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じっと待っているだけでは魚は釣れない
独身男の休日
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靖男は、男子校に通ってそのまま工場勤務をしてきたために女性とは縁がまったくなかった。
その日、彼が釣具を買いに行ったのも友人の克利が釣りに行こうといつものごとく強引に誘ってきたからである。
克利は強引なところはあるが、面白い奴だ。
靖男には友人が少ない。
職場の同僚とも必要最低限しか話はしないし、それでも仕事は支障なくこなせるのだ。
そもそも知らない人間とあまり話をしたくないという気持ちはある。
克利が数年前に結婚してからというもの、彼からの誘いも数ヶ月に1度ほどになった。
靖男は彼から誘われない限りは自宅で寝ているだけという休日の過ごし方をする可能性が高い。最近ではそんな休日の過ごし方にも少し嫌気が指してきている。
だから、靖男はなるべくこの友人との遊びには行くようにはしていた。
ただ……
克利はたまに無茶を言う。
実は靖男が今日、一人で釣具屋に来たのもそんな理由があった。
『来週の土日に管理釣り場に釣りに行こうぜ。靖男もそろそろ道具一式そろえないとだぞ。』
『ああ。買いにいけばいいのかい?』
『それは強制はしないけど……ん?でも強制しないと君はいつまでもボクに釣具を借り続けるな。よし。やっぱ強制だ。買って来い。』
そんなやりとりがあって靖男は釣具屋に来た。
でも何を買って良いか分からない。
買いに行くのはいい。
釣りに行くわけだから他人の道具ばかりに頼ってはいけないという克利の意見はもっともなんだから。
しかし、買いに行けというならせめて何を買えばいいかぐらい教えてほしいものである。
克利は『そんなもん店員に聞きゃ分かるよ。』と言った。
確かにそうなのかもしれないが靖男は知らない人間と話すのが苦手なのである。
憂鬱だ…。
そう思いながら靖男は釣具屋を訪れた。
とりあえず店内をすこしまわってみる。
なにがなんだかよく分からん。
『なにかお探しですか?』
靖男に声をかけたのは感じの良い女性の店員だった。
『あ……え――と……そのお……ニジマスを釣りに行くんですけど……』
『ああ、それでしたらこちらですよ』
女性の店員はニコリとしながら靖男をニジマスのコーナーまで案内してくれた。
『あ……ありがとうございます。』
『ちなみにお客様、どのようなものをお探しですか?』
さすがプロである。
靖男が素人であることを即座に見抜いた彼女は、靖男に予算を聞き、その範囲内で必要なものをある程度そろえてくれた。
レジまで言って会計を済ませた後、彼女は言った。
『ニジマスはけっこう奥深いですよ。楽しんでくださいね』
『あ、はい』
女性の店員は笑顔で言った。
彼女は本当に釣りが好きなのだろう。
なんとなく分かる。
仕事で仕方なく作った笑顔ではないことは靖男にも分かった。
もちろん、靖男に微笑みかけたわけでもない。
彼女はニジマス釣りを自分もするところを想像しながら、それがとても楽しい時間であることを知っていて笑顔を作ったのだろう。
そんなことは分かっている。
それでも靖男はなんだかちょっとふわふわした変な気持ちになった。
まあ、女性店員に親切にされたのでいい気になっている自分がいるのだろう、と靖男は思い、帰途に着いた。
その日、彼が釣具を買いに行ったのも友人の克利が釣りに行こうといつものごとく強引に誘ってきたからである。
克利は強引なところはあるが、面白い奴だ。
靖男には友人が少ない。
職場の同僚とも必要最低限しか話はしないし、それでも仕事は支障なくこなせるのだ。
そもそも知らない人間とあまり話をしたくないという気持ちはある。
克利が数年前に結婚してからというもの、彼からの誘いも数ヶ月に1度ほどになった。
靖男は彼から誘われない限りは自宅で寝ているだけという休日の過ごし方をする可能性が高い。最近ではそんな休日の過ごし方にも少し嫌気が指してきている。
だから、靖男はなるべくこの友人との遊びには行くようにはしていた。
ただ……
克利はたまに無茶を言う。
実は靖男が今日、一人で釣具屋に来たのもそんな理由があった。
『来週の土日に管理釣り場に釣りに行こうぜ。靖男もそろそろ道具一式そろえないとだぞ。』
『ああ。買いにいけばいいのかい?』
『それは強制はしないけど……ん?でも強制しないと君はいつまでもボクに釣具を借り続けるな。よし。やっぱ強制だ。買って来い。』
そんなやりとりがあって靖男は釣具屋に来た。
でも何を買って良いか分からない。
買いに行くのはいい。
釣りに行くわけだから他人の道具ばかりに頼ってはいけないという克利の意見はもっともなんだから。
しかし、買いに行けというならせめて何を買えばいいかぐらい教えてほしいものである。
克利は『そんなもん店員に聞きゃ分かるよ。』と言った。
確かにそうなのかもしれないが靖男は知らない人間と話すのが苦手なのである。
憂鬱だ…。
そう思いながら靖男は釣具屋を訪れた。
とりあえず店内をすこしまわってみる。
なにがなんだかよく分からん。
『なにかお探しですか?』
靖男に声をかけたのは感じの良い女性の店員だった。
『あ……え――と……そのお……ニジマスを釣りに行くんですけど……』
『ああ、それでしたらこちらですよ』
女性の店員はニコリとしながら靖男をニジマスのコーナーまで案内してくれた。
『あ……ありがとうございます。』
『ちなみにお客様、どのようなものをお探しですか?』
さすがプロである。
靖男が素人であることを即座に見抜いた彼女は、靖男に予算を聞き、その範囲内で必要なものをある程度そろえてくれた。
レジまで言って会計を済ませた後、彼女は言った。
『ニジマスはけっこう奥深いですよ。楽しんでくださいね』
『あ、はい』
女性の店員は笑顔で言った。
彼女は本当に釣りが好きなのだろう。
なんとなく分かる。
仕事で仕方なく作った笑顔ではないことは靖男にも分かった。
もちろん、靖男に微笑みかけたわけでもない。
彼女はニジマス釣りを自分もするところを想像しながら、それがとても楽しい時間であることを知っていて笑顔を作ったのだろう。
そんなことは分かっている。
それでも靖男はなんだかちょっとふわふわした変な気持ちになった。
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