青く澄み渡っている雲一つない空の下に住んでいるボクたちの何もないような日々

阪上克利

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その状況は把握しているから頼んでいるのだが?!

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『どうにかしていただけますか?』

 よく言われる言葉なんだけど……できることとできないことがある。

 介護サービスや行政サービス、受診などで解決するような話なら、そちらを勧めていくことができるので『どうにかしていただけますか?』という話しにもそれなりの対策を打てる。

 今回は言われたのは訪問介護事業所からだった。
 しかも電話がかかってきたのは木曜日の夕方。
 17時30分で退勤なのだけど、特定事業所加算の24時間電話対応という実にバカげた法律のためにボクは退勤後も電話に出ている。てゆうか……利用者ならいざ知らず、事業所は遠慮しろと言いたい。

『お世話になっております。今日お電話いただきました利用者さんですが日曜日まで対応致しますのでよろしくお願い致します』

 電話の要件は日中に連絡があった利用者の話だった。
 具合が悪く、痛くて動けないからなんとか助けてくれという話しだったのだが、実は数日前に、自分で救急車を呼んで病院に行ったのだが『異常なし』と判断されて帰されたとのこと。
 こういうことは良くある話なのだけど……素人判断で言うのもなんだが……『異常なし』なわけがない。
 だって痛くて動けない人が、いくつかの検査の所見だけで『異常なし』と判断できるわけがないし、一人暮らしで痛くて動けない人を『異常がないから』と言う理由で自宅に帰してしまう病院の常識を疑ってしまう。

 結局、自宅に帰っても動くこともできずに、食べるものも食べれず、呑むものも飲めず……さらには失禁してしまい部屋を汚してしまっているとのこと。

 この状況にどうしようもなくなって、利用者はこちらに電話をかけてきた。

 ボクは本人と話し合い、とりあえず週2日のヘルパーを直近で毎日入ってもらい、こちらの予定が空く月曜日に本人を訪問してその後を考えることにし、すぐに訪問介護事業所に対応をお願いしたのだ。

『ありがとうございます。助かりました』
『ただですね。失禁も大変な状況になっておりましてね。一度、明日にでも訪問して状況を確認してほしいんですが』
『そうですか。確かに大変な状況なのは本人からのお電話でもよく分かっているのですが、いかんせん予定が詰まっておりまして……月曜日には訪問する予定なのですが……』
『できるだけ早く状況を把握してほしいんですけど』

 できるだけ状況を把握……とか言っているが、確かに直接訪問はできていないものの電話である程度の状況は把握できている。
 だからこそヘルパーをお願いしているのではないか。

『どうにかしてほしいんですよね』

 出た。
 本当に嫌な言葉である。
 なんとなくだけどこの言葉を聞くと『ちゃんと仕事して下さいよ』と言われているような気がしてしまう。

 てゆうかこれ以上、どうにもできない。

『ヘルパーさんの回数を増やした方が対応しやすいですか?』
『いや、それはケアマネさんの判断で』
『ですから、大変なら回数を増やした方が良いと思いましたので』
『そうではなく現状把握のために訪問してもらいたいんですよ』
『いや、ですから予定が空いてないので月曜日にしか行けないんです』
 これを言われたのは前述の通り、木曜日の夕方である。
 金曜日を挟んで土日は休みだから、月曜日の訪問は決して遅い対応ではないと思う。
 それに、こちらにも予定というものがあるのだ。その利用者ばかりを優遇するわけにもいかないのである。
 実際、ヘルパーの人数が足りていないという理由で必要なサービスを増やすことには難色を示すくせに、どうしてこちらの予定のことは何も考えられないのか、理解に苦しむところである。

『でも早くこの状況を把握された方が良いと思うんです』
『いや、申し訳ないんですが、把握しているからヘルパーさんをお願いしたんですけどね』
『こちらでも、いきなりサービスに入って失禁していたら対応が難しいんですよ』

 訪問したら利用者が失禁して、部屋が便まみれになっている……ということは少なくない。
 ケアマネジャーだって、訪問した時に同じ憂き目にあうことは稀にある。
 しかし、そういう状況の時にはなんとか対応して綺麗にしてから帰る。

 本職ではないケアマネジャーだってそうやって対応するのだ。
 ヘルパーはそれが仕事ではないか。
 もちろんケアプランには記載されている仕事ではないから『そんな話は聞いていない』と言いたい気持ちはよく分かる。
 しかしボクらが相手しているのは物ではなく生きている人間なのだ。
 調子が悪化すればそういうことだって十分にあり得るのである。

 それを『対応が難しい』とは聞いてあきれる。

 腹立たしいが、ここで怒ってみても事態は決して良くならないのでボクはできる限り早めに訪問することを約束して電話を切った。

 結局、電話してきた訪問介護のサービス提供責任者は、便失禁の対応がしたくないだけなのだ。
 最近ではこんな無茶苦茶な話で時間を割かなければいけないことも少なくない。
 もう少し、自分の仕事を見つめなおしてから、連絡するならしてもらいたいものである。
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