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お題:シャツ、ソフトクリーム、花束
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梅雨を終えて季節は夏。
久しぶりの西日が鬱陶しいくらい窓から差し込む頃だった。
親友が退部したことは、私にとって青天の霹靂だった。
それくらい突然だったのだ。演奏会で今年も一緒にソロを吹こうと約束をした次の日だった。
親友とはクラスは違ったけれどたまたま同じ日に吹奏楽部を見学して、そのまま仲良くなった。私はホルンで親友はフルート。お互いに音楽観がよく似ていて暗くなるまで語り合ったことも何度もあった。
2年生になってからは、ソロパートを吹くために一緒に朝練をするようになった。3年生になって今年もソロ吹きたいねって話していたのに。
裏切られた気持ちでいっぱいで、その日の練習は上の空で終えてしまった。
翌日。
放課後の昇降口で今までと違う、明るい帰路に着く親友を見つけた。
部活はいつも汗をかくから運動着に着替えて参加する。だから、オレンジ色に照らされた親友のワイシャツを見て寂しさが込み上げた。
パート練の時間が迫っていたのに、思わず声をかけた。
「どうして、辞めたの」
親友の背にはいつも背負っていた楽器がなかった。いつもより身軽な親友は
「えへへ、部活より楽しいこと見つけちゃった」
と振り返って言い放った。
逆光で表情は見えなかったけれど、軽薄に聞こえた彼女の笑い声で頭が真っ白になった。
数日経った放課後。昇降口で私は待っていた。
「あれ、練習始まってるよ、行かないの?」
待ち人はチューニングの音が聞こえ始めた頃にやってきた。
私は無言で彼女に紙袋を突き付ける。
彼女は困惑した表情を浮かべながらも袋を受け取り、中を見た。
中にはひまわりのミニブーケを入れた。
「きっと卒業式に部活から花束をもらえないだろうから、卒業祝いの代わり」
春まで続ける私たちは赤や白やピンクのカラフルな花束で、夏にいなくなる彼女は黄色だけの花束。
どうにかしてこの怒りと悲しみを彼女に伝えたかった。このやるせなさを自分の中だけに収めておくことが出来なかった。そうして考えた方法が花束を渡すことだった。卒業、という明確な別れを彼女に突きつける手段として。
言葉の悪意に気付いただろうか、彼女はこちらを見てぎこちなく笑った。
「部活を辞めたことを後悔してるわけじゃないけどさ、貴方と毎年食べてたソフトクリームが今年から食べられないと思うと寂しいよ」
自分が突き付けた悪意の鋭さを今更になって自覚して心が痛む。別れなど全く想像もしていなかった。今年も一緒に演奏ができると信じて疑わなかった。
何言ってんの、部活後じゃなくてもソフトクリームくらい食べに行こうよ、休みの日は出かけようよ、友達じゃなくなるわけじゃないでしょ。
何を考えても言葉にならなくて、代わりに出てきたのは涙と嗚咽だけだった。
「私は、一緒に演奏がしたかった。なんであんなに上手なのに辞めちゃったのよ」
「ごめん、でもきっと今年は一緒にソロが吹けないから」
ソロを一緒に吹くことにこだわりはなかった、ただ彼女がフルートを吹く凛々しい後ろ姿をもう一度、あの眩しい舞台の上から見たかっただけなのに。
嗚咽で話せない私と何も話してくれない彼女。ひぐらしの鳴き声と吹奏楽部の演奏だけが私たちの空白を埋めていた。
久しぶりの西日が鬱陶しいくらい窓から差し込む頃だった。
親友が退部したことは、私にとって青天の霹靂だった。
それくらい突然だったのだ。演奏会で今年も一緒にソロを吹こうと約束をした次の日だった。
親友とはクラスは違ったけれどたまたま同じ日に吹奏楽部を見学して、そのまま仲良くなった。私はホルンで親友はフルート。お互いに音楽観がよく似ていて暗くなるまで語り合ったことも何度もあった。
2年生になってからは、ソロパートを吹くために一緒に朝練をするようになった。3年生になって今年もソロ吹きたいねって話していたのに。
裏切られた気持ちでいっぱいで、その日の練習は上の空で終えてしまった。
翌日。
放課後の昇降口で今までと違う、明るい帰路に着く親友を見つけた。
部活はいつも汗をかくから運動着に着替えて参加する。だから、オレンジ色に照らされた親友のワイシャツを見て寂しさが込み上げた。
パート練の時間が迫っていたのに、思わず声をかけた。
「どうして、辞めたの」
親友の背にはいつも背負っていた楽器がなかった。いつもより身軽な親友は
「えへへ、部活より楽しいこと見つけちゃった」
と振り返って言い放った。
逆光で表情は見えなかったけれど、軽薄に聞こえた彼女の笑い声で頭が真っ白になった。
数日経った放課後。昇降口で私は待っていた。
「あれ、練習始まってるよ、行かないの?」
待ち人はチューニングの音が聞こえ始めた頃にやってきた。
私は無言で彼女に紙袋を突き付ける。
彼女は困惑した表情を浮かべながらも袋を受け取り、中を見た。
中にはひまわりのミニブーケを入れた。
「きっと卒業式に部活から花束をもらえないだろうから、卒業祝いの代わり」
春まで続ける私たちは赤や白やピンクのカラフルな花束で、夏にいなくなる彼女は黄色だけの花束。
どうにかしてこの怒りと悲しみを彼女に伝えたかった。このやるせなさを自分の中だけに収めておくことが出来なかった。そうして考えた方法が花束を渡すことだった。卒業、という明確な別れを彼女に突きつける手段として。
言葉の悪意に気付いただろうか、彼女はこちらを見てぎこちなく笑った。
「部活を辞めたことを後悔してるわけじゃないけどさ、貴方と毎年食べてたソフトクリームが今年から食べられないと思うと寂しいよ」
自分が突き付けた悪意の鋭さを今更になって自覚して心が痛む。別れなど全く想像もしていなかった。今年も一緒に演奏ができると信じて疑わなかった。
何言ってんの、部活後じゃなくてもソフトクリームくらい食べに行こうよ、休みの日は出かけようよ、友達じゃなくなるわけじゃないでしょ。
何を考えても言葉にならなくて、代わりに出てきたのは涙と嗚咽だけだった。
「私は、一緒に演奏がしたかった。なんであんなに上手なのに辞めちゃったのよ」
「ごめん、でもきっと今年は一緒にソロが吹けないから」
ソロを一緒に吹くことにこだわりはなかった、ただ彼女がフルートを吹く凛々しい後ろ姿をもう一度、あの眩しい舞台の上から見たかっただけなのに。
嗚咽で話せない私と何も話してくれない彼女。ひぐらしの鳴き声と吹奏楽部の演奏だけが私たちの空白を埋めていた。
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