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しおりを挟む「実は、あたし、前世の記憶があるみたいなの」
オレは最初、夏実の言っている意味がよく分からなかった。
「前世?」
「要するに、生まれ変わる前の記憶って意味」
話が突拍子もなさ過ぎて、どう反応していいかも分からなかった。
「ごめん、こんな話、普通引くよね。やっぱりやめようか」
「夏実が言うのは転生輪廻のことか?」
「うん・・・」
オレは腕を組んだ。そういう話は確かに聞いたことがある。よもや、こんな身近に体験談を語れるひとがいるとは、思いもしなかったが。
「で、何を覚えているの?」
「あたしの話、信じてくれるの?」
まあ、理屈は分からないが、そういう話があるのは確かだから、夏実の話も聞いてみたいと思った。
「信じる、信じないは、ひとまず脇に置いといて、夏実の話を聞いてみたい」
「うん・・・」
暫くして、夏実はポツポツ話し出した。見たこともない景色が、突然頭に浮かんでくること。本を読んでいて、行ったこともない、外国の街の写真に見覚えがあること。初対面の人間が、以前どういった関係だったか、覚えがあること、等だった。
「じゃあ、オレにも最初に会った時に見覚えがあった、ということ?」
夏実は頷いた。
「あんたは、前世であたしの旦那だった」
衝撃的と言っていい、発言だった。それで、以前オレのことを旦那になるひと、と夏実が言っていた意味が分かった。
「だから、あんたが、他のひとと付き合ってるって聞いても、あんたは必ずあたしのところへ還ってくるって、自信があった。結果は、そのとおりになったでしょ」
オレは無言になった。オレの人生は、夏実と一緒になるよう、初めから仕組まれていたのか?だが、同じ地方に生まれても、同じ学校に進学するとは限らないだろう。そもそも、出会わない可能性だってあるはずだ。そうすると、過去世の記憶を持った夏実がオレに会いに来ることになっていたのだろうか?
考えると、わけが分からなくなってきた。そのことを夏実に訊いてみた。
「あたしもどういう仕組みなのかは、よく分からない。でも、高校であんたと出会う予感はずっと昔からあった。その出会いを楽しみに生きてきたの。だからあんたに逢えた時、すごくうれしかった」
そんな風に言われると、オレも夏実とは運命の出会いなのかも、という気がしてきた。我ながら単純なもんだ。
夏実は、ギュッとオレの手を握った。
「前世では、あんたとは、思わぬ別れになってしまった。だから、今生ではしっかりあたしを掴まえてて」
「思わぬ別れって、どういうこと?」
「それは・・・言いたくないの。辛い別れだったから」
夏実は目を伏せて、涙ぐんでいた。オレは彼女の手を握り返した。
「大丈夫、しっかり掴まえてるから」
彼女は涙を流しながら頷いた。
「ところで、前世のオレたちは、いつどこにいたんだ?」
「多分、戦前のUSAだと思う」
「USA?オレたち、英語でしゃべってたのか?」
「そうね、今でも当時の言葉は覚えてるよ。ところどころだけど」
「すげえな。英語勉強する必要ねえじゃん」
「うーん、そのせいかどうか知らないけど英語は得意だよ」
それが本当なら、英語教育の大革命じゃないのか。いや、前世で学んだことを覚えているのなら、大天才にもなりかねない。道理で夏実の成績が良いわけだ。オレたちはそんな話を暫く続けた。まだしゃべっていたかったけれど、残念ながら帰宅時間となってしまった。
店を出ると、雨はあがっていた。夕方でも陽はまだ高く、空にはまた虹が懸かっていた。夏実と話したことで、今日のオレは、頭の中も少し虹色になっていたかもしれない。
バス停で夏実と別れ、自宅方面のバスに乗った。帰りのバスの中で夏実の話を反芻していた。常識では信じられないような話だったが、夏実の語りには妙にリアリティがあった。
転生輪廻という現象の実在云々はともかく、夏実が体験してきたことは、事実だろうと感じた。わざわざオレだけに、デタラメを話す意味はない。
バスから降りて、自宅へ歩いて帰ると、家の前に田中沙紀が待っていた。オレはじろっと沙紀を見ると、無視して家に入ろうとした。その手を沙紀は掴まえて言った。
「もういちどやり直そう」
オレは沙紀の事情はおおかた見当がついていた。夏実の言ったとおり、イケメンぶった君に捨てられたのだろう。
「どういうつもりだ?」
オレは沙紀に言った。沙紀はさっきのセリフを繰り返した。
「遼介となら、やり直せるよ」
「あのなあ、別れると言ったのはお前だろう。他に好きな男がいるって、オレに見せびらかしたじゃないか。そいつとうまくやればいいだろう。それに、オレにはすでに夏実というカノジョがいて、夏実のことが大好きだから、他の女に浮気する気は毛頭ない」
そう言ってやった。
「あの男は、他の女と浮気した」
知ってる、とオレは答えた。
「夏実のところに来たらしいな。夏実は美人で、ひとに好かれる性格だから、校内でもモテモテなんだ。告られるのは慣れてるから、適当に断ったって言ってたぞ。やつは今フリーのはずだから、やり直せばいいだろ」
「遼介もあの女にフラれるよ。だから、あたしとやりなおそうよ?」
「はあ?なんでそうなるんだ?夏実は、お前と違って浮気なんかする女じゃない。お前がそうだからと言って、ほかの女性も同じ物差しで測るな。だいいちオレは、お前にはほとほと愛想が尽きた。あんなセリフを吐いといて、どのツラ下げてやり直そう、とか言えるんだよ、マジ、信じらんね」
オレは頭にきてたから、辛辣に言ってやった。その後も沙紀はオレとやり直したいと、わがままを繰り返していたが、オレはその気はない、ときっぱり引導を渡して強引に追い返した。あんな女と付き合ってたのかと思うと、自分の鑑識眼のなさが情けなくなった。
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