獲得したことを思い出し、ウケ狙いで会社をクビになったと投稿しようと思って開いた陽向だったが、もうとてもそんなことが言える雰囲気ではなかった。
そこにはもう大人への階段が延々と伸びており、いつしか僕たちは仲間からライバルへと変貌していた。
パワハラ上司に『もうお前の解雇通知の承認は下りてるからな! 金輪際その顔を見せるなよっ!』と電話一本でクビになった陽向だけが、振り出しに戻った気がする。
だが今、頬に触れるのは布団の温もりではなく、土の冷たさ。着慣れたスウェットが朝露にずっしりと濡れ、体温を容赦なく奪ってくる。
『いつまでも座り込んでいるわけにもいくまい。記憶は全くないが、酔ってどこかの公園に来てしまっているのなら、とっとと帰らないと』
夜のコンビニにならギリ行けるくらいのくたびれたスウェットを白日のもとに曝すことだけでも羞恥千万。酔って土の上で寝てしまったことが一目でわかるこの泥だらけの背中で、スーツを着たサラリーマンと鉢合わせでもしたら居たたまれない。
最初は、『こんな都会で野生のリスに出会った!』と無邪気に喜んでいた陽向だが、歩けども歩けども遊歩道の一つも見えず。倒木すらそのままになっている山林には、人の手が入っている様子がなかった。
『おかしい』
一向に現れない人工物。もしかしたら自分は酔って電車に乗って、奥多摩や富士の樹海に来てしまったのではないかと陽向は疑い始めた。もちろんそんな記憶はひとかけらもないが。
今の装備は、この背中が汚れたスウェットだけ。着の身着のままで、携帯電話も財布も何も持っていない。
昨晩は確かにHeadbookを見ながら『このまま誰もいないような遠くに行ってしまいたい』と願った。
でも、さしもの陽向も『山で遭難してあの世に行きたい』だなんて願ったわけではない。
さすがにそんな覚悟は無い。このハードモードな人生で、もし自分にそれほどの覚悟があれば、この命はとおに潰えていただろう。
これからのことはまた後で考えれば良いと。昨日は辛い心に蓋をして、できるだけ何も考えずに過ごしたはずだ。
失業保険でも貰いながらまたゆっくり就活して、拾ってくれる会社が現れるのをのんびり待つのだと、漠然と思っていた。
いくら今まで過酷な運命に流されながら生きてきた陽向でも、ここまで必死に守ってきた今の生活や命が潰えてしまうのはなんとしても避けたい。
となるとだ。まずはなにはともあれ、帰り道を探さねばなるまい。
『ハッ』
陽向は、部屋の中ではありえない冷気に息を呑み、聞き覚えのない小鳥の囀りで飛び起きた。
『ここは……どこだ?
確か昨晩は、傷心のままにHeadbook上の同級生の活躍をぼーっと眺めながら寝落ちした……はず』
子供が生まれたヤツ、転職に成功したヤツ、昇格したヤツ、海外駐在に行っているヤツ、論文が権威ある雑誌に掲載されたヤツ。みんなそれぞれの世界でそれなりに活躍していた。
実名で呟かれるあらゆる幸福は、眩しすぎてめまいがしたくらいだ。
大学時代にバイトをクビになった友人が沢山のいいねを獲得したことを思い出し、ウケ狙いで会社をクビになったと投稿しようと思って開いた陽向だったが、もうとてもそんなことが言える雰囲気ではなかった。
そこにはもう大人への階段が延々と伸びており、いつしか僕たちは仲間からライバルへと変貌していた。
パワハラ上司に『もうお前の解雇通知の承認は下りてるからな! 金輪際その顔を見せるなよっ!』と電話一本でクビになった陽向だけが、振り出しに戻った気がする。
だが今、頬に触れるのは布団の温もりではなく、土の冷たさ。着慣れたスウェットが朝露にずっしりと濡れ、体温を容赦なく奪ってくる。
『いつまでも座り込んでいるわけにもいくまい。記憶は全くないが、酔ってどこかの公園に来てしまっているのなら、とっとと帰らないと』
夜のコンビニにならギリ行けるくらいのくたびれたスウェットを白日のもとに曝すことだけでも羞恥千万。酔って土の上で寝てしまったことが一目でわかるこの泥だらけの背中で、スーツを着たサラリーマンと鉢合わせでもしたら居たたまれない。
最初は、『こんな都会で野生のリスに出会った!』と無邪気に喜んでいた陽向だが、歩けども歩けども遊歩道の一つも見えず。倒木すらそのままになっている山林には、人の手が入っている様子がなかった。
『おかしい』
一向に現れない人工物。もしかしたら自分は酔って電車に乗って、奥多摩や富士の樹海に来てしまったのではないかと陽向は疑い始めた。もちろんそんな記憶はひとかけらもないが。
今の装備は、この背中が汚れたスウェットだけ。着の身着のままで、携帯電話も財布も何も持っていない。
昨晩は確かにHeadbookを見ながら『このまま誰もいないような遠くに行ってしまいたい』と願った。
でも、さしもの陽向も『山で遭難してあの世に行きたい』だなんて願ったわけではない。
さすがにそんな覚悟は無い。このハードモードな人生で、もし自分にそれほどの覚悟があれば、この命はとおに潰えていただろう。
これからのことはまた後で考えれば良いと。昨日は辛い心に蓋をして、できるだけ何も考えずに過ごしたはずだ。
失業保険でも貰いながらまたゆっくり就活して、拾ってくれる会社が現れるのをのんびり待つのだと、漠然と思っていた。
いくら今まで過酷な運命に流されながら生きてきた陽向でも、ここまで必死に守ってきた今の生活や命が潰えてしまうのはなんとしても避けたい。
となるとだ。まずはなにはともあれ、帰り道を探さねばなるまい。
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