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知ってますか?私はもう高校生なのですが。
「お待たせ、蘭ちゃん」
スポーツウェアじゃない凱逘が手を振りながら、改札の向こうからやってくる。
グラデーションのショールカーディガンに白のVネックカットソー、グレーのストレッチパンツという大人カラーで統一したコーディネートは凱逘にめちゃくちゃ似合っていて格好良かった。
同級生じゃ出せない大人の色気みたいなものを感じて、顔が赤くなる。
周りを歩く女性が、背の高いモデルの様な凱逘をちらちらと通りすがりに見ていくのが、遠目からだと良くわかった。
対して私は、オフショル風ボリューム袖のトップスに、ジーパン。
もう少し大人っぽくした方が良かったかな……いや、その前にもっと気合い入れて可愛くしてくれば良かった?
凱逘と並んだ時のアンバランスさが気になり出す。
誰かと比べて自分の格好が気になるなんて、初めての経験だ。
なのに、凱逘は私の目の前に来た途端、
「蘭ちゃん、制服姿も可愛いけど今日の格好も可愛いね」
と爽やかに言いながら、腕を出して来る。
「変な男に話し掛けられないかと、ヒヤヒヤしたよ」
私が出された腕をどうしたらよいのかわからなくて戸惑っていると、凱逘は私の手を取り軽くその腕にかけさせた。
……おおお、慣れてる慣れてる慣れてるよ……!!
大人だからって言うのもあるんだろうけど、私なんて凱逘の掌の上でコロコロ転がされる予感しかしない。
「デートのお誘いありがとう、今日は水族館に行きたいんだっけ?」
デート!?……そうか、私がデートに誘った事になるのか。
私は幾分動揺しながらも、凱逘に答えた。
「うん」
水族館というのは、女子高生のお小遣いからすると入園料がやや高い。
私がどんなに友達を誘っても、「何で魚を見るのに金を払わなきゃならん」「どうせなら遊園地行きたいから、その分お金が勿体ない」「カラオケの方がいいなぁ」と断られ続け、一人で行く勇気もなくだらだらと行けずに我慢していたのだ。
私のお小遣いは、シングルマザーの母と兄達が稼いだお金だ。
特に圭ちゃんは、家計を助ける為に大学へ進学せず、高校を出てから直ぐに社会人になり下の5人兄妹の面倒を金銭的にも見てくれていた。
だから、お小遣いを使う時は「重み」みたいなものを感じて、いつも躊躇してしまうのだけど、今日だけは楽しむ為に使うと決めて来た。
「高校生以上は……大人か。大人二枚」
……のだけど、気付いたら凱逘からチケットを渡された。
「凱逘、私、自分の分は払うよ」
「俺が蘭ちゃんに払わせる訳ないでしょ?」
「でも……」
「こういう時は、男の顔を立ててくれると、嬉しいな」
にっこり笑って言うものだから。
「……ありがとう」
つい、甘えてしまったりして。
どちらかと言うと強気で勝ち気な私は、同級生の中では姉御肌だ。
異性に甘える、なんて兄達以外ではあり得なかった。
何だか胸が、くすぐったい。
「ペンギンの餌撒きとトークショーが11時からだから、それまでに他見て回る?アシカショーもあるみたいだけど」
「大水槽の回廊が見たいな」
「じゃあ、まずはそれ見に行こうか」
凱逘は必ず、私を優先して徹底的にエスコートしてくれた。
少し足が疲れたなと思えば、「少し休まない?俺喉渇いたな」とか。
もう少し見たいけど凱逘が暇だろうから先に進もうとしても、「もう少し見たいんじゃない?」とか、とにかくよく人を見ている。
チラ、と凱逘を見ると、凱逘は微笑み返してくれた。
──違う、人を見ているんじゃない……私を、見ているんだ。
そう気付けば、頬に熱が集まる事を止められなかった。
☆☆☆
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
ストーカー化してしまった男とは、マックで10分話すだけでも時間が長く長く感じたのに、凱逘との時間はまるでタイムワープしたかの様に早かった。
「蘭ちゃん、今日は何時迄に帰るの?」
「ええと……夕飯、なら、一緒に……」
嘘。今日は珍しく迅ちゃん(二番目の兄)が実家に戻って来るから、夕飯までに帰って来なさいって言われてた。
けど、凱逘と一緒にもう少しだけいたい。
ご飯を一緒に食べたかった。
もじもじし出した私の頭にポンポンと手をのせて、凱逘は優しく微笑む。
「蘭ちゃん、夕飯はまた今度一緒に食べよ?今日はもう、送って行くから」
「や、やだ」
「蘭ちゃん……」
凱逘は困り顔だ。
こんな顔をさせたい訳じゃないのに。
私、本当に子供だ……情けなくなって、俯いた。
その時、急に地面が遠ざかって焦る。
「きゃ……」
「蘭ちゃん、これで許して?」
凱逘は笑って、私を高い高いする。
私は周りの目が気になって、それどころじゃなかった。
「も、もう良いから降ろしてっ!!帰るからっ!!」
赤面しながら、叫ぶ。
とん、と降ろした私の頬に、凱逘はちゅ、とキスをした。
「な、ななななな」
私は頬っぺたを押さえて挙動不審になる。
今、凱逘にキスされた!?
「蘭ちゃん、嘘だけはダメだよ?お互い信用がなくなっちゃうからね。俺も、蘭ちゃんに嘘はつかないって約束するから」
「わ、わかった……」
ボーッとしたまま、帰路につく。
ムカつく程、凱逘はいつも通りで。
もう、私は10歳じゃないのに。
子供扱いされて、だんだん腹が立ってきた。
圭ちゃんのお陰でやたら豪邸となった自宅前で、凱逘はまたあっさり帰ろうとする。
「じゃあ、蘭ちゃんまたね、今日は楽しかったよ」
「……ありがとう……あ、凱逘」
「ん?」
振り向いた凱逘のショールカーディガンを思いっきり両手で引っ張り、驚いた顔の凱逘の口に、ちゅ、と自分の口をくっ付けた。
「……もう、私高校生なんだから。キスは、口に、して欲しい」
言いながら、顔から火が吹きそうだった。
ロマンチックの欠片もない、しかも自分からしたキス。
凱逘が呆気に取られたのは一瞬だけで、すぐに眉を寄せた。
少し不機嫌そうな、初めて見る表情に心臓が跳ね上がる。
やり過ぎた?怒ってる?
「蘭ちゃん、友達にこういう事しちゃ、ダメだよ?」
口調はどこまでも優しくて、少し安心する。
わからないの?
私から言わなきゃ、ダメ??
少し目ですがってみたが、凱逘は自分からは言ってくれそうになかった。
「……あのね、やっぱり凱逘とお付き合いしたい、な……」
自信がなくて、声の大きさが尻すぼみになる。
「え?」
もう!絶対聞こえてるでしょ!?
「だからね、私、凱逘が好きっ!!」
半ばやけくそ気味に、私は叫んだ。
その瞬間、私は凱逘に抱き締められる。
「凱逘……」
「嬉しいよ、蘭ちゃん。今は家の前だから自粛するけど、本当はめちゃくちゃ今キスしたい」
「う、ん……」
今度は頬っぺたじゃなくて、彼女として、きちんとキスして欲しい。
私もぎゅ、と凱逘を抱き締め返した、その時だった。
「……お久しぶりです、凱逘さん。一緒に夕飯如何ですか?もしくは蘭、21時位迄に帰宅させて頂けるなら、連れて行っても構いませんが」
「きゃあああ!!迅ちゃんっっ」
「いえ、今日は十分歩いて疲れていると思いますので、またの機会に。では失礼致します」
慌てる私を尻目に、凱逘は淡々と迅ちゃんに挨拶してあっさりと手を振り去って行った。
「蘭、なかなか好物件手に入れたじゃないか」
クスクス笑ってからかう迅ちゃんに、「知らないっ!」と言って部屋に逃げた私は、やはり子供なのだと思う。
☆☆☆
それから3ヶ月、私と凱逘は順調に交際をしていた。
身体を繋げる事はなかったけど、たまーに大人のキスはしてくれる事があって。
凱逘のキスはいつも気持ち良くって、同級生なんかとしたキスがいかに拙いものだったのか、思い知らされる。
それまで、キスを気持ち良いと思った事がなかったから。
ニマニマと幸せを噛み締めていると、友達が「なーに、とうとう彼氏とCまでしちゃった?」と明け透けに聞いてくる。
「ううん、まだキスだけ」
「えっ!?蘭の彼氏、かなり年上じゃなかったっけ?」
「うん、10上だよ」
「それで、何もしてこないの?」
「……いやぁ、何もしてこないと言うか……」
何か出来る様な場所に遊びに行く事はなかったと言うか?
友達は、急に声を潜めて私に言った。
「……ねぇ、それって大丈夫なの?」
「何が?」
「完璧、お子様扱いされてない?」
衝撃が走った。
確かに、子供扱いが抜けずに常に余裕ある凱逘が憎たらしく思う時はあった。
けど、私は別に処女でもないし、先に進もうと思えば全く問題なく進める訳で。
……そんなに私、子供っぽくて魅力ないのかな?
先程までの幸福な気持ちは何処かへ飛んでいって、代わりに不安が胸を占めた。
「おはよー、翔真」
「おー」
今日は、翔真に聞きたい事があって、わざわざ時間を合わせて家を出ていた。
「あのさ、ちょっと聞いて良い?」
「何だよ」
「……男の人って、付き合い出したら直ぐにシたくなるものだよね?」
「何をだよ」
「えっち」
「……お前、朝からすげーネタぶっ込むなぁ。まぁ、そうだな。俺は少なくとも、付き合い出したらと言うより好きになったら直ぐシたくなるかな」
「だよねぇ」
今までお付き合いというものをしてきた男の子達も、そうだった。
下手すりゃ、付き合って一週間でホテルに連れ込もうとした奴だっている。
「じゃあさ、付き合っても直ぐにシない場合って何?」
「んー、告白された場合で、ノリで付き合い出したけどやっぱり食指が動かない、とか」
「例えば、妹みたいな子の場合とかは?」
「あー、直ぐにそういう気にはならねーかも」
「そっか……そうだよね……」
やっぱり、私から迫るしかないのかな?
いつまでも10歳児じゃないって、わかって貰わなきゃ。
ウンウン悩んでいた私には、その後の翔真の言葉は頭に入って来なかった。
「後は、相手を怖がらせたくない場合とか、相手をすげー好きで嫌われたくない場合とか、とにかく相手を大事にしたい場合とかも、我慢するかもな」
☆☆☆
「凱逘、今日は私、凱逘のお家に遊びに行きたいっ!」
ヤる気満々で凱逘に言う。
この日の為に、下着も新調したし、きちんとムダ毛の処理だってした。
朝、お風呂に入って全身ピカピカに磨きあげたし、贅沢してプルプル艶々になるクリームも身体中に塗ってきた。
「うーん、別に良いけど……何も面白いものは置いてないよ?」
「いいの、行きたいっ」
「わかった。じゃあ、途中で何かDVD借りて二人で見ようか」
「うん、そうする」
わーい!初めてのお宅訪問だ♪
私の好きな、サスペンス&アクションのDVDを借りて、凱逘のお家にお邪魔する。
「……ここ?」
「うん」
見上げる程の、高層マンションだった。
しかも何だか、マンションなのにホテルみたいに人がいる?
初めての経験に、キョロキョロしながらも凱逘についていった。
エレベーターを待ちながら、先程までのウキウキした気分が下降していく。
凱逘は、大人なんだなぁって実感したから。
私みたいな高校生の子供なんて、本来なら……親友の妹でもなきゃ、相手にされない位の人なんじゃないかと思って。
「……蘭ちゃん?」
私の様子に、凱逘が声を掛けてくれる。
瞳だけで、「どうかした?」って。
あぁ、この人は本当に、私の事を良く見てくれている。
単純にもそれで少し、気分は上向いて。
「ううん、高そうなマンションだなー、って、少し緊張しちゃった」
「……そう」
なら良いけど、と言いながら、着いたエレベーターにスマートに乗り込み、私を誘導してくれる。
シュン、とエレベーターの扉が閉まったと同時に、凱逘が私にキスをしてきた。
「んふ、ぅんっ……」
くちゅ、くちゅ、と舌を絡ませ、息継ぎも満足に出来ず、窒息するのではないかと思う程に、咥内を貪られた。
ふぅ、ふぅ、と必死に鼻で息をするが、私の腰は砕け、凱逘に支えられなければ立っていられない程だ。
「……ふふ、蘭ちゃん、可愛い。あー、防犯カメラあるのについ我慢出来なかったよ」
凱逘は何でもない事の様に言い、私は真っ赤になって、凱逘の逞しい胸をぽかぽか叩いた。
スポーツウェアじゃない凱逘が手を振りながら、改札の向こうからやってくる。
グラデーションのショールカーディガンに白のVネックカットソー、グレーのストレッチパンツという大人カラーで統一したコーディネートは凱逘にめちゃくちゃ似合っていて格好良かった。
同級生じゃ出せない大人の色気みたいなものを感じて、顔が赤くなる。
周りを歩く女性が、背の高いモデルの様な凱逘をちらちらと通りすがりに見ていくのが、遠目からだと良くわかった。
対して私は、オフショル風ボリューム袖のトップスに、ジーパン。
もう少し大人っぽくした方が良かったかな……いや、その前にもっと気合い入れて可愛くしてくれば良かった?
凱逘と並んだ時のアンバランスさが気になり出す。
誰かと比べて自分の格好が気になるなんて、初めての経験だ。
なのに、凱逘は私の目の前に来た途端、
「蘭ちゃん、制服姿も可愛いけど今日の格好も可愛いね」
と爽やかに言いながら、腕を出して来る。
「変な男に話し掛けられないかと、ヒヤヒヤしたよ」
私が出された腕をどうしたらよいのかわからなくて戸惑っていると、凱逘は私の手を取り軽くその腕にかけさせた。
……おおお、慣れてる慣れてる慣れてるよ……!!
大人だからって言うのもあるんだろうけど、私なんて凱逘の掌の上でコロコロ転がされる予感しかしない。
「デートのお誘いありがとう、今日は水族館に行きたいんだっけ?」
デート!?……そうか、私がデートに誘った事になるのか。
私は幾分動揺しながらも、凱逘に答えた。
「うん」
水族館というのは、女子高生のお小遣いからすると入園料がやや高い。
私がどんなに友達を誘っても、「何で魚を見るのに金を払わなきゃならん」「どうせなら遊園地行きたいから、その分お金が勿体ない」「カラオケの方がいいなぁ」と断られ続け、一人で行く勇気もなくだらだらと行けずに我慢していたのだ。
私のお小遣いは、シングルマザーの母と兄達が稼いだお金だ。
特に圭ちゃんは、家計を助ける為に大学へ進学せず、高校を出てから直ぐに社会人になり下の5人兄妹の面倒を金銭的にも見てくれていた。
だから、お小遣いを使う時は「重み」みたいなものを感じて、いつも躊躇してしまうのだけど、今日だけは楽しむ為に使うと決めて来た。
「高校生以上は……大人か。大人二枚」
……のだけど、気付いたら凱逘からチケットを渡された。
「凱逘、私、自分の分は払うよ」
「俺が蘭ちゃんに払わせる訳ないでしょ?」
「でも……」
「こういう時は、男の顔を立ててくれると、嬉しいな」
にっこり笑って言うものだから。
「……ありがとう」
つい、甘えてしまったりして。
どちらかと言うと強気で勝ち気な私は、同級生の中では姉御肌だ。
異性に甘える、なんて兄達以外ではあり得なかった。
何だか胸が、くすぐったい。
「ペンギンの餌撒きとトークショーが11時からだから、それまでに他見て回る?アシカショーもあるみたいだけど」
「大水槽の回廊が見たいな」
「じゃあ、まずはそれ見に行こうか」
凱逘は必ず、私を優先して徹底的にエスコートしてくれた。
少し足が疲れたなと思えば、「少し休まない?俺喉渇いたな」とか。
もう少し見たいけど凱逘が暇だろうから先に進もうとしても、「もう少し見たいんじゃない?」とか、とにかくよく人を見ている。
チラ、と凱逘を見ると、凱逘は微笑み返してくれた。
──違う、人を見ているんじゃない……私を、見ているんだ。
そう気付けば、頬に熱が集まる事を止められなかった。
☆☆☆
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
ストーカー化してしまった男とは、マックで10分話すだけでも時間が長く長く感じたのに、凱逘との時間はまるでタイムワープしたかの様に早かった。
「蘭ちゃん、今日は何時迄に帰るの?」
「ええと……夕飯、なら、一緒に……」
嘘。今日は珍しく迅ちゃん(二番目の兄)が実家に戻って来るから、夕飯までに帰って来なさいって言われてた。
けど、凱逘と一緒にもう少しだけいたい。
ご飯を一緒に食べたかった。
もじもじし出した私の頭にポンポンと手をのせて、凱逘は優しく微笑む。
「蘭ちゃん、夕飯はまた今度一緒に食べよ?今日はもう、送って行くから」
「や、やだ」
「蘭ちゃん……」
凱逘は困り顔だ。
こんな顔をさせたい訳じゃないのに。
私、本当に子供だ……情けなくなって、俯いた。
その時、急に地面が遠ざかって焦る。
「きゃ……」
「蘭ちゃん、これで許して?」
凱逘は笑って、私を高い高いする。
私は周りの目が気になって、それどころじゃなかった。
「も、もう良いから降ろしてっ!!帰るからっ!!」
赤面しながら、叫ぶ。
とん、と降ろした私の頬に、凱逘はちゅ、とキスをした。
「な、ななななな」
私は頬っぺたを押さえて挙動不審になる。
今、凱逘にキスされた!?
「蘭ちゃん、嘘だけはダメだよ?お互い信用がなくなっちゃうからね。俺も、蘭ちゃんに嘘はつかないって約束するから」
「わ、わかった……」
ボーッとしたまま、帰路につく。
ムカつく程、凱逘はいつも通りで。
もう、私は10歳じゃないのに。
子供扱いされて、だんだん腹が立ってきた。
圭ちゃんのお陰でやたら豪邸となった自宅前で、凱逘はまたあっさり帰ろうとする。
「じゃあ、蘭ちゃんまたね、今日は楽しかったよ」
「……ありがとう……あ、凱逘」
「ん?」
振り向いた凱逘のショールカーディガンを思いっきり両手で引っ張り、驚いた顔の凱逘の口に、ちゅ、と自分の口をくっ付けた。
「……もう、私高校生なんだから。キスは、口に、して欲しい」
言いながら、顔から火が吹きそうだった。
ロマンチックの欠片もない、しかも自分からしたキス。
凱逘が呆気に取られたのは一瞬だけで、すぐに眉を寄せた。
少し不機嫌そうな、初めて見る表情に心臓が跳ね上がる。
やり過ぎた?怒ってる?
「蘭ちゃん、友達にこういう事しちゃ、ダメだよ?」
口調はどこまでも優しくて、少し安心する。
わからないの?
私から言わなきゃ、ダメ??
少し目ですがってみたが、凱逘は自分からは言ってくれそうになかった。
「……あのね、やっぱり凱逘とお付き合いしたい、な……」
自信がなくて、声の大きさが尻すぼみになる。
「え?」
もう!絶対聞こえてるでしょ!?
「だからね、私、凱逘が好きっ!!」
半ばやけくそ気味に、私は叫んだ。
その瞬間、私は凱逘に抱き締められる。
「凱逘……」
「嬉しいよ、蘭ちゃん。今は家の前だから自粛するけど、本当はめちゃくちゃ今キスしたい」
「う、ん……」
今度は頬っぺたじゃなくて、彼女として、きちんとキスして欲しい。
私もぎゅ、と凱逘を抱き締め返した、その時だった。
「……お久しぶりです、凱逘さん。一緒に夕飯如何ですか?もしくは蘭、21時位迄に帰宅させて頂けるなら、連れて行っても構いませんが」
「きゃあああ!!迅ちゃんっっ」
「いえ、今日は十分歩いて疲れていると思いますので、またの機会に。では失礼致します」
慌てる私を尻目に、凱逘は淡々と迅ちゃんに挨拶してあっさりと手を振り去って行った。
「蘭、なかなか好物件手に入れたじゃないか」
クスクス笑ってからかう迅ちゃんに、「知らないっ!」と言って部屋に逃げた私は、やはり子供なのだと思う。
☆☆☆
それから3ヶ月、私と凱逘は順調に交際をしていた。
身体を繋げる事はなかったけど、たまーに大人のキスはしてくれる事があって。
凱逘のキスはいつも気持ち良くって、同級生なんかとしたキスがいかに拙いものだったのか、思い知らされる。
それまで、キスを気持ち良いと思った事がなかったから。
ニマニマと幸せを噛み締めていると、友達が「なーに、とうとう彼氏とCまでしちゃった?」と明け透けに聞いてくる。
「ううん、まだキスだけ」
「えっ!?蘭の彼氏、かなり年上じゃなかったっけ?」
「うん、10上だよ」
「それで、何もしてこないの?」
「……いやぁ、何もしてこないと言うか……」
何か出来る様な場所に遊びに行く事はなかったと言うか?
友達は、急に声を潜めて私に言った。
「……ねぇ、それって大丈夫なの?」
「何が?」
「完璧、お子様扱いされてない?」
衝撃が走った。
確かに、子供扱いが抜けずに常に余裕ある凱逘が憎たらしく思う時はあった。
けど、私は別に処女でもないし、先に進もうと思えば全く問題なく進める訳で。
……そんなに私、子供っぽくて魅力ないのかな?
先程までの幸福な気持ちは何処かへ飛んでいって、代わりに不安が胸を占めた。
「おはよー、翔真」
「おー」
今日は、翔真に聞きたい事があって、わざわざ時間を合わせて家を出ていた。
「あのさ、ちょっと聞いて良い?」
「何だよ」
「……男の人って、付き合い出したら直ぐにシたくなるものだよね?」
「何をだよ」
「えっち」
「……お前、朝からすげーネタぶっ込むなぁ。まぁ、そうだな。俺は少なくとも、付き合い出したらと言うより好きになったら直ぐシたくなるかな」
「だよねぇ」
今までお付き合いというものをしてきた男の子達も、そうだった。
下手すりゃ、付き合って一週間でホテルに連れ込もうとした奴だっている。
「じゃあさ、付き合っても直ぐにシない場合って何?」
「んー、告白された場合で、ノリで付き合い出したけどやっぱり食指が動かない、とか」
「例えば、妹みたいな子の場合とかは?」
「あー、直ぐにそういう気にはならねーかも」
「そっか……そうだよね……」
やっぱり、私から迫るしかないのかな?
いつまでも10歳児じゃないって、わかって貰わなきゃ。
ウンウン悩んでいた私には、その後の翔真の言葉は頭に入って来なかった。
「後は、相手を怖がらせたくない場合とか、相手をすげー好きで嫌われたくない場合とか、とにかく相手を大事にしたい場合とかも、我慢するかもな」
☆☆☆
「凱逘、今日は私、凱逘のお家に遊びに行きたいっ!」
ヤる気満々で凱逘に言う。
この日の為に、下着も新調したし、きちんとムダ毛の処理だってした。
朝、お風呂に入って全身ピカピカに磨きあげたし、贅沢してプルプル艶々になるクリームも身体中に塗ってきた。
「うーん、別に良いけど……何も面白いものは置いてないよ?」
「いいの、行きたいっ」
「わかった。じゃあ、途中で何かDVD借りて二人で見ようか」
「うん、そうする」
わーい!初めてのお宅訪問だ♪
私の好きな、サスペンス&アクションのDVDを借りて、凱逘のお家にお邪魔する。
「……ここ?」
「うん」
見上げる程の、高層マンションだった。
しかも何だか、マンションなのにホテルみたいに人がいる?
初めての経験に、キョロキョロしながらも凱逘についていった。
エレベーターを待ちながら、先程までのウキウキした気分が下降していく。
凱逘は、大人なんだなぁって実感したから。
私みたいな高校生の子供なんて、本来なら……親友の妹でもなきゃ、相手にされない位の人なんじゃないかと思って。
「……蘭ちゃん?」
私の様子に、凱逘が声を掛けてくれる。
瞳だけで、「どうかした?」って。
あぁ、この人は本当に、私の事を良く見てくれている。
単純にもそれで少し、気分は上向いて。
「ううん、高そうなマンションだなー、って、少し緊張しちゃった」
「……そう」
なら良いけど、と言いながら、着いたエレベーターにスマートに乗り込み、私を誘導してくれる。
シュン、とエレベーターの扉が閉まったと同時に、凱逘が私にキスをしてきた。
「んふ、ぅんっ……」
くちゅ、くちゅ、と舌を絡ませ、息継ぎも満足に出来ず、窒息するのではないかと思う程に、咥内を貪られた。
ふぅ、ふぅ、と必死に鼻で息をするが、私の腰は砕け、凱逘に支えられなければ立っていられない程だ。
「……ふふ、蘭ちゃん、可愛い。あー、防犯カメラあるのについ我慢出来なかったよ」
凱逘は何でもない事の様に言い、私は真っ赤になって、凱逘の逞しい胸をぽかぽか叩いた。
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