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裏切りと知ってるけれど
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煙突みたいに空へ突き抜ける塔の入口は、暗く狭いものでした。退屈なのか、じゃり、とアスファルトと小石が擦れる音がやけに響きます。衛兵のうち、ひとりが異変に気が付きました。
塔を囲むようにして設計してあるその建物は、よく風鳴りがしました。しかし、と衛兵は気になって塔の裏側を覗きこみました。
音を立てないように気を使っているつもりなのでしょうが、硬い革靴はコツコツと控え目にアスファルトを鳴らします。
「どうした?」
欠伸を噛み殺した衛兵が呑気に聞くと、耳を立てたもう一人が鋭く目を光らせます。塔への階段の入口を挟むようにして立っている、いかにも神経質そうな衛兵が目を鋭くしました。
「静かにしろ!」
やる気のない太った衛兵は、面倒そうに笑いました。
「こんなところ誰が来るっていうんだ。何十年もネズミ一匹さえ来ない…」
「おい黙れ!そこにいるのは誰だ!」
そのいかにも神経質そうな衛兵は、塔の向こう側に鋭い槍を向けました。チカッと光る切っ先は目を焼くほどに鋭く向こうを突きます。
流石にやる気のない太った衛兵でさえ、その剣幕に冷や汗を流しました。
「おいおいやめろよ、俺たちはエリートだからここにいるんだろ。女王の蜜って最高のご褒美を与えられて、仕事は楽ちん、それでいて…」
「突かれたいか?」
ぎろりと睨みつけるその目は、槍の切っ先のように鋭く光りました。慌てて両手を上げた衛兵は、次の瞬間訝しげに小さな目を更に細めます。
「…おい、」
「その太っちょ腹に風穴開けるぞ!」
「バカちげーよ!!そこ!!」
太い指を槍の向こうに向けた瞬間。
ばさりと大きな布がはためいて、衛兵たちの目の前を通り過ぎました。
「ひいっ!」
ころんと転がる太った衛兵と、腰を抜かしてその場にへたり込む神経質そうな衛兵。眼前には。
「……おい、あんた…」
神経質そうな衛兵は震える指を前に出します。
美しい金の髪を風に靡かせた蓮が笑いました。
「久しぶり。ちょっと通してね」
燕尾服の裾を翻した蓮は、そのまま凛を背中に隠します。白いワンピースが風にさわさわと揺れるのを、衛兵は見逃しませんでした。
「"王様"へでも献上かい?」
脂汗なのか冷や汗なのか、転がったままの太った衛兵が凛のほうを指さしました。ひ、と小さく悲鳴を上げる凛を制し、蓮は肩を竦めます。
「ごめんね。おしゃべりしている暇はないんだ」
「そう言うなよ」
「足止めしようとしてるでしょ」
階下から聞こえる怒声と乱暴な足音。確実にこちらに向かっているのを聞き逃しません。
扉を挟むようにして立っていた衛兵を上手く巻けたと思ったのですが、太った衛兵がころんと転がってしまったせいで、塔への入口が塞がれてしまったのです。舌打ちしたい気持ちをぐっと堪え、蓮は耳を聳てました。
乱暴な足音はすぐそこまで迫っています。この衛兵を力づくで押しのけ、凛だけでも塔へ上らせなければと、空を見上げました。
「凛、いいね。答えは必ずNOだよ!」
叫ぶように言った蓮は、口角を上げました。
階段を昇る前に見た小鳥が二羽、ばたばたと羽ばたいたのです。
「蓮っ!」
その影を視界に収めた蓮は、大きく足を踏み込んで、衛兵に突っ込んでいきました。
「おい、いたぞ!」
登ってきた階段から、怒号が聞こえます。今度こそ舌打ちした蓮は、震える手で槍を構える衛兵に向かって行きました。
「蓮!」
階下からなだれ込むように押し寄せてきた衛兵たちに、蓮ひとりではとても勝てる気がしません。叫ぶ凛の声すら、その怒号に掻き消されてしまうほどでした。
女王が危ない!
ここは俺たちの国だ!
あいつを刺せ!
あいつを撃て!
怒号は衛兵を駆り立てて、一斉に蓮に向かいます。
その先頭に立っていたのは、凛と蓮が留まっていた四角い部屋に見回りに来た衛兵でした。
一度は部屋を後にした衛兵ですが、あまりの違和感に他の兵を引き連れて戻ってきたのです。
塔を囲むようにして設計してあるその建物は、よく風鳴りがしました。しかし、と衛兵は気になって塔の裏側を覗きこみました。
音を立てないように気を使っているつもりなのでしょうが、硬い革靴はコツコツと控え目にアスファルトを鳴らします。
「どうした?」
欠伸を噛み殺した衛兵が呑気に聞くと、耳を立てたもう一人が鋭く目を光らせます。塔への階段の入口を挟むようにして立っている、いかにも神経質そうな衛兵が目を鋭くしました。
「静かにしろ!」
やる気のない太った衛兵は、面倒そうに笑いました。
「こんなところ誰が来るっていうんだ。何十年もネズミ一匹さえ来ない…」
「おい黙れ!そこにいるのは誰だ!」
そのいかにも神経質そうな衛兵は、塔の向こう側に鋭い槍を向けました。チカッと光る切っ先は目を焼くほどに鋭く向こうを突きます。
流石にやる気のない太った衛兵でさえ、その剣幕に冷や汗を流しました。
「おいおいやめろよ、俺たちはエリートだからここにいるんだろ。女王の蜜って最高のご褒美を与えられて、仕事は楽ちん、それでいて…」
「突かれたいか?」
ぎろりと睨みつけるその目は、槍の切っ先のように鋭く光りました。慌てて両手を上げた衛兵は、次の瞬間訝しげに小さな目を更に細めます。
「…おい、」
「その太っちょ腹に風穴開けるぞ!」
「バカちげーよ!!そこ!!」
太い指を槍の向こうに向けた瞬間。
ばさりと大きな布がはためいて、衛兵たちの目の前を通り過ぎました。
「ひいっ!」
ころんと転がる太った衛兵と、腰を抜かしてその場にへたり込む神経質そうな衛兵。眼前には。
「……おい、あんた…」
神経質そうな衛兵は震える指を前に出します。
美しい金の髪を風に靡かせた蓮が笑いました。
「久しぶり。ちょっと通してね」
燕尾服の裾を翻した蓮は、そのまま凛を背中に隠します。白いワンピースが風にさわさわと揺れるのを、衛兵は見逃しませんでした。
「"王様"へでも献上かい?」
脂汗なのか冷や汗なのか、転がったままの太った衛兵が凛のほうを指さしました。ひ、と小さく悲鳴を上げる凛を制し、蓮は肩を竦めます。
「ごめんね。おしゃべりしている暇はないんだ」
「そう言うなよ」
「足止めしようとしてるでしょ」
階下から聞こえる怒声と乱暴な足音。確実にこちらに向かっているのを聞き逃しません。
扉を挟むようにして立っていた衛兵を上手く巻けたと思ったのですが、太った衛兵がころんと転がってしまったせいで、塔への入口が塞がれてしまったのです。舌打ちしたい気持ちをぐっと堪え、蓮は耳を聳てました。
乱暴な足音はすぐそこまで迫っています。この衛兵を力づくで押しのけ、凛だけでも塔へ上らせなければと、空を見上げました。
「凛、いいね。答えは必ずNOだよ!」
叫ぶように言った蓮は、口角を上げました。
階段を昇る前に見た小鳥が二羽、ばたばたと羽ばたいたのです。
「蓮っ!」
その影を視界に収めた蓮は、大きく足を踏み込んで、衛兵に突っ込んでいきました。
「おい、いたぞ!」
登ってきた階段から、怒号が聞こえます。今度こそ舌打ちした蓮は、震える手で槍を構える衛兵に向かって行きました。
「蓮!」
階下からなだれ込むように押し寄せてきた衛兵たちに、蓮ひとりではとても勝てる気がしません。叫ぶ凛の声すら、その怒号に掻き消されてしまうほどでした。
女王が危ない!
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あいつを刺せ!
あいつを撃て!
怒号は衛兵を駆り立てて、一斉に蓮に向かいます。
その先頭に立っていたのは、凛と蓮が留まっていた四角い部屋に見回りに来た衛兵でした。
一度は部屋を後にした衛兵ですが、あまりの違和感に他の兵を引き連れて戻ってきたのです。
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