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悪役令嬢、誘拐される

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ガタンゴトンと、私を乗せたみすぼらしい馬車……というか馬に牽かれた荷台が鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように、険しい山道を無理矢理進んでいく。
片側は崖だ。落ちれば皆仲良くお陀仏だ。

しかし、私を乗せるのに、この馬車はない。あり得ない。目的地についた頃には、尻が痛くて仕方ないだろう。この小説の主人公なのだから、もうちょっと丁寧に扱って貰えないものだろうか。……無理か。こんな山道ルートの誘拐に豪華な馬車を使ったらそれこそ目立って仕方ないし、そもそもフカフカのシート付きの馬車で行われる誘拐なんて聞いた事ない。

まぁ、どうせ今行われている誘拐なんて形だけのものだ。颯爽とヒーローである婚約者の第一王子がどこからともなく現れて、私が色んな意味でヤられる前にこの誘拐を計画した悪党共々やっつけてくれるに違いないのだから。

だから、私は泣きもしないし暴れもしないし震えもしない。
無駄に痛い思いはしたくないし、大人しく縛られた。余りの従順さに猿轡や目隠しはやめといてやろうと言われたわ。

大抵のヒロインは、傷物になる前にヒーローが助ける。そうじゃなきゃ、作者が読者から非難受けるからね。

だから、何処に向かっているのかも聞かないし、余計な事は話さない。
今私に必要なのは、ひたすらこの尻の痛さに耐える事だろう。

イテテテテテテー

ううむ、まさかこの小説を書いた作者様も、ヒロインがこんな事で悩むとか思ってないだろうな。
この際クッションでも何でも良いから、ヒロインのお尻の痛みに気付いてくれないだろうか。結構切実!!


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