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飲み会
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『お待たせしました』
お店の扉が開いて、石岡くんと山本さんが入ってきた。
思ったより早く来た。
そういえば石岡くんは、最初に相談室にやってきた時よりも明るくなった感じがする。
『お疲れさま。どうぞ』
あたしは石岡くんを志保ちゃんの隣に……そして山本さんを杏奈の隣に座らせてから早々に生ビールを二つ注文した。
山本さんも杏奈も……努めて平静を保っている感じだった。
もちろん事前にお互いが来ることは知っているのだから、何か不穏になるようなことはないのだけど、なんとなくあたしの目には二人が平静を保とうと努力しているように見える。
気のせいなのかもしれないけど……。
山本さんが席につくと杏奈はすぐにおしぼりを渡していたし、山本さんは杏奈に『ありがとう。お疲れ様』と声をかけていた。
あたしは二人のほんの少しの会話を聞いて、なんだかんだ彼らは仲がよさそうに見えた。二人は自分たちで思っているほどうまく行っていないわけではないのだ。
『そういえば……あんちゃんって野球見ないの?』
あたしは山本さんを見て思い出した。
できればあたしは山本さんが高校野球で活躍していた時の話を聞きたい。
彼は水を向けたら喜んで話してくれそうだが、その前に妻の杏奈はどうなのかを知りたかった。
『見ないわよ。ルール分からないし』
『そうなんだ。でもそんなに複雑に考えなくてもベース一周すれば点が入るんだよ。簡単だから見た方がいいよ』
『ですよねえ!』横から山本さんが言った。彼はそんなにお酒に強くないのだろうか、それともすきっ腹にビールを飲んだから酔いが回ったのか……顔が赤かった。
『ええ――。別にいいじゃない』
杏奈は相談室で旦那の文句を言っていたときとは打って変わって少しすねたような表情をして言った。
彼女は山本さんにだけそういう表情を見せるのだろう。
文句を言うのは実は彼に甘えているだけなのかもしれない。その証拠にすねた杏奈の顔は話す言葉とは裏腹にとてもかわいかった。
『まあ、強制はしないんだけどね……でも面白いよ』
『え?? ここちゃんは好きなの?』
『好きも何も、あたしは高校の頃はソフトやってたし、野球部のマネージャーもやってたぐらいだから』
『え――!! 知らなかった――!!』
別にお互いの過去を秘密にしたわけではない。
ただ話す機会がなかっただけだ。
そもそも杏奈と二人で食事をするときは野球の話にはならないのだ。
『志保ちゃんは何かやってたの??』
杏奈は助けを求めるように志保ちゃんの方を向いた。このまま野球の話をされてはたまらないと思ったのだろう。
『あたしはバレーボールやってました。』
『バレー??』志保ちゃんには申し訳ないが、ちょっと声が大きくなってしまった。
というのもバレーボールというのは背の高い人がやるものだというイメージがあるからだ。
みんなの気持ちが志保ちゃんにも即時に伝わったようで、彼女は少し恥ずかしそうに言った。
『いや……バレーやったら背が高くなるかな――って思って……』
なるほど。
確かにそういうコンプレックスは女性なら必ず持っているものだ。
背の低い子は高い子にあこがれるし、逆に高い子は低い子にあこがれたりする。
実は志保ちゃんのチャームポイントはその背の低さなのだが、当人に言ってもそれはそうは思わないだろう。
ないものねだりなのかもしれないが、女には自分の容姿の足りない部分をうらやましく思うことがあるのだ。これに関してはもしかしたら一生続くのかもしれない。
女とはそういうものなのである。
『ポジションはどこだったんすか??』
石岡くんは少し間抜けな質問をした。
もしかしたら彼はスポーツには興味がないのかもしれない。
というのも、志保ちゃんぐらい背が低い子がつけるポジションはバレーでは限られているからだ。
間違いなくスパイクを決めるセンターやスーパーエースではない。
セッターか……。
リベロか……。
『セッターです』
ちょっと恥ずかしそうに志保ちゃんは言った。
『すごいじゃないですか。竹下と一緒じゃないですか』
日本代表のセッター、竹下佳江は159センチの身長でありながら世界を驚かせるぐらいのパフォーマンスを見せてくれたことはあまりにも有名な話だ。
そんなことを知っているということは、まったく興味がないというわけでもないようだ。
ただ……。
それが志保ちゃんにとって褒め言葉になったかどうかは本人しか分からない。
『そうですか??』
『だっていずれにしてもレギュラーだったんでしょ? すごいじゃない』
『レギュラーっていってもそんなに強いチームじゃなかったですから』
『それはみんな一緒よ』
杏奈はそう言ったが実はみんな一緒ではなかったりする。
手前味噌で申し訳ないが、あたしは県大会で優勝しているし、実は山本さんの出身校は甲子園常連校だ。そこのところを直接、彼から聞いたわけではないが、もしかしたら春か夏に甲子園の土を踏んでいる可能性もあるのだ。
そういうことをあたしは聞きたいのだが、さすがに今の空気ではそんなことも言えない。
『石岡さんは何かやってたんですか??』
『ボクはスポーツにはあまり興味がなくて……』
やっぱり……。
『そうなんですか? じゃあ帰宅部??』
『模型部に所属してましたが、やってるかやってないか分からない感じだったのでほぼ帰宅部状態でしたね』
石岡くんと志保ちゃんはいい感じで盛り上がり始めた。
山本さんたちもそれなりにその話に加わっている。
この飲み会……。
特に何かの目的があったわけではない。
とにかく気軽に楽しんで元気に明日からの活力になりさえすればいいのだ。
まあ、飲み会なんてものはそういうものなのかもしれない。
お店の扉が開いて、石岡くんと山本さんが入ってきた。
思ったより早く来た。
そういえば石岡くんは、最初に相談室にやってきた時よりも明るくなった感じがする。
『お疲れさま。どうぞ』
あたしは石岡くんを志保ちゃんの隣に……そして山本さんを杏奈の隣に座らせてから早々に生ビールを二つ注文した。
山本さんも杏奈も……努めて平静を保っている感じだった。
もちろん事前にお互いが来ることは知っているのだから、何か不穏になるようなことはないのだけど、なんとなくあたしの目には二人が平静を保とうと努力しているように見える。
気のせいなのかもしれないけど……。
山本さんが席につくと杏奈はすぐにおしぼりを渡していたし、山本さんは杏奈に『ありがとう。お疲れ様』と声をかけていた。
あたしは二人のほんの少しの会話を聞いて、なんだかんだ彼らは仲がよさそうに見えた。二人は自分たちで思っているほどうまく行っていないわけではないのだ。
『そういえば……あんちゃんって野球見ないの?』
あたしは山本さんを見て思い出した。
できればあたしは山本さんが高校野球で活躍していた時の話を聞きたい。
彼は水を向けたら喜んで話してくれそうだが、その前に妻の杏奈はどうなのかを知りたかった。
『見ないわよ。ルール分からないし』
『そうなんだ。でもそんなに複雑に考えなくてもベース一周すれば点が入るんだよ。簡単だから見た方がいいよ』
『ですよねえ!』横から山本さんが言った。彼はそんなにお酒に強くないのだろうか、それともすきっ腹にビールを飲んだから酔いが回ったのか……顔が赤かった。
『ええ――。別にいいじゃない』
杏奈は相談室で旦那の文句を言っていたときとは打って変わって少しすねたような表情をして言った。
彼女は山本さんにだけそういう表情を見せるのだろう。
文句を言うのは実は彼に甘えているだけなのかもしれない。その証拠にすねた杏奈の顔は話す言葉とは裏腹にとてもかわいかった。
『まあ、強制はしないんだけどね……でも面白いよ』
『え?? ここちゃんは好きなの?』
『好きも何も、あたしは高校の頃はソフトやってたし、野球部のマネージャーもやってたぐらいだから』
『え――!! 知らなかった――!!』
別にお互いの過去を秘密にしたわけではない。
ただ話す機会がなかっただけだ。
そもそも杏奈と二人で食事をするときは野球の話にはならないのだ。
『志保ちゃんは何かやってたの??』
杏奈は助けを求めるように志保ちゃんの方を向いた。このまま野球の話をされてはたまらないと思ったのだろう。
『あたしはバレーボールやってました。』
『バレー??』志保ちゃんには申し訳ないが、ちょっと声が大きくなってしまった。
というのもバレーボールというのは背の高い人がやるものだというイメージがあるからだ。
みんなの気持ちが志保ちゃんにも即時に伝わったようで、彼女は少し恥ずかしそうに言った。
『いや……バレーやったら背が高くなるかな――って思って……』
なるほど。
確かにそういうコンプレックスは女性なら必ず持っているものだ。
背の低い子は高い子にあこがれるし、逆に高い子は低い子にあこがれたりする。
実は志保ちゃんのチャームポイントはその背の低さなのだが、当人に言ってもそれはそうは思わないだろう。
ないものねだりなのかもしれないが、女には自分の容姿の足りない部分をうらやましく思うことがあるのだ。これに関してはもしかしたら一生続くのかもしれない。
女とはそういうものなのである。
『ポジションはどこだったんすか??』
石岡くんは少し間抜けな質問をした。
もしかしたら彼はスポーツには興味がないのかもしれない。
というのも、志保ちゃんぐらい背が低い子がつけるポジションはバレーでは限られているからだ。
間違いなくスパイクを決めるセンターやスーパーエースではない。
セッターか……。
リベロか……。
『セッターです』
ちょっと恥ずかしそうに志保ちゃんは言った。
『すごいじゃないですか。竹下と一緒じゃないですか』
日本代表のセッター、竹下佳江は159センチの身長でありながら世界を驚かせるぐらいのパフォーマンスを見せてくれたことはあまりにも有名な話だ。
そんなことを知っているということは、まったく興味がないというわけでもないようだ。
ただ……。
それが志保ちゃんにとって褒め言葉になったかどうかは本人しか分からない。
『そうですか??』
『だっていずれにしてもレギュラーだったんでしょ? すごいじゃない』
『レギュラーっていってもそんなに強いチームじゃなかったですから』
『それはみんな一緒よ』
杏奈はそう言ったが実はみんな一緒ではなかったりする。
手前味噌で申し訳ないが、あたしは県大会で優勝しているし、実は山本さんの出身校は甲子園常連校だ。そこのところを直接、彼から聞いたわけではないが、もしかしたら春か夏に甲子園の土を踏んでいる可能性もあるのだ。
そういうことをあたしは聞きたいのだが、さすがに今の空気ではそんなことも言えない。
『石岡さんは何かやってたんですか??』
『ボクはスポーツにはあまり興味がなくて……』
やっぱり……。
『そうなんですか? じゃあ帰宅部??』
『模型部に所属してましたが、やってるかやってないか分からない感じだったのでほぼ帰宅部状態でしたね』
石岡くんと志保ちゃんはいい感じで盛り上がり始めた。
山本さんたちもそれなりにその話に加わっている。
この飲み会……。
特に何かの目的があったわけではない。
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