55 / 71
第二章ーー招かれざる客
右肩
しおりを挟む
二人は、そのまま馬を走らせてまっすぐに恐竜保護区の山小屋に戻ってきた。来た時はひどく長く感じた距離でも、ネオの体温に酔いしれていればあっという間だった。
またこの小屋にネオのマントにくるまれて入ることになるとは。初日が思い起こされて少し感慨深い。
「遅れて、本当にすまない……」
小屋に入るなり、ネオは陽向の足元に跪いて、許しを乞うた。
『この落ち込み様、もしかして僕が王太子に何かされちゃった後だと思ってる?
えぇっ一応は未遂なんだけど! 』
「大丈夫だよ! 僕は何もされてないから!」
「だが、だが!
ヒナタの身体が他の男に見られた……」
まるで陽向は俺のものなのに……と言いたげな顔が可愛い。オレンジの髪と瞳。この世界では、陽向だけのものになった色彩を見ていると、男たちに身体を弄られてささくれ立っていた心がだんだんと癒されていくのがわかる。
まだ手は震えている。でも、ネオが来てくれたから、もう怖くない。
陽向の服は全て屋敷の方に運び込んでしまったから、この山小屋の方にはない。陽向が異世界に来た時と同じネオの服に袖を通して、陽向はようやく人心地ついた。
「よくあの場所が解ったね」
「ブルエが、王太子が連れ帰ったのはもっと深い黒髪だったと教えてくれた。牢にいた男も髪を染められてはいたが、きっと上手く染まらなかったのだろう。せいぜいが深い茶色で、ヒナタの黒とは似ても似つかない。
しかも、あの屋敷は王太子の母側の親族の持ち物で、王太子の母親の親族がこちらに視察に来るときによく使っていた拠点だ。居所を掴むのは容易かった」
王太子の母親。どうやら、ネオとは腹違いの弟らしい。
「そんなわかりやすいところに僕を連れて行ったんだ……」
「あぁ。昔から少し頭が足りない弟なんだ」
『彼の頭が足りなくて良かった』と陽向は心底思った。
「ヒナタ、あいつらにどこを触られたか教えてくれないか?」
『えぇ! 自分で申告するの!? そっちの方が恥ずかしいじゃないか』
「僕は大丈夫だよ」
「いや、無理はしなくても良いぞ」
「本当に大丈夫なんだって! ただ……ただ……怖かっただけ」
『僕も鞭で打たれるのではと怖かった。何をされるのか、今後どうなるのか解らなくて怖かった。ネオが躊躇なく無実の人に暴力をふるったのが怖かった。僕を助けに来るために誰かが犠牲になるかもしれなくて怖かった……』
「そうだ! あの地下牢で尋問されてた子!
あの子は無実なんだ。あの子はどうなったんだ?」
「あの後すぐブルエが助け出していたから、安心してくれ」
ブルエのあの様子なら、もう王太子の元に戻されることはないだろう。これ以上酷い目に遭ってほしくない。
「そう……なら良かった」
「ヒナタが地下牢にいたと知って、気が付かなかった自分の不甲斐なさといったら……」
ネオはずっと陽向を強く抱きしめている。右肩が、じんわりと温かくなってきている気がする。
「僕も、上手く知らせられなくてごめんね」
「いや、ヒナタは何も悪くない。
本当に、ヒナタは何も悪くない」
ネオの声は震えていた。その心の籠った慰めに、張り詰めていた気がやっとほどけた気がした。
『攫われた僕より先に、ネオが泣くなんて。でも、ネオが僕のことを大切に思ってくれていることが知れて、嬉しい』
陽向も恐怖が後から襲ってきたのか、安堵からなのか、それともネオが自分を大切に思ってくれている嬉しさからなのか。声を出してうぉんうぉん泣いてしまった。
自分は男だし、もう十代の若者でもないからと、受けた被害を矮小化して心に蓋をし、気丈に振る舞っていたのだが。兵士や王太子に触れられた嫌悪感が一気に押し寄せる。
鼻水と涙でべとべとの顔で、どちらともなくキスが始まり……。
ーーネオによる上書きが行われた。
またこの小屋にネオのマントにくるまれて入ることになるとは。初日が思い起こされて少し感慨深い。
「遅れて、本当にすまない……」
小屋に入るなり、ネオは陽向の足元に跪いて、許しを乞うた。
『この落ち込み様、もしかして僕が王太子に何かされちゃった後だと思ってる?
えぇっ一応は未遂なんだけど! 』
「大丈夫だよ! 僕は何もされてないから!」
「だが、だが!
ヒナタの身体が他の男に見られた……」
まるで陽向は俺のものなのに……と言いたげな顔が可愛い。オレンジの髪と瞳。この世界では、陽向だけのものになった色彩を見ていると、男たちに身体を弄られてささくれ立っていた心がだんだんと癒されていくのがわかる。
まだ手は震えている。でも、ネオが来てくれたから、もう怖くない。
陽向の服は全て屋敷の方に運び込んでしまったから、この山小屋の方にはない。陽向が異世界に来た時と同じネオの服に袖を通して、陽向はようやく人心地ついた。
「よくあの場所が解ったね」
「ブルエが、王太子が連れ帰ったのはもっと深い黒髪だったと教えてくれた。牢にいた男も髪を染められてはいたが、きっと上手く染まらなかったのだろう。せいぜいが深い茶色で、ヒナタの黒とは似ても似つかない。
しかも、あの屋敷は王太子の母側の親族の持ち物で、王太子の母親の親族がこちらに視察に来るときによく使っていた拠点だ。居所を掴むのは容易かった」
王太子の母親。どうやら、ネオとは腹違いの弟らしい。
「そんなわかりやすいところに僕を連れて行ったんだ……」
「あぁ。昔から少し頭が足りない弟なんだ」
『彼の頭が足りなくて良かった』と陽向は心底思った。
「ヒナタ、あいつらにどこを触られたか教えてくれないか?」
『えぇ! 自分で申告するの!? そっちの方が恥ずかしいじゃないか』
「僕は大丈夫だよ」
「いや、無理はしなくても良いぞ」
「本当に大丈夫なんだって! ただ……ただ……怖かっただけ」
『僕も鞭で打たれるのではと怖かった。何をされるのか、今後どうなるのか解らなくて怖かった。ネオが躊躇なく無実の人に暴力をふるったのが怖かった。僕を助けに来るために誰かが犠牲になるかもしれなくて怖かった……』
「そうだ! あの地下牢で尋問されてた子!
あの子は無実なんだ。あの子はどうなったんだ?」
「あの後すぐブルエが助け出していたから、安心してくれ」
ブルエのあの様子なら、もう王太子の元に戻されることはないだろう。これ以上酷い目に遭ってほしくない。
「そう……なら良かった」
「ヒナタが地下牢にいたと知って、気が付かなかった自分の不甲斐なさといったら……」
ネオはずっと陽向を強く抱きしめている。右肩が、じんわりと温かくなってきている気がする。
「僕も、上手く知らせられなくてごめんね」
「いや、ヒナタは何も悪くない。
本当に、ヒナタは何も悪くない」
ネオの声は震えていた。その心の籠った慰めに、張り詰めていた気がやっとほどけた気がした。
『攫われた僕より先に、ネオが泣くなんて。でも、ネオが僕のことを大切に思ってくれていることが知れて、嬉しい』
陽向も恐怖が後から襲ってきたのか、安堵からなのか、それともネオが自分を大切に思ってくれている嬉しさからなのか。声を出してうぉんうぉん泣いてしまった。
自分は男だし、もう十代の若者でもないからと、受けた被害を矮小化して心に蓋をし、気丈に振る舞っていたのだが。兵士や王太子に触れられた嫌悪感が一気に押し寄せる。
鼻水と涙でべとべとの顔で、どちらともなくキスが始まり……。
ーーネオによる上書きが行われた。
55
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?
めがねあざらし
BL
役立たずと追放されたΩのリオン。
治癒師の家に生まれながら癒しの力もないと見放された彼を拾ったのは、獣人国ザイファルの将軍であり、冷徹と名高い王太子・ガルハルトだった。
だが、彼の傷を“舐めた”瞬間、リオンの秘められた異能が覚醒する。
その力は、獣人たちにとって“聖なる奇跡”。
囲い込まれ、離されず、戸惑いながらも、ガルハルトの腕の中で心は揺れて──偽りの関係が、いつしか嘘では済まなくなっていく。
異能×政治×恋愛。
運命が交錯する王宮オメガバースファンタジー。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
救世の神子として異世界に召喚されたと思ったら呪い解除の回復アイテムだった上にイケメン竜騎士のツガイにされてしまいました。
篠崎笙
BL
剣崎勝利の家は古武道で名を馳せていた。ある日突然異世界に召喚される。勇者としてではなく、竜騎士たちの呪いを解く道具として。竜騎士ゲオルギオスは、勝利をツガイにして、その体液で呪いを解いた。勝利と竜騎士たちは悪神討伐の旅へ向かったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
