阪上くんと保田くん

阪上克利

文字の大きさ
4 / 25
出会いと学生生活

大好きな阪神タイガース

しおりを挟む
人は生きていてこよなく愛しているものがいくつかあるだろう。

 例えばそれは妻かもしれないし、家族かもしれない。そういったものは愛しているのは当たり前なのだからいちいちそうは言わないにしても趣味的なものでこよなく愛しているものはあるだろう。

 ボクが今までの人生の中でこよなく愛し続けてきたものの一つに阪神タイガースがある。

 なんで阪神が好きなのか……と言われれば非常に難しい。きっかけはいろいろあるのだろうけど、そのきっかけの最たる要因としては父親が阪神ファンだったということと、小学校4年生まではボクは兵庫県の西宮市に在住していたという事実をあげることができるだろう。

 たったそれだけの理由で……と我ながら思う。まあ、好きになるというのはそう言うものだろう。そこに明確な理由など設けてはいけないような気がする。

 説明は不要かと思うが……
 阪神タイガースというチームは伝統ある球団である割に非常に勝負弱い球団であり、基本的に勝たなくてはいけない試合では勝てず、いつも優勝できない。優勝できないだけでAクラスにいつもいるならいいが、基本的にはBクラス。いつも勝てない、万年Bクラスというイメージの強い球団なのである。

 ボクの今を知る人間は信じられないかもしれないが、あまりに弱いタイガースを見て、何度かファンを辞めようかと思ったことがある。
 特に80年代の後半から90年代にかけての暗黒期には本気で野球のやの字も見ないことも少なくなかった。小学4年生で横浜に引っ越してきたあとは、高校に入学するまでは友人と野球の話などしたことがなかった。
 横浜では阪神ファンは少なかった。
 いや……少ないというより、実は多かったのかもしれないが、暗黒期のタイガースの不甲斐なさに野球の話などしたくもないファンが多かったのだろうから、タイガースファンがいないというより、野球の話を率先してするタイガースファンが少なかったので、その存在があまり感じられなかったというのが事実だろう。
 
 さて……1992年。
 ボクが高校に入学した年。
 セントラルリーグを制したのは名将、野村克也氏が率いるヤクルトスワローズだった。

 ところが、この年、暗黒時代の阪神タイガースが一瞬の輝きを取り戻した。仲田、中込、湯舟などの先発投手陣が目覚ましい活躍をし、野手では亀山が気持ちを前面に出したヘッドスライディングで前半戦は白星を重ねた。
 オールスターを挟み、後半戦から失速していったが、それでも例年のタイガースよりはがんばっていたので高校生だったボクは夢中になって野球を見続けていた。
 スーパースターでもある新庄剛志が鮮烈なプレーをして甲子園を沸かしたのもこの年が最初だったとボクは記憶している。

 結論から言えば、この年以降、2003年の優勝まで10年以上優勝がなかった……。
   
 横浜スタジアムにもよく出かけた。
 今でもちょくちょく野球観戦に行くが当時もなかなか面白かった。
 ボクが行くと、先発は大抵、仲田か湯舟だった。1992年といえば小川洋子先生の『博士の愛した数式』の背景である。
 
 一人で行動するのはそんなに好きではないボク。
 基本的に寂しがり屋で誰かと一緒にいたいと思っているボクは野球に行く時もだれかと行く時の方が多かった。
 それでボクは保田くんを誘うことにした。保田くんを球場に連れて行ったのは、野球の魅力を知ってもらいたいということが第一だった。

 いつもは強引に誘わなければ来ない保田くんだが、今回はすんなり来た。
 野球には関心がなかったのだが、それでも嫌ではなかったのだろう。
 特に彼は生でみたホームランが忘れられなかったらしい。
 分かる気はする。

 ただ……残念なことにそのホームランは阪神の選手が打ったものではなかった。

 確かその日の先発は湯舟だった。
 7回に湯舟が投げた球がバッターに弾き返されてキレイな放物線を描いてレフトスタンドに入った。
 打ったのは当時まだ若かった横浜大洋ホエールズの佐伯。
『あほーーーーーーーー!!!!!!』
『入るなーーーーー!!!』
『ファールじゃファール!!!』
 ちなみに……ポール際ではなかったと記憶しているので間違いなくファールではない。
 
 阪神ファンの怒号の中……。
 保田くんは小さな声で歓喜の声を上げた。
『うわ~。』

 プロ野球は生で見るに限る。
 それは打つにしても守るにしても生の迫力はTVのものとは違うからである。
 読者で少しでも野球に興味のある方がいるなら近所の球場に足を運んでほしい。TVとの違いに感動するはずである。
 特に生で見るホームランはすごい迫力なのだ。
 ピッチャーが投げたボールが、見ている場所から一番遠いバッターボックスで『カコン!』という乾いた打球音とともにはじき返され、自分のいるところにきれいな放物線をえがいて向かってくるあのときの迫力は筆舌しがたいものがある。 

そんなこんなで野球が好きになり、高校時代はナイターもちょくちょくチェックするようになった保田くん。
 実は彼は当時から斉藤隆投手が好きだった。
 当時の斉藤は年間7勝ぐらいの若手ピッチャーだったが、とにかく148キロの早くてキレのあるストレートを投げ込むスタイルは魅力的だった。
 斉藤の投げた試合の後は、保田くんは機嫌良く登校していたように記憶している。
 
 1992年。
 阪神タイガースは優勝を逃した。
 横浜大洋ホエールズは、この年を最後に消滅し、横浜ベイスターズとなった。
 ボクも保田くんも、この年……くだらないことはいつも考えていたが、大事なことは何一つ考えずに高校生活を送っていた。

 この年を境に阪神も横浜も優勝からは遠ざかっていた。もともと横浜は優勝から遠いチームではあるものの、93年に『横浜ベイスターズ』として生まれ変わってからは、徐々にその存在は大きくなって行ってはいたものの、日本一になったのは1998年だったわけで、高校在学中にはボクらはその強さに触れることは一切なかった。
 阪神に至っては2003年まで優勝がないわけだから、ボクがこの分野で高校生活をいかにさみしく送ったかは言うまでもないことであろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。 過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。 初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。 ◇ 🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾 🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾 🔶🐶挿絵画像入りです。 🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇‍♀️

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...