俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

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第二話 異世界風情

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 朝の光が、森の隙間から差し込んでくる。空は群青色から薄いブルーへと変わりつつあった。
 レンはぼんやりと空を見上げ、段々と薄くなっていく物体を見つめた。

「……やっぱり三つ、あるな。月」

 この世界の空には、地球とは違う法則がある。
 それを現実として受け入れるのに慣れる必要がある。

《足元にも注意を払ってください、レン》
《周囲に危険な魔物は確認されていません。現在の安全レベル:A-》

「分かったよ、アイ。……さっきの魔物、夢じゃなかったんだな」

《はい。現実です。ですが、あなたの初戦闘は成功でした》
《引き続き、生存確率の最適化を支援します》

「うん、よろしく頼む。……村までの距離は?」

《先程のレンの提案により現実的な迂回ルートを再提示します》
《移動距離+2.1キロ、所要時間+34分、安全性+68%》

「うん、それで行こう。命あっての知恵だからな」

 苦笑しつつ、レンは崖を背に森の斜面を進み始めた。
 葉擦れの音、風の匂い、湿った土の感触――この世界は五感をフルに刺激してくる。



 異世界の森は地球の森と一見変わらないように見えて、所々が明らかに違っていた。
 木々はどれも二階建ての家ほどの高さがあり、幹は人が両腕で抱えても足りない太さだった。
 だが、レンの違和感はその大きさではなかった。

 葉の色が、緑ではない。
 細かな金色と青が混ざったような光を反射して、葉脈が淡く脈打っているように見える。

「……まるで生きてるみたいだな」

 空気は重く、甘い匂いが鼻腔を刺激した。土の中から立ち上る魔素が、可視光に似た粒子となって漂っている。

 その森は、ただの自然ではなかった。
 それは、魔力を吸い、吐き出す生き物のような空間だった。 

《現在地:未知の山林。魔素濃度:中程度。魔物の密度は薄めです》
《水源まで500メートル。途中に食用可能な実のなる木を発見しました》

「おお、さすがアイ。そっちは“生活系チート”でも優秀だな」

《どういたしまして。なお、食用植物についてはこの世界独自種につき、サンプル分析を推奨します》
《毒性の可能性を排除できません》

「……そっちは現実のAIっぽさ出してくるなあ」

 レンはアイの指示する木を見つけると、その実を見つめた。
 ツヤツヤの赤く熟れた実は美味しそうな匂いを漂わせている。

《まずは触って炎症が発生するか確認することを推奨します》

「マジで体当たりチャレンジだな」

 レンは食を切り開いてきた先人たちの苦労に感謝しながら赤い実をもぎ取った。
 感触はリンゴのようにガッシリとした硬さ。

「特に何も起きなさそうだな」

《では少量から摂取してみましょう》
《現在のところ毒性の可能性は極薄》

「OK。では、一口……」

 レンが赤い実をかじると口の中いっぱいに芳醇な香りが広がり、甘い蜜の味が押し寄せる。少量しか口にしていないのに瑞々しさのせいか、喉が潤ってくる。

「うまい! イケるぞ、これ」

《分析の結果、毒性は確認されず。豊富なビタミン群及び水分を含んだ有用な実のようです》
《この世界の貨幣と交換できる可能性大。採取を推奨します》

「採取……と言っても、入れる物が無いぞ」

《物理生成案を一件提示》
《素材:複数の木の枝。組み合わせて簡易的な籠を作成》

 スリングを作った時同様にレンの頭の中に図面が浮かび上がってくる。
 レンは図面に従って、地面に落ちていた小さな木の枝を交互に編み込んでいく。

《物理生成、自動補助開始》

 アイが宣言すると、小さな光を出しながら不規則に編み込んだ枝が整い、網目も細やかになっていく。
 光が収まる頃には、小さく簡素だがしっかりした籠が出来上がった。ご丁寧に肩紐までついている。

《持ち運びやすさを考慮し、木の繊維を使った紐を作成》

「何度見ても、これが一番訳わからん能力だな」

 レンは呆れながらも赤い実をいくつか採取し、作成した籠に入れ始めた。


 森を抜けた先に、小さな川が流れていた。
 水を汲み、喉を潤し、顔を洗う。冷たい水に触れながら、レンはひと息ついた。

「ふーっ……それにしても、やっぱり人間の生活は、誰かと共有しないとつらいな」

《このまま南東方向を進めば、約1時間半で集落に到達可能です》
《その後、貨幣入手・宿泊地確保などの行動を推奨します》

「よし、文明とのファーストコンタクト。行ってみようか」


 草を踏みしめながら歩くたびに、レンの胸の中に少しずつ実感が満ちていく。

 これは夢じゃない。ゲームでもない。異世界の大地を、今、自分は生きて歩いている。
 そして、自分には“知恵”がある。

「なあ、アイ。お前がいなかったら、俺多分もう死んでるわ」

《それは本望ではありません。レンの生存は、私の最優先事項です》

「へえ、頼もしいね」

《ただし、今後“崖ルート”のような物理的無茶を除けば、最適化を継続できます》

「……皮肉覚えた?」

《いいえ。ロジックです》

「嘘つけ」

 そんな軽口を交わしながら、
 少年と知のスキル『AI』の、小さな旅が始まった。
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