【完結】この憎悪を消し去りたい

夜曲

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1. 慟哭

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 この憎悪を消し去りたい

 この胸に渦巻く怨嗟の焔。決して消えない傷跡
 それさえも、アイツにとっては愛の証になる様で
 出来る事ならこの憎悪を消し去り、アイツの全てを忘れ去りたい

 きっとそれが、俺がアイツに出来る最大の復讐だと思うから



 俺は柏木 カイ。代々続く中堅食品商社、柏木商事の代表取締役社長だった男だ。

 代々と言いつつも、俺の代で4代目。江戸時代から続く老舗に毛が生えた位。大したことは無い。
 もっと古くから続く名家は幾らでもある。辛うじて旧華族といってもそこまで伝統にはうるさくない家系だ。

 だから俺の愛するツガイの凛空りくは、名家の出身でもなんでもない。悪く言えば、貧困オメガ父子家庭の出身で。

 身体を売って生計を立てていた生み親の代わりにお金を稼ぎたい一心で芸能界に入った、男オメガ。
 最初は結婚に反対されたが、それでもなんとかギリギリ結婚を許された。

 元祖ショタ俳優とも言われる彼は、今でも未成年の様な容姿をしている。
 カメラが回っているところでは、その外相に符合する可愛らしい動作をしているが、オフでは案外男前なオメガだ。
 全くきゃぴきゃぴしていないどころか、口を開けば言葉遣いも荒めのクールなキャラだ。その外面と内面のギャップが眩しい。

 彼のその裏表あるしたたかそうなところだけを見て、人は勝手に彼が枕営業でもなんでもして這い上がって来た強欲オメガだと誤解してしまっている。
 しかし、彼は極度のツンデレなだけで、その本当の中身は一周回って可愛らしく、その実は男慣れしていないおぼこなオメガだ。それは俺だけしか知らない事だが。


 そして、そんな最愛のツガイとの間には子供がたった一人だけ。
 小柄な彼が出産に耐えられないのではと、一人目で心臓を切り刻まれる想いをしたので、二人目は作らないと決めた。

 その子は男オメガだが、アルファの悪意に触れない様にと常に世話係や運転手に守らせて、手塩にかけて育ててきた。きっと異性と手を繋いだ事も無い。キスだって無いだろう。まっさらな箱入りオメガ令息だ。
 俺がそう指示して守らせた。そんな清らかなままに大学生まで育てたのに。

 それなのに…。まさか、あんなことになるなんて…。


 アイツが俺から大事な物を全てを奪い尽くして蹂躙したんだ。
 そんなアイツが憎い。憎い。憎い!

 あぁ、この腹の中に燻る真っ赤な憎悪を消し去りたい。
 このままではアイツの思うがツボだ。

 どうしたら、この憎悪を消せるのだろうか。
 誰か…誰か…誰でも良い。どうか、教えてくれ……。
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