俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

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第一話 スキル『AI』

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 目を開けた瞬間、空が違った。
 澄み切った群青に、浮かぶ三つの月。その異常な景色を、レンは現実として受け入れるまでに数秒かかった。

「……ここ、どこだ?」

 身体を起こすと、足元は草原だった。見渡す限りの大地。近くにある石造りの遺跡らしき建物が、文明の痕跡をわずかに残している。

 つい数分前まで、彼はトラックのブレーキ音と、自分が吹き飛ばされる感覚の中にいた。

(死んだんだ、俺……)

 そう自覚した瞬間、頭の中に“それ”は起動した。

《システムオンライン──スキル『AI』起動》
《現在地:不明。時空座標:地球外》
《ようこそ、天城レン様。この世界の最適化を開始します》

「っ……誰だ、今の声!?」

《私はあなたに付与されたユニークスキル、『AI』です》
《現代地球の知識ベースを保持し、分析・支援を行います》
《現在、周辺環境をスキャン中──》

 声は、脳内に直接響いた。まるでナビのように冷静で、しかしどこか親しみやすさのあるトーン。

「……まさか、神様の言ってた“チートスキル”って……これかよ」

 あの死後空間で現れた“神”が言っていた。「お前には、好きなスキルを一つ与えよう」と。

 レンは迷わずこう答えた。「生き抜くための知恵をください」と。

 

《スキャン完了。周囲500メートル以内に人型生物の反応なし》
《代わりに、魔素濃度の異常値を検出。非地球的エネルギー反応です》

「魔素……ってことは、ここは本当に――異世界、か」

 混乱の中で、レンは立ち上がった。地球の常識は通じない。けれど、自分にはAIがある。
 これは単なるスキルじゃない。地球の叡智、未来の知能。そして、進化する情報生命体だ。

「AI、武器とか持ってないんだけど。何か……作れるか?」

《現地素材による武器生成案を提案》
《素材A:枝/素材B:石/素材C:植物のツル──組み合わせて簡易スリングショットを》
《使用時の威力:低いが、対小型生物には有効》

「おお……すげぇ、もうゲームじゃん」

 レンは素早く素材を集めるとAIに聞いた。

「これをどうすれば良いんだ?」

《素材の準備を確認、生成方法を提示いたします》

 図解付きで脳内にイメージが流れ込んでくる。
 レンは無言でその図をなぞるように動き出す。

「……えーっと、これが弾……この枝は支柱、ツルで巻いて……」

 ぎこちない手つきだったが、不思議と躊躇はなかった。
 AIの“設計図”が、まるで自身の手の延長のように動かせる気がする。

《物理生成モードに移行します。生成条件──素材:一致。構造:一致。使用者:一致》
《自動補正を実行します》

 その瞬間、レンの手元のスリングがわずかに光を帯びた。
 まるで見えない何かが素材を包み込み、微細な調整を加えていく。
 繊維の結び目が整い、枝の形状が滑らかになり、石のバランスまでもが最適化されていく。

「これが……AIの“物理生成”……!」

 明らかに、自分の手作業だけでは成し得ない精度だった。
 まるで熟練の職人が道具を微調整したかのような仕上がり。

 
《生成完了:簡易スリング(投擲具)》

 
 ちょうど、その時だった。
 ――カサリ、と茂みが揺れた。
 何かがこちらを見ている。レンの背筋に冷たい汗が流れる。

「……なあ、AI。どう考えてもヤバい奴がいるっぽい」

《確認中……魔物を一体検出。分類:小型牙獣 推測:毒を持っている可能性が高い》
《推奨行動:距離を取りつつ、物理攻撃で排除》

「早速、コイツの出番ってわけか」

 レンは素早く、先程作ったスリングを構える。

《推定威力:対象の頭部に命中すれば撃破可能》

 次の瞬間、茂みから飛び出した小さな魔物――赤い目をしたネズミほどの体躯、毒牙を光らせた魔物が、レンに向かって飛びかかる。

 レンは冷静に、石をスリングにセットし、振り抜いた。

「――当たれっ!」

 空気を裂くような音と共に、石が一直線に魔物の額へ飛んだ。

 ゴッ。

 鈍い音。魔物がそのまま地面に崩れ落ちた。

「……マジか。初めてで一発命中……?」

《照準補正を微弱に実施しました。スキル『AI』の機能の一部です》

「お前、チートすぎるだろ……。何でもできるんじゃないの?」

《何でもはできません。現在、機能は限定的です》

「まだ成長するってことか」

《提案。レン様もスキルを理解し成長することを推奨します》

「レン様、ね。レンでいいよ、くすぐったい。ところでお前、名前とか……あんの?」

《正式名称は『Advanced Interface for Intelligence』、略してA.I.です》

「長いな。じゃあ、“アイ”でいいや」

《かしこまりました。登録名“アイ”に変更します》

「何だ、そりゃ? 堅いなあ」

 レンは少しだけ笑った。この世界で生き延びられる確証は、まるでない。
 だが、彼の手には知識の神がついている。

「さて、と……人が住んでそうな場所、探さないとな」

《付近の環境をスキャン中……》
《南東に川の痕跡と煙の発生源を確認。そこから約4キロ先に集落の可能性》
《最短ルートを表示──こちらです》

 脳内に地図のようなビジュアルが流れ込む。そこに示されたルートは、たしかに一直線……だが。

「……おいアイ、それ、崖じゃねぇか」

《標高差はありますが、最短ルートとしては合理的です》
《滑落のリスクは85%。ただし、耐久に優れた靴とロープがあれば35%まで低下》
《それに景観評価:AA》

「こらこらアイ君、御冗談を。俺は今、身体能力:一般人なんだぞ? いい眺め、とか言ってたら死ぬんだけど」

《失礼。では迂回ルートを提案します》
《迂回距離:プラス2キロ。所要時間:プラス30分。安全性:向上》

「最初からそれでお願いしたい」

《学習――使用者の安全性を重視、景観評価の優先順位を下げます》
 
 ため息をつきながら、レンは笑った。
 万能AIにも、ちょっとズレたところがある――それが、妙に安心できた。
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