阪上くんと保田くん

阪上克利

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出会いと学生生活

シュールな仮装行列

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 ボクの通っていた学校は1年ごとに文化祭と体育祭を交互に行っていた。
 どちらのお祭りも楽しかった。

 1年の時は体育祭だった。
 ボクは最初のパン食い競争で、足をくじいてしまい、そのあとのリレーなどは出場できなかったのだが、どうせそこのリレーに出たところで活躍できないどころかみんなの足を引っ張ってしまいかねないのでボクは未だにけがをしてよかったと思っている。
 これが本当の怪我の功名というやつだ。

 お祭りと言えば、基本的にボクは『お祭り』と言うか……イベントのたぐいが好きである。

 スポーツ観戦の時などそういうボクの本質が発揮されるような気がする。
 とにかくよくわかってもいない癖にテレビやパソコンの前で知った風な独り言を言いながら大声をあげて応援をしている。
 もちろん、妻や子供はまったく相手にしてくれない。
 まあ……それでも楽しいものは楽しいのだから仕方ない。

 ところが……ボクは本当のお祭りはそんなに好きでもない。

 分かりやすく言うと……痛い思いをして神輿を担ぎたいとは一切思わないし、ご神木からなんかのご利益を得たいとも思わない。というかあれは何か御利益があるものなのか、非常に猜疑心さいぎしんを抱いており、もうはっきり言っちゃうとまったくもって信じていない。

 というのも、日本のお祭りって御柱祭おんばしらまつりとかだんじり祭り、鳥羽の火祭りなど、実に危険なものが多数ある。

 先に言っておくが……好きな人には大変申し訳ない話ではある。
 しかしこれはあくまで個人的な意見で考え方はそれぞれというところで勘弁してもらいたい。

 死傷者が出るような祭りは本来の意味での祭りの意味から大きく脱線しているのではないかと思うのだ。
 そもそも祭りとは何か……それは神様に感謝をこめたり幸福を願うためにやるものではないか。それなのにそういう行事で怪我をしたり、死んだりして、すでにその時点で不幸ではないか。感謝の表し方だとしても実際、神様がそういうことを喜ぶのだろうか? 
 百歩譲って喜ばれるとしたら……少し言い過ぎかもしれないが、人の死やケガを喜んでいるのだから、その存在はもはや神様ではないなにか邪悪な意思なのではないかと思ってしまうのだ。
 
 危険でなければそれでいいか……といえばそうでもない。

 例えば子宝が授かれるようにという意味を込めたお祭りに使われるご神木は大抵、男性性器をもじったものである。正直、見るのも少し恥ずかしくなるようなものだ。
 だが、よく考えてみると子宝を授かるというのは男性の力だけでできるものではないではないか。
 子供は男性と女性がそろって初めて授かるものであり、そういったもののご神木が男性性器であることにボクは大きな矛盾を感じるし、実にそれは女性蔑視の考え方ではないかと思ってしまうのだ。

 一部では、そういうお祭りで、何の関係もない女性が暴行を受けたりすることもあるという話を聞いたことがある。

 ボクは男だし、大抵の男と同じように女性が好きだが、それと同時に理性というものも兼ね備えている。
 こういう騒ぎに乗じて女性をどうにかしようなどという考え方は実に無粋であり野暮である。

 こんな風に考えてしまうから、ボクが好きな祭りといえば、そういう宗教的な色がない、落語の『目黒のさんま』に端を発している目黒のさんま祭りぐらいなものであり、大半の祭りはそんなに好きではないのだ。
 ちなみにさんま祭りは一度行ってみたい。
 美味しいさんまが食べられるなんてこんなに幸せなことはない。
 『祭り』というからにはみんなが幸せになるようなことをしてほしいと思う。

 しつこいようだが、これはあくまで個人的な意見であるのであしからず。

 さて、中学から高校に進学した頃は、ちょっとしたお祭り気分で毎日が楽しかった。

 中学の頃には通学に電車を使うということなど考えられなかったわけだから、電車に乗って少し遠くの場所にある学校まで行くこと自体がボクの中では一大イベントだったように思える。

 今までは歩いて登校していた。
 歩いて登校し、遊びに行くのも自転車で行くかそれとも歩いていく……というところだった。
 それが、高校に入ってからは電車を乗り継ぎ、一時間ほど時間をかけて登校する。友人たちも多くは電車でやってくる。今までの感覚では考えられないことであり、高校に入ったばかりの時はそれが実に新鮮だった。

 体育祭があったのはそんなお祭り気分にも慣れてきた頃の秋口の話だった。

 高校1年の頃の体育祭には仮装行列があった。
 最初のパン食い競争で足をくじいたボクだったが歩くぐらいはできたのでこの仮装行列には予定通り参加した。
 ボクらのクラスは『各時代の伊達男』というテーマで6人から7人ぐらいの班ごとに仮装することになっていた。ボクの班は、リーダーの竹下くんを初めとして神園くん、森くん、保田くん、多田くん、茨木くん、そしてボクの7人だった。

 クラスでの打ち合わせの時に、いくつか時代を選ぶことができたのでボクらは話し合いの結果、『戦国時代』を選ぶことにした。恰幅のいい茨木くんはなぜか敵の大将という設定でダンボールか何かで加工して作った兜や槍のたぐいを身に着けており、ボクらの衣装よりも豪華なものだった。
 仮装行列は学校の校庭のリレーなどで使うトラックを1週歩き、ゴール手前の審査員の先生たちの前で何かの出し物を行うと聞いていた。
 
 ボクらの班の出し物は、戦国時代の甲冑をつけた茨木くんと他6人が戦い、彼がやられるというストーリーだった。
 茨木くんは身体もけっこうでかく、しかも存在感のある顔だったので、やられる役にはうってつけだった。彼はこういうことをのり良く引き受けることができるやつだったので、なんの問題も起きなかった。みんなその出し物がけっこう楽しみだったのかもしれない。

 ところが、いざ始まってみると審査員である先生の前で出し物をするグループはない。
 聞いた話と違う。
 だ……大丈夫か? 
 これ??

 日本人というのは基本的に和を重んじる民族であるとボクは思う。だからこういう事態になるとこぞって他と違うことをやりたがらない。
 そこにいるのは完全にそういうメンタリティーの日本人ばかりだったので、班のリーダーだった竹下くんを初めとしてみんな青い顔になった。

 そんな中……。
 
 茨木くんだけはケロっとしていたように見える。
 考えてみれば茨木くんは人と違うことをすることをあまり怖がらないやつだった。
 
 『普通』という言葉が嫌いなボクも茨木くんに近い性質がある。
 ただボクはその度胸がないから行動に移さない。考え方としては基本的には人と違うことを考えていた。『常識』と言う言葉は嫌いで、そんな言葉にだまされて人と同じこと考えてもつまらないといつも思っていた。

 そんなボクだが、仮装行列のこの出し物の件についてはやらない方がいいと思った。
 なんだかそういう空気だったからだ。
 人と違うことをするというのと人に合わせるというのは違う。
 チームで何かをする場合は自分を殺してチームの方針を最優先するというのは、人に合わせるということであり、それができないのはただの空気が読めない奴なのである。

 リーダーである竹下くんはみんなに言った。
『あれ。なしな』
『OK!』
 スタートするときにみんなで確認したはずだった。
 
 校庭のトラックを歩いて審査員の前を通り過ぎ、ボクらの班の仮装行列も無事に終わろうとしたとき……その事件は起こった。
『覚悟!!!』
 一番後列を歩いていた茨木くんは、衣装用にダンボールで作ったハリボテの日本刀でみんなに斬りかかってきた。

 話、聞いてなかったのかよ――――!!
 ボクを初めとする班のみんなは間違いなくそう思ったに違いない。

 出し物はみんなが持っているハリボテの武器を使って茨木くんに斬りかかる予定だったのだが……みんなこの空気の中、茨木くんが余計なことをしてくれたことに少し腹を立てていたのか、武器を使わず手で茨木くんの頭を次々にはたいた。
『ぐわ――!!』
 ご丁寧に茨木くんは倒れた。
 ボクらはそのまま歩き続けたから、茨木くんは審査員の先生方の前でうつ伏せになってしばらく倒れていた。

 今考えると実にシュールな場面である。

 こと顛末てんまつがどうなったかは忘れたがすべて終わったあとに教室で茨木くんは竹下くんに文句を言っていた。
『審査員の前で斬りあうんじゃなかったのか?!』
『だから、あれなしなって言っただろ!!』
『え??』
『なあ?』竹下くんはたまたま近くにいたボクに同意を求めた。
 確かにこれは竹下くんの言うとおりなのでボクは黙って首を縦に振った。
『ったく! 人の話聞けよ――』

 まあ……。
 この出来事だが……話を聞くとか聞かないとか言う前に、審査員の前に来た他の人間が何も動かなかった時点で何かを感じるべきだったのではないか、とボクは思う。
 基本的に茨木くんというのはこういうことが実に多い男ではあった。

 今となっては楽しい思い出である。
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