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空虚な心を埋めるもの
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お父さんの死は5年前からある程度予期していた。
末期の癌だったから、最後は話すこともままならなかった。
最後に仕込みの前に手をさすって、声をかけられて良かった。
訪問診療の先生がやってきてからお通夜、葬儀まであっという間だった。
あたしは最初、戸惑い、信じられなかった。
お父さんの死は予期していた。
日に日にやせ細っていく身体を見ると、いつその時がきてもおかしくないと覚悟もしていた。
それでも実際にそこにいた人がいなくなってしまうと悲しい。
いなくなってしまうのだ。
もう二度と会えないのだ。
寂しい。
寂しい以外の言葉が出てこない。
あたしの心は空っぽだ。
2階の部屋に立ち尽くし、喪服のままじっとお父さんが寝ていた部屋を見つめた。
そしてあたしは気づいた。
本当に寂しい時には涙なんてでないということに…。
お店は葬儀が終わりすぐに再開した。
じっとしてたらどうにかなってしまいそうだったからだ。
あたしの心の空虚を埋めてくれるものは今はない。だから余計なことを考えたくない。
うどんを打ち、出汁をとっているときは悲しさに飲み込まれなくてすむ。
あたしは夢中になって仕事に打ち込んだ。
『先輩。良いですか?』
初七日も終え、落ち着いた頃にお店にどやどやとやってきたのは地元の桜光高校の生徒たちだ。
なぜあたしが先輩…と呼ばれるかと言うと…あたしがこの学校の柔道部を出ているからだ。
『美和ちゃんもすっかり先生ね。』
佐藤美和はあたしの2年後輩。
あたしが48キロ級だったのに対し、彼女は57キロ級。
引退して少し痩せたのはあたしで、美和ちゃんは少し太ったかもしれない。
彼女は大学でも柔道を続けて、母校に帰ってきた。
彼女はあたしが母校の近くでうどん屋をやっているのを知ってるので、よく生徒たちを連れてくる。
良い先生だ。
若い子供たちがたくさん食べているのを見るのはいい。
あたしは彼らを見ていると、生きる力が得られそうだ。
『調子はどう?』
一際身体の大きい男子生徒に声をかける。確か…81キロ級の門司という生徒だったと記憶している。
なんで覚えているかというと、大きな身体とは対照的に気持ちが優しい子だからだ。気持ちが優しすぎて、柔道に限らず勝負事には向かないんじゃないかと思ったのを覚えている。
『まあまあです。』
『そう。あまり気負わずにがんばってね。』
柔道部員は本当によく食べる。
あたしは彼らのためにうどん以外にも大盛のご飯に醤油とみりんで漬け込んだ豚バラを焼いてキャベツと一緒に乗せた『豚バラ丼』を作った。
いい大人になるとこんなものはそんなに食べれなくなるが、スポーツをしている十代の子供たちならペロリと食べてしまう。
その日は大忙しだった。
忙しいのは助かる。
余計なことを考えずに済むからだ。
もともと余計なことなど考えない。寂しいだけで心は空虚なままである。
『ごちそうさまでした。元気出してくださいね。』
お会計を済ませながら美和はあたしに言った。
『うん。ありがと。また来てよ。』
『今度は一人でゆっくりきます。』
『分かった。待ってる。』
美和は生徒たちをつれて駅の方へ歩いて行った。
さあ…店じまいだ。
末期の癌だったから、最後は話すこともままならなかった。
最後に仕込みの前に手をさすって、声をかけられて良かった。
訪問診療の先生がやってきてからお通夜、葬儀まであっという間だった。
あたしは最初、戸惑い、信じられなかった。
お父さんの死は予期していた。
日に日にやせ細っていく身体を見ると、いつその時がきてもおかしくないと覚悟もしていた。
それでも実際にそこにいた人がいなくなってしまうと悲しい。
いなくなってしまうのだ。
もう二度と会えないのだ。
寂しい。
寂しい以外の言葉が出てこない。
あたしの心は空っぽだ。
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そしてあたしは気づいた。
本当に寂しい時には涙なんてでないということに…。
お店は葬儀が終わりすぐに再開した。
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あたしの心の空虚を埋めてくれるものは今はない。だから余計なことを考えたくない。
うどんを打ち、出汁をとっているときは悲しさに飲み込まれなくてすむ。
あたしは夢中になって仕事に打ち込んだ。
『先輩。良いですか?』
初七日も終え、落ち着いた頃にお店にどやどやとやってきたのは地元の桜光高校の生徒たちだ。
なぜあたしが先輩…と呼ばれるかと言うと…あたしがこの学校の柔道部を出ているからだ。
『美和ちゃんもすっかり先生ね。』
佐藤美和はあたしの2年後輩。
あたしが48キロ級だったのに対し、彼女は57キロ級。
引退して少し痩せたのはあたしで、美和ちゃんは少し太ったかもしれない。
彼女は大学でも柔道を続けて、母校に帰ってきた。
彼女はあたしが母校の近くでうどん屋をやっているのを知ってるので、よく生徒たちを連れてくる。
良い先生だ。
若い子供たちがたくさん食べているのを見るのはいい。
あたしは彼らを見ていると、生きる力が得られそうだ。
『調子はどう?』
一際身体の大きい男子生徒に声をかける。確か…81キロ級の門司という生徒だったと記憶している。
なんで覚えているかというと、大きな身体とは対照的に気持ちが優しい子だからだ。気持ちが優しすぎて、柔道に限らず勝負事には向かないんじゃないかと思ったのを覚えている。
『まあまあです。』
『そう。あまり気負わずにがんばってね。』
柔道部員は本当によく食べる。
あたしは彼らのためにうどん以外にも大盛のご飯に醤油とみりんで漬け込んだ豚バラを焼いてキャベツと一緒に乗せた『豚バラ丼』を作った。
いい大人になるとこんなものはそんなに食べれなくなるが、スポーツをしている十代の子供たちならペロリと食べてしまう。
その日は大忙しだった。
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もともと余計なことなど考えない。寂しいだけで心は空虚なままである。
『ごちそうさまでした。元気出してくださいね。』
お会計を済ませながら美和はあたしに言った。
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『今度は一人でゆっくりきます。』
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美和は生徒たちをつれて駅の方へ歩いて行った。
さあ…店じまいだ。
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