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第一章
胸板と情
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「ここは、ま……魔法がある世界なんですか?」
陽向は、キラキラとした目を少しも隠さずに男の方を見た。
男は、生まれて初めて見る濡れた漆のように輝く黒い瞳に一瞬見惚れたが、すぐに真顔を取り繕った。
「何寝ぼけたことを言っている!
見たところ密猟のためにきたわけではないのだろう。だが、これ以上何も回答しない様ならば、衛兵に突き出すぞ!
なぜここにいるのかと聞いているんだ!」
たくましい腕が伸びてきて、陽向の腕を掴んで立ち上がらせる。
至近距離で見上げた男は、陽向と頭二つ分ほどの身長差があり、陽向の頭は彼の胸元にも届かなかった。
「す、すみません! ここが禁足地だとは知らずに入ってしまい、大変申し訳ございませんでした!
その……意図せず道に迷ってしまった様でして……。町がある方向を教えて頂けないでしょうか。」
『見上げた相手は若く見える。ここは交渉次第でなんとかなるかもしれない』
陽向は必死に言葉を繋ぐ。
「今すぐ立ち去ります! ですから、衛兵に突き出すのだけは、どうか……どうかご勘弁を!」
すると男の瞳が、まるで揺れる炎の様に、ほんの僅かに揺れた。
「うっ」
黒真珠の様に潤む陽向の瞳を至近距離で覗き込んでしまい、その余りのかわいさに心臓を撃ち抜かれたのだ。
自分のあらぬところが立ち上がっていくのを悟られない様に、男は少し陽向から距離を取った。
「その……。僕も何が起きているのか全く分からないのですが、目覚めたら森の中にいまして。歩けど歩けど人里も食料も見つからず、このまま野垂れ死にするところだったのです。
運よく雷が落ちてきて九死に一生を得ましたが、このままここで彷徨えば、いずれは肉食恐竜に食べられてしまうところでした」
陽向が訴えかけるように見上げると、男の喉仏が小さく上下した。
七年間に及ぶ社会人生活と今まで孤児として生きてきて培ってきた人の懐に潜り込む営業トーク術を駆使して、どうにか相手の懐に入れないかと陽向は試みる。
「やっと人に出会えて、とても嬉しいです! あなただけが頼り…いや、このままではのたれ死ぬところだったので、命の恩人と言っても過言ではありません!
よろしければ、お名前をお伺いしても良いでしょうか?
あ。いや。私は怪しいものではないのです。それが叶わなくても、どうかせめて、人里に戻る道を教えて頂けないでしょうか!」
陽向は、どちらも自分に有利な上に、一方は簡単に叶えられる二択を提示する作戦に出た。人は、この中から選べと言われて、その選択肢の一つが容易なものなら、新たな選択肢を出すことが困難になる。
『しかも、自分のことを命の恩人と慕う相手を衛兵に突き出せまい』
案の定、その言葉に男の大きな瞳が揺れる。そこに浮かんだのは驚愕と、なにか甘い色。
人に“恩人”などと言われたことがない者の反応だった。
幸いなことに相手は陽向よりもかなり身体が大きい。身体を鍛えている体育会系は、意外にもひょろがりに対する庇護欲があることが多い。
ヤツらは胸板だけでなく、情も厚いのだ。
陽向は、キラキラとした目を少しも隠さずに男の方を見た。
男は、生まれて初めて見る濡れた漆のように輝く黒い瞳に一瞬見惚れたが、すぐに真顔を取り繕った。
「何寝ぼけたことを言っている!
見たところ密猟のためにきたわけではないのだろう。だが、これ以上何も回答しない様ならば、衛兵に突き出すぞ!
なぜここにいるのかと聞いているんだ!」
たくましい腕が伸びてきて、陽向の腕を掴んで立ち上がらせる。
至近距離で見上げた男は、陽向と頭二つ分ほどの身長差があり、陽向の頭は彼の胸元にも届かなかった。
「す、すみません! ここが禁足地だとは知らずに入ってしまい、大変申し訳ございませんでした!
その……意図せず道に迷ってしまった様でして……。町がある方向を教えて頂けないでしょうか。」
『見上げた相手は若く見える。ここは交渉次第でなんとかなるかもしれない』
陽向は必死に言葉を繋ぐ。
「今すぐ立ち去ります! ですから、衛兵に突き出すのだけは、どうか……どうかご勘弁を!」
すると男の瞳が、まるで揺れる炎の様に、ほんの僅かに揺れた。
「うっ」
黒真珠の様に潤む陽向の瞳を至近距離で覗き込んでしまい、その余りのかわいさに心臓を撃ち抜かれたのだ。
自分のあらぬところが立ち上がっていくのを悟られない様に、男は少し陽向から距離を取った。
「その……。僕も何が起きているのか全く分からないのですが、目覚めたら森の中にいまして。歩けど歩けど人里も食料も見つからず、このまま野垂れ死にするところだったのです。
運よく雷が落ちてきて九死に一生を得ましたが、このままここで彷徨えば、いずれは肉食恐竜に食べられてしまうところでした」
陽向が訴えかけるように見上げると、男の喉仏が小さく上下した。
七年間に及ぶ社会人生活と今まで孤児として生きてきて培ってきた人の懐に潜り込む営業トーク術を駆使して、どうにか相手の懐に入れないかと陽向は試みる。
「やっと人に出会えて、とても嬉しいです! あなただけが頼り…いや、このままではのたれ死ぬところだったので、命の恩人と言っても過言ではありません!
よろしければ、お名前をお伺いしても良いでしょうか?
あ。いや。私は怪しいものではないのです。それが叶わなくても、どうかせめて、人里に戻る道を教えて頂けないでしょうか!」
陽向は、どちらも自分に有利な上に、一方は簡単に叶えられる二択を提示する作戦に出た。人は、この中から選べと言われて、その選択肢の一つが容易なものなら、新たな選択肢を出すことが困難になる。
『しかも、自分のことを命の恩人と慕う相手を衛兵に突き出せまい』
案の定、その言葉に男の大きな瞳が揺れる。そこに浮かんだのは驚愕と、なにか甘い色。
人に“恩人”などと言われたことがない者の反応だった。
幸いなことに相手は陽向よりもかなり身体が大きい。身体を鍛えている体育会系は、意外にもひょろがりに対する庇護欲があることが多い。
ヤツらは胸板だけでなく、情も厚いのだ。
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