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4. 俺の知らない過去
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「相変わらず、ハユルの料理は美味しいですね。記憶を失っても、やはり私の好きな味です」
「お口に合って、良かったです」
リビングで、一緒に向かい合って、夕飯を食べた。
家事代行をしていると、誰かにご飯を作ることはあっても一緒に食べることなんてないから、なんだかソワソワとしてしまう。
そんな俺の様子に気づいたのか、イドさんはくすりと笑った。
「はは、初めて一緒にご飯を誘った時みたいですね」
「そう、ですか」
「その時も、君は緊張していました」
「……やっぱり、わかります?」
「勿論」
いや、イドさんが恋人と言われて、気まずいのもあるんだが。
「そういえば、俺のスマホはどこにあるのか、知っていますか?」
「ああ、渡さなければと思っていました。ちょっと待ってくださいね……はい、これです」
イドさんは一度席を立つと、リビングにあるテレビボードの引き出しの中から俺のスマホを手にして戻ってきた。
食事を中断させてしまって、申し訳ない。
しかし、そんな俺の気持ちは、スマホを見てどこかへすっ飛んだ。
「え……っ」
「二階から落ちたせいで、粉々になってしまって……すみません」
「いえ、イドさんが謝るようなことでは……」
落としたスマホは当たり所が悪かったらしく、画面に亀裂が入ったのは勿論、ちょうどSIMカードが入っている部分の損傷が激しかった。
どこかの角に、ピンポイントで当たってしまったようだ。
素人が見ただけでも、もうデータの引継ぎは不可能であることがわかる。
SNSではなくスマホに入れたアプリだけで細々と続いていた友人達とは切れてしまうだろう。
連絡がつかなくなれば心配するだろう何人かの仲間を思い浮かべて、新しいアカウントを手に入れたらそいつらにだけSNSで連絡を取ろうと、心の中で決める。
「スマホがないと不便ですよね。落ち着いたら、一緒に買いに行きましょうか」
「はい、ありがとうございます」
俺たちはそんな会話をしながら、和やかに食事を終えた。
食後のお茶を淹れつつ、緊張で声が掠れないように気をつけながら、言葉を選んでイドさんに話し掛ける。
「あの、さっきの話なんですが」
「さっきの?」
「ええと、俺の知りたいこと、何でも話してくれるという話……」
「はい」
イドさんは優雅な手つきでお茶に口をつけた後、真剣な顔で俺に向き合った。
「何が知りたいですか?」
「その……俺とイドさんは、どうやって恋人同士になったんですか? ご存じかと思いますが、俺、恋愛対象は今までずっと、女のコで……」
「ああ。私たちの馴れ初めですね」
イドさんは微笑みながら、少し何かを思い出すような、懐かしそうな表情で俺に話してくれた。
「最初は、私の片思いでした。初めて指名した時から好みの子だなと思っていて、君の仕事ぶりを見たり会話を交わすうちに、気づいたら好きになっていました。そして私は、君に狡い罠を仕掛けたんですよ」
「罠?」
「ええ。半年前、君が私の家に住み込みで働くようになってすぐ、モデルになってくれないかとお願いをしたんです」
「モデル、ですか?」
「はい。私の仕事で必要だからと、ハユルに男性用のえっちなオモチャを使用をして、それの写真と感想が欲しいとお願いしました」
「そ、それで俺は……」
「一個のオモチャの使用につき、ボーナス二十万ということで話がつきました」
「に、二十万……!」
俺にはわかる。
間違いなく、俺は食いついただろう。
俺の脳裏に、クローゼットの中のブランド服がちらついた。
以前は、お世話になった養護施設への仕送りだけで精一杯で、そんな余裕はなかったはずなのだ。
「その時の、えっちな君の姿も、データとしてありますよ。……見てみたいですか?」
イドさんの、どこか挑発的な視線に、俺はゴクリと喉を鳴らす。
――もしかしたら、知らないほうが幸せなことを、聞いてしまったのかもしれない。
しかし、今更もう、引き返せない。
この一年で何があったのか、俺は知りたいんだ。
「……お願い、できますか?」
俺が上目遣いでお願いすると、イドさんはにっこりと微笑んだ。
「お口に合って、良かったです」
リビングで、一緒に向かい合って、夕飯を食べた。
家事代行をしていると、誰かにご飯を作ることはあっても一緒に食べることなんてないから、なんだかソワソワとしてしまう。
そんな俺の様子に気づいたのか、イドさんはくすりと笑った。
「はは、初めて一緒にご飯を誘った時みたいですね」
「そう、ですか」
「その時も、君は緊張していました」
「……やっぱり、わかります?」
「勿論」
いや、イドさんが恋人と言われて、気まずいのもあるんだが。
「そういえば、俺のスマホはどこにあるのか、知っていますか?」
「ああ、渡さなければと思っていました。ちょっと待ってくださいね……はい、これです」
イドさんは一度席を立つと、リビングにあるテレビボードの引き出しの中から俺のスマホを手にして戻ってきた。
食事を中断させてしまって、申し訳ない。
しかし、そんな俺の気持ちは、スマホを見てどこかへすっ飛んだ。
「え……っ」
「二階から落ちたせいで、粉々になってしまって……すみません」
「いえ、イドさんが謝るようなことでは……」
落としたスマホは当たり所が悪かったらしく、画面に亀裂が入ったのは勿論、ちょうどSIMカードが入っている部分の損傷が激しかった。
どこかの角に、ピンポイントで当たってしまったようだ。
素人が見ただけでも、もうデータの引継ぎは不可能であることがわかる。
SNSではなくスマホに入れたアプリだけで細々と続いていた友人達とは切れてしまうだろう。
連絡がつかなくなれば心配するだろう何人かの仲間を思い浮かべて、新しいアカウントを手に入れたらそいつらにだけSNSで連絡を取ろうと、心の中で決める。
「スマホがないと不便ですよね。落ち着いたら、一緒に買いに行きましょうか」
「はい、ありがとうございます」
俺たちはそんな会話をしながら、和やかに食事を終えた。
食後のお茶を淹れつつ、緊張で声が掠れないように気をつけながら、言葉を選んでイドさんに話し掛ける。
「あの、さっきの話なんですが」
「さっきの?」
「ええと、俺の知りたいこと、何でも話してくれるという話……」
「はい」
イドさんは優雅な手つきでお茶に口をつけた後、真剣な顔で俺に向き合った。
「何が知りたいですか?」
「その……俺とイドさんは、どうやって恋人同士になったんですか? ご存じかと思いますが、俺、恋愛対象は今までずっと、女のコで……」
「ああ。私たちの馴れ初めですね」
イドさんは微笑みながら、少し何かを思い出すような、懐かしそうな表情で俺に話してくれた。
「最初は、私の片思いでした。初めて指名した時から好みの子だなと思っていて、君の仕事ぶりを見たり会話を交わすうちに、気づいたら好きになっていました。そして私は、君に狡い罠を仕掛けたんですよ」
「罠?」
「ええ。半年前、君が私の家に住み込みで働くようになってすぐ、モデルになってくれないかとお願いをしたんです」
「モデル、ですか?」
「はい。私の仕事で必要だからと、ハユルに男性用のえっちなオモチャを使用をして、それの写真と感想が欲しいとお願いしました」
「そ、それで俺は……」
「一個のオモチャの使用につき、ボーナス二十万ということで話がつきました」
「に、二十万……!」
俺にはわかる。
間違いなく、俺は食いついただろう。
俺の脳裏に、クローゼットの中のブランド服がちらついた。
以前は、お世話になった養護施設への仕送りだけで精一杯で、そんな余裕はなかったはずなのだ。
「その時の、えっちな君の姿も、データとしてありますよ。……見てみたいですか?」
イドさんの、どこか挑発的な視線に、俺はゴクリと喉を鳴らす。
――もしかしたら、知らないほうが幸せなことを、聞いてしまったのかもしれない。
しかし、今更もう、引き返せない。
この一年で何があったのか、俺は知りたいんだ。
「……お願い、できますか?」
俺が上目遣いでお願いすると、イドさんはにっこりと微笑んだ。
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