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結局、結論は出ず、その日は解散となり、オレは、そのまま道場へ向かった。師匠は、オレを見て、にっこり笑った。
「どうやら、うまく解決したようだな」
「はい、師匠のおかげです。ありがとうございました」
師匠は、何か書き物をしていた最中だったようだ。パソコンではなく、紙に筆で墨痕黒々と走らせていた。オレが来ると、筆を置いて、オレの方を向いてくれた。
「お邪魔でしたか、今日はすぐに失礼します。報告に来ただけですから」
「あわてなくていい。ちょっと書き物をしていただけだ。お前と話す方が、私も楽しいし、大切な時間だよ」
最近、妙に師匠が優しくなった。いや、以前から優しかったのだが、オレが悪ガキで叱られることが多かったから、怖いおばさんと思っていただけなのだろう。
思えば、オレが一番叱られた回数が多かった。確かに悪さも多かったが、今思えばあれは、オレに対する師匠の愛情だったのだろう。まあ、容赦なく突きを入れられたり、蹴られたり、稽古中はボコられてはいたが。その時も、キチンと後のフォローをしてくれていた。
「徳永さんが、穏やかに説得して下さいました。お陰で学校も廃部は取りやめ、ということになったようです」
「徳永さんには、私からも礼を言っておいた」
オレは師匠の心遣いに、涙が出そうになった。このひとは、もっと大切にしなければならないひとだったのだ。それが、今になって身に染みてわかるとは。オレは、言おうかどうしようか迷っていたことを、師匠に正直に話すことにした。
「実は、徳永さんも、師匠のことは気づいてたみたいです。容態はどうなのか、と訊かれました。オレは、言えませんと答えましたが、それで察しがついたんだと思います」
「そうか・・・」
師匠は、下を向いていた。次第に師匠の肩は、震えていた。嗚咽を必死でこらえているようだった。
「遼介、暫くむこうを向いててくれないか」
「はい・・・」
見なくても、師匠が声を殺して泣いていることは分かった。オレは、この時ほど自分の無力さを思い知ったことはなかった。師匠のために何もできなかった。できない自分が悔しかった。
オレは、横を向いていた。暫くすると、師匠が顔を上げて涙をハンカチで拭った。
「すまなかった、遼介」
「なんで、師匠は、徳永さんと一緒にならなかったんですか」
オレは、怒られるのを承知で訊いてみた。暫く、師匠は沈黙していたが、やがて静かに話し出した。
「あの頃は、互いの流派が反目していた時期でな、私たちは互いにそれぞれの流派で、それなりの位置にいたから、いろいろと障害があったんだよ」
案に相違して、師匠は素直に昔語りをしてくれた。たぶん、こんな話をするのは最初で最後だろう。
「徳永さんとは、今のお前たちと同年代に初めて出逢ったんだ。一緒にいるのが楽しくてなあ、別れなければならなくなったときは、正直辛かった」
師匠は、じっとオレの顔を見た。
「夏実ちゃんは好い娘だ。大事にしろよ遼介。彼女は、お前の半身だからな」
そう言う、師匠の笑顔は寂しそうだった。オレはたまらなくなった。
「ねえ、師匠ひとりで寂しいときは、いつでも電話して下さい。話くらい付き合いますよ」
「ありがとう、だが、大丈夫だよ」
「次は、師匠がオレの母親とかどうです。徳永さんが父親で」
「お前の母親になるのは大変だ。謹んでご辞退申し上げるよ」
「ええ!良いじゃないですかあ、そうすれば師匠とずっと一緒にいられるしい」
「お前のおむつを替えるのは、真っ平ごめんだな。オシッコひっかけられそうだ」
久しぶりに、意地悪そうな顔つきになった師匠を見た。オレは嬉しかった。その後も、師匠は疲労を見せなかったが、オレは気を利かせて辞去することとした。
オレの苦手な季節が到来してきた。前線が停滞し始めた。連日雨が降る季節になった。また傘を持って登校しなければならない日が続いた。雨は嫌いだ。体質的に、湿気の多い日はどうも調子が上がらない。それに雨は、視界を悪くする。敵の発見にも支障が出かねない。戦場では、敵を早く発見した方が、生き残る可能性は断然高くなるのだ。
陰気な顔をして登校するオレに、後ろから、肩を叩く者があった。
「いよっ!また元気がないな、しっかりしろ遼介!」
振り返ると、笑顔の夏実だった。なんだか、去年も同じようなやり取りがあったような気がした。
「元気なぞ出るか。こんな日に」
「遼介、雨苦手だもんね。だいたい前に住んでたとこは、乾燥してたから、雨の量も少なかったし」
天気予報によると、この雨は暫く続くらしい。オレは、それを考えると、ウンザリしてきた。
その時、突然オレのケータイのアラームが鳴った。慌てて、ケータイを引っ張り出してみると、師匠のバイタルサインが大きく乱れていた。特に血圧が低下していた。オレは、その場ですぐに師匠のケータイに電話を入れた。アラームが鳴ったということは、師匠は自分のケータイを身に付けているということだ。にも拘らず、いくらコールしても師匠は出なかった。それは意識をなくしている、ということを意味する。
オレは、夏実にわけを話し、すぐに帰ることにした。
「学校には言っとくから、後であたしにも電話して」
オレは、夏実に頷くと、バス停に向かった。今来た道を逆にたどっていく。バスを待つ時間が、苛立たしかった。十分ほど待って、ようやく来たバスに飛び乗った。家の近くのバス停までは二十分程度かかった。いつもは何ということもない時間が、異常に長く感じられた。最寄りのバス停に降りると、雨の中を濡れながら走って、道場に向かった。
道場の門は閉まっていた。オレは、塀の周りをぐるぐる回りながら一か所、中に入れる場所を見つけた。隣の敷地の木によじ登り、塀を越えると、師匠の住居に向かった。幸い勝手口はカギが掛かっていなかった。オレは中に入り、師匠を探した。師匠は、居間に倒れていた。
「師匠、師匠!」
大声を出すオレに、反応があった。
「・・・遼介か」
「具合悪いの?どこか痛いの?」
「身体が、動かない・・・」
「分かった、すぐ病院行こう。救急車呼ぶから」
救急車は五分ほどでやって来た。オレは、師匠からカギを預かり、家じゅうのカギをかけた。ストレチャーに乗せられる、師匠の顔は、蒼白だった。オレも一緒に乗って、最寄りの市立病院の救急外来に到着した。
師匠が診察を受けている間、待合室でオレは気が気じゃなかった。暫くすると、ウチの母親がやって来た。どうも学校から連絡があったらしい。
「なんだよ」
「なんだよじゃない、こんな大事なことなんで親に言わないの!」
「師匠との約束だ。誰にもしゃべらないって」
「お師匠さんの命に係わることじゃない、それぐらい考えなさい。高校生のあんたが全部できることじゃないでしょ!」
「母さんには関係ないだろ」
「関係あるわよ、お師匠さんはね、前世で私の妹だった娘よ。身内同然じゃない」
オレは、お袋の言葉にぶったまげた。
「はい?今、前世って言った?」
「そうだよ、お師匠さんはね、かつてあんたの叔母さんだったひとだよ。知らなかったの」
いや、うちのお袋がそれを知ってるってことを、知らなかったんだが。
「だから、あんたを恭子さんに預けたんだよ。恭子さんは、日によっては一日中、あんたの面倒を見てくれてたりしたんだよ、覚えてないの?」
オレには、覚えがなかった。その時、担当医が出てきた。身内の方への説明をしたい、ということだったが、師匠の親御さんは既に亡くなり、兄弟もいなかった。叔父や叔母に当たるひとはどうか知らない。
「そういう方もいらっしゃいません」
オレの母親が言った。お袋の方が、師匠の事情には詳しそうだった。
「では、お身内の方は、いらっしゃらないわけですね」
「はい、身の回りのことで、困ったときはウチが承っていました。彼女は私の大学の後輩で、お父様の時代から、親戚同様の付き合いをしていましたので」
医者は、暫く考えていたが、
「分かりました。そういうことなら、お入りください」
と言ってくれた。
診察室で、オレと母は、師匠の容態について説明を受けた。病気は予想より速く進行しており、体力も急速に消耗しつつある。半年と言わず、三か月程度がヤマになるであろうと。勿論、その場で入院が決まった。
「今後は、緩和ケア病棟への入院をお勧めします」
いわゆるホスピスというやつだろう。オレは、とうとう来るべき時が来てしまったことを知った。それにしても、早すぎる。
師匠は、化粧気こそなかったが、美人で、溌溂としていたから、とても三十代後半には見えなかった。十歳は若く見えた。オレの姉貴と言っても通用するだろう。なんでこんな魅力的な女性が早死にしなきゃならないんだ。オレはその理不尽さに無性に憤りを感じた。
寿命をつかさどる神とやらがいるなら、覚えてやがれ、オレがそっちに行ったときに、ボコボコにしてやる。
病室で横になる師匠は、痛々しかった。幾つものチューブがつけられ、ひとまわり小さくなったようだった。
「今日は、私がついてるから、あんたは今から学校に行きなさい」
「嫌だ。今日は学校は休む。高校なんかより、師匠の方が大切だ」
「大丈夫だ、私はまだ死なんよ」
目を覚ました師匠が、声をかけてきた。
「すまなかったな、遼介。お前のおかげで命拾いしたみたいだ。命の恩人だな」
「そういうことは、病気を治してから言えよ」
「うん、もう暫く、命の猶予があるみたいだから学校へ行け。だが、お前が学校へ行かなければ、心配で早死にしそうだ」
師匠は、にっこり笑いながら言った。
「言ったろ、私は、いつでもお前の傍にいるって。だから、今日もすぐに来てくれたんじゃないか」
「あれは、アラームだよ」
「いや、倒れているとき、お前がやって来るのが見えてた。ああ、遼介が来てくれるなあ、と思って安心してたんだぞ。そしたら、ホントにお前が来てくれた。やっぱり、お前とは強いえにしがあるんだよ」
師匠は、オレの方に手を伸ばしてきた。オレは師匠の手を握った。
「心配しなくても、あっちに行くときは予めちゃんと連絡するから、学校へ行ってこい。まだもう少し先のことだ」
オレは、駄々っ子のように師匠の傍にいることを主張したが、結局、病室から追い出されることになった。
「後で、また来るから」
「はい、はい、行っておいで」
師匠は笑顔で手を振った。
オレは、登校しながら、徳永さんとの約束を思い出していた。ケータイを取り出すと、教えられた番号に電話した。
「はい、徳永です」
「松澤です、お世話になってます。師匠のことですけど・・・」
オレは事情を徳永さんに、報告した。入院の場所、病室も伝えた。
「彼女の容態は、どうなの?」
徳永さんも急なことに驚いていた。声が切迫していた。
「今すぐは、どうこうないみたいですけど、思ったよりも病気の進行が早いみたいで」
「そうか・・・いや、わざわざ教えてくれてありがとう」
「約束しましたから」
「そうだったね、すまなかった」
オレは、そのまま登校した。学校に着くと、昼飯時だった。
「どうしたんだ?」
新美と、楓がやって来た。
「うん、ちょっと、ウチの師匠の具合が悪くなってな」
「お師匠さん、病気だったよな。悪いのか?」
「・・・」
オレの反応でふたりは、察した様子だった。
「前にあんたの叔母様だった方でしょう。確か、前も早く・・・」
楓は、はっと気がついて、言葉を止めた。
オレは、午後からの授業にも身が入らなかった。頭に浮かぶのは、師匠のことだけだった。
「どうした、松澤。集中できてないな」
教師にも注意された。分かってるよ、そんなこたあ。集中したくても、できねえんだよ。
放課後、部活に顔を出した。葛城キャプテンにわけを話して、暫く部活を休むことを伝えようとした。だが、キャプテンは既に師匠のことを知っていた。
「お前も大変だな。お師匠さんによろしくな」
キャプテンはそう言って、お金の入った封筒を渡してきた。
「部員の有志で、お金を集めたんだ。これで花束を買って、病室に飾ってあげてくれ」
オレは、部員たちの気持ちが嬉しかった。こういうときは、ひとの優しさが身に染みる。
「ありがとうございます」
不覚にも涙が出た。しきりに目を拭うオレに、葛城先輩は、部活は出られるときに来ればいいから、と言ってくれた。
オレが、帰ろうとすると、玄関には夏実が待っていた。
「お見舞いに行くんでしょ?一緒に行こう」
オレと夏実は、帰り道の花屋さんで、お見舞い用の花束を買った。オレと夏実もお金を出したので、結構豪華な花束になった。
師匠は、豪華な花を喜んでくれた。
「素敵なお花ね、夏実ちゃんが選んでくれたの?」
「いえ、遼介が選びました。これがお師匠さんには似合うと言って」
「へえ、遼介いい趣味してるな。私の好きな花だよ」
「そりゃ、師匠の好みは分かってますからね」
得意げに言うオレを、師匠は穏やかな笑みを浮かべて見ていた。
「ところで、突然こんなことになったおかげで、六月いっぱいと言ってた道場も、続けられなくなった。ここにみんなへの言葉を、動画に取っといたから、このファイルをみんなに見せて貰えないか。残念だが、上泉道場もこれで閉門だ。みんなには、申しわけなく思っている。私が謝罪していたと、よろしく伝えてくれ。頼む」
師匠は、オレに頭を下げた。オレは師匠の手を取った。
「大丈夫です、オレは師匠の一番弟子ですからね。それぐらい、ちゃんとやります」
「何から何まで、お前には世話になるな。本当にすまない」
「甥っ子だったときは、師匠におむつを替えて貰ってましたからね。今度は、オレが師匠の尻拭いをさせて頂きますよ」
オレの憎まれ口に、師匠は拳骨を挙げるふりをした。
お見舞いが済んで、病院から帰る道すがら、夏実が言った。
「なんか、遼介って、お師匠さんにはベッタリだね。お姉さんに甘える子供みたい」
「なんだよ、ヤキモチか?」
「違うよ、なんかふたりのやり取りって、本当に身内のひと同士みたい。歳の離れたお姉さんと、きかん坊の弟ってカンジ」
夏実は、くすくす笑いながら答えた。
「ずっと昔から、お師匠さんとあんたはえにしがあるんだねえ」
オレは、梅雨の晴れ間となった、空を見上げた。雲が、速いスピードで流れていった。
「また、師匠と来世でも一緒だといいなあ」
「ずっと一緒だよ、きっと。あたしと同じように」
オレはオレは黙って、空を見続けていた。
*
道場の突然の閉門は、門下生たちに動揺を与えた。それを伝えたオレは、練士たちにわけを言えと詰めよられた。道場に集まった門下生たちを前に、オレは説明の場を設けた。
「六月いっぱいは、道場をやるって、話しだったじゃないか」
「師匠との送別会も企画してたんだぞ」
オレは、手を挙げて、みんなを落ち着かせた。
「実はな、師匠は緊急入院された。重い病気でな、事実上道場の継続は不可能だ」
「重い病気ってなんだよ、いつかは退院されるんだろう」
「・・・いや、退院は無理だ。実は、師匠は余命宣告されているんだ」
「なんだと、なんでそんな大事なこと、今まで黙ってたんだよ!」
「オレも、師匠から口止めされてたんだ。申しわけない」
「余命って、どれくらいなんだよ?」
「当初は、年内いっぱいくらい、と言われてたんだが、思ったより病気の進行が早くてな、まあ、夏を越せるかどうかくらいじゃないかな・・・」
それを聞いた連中は、あまりのことに言葉もなかった。みなの血の気が引いてゆくのが分かった。
「夏って、あと二、三か月程度ってことか?」
「師匠が、そんなことになってたなんて・・・」
「おい、遼介、師匠の入院されている病院はどこだ!お見舞いに行くぞ!」
「待て!だから、師匠は重病だって言ったろう。お前らが集団で押しかければ、師匠の迷惑になるし、病院にも迷惑だ。これ以上師匠の身体に負担かける気か?」
オレは大声を上げて、みなを静まらせた。
「ここに師匠から預かった動画がある。これを流すから、観てくれ」
師匠は、動画の中で、突然の閉門で門下の人々に迷惑をかけたことを詫びた。
自分の身体のこと、みなと一緒に修行できて幸せだったこと、今後は、今まで習ってきたことを、それぞれの人生で活かして貰えればこんなうれしいことはないこと等を、みんなに向かって述べた。
師匠が、最期の別れの言葉を述べると、門下生のみなは、涙を流して嗚咽していた。
「くっそお、なんでこんなことになるんだよ!あんな良い師匠が・・・理不尽だ!」
大石が大声を上げた。航汰の気持ちは痛いほど分かった。みなは、師匠の動画ファイルをコピーしてくれと、口々に言った。
「師匠は、こんなになるまで、オレたちに黙って稽古を付けてくれてたんだなあ」
「いつから、病気だったんだ?」
「一年半前、手術を受けたと言ってた。だが、今年になって、再発が分かったそうだ。その時点で多臓器に転移していて、一年はもたないと言われてたらしい。おれも、ついひと月ほど前に聞いたばかりだった」
その後も、納得できない連中はオレに寄って来て、色々と質問をしてきたが、オレは必要不可欠なこと以外は話さなかった。最後にオレは言った。
「みんなが、納得できないのは分かってる。オレも同じ気持ちだ。だが、一番納得できないのはだれだ?師匠自身だろ?弟子なら、師匠の気持ちをおもんばかってあげるのが筋というものじゃないか。オレが言えるのは、師匠の残された人生に、弟子としてなにをしてあげられるかを考えてほしい、ということだ」
オレの言葉にようやく収まった門下生たちは、動画ファイルのコピーを受け取り、三々五々帰って行った。
だが、大石とあとふたりの弟子が後に残った。みんなオレの同期だった。
「なあ、遼介、オレたちはガキの頃から一緒にここに通ったツレだろう。一度でいいから師匠に会わせてくれ。最期にお礼が言いたい」
後のふたりも、頷いていた。
「誰にも言わないと、約束できるか」
「おうよ、師匠のためだろ?約束する」
オレは、翌日も師匠のところへ行くつもりだったから、最寄りの駅で放課後に待ち合わせることにした。
翌日、三人を連れて、師匠の病室を訪れた。三人とも、師匠の顔を見ると泣いていた。花束を渡すと、あとは声にならなかった。師匠は、ひとりひとり、頭を撫でてやっていた。十五分ほどで、三人を師匠から引っぺがし、改めて口止めをして追い返した。
「今日は、徳永さんもいらしたし、大石たちまで来るとはな」
「すみません、見舞いには来るな、と言ってたんですけど、どうしても会いたいと言って」
「いいよ、どうせあとわずかの命だ。みんなとお別れできなかったのは、私も心残りだったからな。昨日みんなに話してくれたんだな、遼介には世話をかけるな、ありがとう」
道場のカギを、師匠に帰そうとすると、お前が持っててくれ、と言われた。
「道場にあるもので、お前が欲しいものは、なんでもやるぞ。持ってってくれ。どうせあの世までは持ってけないからな」
「じゃあ、師匠が身に付けてたものを貰ってもいいですか」
「ああ、なんでも好きなものを持ってけ」
「宝物にします」
オレは、師匠に負担をかけないように、適当に切り上げると、病院を後にした。
「どうやら、うまく解決したようだな」
「はい、師匠のおかげです。ありがとうございました」
師匠は、何か書き物をしていた最中だったようだ。パソコンではなく、紙に筆で墨痕黒々と走らせていた。オレが来ると、筆を置いて、オレの方を向いてくれた。
「お邪魔でしたか、今日はすぐに失礼します。報告に来ただけですから」
「あわてなくていい。ちょっと書き物をしていただけだ。お前と話す方が、私も楽しいし、大切な時間だよ」
最近、妙に師匠が優しくなった。いや、以前から優しかったのだが、オレが悪ガキで叱られることが多かったから、怖いおばさんと思っていただけなのだろう。
思えば、オレが一番叱られた回数が多かった。確かに悪さも多かったが、今思えばあれは、オレに対する師匠の愛情だったのだろう。まあ、容赦なく突きを入れられたり、蹴られたり、稽古中はボコられてはいたが。その時も、キチンと後のフォローをしてくれていた。
「徳永さんが、穏やかに説得して下さいました。お陰で学校も廃部は取りやめ、ということになったようです」
「徳永さんには、私からも礼を言っておいた」
オレは師匠の心遣いに、涙が出そうになった。このひとは、もっと大切にしなければならないひとだったのだ。それが、今になって身に染みてわかるとは。オレは、言おうかどうしようか迷っていたことを、師匠に正直に話すことにした。
「実は、徳永さんも、師匠のことは気づいてたみたいです。容態はどうなのか、と訊かれました。オレは、言えませんと答えましたが、それで察しがついたんだと思います」
「そうか・・・」
師匠は、下を向いていた。次第に師匠の肩は、震えていた。嗚咽を必死でこらえているようだった。
「遼介、暫くむこうを向いててくれないか」
「はい・・・」
見なくても、師匠が声を殺して泣いていることは分かった。オレは、この時ほど自分の無力さを思い知ったことはなかった。師匠のために何もできなかった。できない自分が悔しかった。
オレは、横を向いていた。暫くすると、師匠が顔を上げて涙をハンカチで拭った。
「すまなかった、遼介」
「なんで、師匠は、徳永さんと一緒にならなかったんですか」
オレは、怒られるのを承知で訊いてみた。暫く、師匠は沈黙していたが、やがて静かに話し出した。
「あの頃は、互いの流派が反目していた時期でな、私たちは互いにそれぞれの流派で、それなりの位置にいたから、いろいろと障害があったんだよ」
案に相違して、師匠は素直に昔語りをしてくれた。たぶん、こんな話をするのは最初で最後だろう。
「徳永さんとは、今のお前たちと同年代に初めて出逢ったんだ。一緒にいるのが楽しくてなあ、別れなければならなくなったときは、正直辛かった」
師匠は、じっとオレの顔を見た。
「夏実ちゃんは好い娘だ。大事にしろよ遼介。彼女は、お前の半身だからな」
そう言う、師匠の笑顔は寂しそうだった。オレはたまらなくなった。
「ねえ、師匠ひとりで寂しいときは、いつでも電話して下さい。話くらい付き合いますよ」
「ありがとう、だが、大丈夫だよ」
「次は、師匠がオレの母親とかどうです。徳永さんが父親で」
「お前の母親になるのは大変だ。謹んでご辞退申し上げるよ」
「ええ!良いじゃないですかあ、そうすれば師匠とずっと一緒にいられるしい」
「お前のおむつを替えるのは、真っ平ごめんだな。オシッコひっかけられそうだ」
久しぶりに、意地悪そうな顔つきになった師匠を見た。オレは嬉しかった。その後も、師匠は疲労を見せなかったが、オレは気を利かせて辞去することとした。
オレの苦手な季節が到来してきた。前線が停滞し始めた。連日雨が降る季節になった。また傘を持って登校しなければならない日が続いた。雨は嫌いだ。体質的に、湿気の多い日はどうも調子が上がらない。それに雨は、視界を悪くする。敵の発見にも支障が出かねない。戦場では、敵を早く発見した方が、生き残る可能性は断然高くなるのだ。
陰気な顔をして登校するオレに、後ろから、肩を叩く者があった。
「いよっ!また元気がないな、しっかりしろ遼介!」
振り返ると、笑顔の夏実だった。なんだか、去年も同じようなやり取りがあったような気がした。
「元気なぞ出るか。こんな日に」
「遼介、雨苦手だもんね。だいたい前に住んでたとこは、乾燥してたから、雨の量も少なかったし」
天気予報によると、この雨は暫く続くらしい。オレは、それを考えると、ウンザリしてきた。
その時、突然オレのケータイのアラームが鳴った。慌てて、ケータイを引っ張り出してみると、師匠のバイタルサインが大きく乱れていた。特に血圧が低下していた。オレは、その場ですぐに師匠のケータイに電話を入れた。アラームが鳴ったということは、師匠は自分のケータイを身に付けているということだ。にも拘らず、いくらコールしても師匠は出なかった。それは意識をなくしている、ということを意味する。
オレは、夏実にわけを話し、すぐに帰ることにした。
「学校には言っとくから、後であたしにも電話して」
オレは、夏実に頷くと、バス停に向かった。今来た道を逆にたどっていく。バスを待つ時間が、苛立たしかった。十分ほど待って、ようやく来たバスに飛び乗った。家の近くのバス停までは二十分程度かかった。いつもは何ということもない時間が、異常に長く感じられた。最寄りのバス停に降りると、雨の中を濡れながら走って、道場に向かった。
道場の門は閉まっていた。オレは、塀の周りをぐるぐる回りながら一か所、中に入れる場所を見つけた。隣の敷地の木によじ登り、塀を越えると、師匠の住居に向かった。幸い勝手口はカギが掛かっていなかった。オレは中に入り、師匠を探した。師匠は、居間に倒れていた。
「師匠、師匠!」
大声を出すオレに、反応があった。
「・・・遼介か」
「具合悪いの?どこか痛いの?」
「身体が、動かない・・・」
「分かった、すぐ病院行こう。救急車呼ぶから」
救急車は五分ほどでやって来た。オレは、師匠からカギを預かり、家じゅうのカギをかけた。ストレチャーに乗せられる、師匠の顔は、蒼白だった。オレも一緒に乗って、最寄りの市立病院の救急外来に到着した。
師匠が診察を受けている間、待合室でオレは気が気じゃなかった。暫くすると、ウチの母親がやって来た。どうも学校から連絡があったらしい。
「なんだよ」
「なんだよじゃない、こんな大事なことなんで親に言わないの!」
「師匠との約束だ。誰にもしゃべらないって」
「お師匠さんの命に係わることじゃない、それぐらい考えなさい。高校生のあんたが全部できることじゃないでしょ!」
「母さんには関係ないだろ」
「関係あるわよ、お師匠さんはね、前世で私の妹だった娘よ。身内同然じゃない」
オレは、お袋の言葉にぶったまげた。
「はい?今、前世って言った?」
「そうだよ、お師匠さんはね、かつてあんたの叔母さんだったひとだよ。知らなかったの」
いや、うちのお袋がそれを知ってるってことを、知らなかったんだが。
「だから、あんたを恭子さんに預けたんだよ。恭子さんは、日によっては一日中、あんたの面倒を見てくれてたりしたんだよ、覚えてないの?」
オレには、覚えがなかった。その時、担当医が出てきた。身内の方への説明をしたい、ということだったが、師匠の親御さんは既に亡くなり、兄弟もいなかった。叔父や叔母に当たるひとはどうか知らない。
「そういう方もいらっしゃいません」
オレの母親が言った。お袋の方が、師匠の事情には詳しそうだった。
「では、お身内の方は、いらっしゃらないわけですね」
「はい、身の回りのことで、困ったときはウチが承っていました。彼女は私の大学の後輩で、お父様の時代から、親戚同様の付き合いをしていましたので」
医者は、暫く考えていたが、
「分かりました。そういうことなら、お入りください」
と言ってくれた。
診察室で、オレと母は、師匠の容態について説明を受けた。病気は予想より速く進行しており、体力も急速に消耗しつつある。半年と言わず、三か月程度がヤマになるであろうと。勿論、その場で入院が決まった。
「今後は、緩和ケア病棟への入院をお勧めします」
いわゆるホスピスというやつだろう。オレは、とうとう来るべき時が来てしまったことを知った。それにしても、早すぎる。
師匠は、化粧気こそなかったが、美人で、溌溂としていたから、とても三十代後半には見えなかった。十歳は若く見えた。オレの姉貴と言っても通用するだろう。なんでこんな魅力的な女性が早死にしなきゃならないんだ。オレはその理不尽さに無性に憤りを感じた。
寿命をつかさどる神とやらがいるなら、覚えてやがれ、オレがそっちに行ったときに、ボコボコにしてやる。
病室で横になる師匠は、痛々しかった。幾つものチューブがつけられ、ひとまわり小さくなったようだった。
「今日は、私がついてるから、あんたは今から学校に行きなさい」
「嫌だ。今日は学校は休む。高校なんかより、師匠の方が大切だ」
「大丈夫だ、私はまだ死なんよ」
目を覚ました師匠が、声をかけてきた。
「すまなかったな、遼介。お前のおかげで命拾いしたみたいだ。命の恩人だな」
「そういうことは、病気を治してから言えよ」
「うん、もう暫く、命の猶予があるみたいだから学校へ行け。だが、お前が学校へ行かなければ、心配で早死にしそうだ」
師匠は、にっこり笑いながら言った。
「言ったろ、私は、いつでもお前の傍にいるって。だから、今日もすぐに来てくれたんじゃないか」
「あれは、アラームだよ」
「いや、倒れているとき、お前がやって来るのが見えてた。ああ、遼介が来てくれるなあ、と思って安心してたんだぞ。そしたら、ホントにお前が来てくれた。やっぱり、お前とは強いえにしがあるんだよ」
師匠は、オレの方に手を伸ばしてきた。オレは師匠の手を握った。
「心配しなくても、あっちに行くときは予めちゃんと連絡するから、学校へ行ってこい。まだもう少し先のことだ」
オレは、駄々っ子のように師匠の傍にいることを主張したが、結局、病室から追い出されることになった。
「後で、また来るから」
「はい、はい、行っておいで」
師匠は笑顔で手を振った。
オレは、登校しながら、徳永さんとの約束を思い出していた。ケータイを取り出すと、教えられた番号に電話した。
「はい、徳永です」
「松澤です、お世話になってます。師匠のことですけど・・・」
オレは事情を徳永さんに、報告した。入院の場所、病室も伝えた。
「彼女の容態は、どうなの?」
徳永さんも急なことに驚いていた。声が切迫していた。
「今すぐは、どうこうないみたいですけど、思ったよりも病気の進行が早いみたいで」
「そうか・・・いや、わざわざ教えてくれてありがとう」
「約束しましたから」
「そうだったね、すまなかった」
オレは、そのまま登校した。学校に着くと、昼飯時だった。
「どうしたんだ?」
新美と、楓がやって来た。
「うん、ちょっと、ウチの師匠の具合が悪くなってな」
「お師匠さん、病気だったよな。悪いのか?」
「・・・」
オレの反応でふたりは、察した様子だった。
「前にあんたの叔母様だった方でしょう。確か、前も早く・・・」
楓は、はっと気がついて、言葉を止めた。
オレは、午後からの授業にも身が入らなかった。頭に浮かぶのは、師匠のことだけだった。
「どうした、松澤。集中できてないな」
教師にも注意された。分かってるよ、そんなこたあ。集中したくても、できねえんだよ。
放課後、部活に顔を出した。葛城キャプテンにわけを話して、暫く部活を休むことを伝えようとした。だが、キャプテンは既に師匠のことを知っていた。
「お前も大変だな。お師匠さんによろしくな」
キャプテンはそう言って、お金の入った封筒を渡してきた。
「部員の有志で、お金を集めたんだ。これで花束を買って、病室に飾ってあげてくれ」
オレは、部員たちの気持ちが嬉しかった。こういうときは、ひとの優しさが身に染みる。
「ありがとうございます」
不覚にも涙が出た。しきりに目を拭うオレに、葛城先輩は、部活は出られるときに来ればいいから、と言ってくれた。
オレが、帰ろうとすると、玄関には夏実が待っていた。
「お見舞いに行くんでしょ?一緒に行こう」
オレと夏実は、帰り道の花屋さんで、お見舞い用の花束を買った。オレと夏実もお金を出したので、結構豪華な花束になった。
師匠は、豪華な花を喜んでくれた。
「素敵なお花ね、夏実ちゃんが選んでくれたの?」
「いえ、遼介が選びました。これがお師匠さんには似合うと言って」
「へえ、遼介いい趣味してるな。私の好きな花だよ」
「そりゃ、師匠の好みは分かってますからね」
得意げに言うオレを、師匠は穏やかな笑みを浮かべて見ていた。
「ところで、突然こんなことになったおかげで、六月いっぱいと言ってた道場も、続けられなくなった。ここにみんなへの言葉を、動画に取っといたから、このファイルをみんなに見せて貰えないか。残念だが、上泉道場もこれで閉門だ。みんなには、申しわけなく思っている。私が謝罪していたと、よろしく伝えてくれ。頼む」
師匠は、オレに頭を下げた。オレは師匠の手を取った。
「大丈夫です、オレは師匠の一番弟子ですからね。それぐらい、ちゃんとやります」
「何から何まで、お前には世話になるな。本当にすまない」
「甥っ子だったときは、師匠におむつを替えて貰ってましたからね。今度は、オレが師匠の尻拭いをさせて頂きますよ」
オレの憎まれ口に、師匠は拳骨を挙げるふりをした。
お見舞いが済んで、病院から帰る道すがら、夏実が言った。
「なんか、遼介って、お師匠さんにはベッタリだね。お姉さんに甘える子供みたい」
「なんだよ、ヤキモチか?」
「違うよ、なんかふたりのやり取りって、本当に身内のひと同士みたい。歳の離れたお姉さんと、きかん坊の弟ってカンジ」
夏実は、くすくす笑いながら答えた。
「ずっと昔から、お師匠さんとあんたはえにしがあるんだねえ」
オレは、梅雨の晴れ間となった、空を見上げた。雲が、速いスピードで流れていった。
「また、師匠と来世でも一緒だといいなあ」
「ずっと一緒だよ、きっと。あたしと同じように」
オレはオレは黙って、空を見続けていた。
*
道場の突然の閉門は、門下生たちに動揺を与えた。それを伝えたオレは、練士たちにわけを言えと詰めよられた。道場に集まった門下生たちを前に、オレは説明の場を設けた。
「六月いっぱいは、道場をやるって、話しだったじゃないか」
「師匠との送別会も企画してたんだぞ」
オレは、手を挙げて、みんなを落ち着かせた。
「実はな、師匠は緊急入院された。重い病気でな、事実上道場の継続は不可能だ」
「重い病気ってなんだよ、いつかは退院されるんだろう」
「・・・いや、退院は無理だ。実は、師匠は余命宣告されているんだ」
「なんだと、なんでそんな大事なこと、今まで黙ってたんだよ!」
「オレも、師匠から口止めされてたんだ。申しわけない」
「余命って、どれくらいなんだよ?」
「当初は、年内いっぱいくらい、と言われてたんだが、思ったより病気の進行が早くてな、まあ、夏を越せるかどうかくらいじゃないかな・・・」
それを聞いた連中は、あまりのことに言葉もなかった。みなの血の気が引いてゆくのが分かった。
「夏って、あと二、三か月程度ってことか?」
「師匠が、そんなことになってたなんて・・・」
「おい、遼介、師匠の入院されている病院はどこだ!お見舞いに行くぞ!」
「待て!だから、師匠は重病だって言ったろう。お前らが集団で押しかければ、師匠の迷惑になるし、病院にも迷惑だ。これ以上師匠の身体に負担かける気か?」
オレは大声を上げて、みなを静まらせた。
「ここに師匠から預かった動画がある。これを流すから、観てくれ」
師匠は、動画の中で、突然の閉門で門下の人々に迷惑をかけたことを詫びた。
自分の身体のこと、みなと一緒に修行できて幸せだったこと、今後は、今まで習ってきたことを、それぞれの人生で活かして貰えればこんなうれしいことはないこと等を、みんなに向かって述べた。
師匠が、最期の別れの言葉を述べると、門下生のみなは、涙を流して嗚咽していた。
「くっそお、なんでこんなことになるんだよ!あんな良い師匠が・・・理不尽だ!」
大石が大声を上げた。航汰の気持ちは痛いほど分かった。みなは、師匠の動画ファイルをコピーしてくれと、口々に言った。
「師匠は、こんなになるまで、オレたちに黙って稽古を付けてくれてたんだなあ」
「いつから、病気だったんだ?」
「一年半前、手術を受けたと言ってた。だが、今年になって、再発が分かったそうだ。その時点で多臓器に転移していて、一年はもたないと言われてたらしい。おれも、ついひと月ほど前に聞いたばかりだった」
その後も、納得できない連中はオレに寄って来て、色々と質問をしてきたが、オレは必要不可欠なこと以外は話さなかった。最後にオレは言った。
「みんなが、納得できないのは分かってる。オレも同じ気持ちだ。だが、一番納得できないのはだれだ?師匠自身だろ?弟子なら、師匠の気持ちをおもんばかってあげるのが筋というものじゃないか。オレが言えるのは、師匠の残された人生に、弟子としてなにをしてあげられるかを考えてほしい、ということだ」
オレの言葉にようやく収まった門下生たちは、動画ファイルのコピーを受け取り、三々五々帰って行った。
だが、大石とあとふたりの弟子が後に残った。みんなオレの同期だった。
「なあ、遼介、オレたちはガキの頃から一緒にここに通ったツレだろう。一度でいいから師匠に会わせてくれ。最期にお礼が言いたい」
後のふたりも、頷いていた。
「誰にも言わないと、約束できるか」
「おうよ、師匠のためだろ?約束する」
オレは、翌日も師匠のところへ行くつもりだったから、最寄りの駅で放課後に待ち合わせることにした。
翌日、三人を連れて、師匠の病室を訪れた。三人とも、師匠の顔を見ると泣いていた。花束を渡すと、あとは声にならなかった。師匠は、ひとりひとり、頭を撫でてやっていた。十五分ほどで、三人を師匠から引っぺがし、改めて口止めをして追い返した。
「今日は、徳永さんもいらしたし、大石たちまで来るとはな」
「すみません、見舞いには来るな、と言ってたんですけど、どうしても会いたいと言って」
「いいよ、どうせあとわずかの命だ。みんなとお別れできなかったのは、私も心残りだったからな。昨日みんなに話してくれたんだな、遼介には世話をかけるな、ありがとう」
道場のカギを、師匠に帰そうとすると、お前が持っててくれ、と言われた。
「道場にあるもので、お前が欲しいものは、なんでもやるぞ。持ってってくれ。どうせあの世までは持ってけないからな」
「じゃあ、師匠が身に付けてたものを貰ってもいいですか」
「ああ、なんでも好きなものを持ってけ」
「宝物にします」
オレは、師匠に負担をかけないように、適当に切り上げると、病院を後にした。
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