【完結】会社をクビになったら異世界で追放魔術師に性処理係として拾われました

夜曲

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第一章

あるはずのないもの

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 二日目。

 ここで方向を変えるのは更に悪手だろうと、陽向ひなたは引き続き東にむかって歩き続けた。

 一晩中夜風に当たり、朝の湿った冷たい空気を吸い込んだ身体は冷え切って、手足が細かく震えている気がする。力が入りづらい。
 昨日から何も口にしていない身体は限界で、何度立ち止まろうと思ったか知れない。でも、一度座り込んでしまったらもう二度と起き上がれない気がした。


 陽向が気力だけで足を動かしていると、かすかに水の流れる声が聞こえてきた。
 微かな音を頼りに木々をかき分けると、そこには細い湧き水が豊かな土壌から溢れ出ている場所があった。

 


「沢だ!」
 その先はいつ途絶えるともしれない細い沢になっている。

『この沢を辿っていけば、川があって人がいるに違いない』
 陽向は、水の流れる方向へと歩いた。

 先ほどまでもう一歩も歩けないと思っていたのに。
 逸る気持ちが抑えきれず、陽向はつい少し早歩きになってしまう。

 しかし陽向の期待をよそに、歩けども歩けども一向に川には着かない。それどころか、水辺を求めてさまよう動物の足跡が増えてきた。

『頼むから、熊は出てくれるなよ』

 歩き過ぎて、足がずっとガクガクと痙攣している。
 熊よけの鈴もスプレーもない状態では、出会ったが最期。決して逃げられないだろう。


 ふと、陽向は泥地に残った一つの足跡に目を奪われ、ついしゃがみこんでしまった。
 そこには、ここにあるはずのない足跡が。陽向は息を呑んだ。

 



 突然だが、陽向は恐竜マニアである。両親が離婚して父親に親権が渡ったは良いものの、僅か数か月で音を上げた父親に養護施設に預けられた陽向。その施設の数少ない蔵書の中に、恐竜図鑑があったからだ。

 陽向はその恐竜図鑑を眺めながら、現実逃避の一環として恐竜の世界に想いを馳せるのが好きだった。

 巨大な体躯。強そうな牙や爪。カッコいい姿形。
 その爪と牙を使って、どんな風に狩りをするのだろう。太古の森の中をどんな風に駆けぬけるのだろう。本当に羽毛に包まれていたのだろうか。それとも竜やドラゴンのような鱗があったのだろうか。

 少年だったころの陽向は、そういったことを想像するのが大好きだった。

 恐竜であるだけでも『全ての男児の心を掴んで離さないもの』なのだが、それに拍車をかけたのは恐竜を相棒にして大冒険をするアニメの存在だった。

 強い恐竜を常に侍らせ、時に戦い、時にまたがって世界を旅する少し年上のお兄ちゃんたちの物語は、り所がない少年に一筋の希望を見せた。

『自分も強い恐竜を飼いならしたい。恐竜と共に暮らしたい』

 いつしか陽向は恐竜に夢中になり、小学校に入ると、学校の図書室のありとあらゆる恐竜に関する本を貪り読んだ。

「陽向くんは恐竜博士だねぇ~」
 そんな何気ない大人の誉め言葉が、それに拍車をかけていく。

 施設の他の子と違って、取り立てて何かに秀でているわけでもなく、目立たない自分。そんなまだ何者でもない自分を構成するパーツの一つを、陽向はやっと見つけた気になった。
 そしてそれは大人になっても変わらず、恐竜は常に陽向と共にあった。

 上司からクビの電話を貰って茫然自失となった時も。Headbookを覗き込んでない想いをしていた時でさえも、陽向は恐竜のぬいぐるみを抱きしめていたほどだった。
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