57 / 122
56 ケイドシウスのその後⑥
ごくり、と喉が動く。
顔が媚びるように、ひく、と引き攣ったのを感じた。
じっと上から見下ろされている時間が、やけに長く感じた。
イレドシウスを守るはずの近衛隊はとうに制圧され、中には裏切った者もいるようだった。
いつの間にか両親である国王と王妃は別室へと移動させられたようで、いなくなっていた。
ケイドシウスがイレドシウスの頭を踏みつけていた足を退かすと、イレドシウスはばっと上半身を持ち上げ、体勢を整えようとする。
しかし結果的には両足を跪いた状態で首に刃をあてられ、両手を挙げて降伏するしかなかった。
「ご安心ください、兄上。私は王座を奪いにきたわけではありません。兄上にはきちんとこの国の王となるまで、頑張っていただく予定です。私にはそんなことより先にやらなければならないことがあるので、邪魔をせずに協力して欲しいのです。ただそれだけをお願いしにまいりました」
「な、なんだと……?」
イレドシウスは目を見開く。王座を奪いにきたわけではない?
そうであれば、この暴挙はなんなのだ。
「用があるのは、兄上ではなくそこの女です。兄上は容姿端麗ですし、この女でなくても妻のひとりやふたり、簡単に手に入るでしょう?立派な婚約者がいても、その女を含め何人ものお相手がいたのですから」
ケイドシウスの言葉に嘲りのニュアンスを感じて、イレドシウスは眉を顰める。
「お前……っ」
「イレドシウス様!助けてください!」
「ああ、悩む時間くらいは差し上げますよ。愛しい人を失う辛さは、私も十分わかっているつもりですから」
ケイドシウスはどすん、とイレドシウスの席……王太子しか座れない席に、我が物顔で座った。
首から刃が離れ、自由になったイレドシウスは、憤怒の形相で弟を睨みつけながら、それでもケイドシウスに掴みかかることなく先程の提案に思考を巡らせる。
ケイドシウスがこんなことをしでかしたのは、どうやらケイトリンのせいらしい。
そうでなければ、あんなに控え目で大人しく、従順だった弟が謀反を起こすはずがないのだ。
そうだ、もし今自分の隣にいたのがケイトリンではなくセヴリーヌだったのならば、この弟は跪いて忠誠を誓っていただろう。
「イレドシウス様!何をやっているの、さっさとやっつけて!こんなモブキャラ、ゲームには出てこなかったんだから、ヒーローのあなたが勝つに決まっているわ!」
ケイトリンのそんな言葉で、イレドシウスの怒りは簡単に、先ほど永遠の愛を誓ったばかりの妻へと向かった。
人前で「ゲーム」という変な言葉を使うなと、予言と言えとあれほど言ったのに、何度教えても態度を改めない女。
イレドシウスは自分の中で、あれほど愛しいと思っていた感情が急速に冷めていくのを感じた。
顔が媚びるように、ひく、と引き攣ったのを感じた。
じっと上から見下ろされている時間が、やけに長く感じた。
イレドシウスを守るはずの近衛隊はとうに制圧され、中には裏切った者もいるようだった。
いつの間にか両親である国王と王妃は別室へと移動させられたようで、いなくなっていた。
ケイドシウスがイレドシウスの頭を踏みつけていた足を退かすと、イレドシウスはばっと上半身を持ち上げ、体勢を整えようとする。
しかし結果的には両足を跪いた状態で首に刃をあてられ、両手を挙げて降伏するしかなかった。
「ご安心ください、兄上。私は王座を奪いにきたわけではありません。兄上にはきちんとこの国の王となるまで、頑張っていただく予定です。私にはそんなことより先にやらなければならないことがあるので、邪魔をせずに協力して欲しいのです。ただそれだけをお願いしにまいりました」
「な、なんだと……?」
イレドシウスは目を見開く。王座を奪いにきたわけではない?
そうであれば、この暴挙はなんなのだ。
「用があるのは、兄上ではなくそこの女です。兄上は容姿端麗ですし、この女でなくても妻のひとりやふたり、簡単に手に入るでしょう?立派な婚約者がいても、その女を含め何人ものお相手がいたのですから」
ケイドシウスの言葉に嘲りのニュアンスを感じて、イレドシウスは眉を顰める。
「お前……っ」
「イレドシウス様!助けてください!」
「ああ、悩む時間くらいは差し上げますよ。愛しい人を失う辛さは、私も十分わかっているつもりですから」
ケイドシウスはどすん、とイレドシウスの席……王太子しか座れない席に、我が物顔で座った。
首から刃が離れ、自由になったイレドシウスは、憤怒の形相で弟を睨みつけながら、それでもケイドシウスに掴みかかることなく先程の提案に思考を巡らせる。
ケイドシウスがこんなことをしでかしたのは、どうやらケイトリンのせいらしい。
そうでなければ、あんなに控え目で大人しく、従順だった弟が謀反を起こすはずがないのだ。
そうだ、もし今自分の隣にいたのがケイトリンではなくセヴリーヌだったのならば、この弟は跪いて忠誠を誓っていただろう。
「イレドシウス様!何をやっているの、さっさとやっつけて!こんなモブキャラ、ゲームには出てこなかったんだから、ヒーローのあなたが勝つに決まっているわ!」
ケイトリンのそんな言葉で、イレドシウスの怒りは簡単に、先ほど永遠の愛を誓ったばかりの妻へと向かった。
人前で「ゲーム」という変な言葉を使うなと、予言と言えとあれほど言ったのに、何度教えても態度を改めない女。
イレドシウスは自分の中で、あれほど愛しいと思っていた感情が急速に冷めていくのを感じた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。