青く澄み渡っている雲一つない空の下に住んでいるボクたちの何もないような日々

阪上克利

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良いことなど……この先にもなさそうだ。

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 今年もやってくるなあ……
 クリスマスが……

 遠い目をしながらいつもぼーーっとしてしまう。

 クリスマスの時期というのはボクにとってはろくなことがない。
 たぶんなのだけど、急に気温が低くなって寒くなるのもこの頃だから体調も崩しやすく、いつもどこかが痛いと言っているような気がする。
 今年も例外なく胃腸が痛い。
 そして先日などはトイレで用を足したら……

 便が赤い?!

 え?
 血便??
 大腸がん??
 いや、やばいって。
 とりあえずまだ死にたくない。
 どうしよう。

 そう思ってかみさんに相談してみた。

『一旦、落ち着こう。昨日は何を食べたのか冷静に思い出してみて』
『え? 昨日? え――と……』

 昨日食べたもの。
 何だっけ。
 確か寒かったから辛い物……
 四川風の麻婆豆腐と四川風の味噌ラーメン……

 ああ。
 あれ。
 赤かったっけ。

『なっ、人間そんなに簡単に死なないことはうちらが一番知ってるじゃん』

 何を隠そうかみさんも介護職。
 医師からダメだと言われたことを自宅に帰ってすべてやっている利用者を山ほどみている。
 そしてそのような利用者が、死なずになんとか生きていることも知っているのだ。

 まあ……
 次の日の便をみたら赤くなかったのでこれに関しては血便ではなかったという結論に達したのだけど……。
 胃腸が不調なのには変わりがない。
 多少、下痢も続いているし、胃もちょっと痛い。

『食べすぎだよ』
 かみさんは簡単に切り捨てるし、そういう可能性もないわけではないのでそれで構わないのだけど……
 とにかくこの時期はこういうことが多いのだ。
 かみさんは食べ過ぎと言うが……
 ボクの感覚だとそんなには食べていない。
 いや……
 食べてるんだけど、いつもより多く食べているということはない。

 だから、食べすぎではないのだ。
 毎年、季節の変わり目にやってくる体調不良のようなものなのだ。

 クリスマスの時期に具合が悪くなるのは独身時代から恒例行事だった。

 世間はきらびやかなクリスマス。
 ボクはお腹が痛くてクルシミマス。

 まったく何が楽しいのだ。
 しかも毎年、調子の悪さは違う。
 ある年はストレスも相まって腸炎になってしまい、クリスマスから年末まですべて仕事を休むぐらいしんどかったこともあるが、基本的にはそこまで調子が悪くなることはない。
 確かに胃腸が痛いし、しんどいにはしんどいのだけどなんとか動ける。

 だから仕方なく仕事には行くのである。

 今はケアマネジャーなので体調不良になっても仕事に穴が開いてしまうことはないから、安心して休むことはできる。
 まあ……安心して、と言ったが体調不良でも電話が鳴るので、痛いお腹をさすりながら自宅でなんらかの調整をしなくちゃならない場合が少なくないので『安心して』という表現はちょっと違うのかもしれないのだけど……。
 まあ、でも休んでも利用者が困ることはほとんどない。

 ただ現場のヘルパーは違う。
 休んだら仕事に穴が開いてしまうから、自分の代わりがいなければ休むことさえ許されない。

 独身時代はヘルパーをやっていたから、簡単に休むわけには行かなった。
 そして……クリスマスシーズンになると主力の若い女性ヘルパーはこぞって休みだす。

『すみません。24日は彼氏と過ごしたいので休ましてもらっていいですか?』

 こっちは一人寂しくいつも過ごしているのに、楽しそうで何よりである。
 そう独身の頃は思っていた。まあ、これを言われた時は1ヶ月ぐらい前でボクの体調も悪くないので、彼女らが悪いわけではないのはちゃんと理解しているつもりだ。

 そんなことを思ってしまうのは単に自分には彼女がいなかったからである。

 鬱々うつうつとした気持ちを引っ張りながら、12月24日は近づいてくる。
 気が付くと胃腸が痛い。

 恋人たちのクリスマスの中、恋人がいない独身男は早朝から夜間に至るまで仕事。
 しかも少し具合が悪く、仕事の合間に何度もトイレに行く始末。
 ああ……しんどいなあ。
 もうこんなに不幸なことはない。

 とりあえず今では家庭があるボクなのだけど、この時期に体調が悪いのは同じ。
 これを書いている現在もお腹が痛いのでちょくちょくトイレに行っている。

 クリスマスにはいい思い出はまったくない。
 たぶん……具合が悪くなってしまうこの時期を幸せに思うことなど未来永劫みらいえいごうなさそうだ。
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