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「お前、勃たないんだって?」
「はぁ?」
ある日、私達が公舎の食堂で食事をしていると、あまり評判の良くない五級魔導士がいきなり声を掛けて来た。
前々から、やたらアクイットに険のある言い方をする奴だと思っていたが、どうやらそいつの好きな女性がアクイットみたいなガタイのいい男じゃないと嫌だ、と言ったらしい。
つまり振られた訳だが、それにしてもその恨みをアクイットにぶつけるのは間違っている。
しかも、公共の場でそんなプライバシーに踏み込んだことを話し出すなんて、私は怒りを抑えることが出来ずに突っかかろうとした。
「すげー美人から迫られても、ぴくとも動かなかったって?」
「何言ってるんですか、いい加減にして下さい!!」
私はその魔導士の胸倉を掴もうとしたが、そいつに伸ばした手は肝心のアクイットに止められてしまった。
「あー、はい。そうですね」
アクイットは淡々と、無表情に答える。
「やっぱり!いやー、勿体ないねぇ。先輩達に相談した?」
ニヤニヤ笑いながら話を続けるその男を殴りたくて私は暴れたが、アクイットに両手をちょっと抑えられるだけで全く身動きが取れなくなった。
「いえ、このままで良いので」
アクイットは普通に答えるのだが、自分の同僚が公衆の面前で辱めを受けたことに腹が立ちすぎて、私の目には涙が溜まった。
「アクイット、何でっ!……離してって!」
「え?何でって、昔毒を盛られてから、勃たなくなった」
ち、ちがーう!!そっちの「話して」じゃない!「離して」だ!!
しかし、アクイットが飄々とそう言うのに、逆にその魔導士はたじろいだ。
平民は、毒なんて盛られない。つまりアクイットはそうした毒を盛られるような身分だと気付いたのだろう。
「へぇ。お前も大変だな。まぁ、これからも女の本当のよさを知らないで生きるってのは可哀想だが、他の楽しみ見つけて頑張れよ」
「ありがとうございます」
何で、何で嫌味しか言えない奴に、お礼なんて言えるんだ!!
私は俯いた。涙が零れる。
私がいくら憤っても、私が文句を言う立場でないことはわかっていた。
二人の会話の中では既に着地点を見つけていて、収束したのだから。
「うぅ~~……」
その魔導士が去ると、私はテーブルに突っ伏した。
「メティル、大丈夫か?」
「……大丈夫じゃないのは、アクイットでしょ……」
「いや、俺は全く問題ない。お前が怒ってくれて、嬉しいくらいだ」
「何よそれ……」
私は、三年一緒に仕事をしていてアクイットが怒ったところを見たことがなかった。
「何よ、それ……毒を盛られたって、何よ……」
毒を盛られた時も、同じように怒らなかったのだろうか?今みたいに、無表情なまま、苦しんでいることを誰にも悟らせなかったのだろうか?
「メティル、ちょっと来い」
泣き出した私の腕を引いて、アクイットは自分の部屋に場所を移した。そして、自分の過去を教えてくれた。
「はぁ?」
ある日、私達が公舎の食堂で食事をしていると、あまり評判の良くない五級魔導士がいきなり声を掛けて来た。
前々から、やたらアクイットに険のある言い方をする奴だと思っていたが、どうやらそいつの好きな女性がアクイットみたいなガタイのいい男じゃないと嫌だ、と言ったらしい。
つまり振られた訳だが、それにしてもその恨みをアクイットにぶつけるのは間違っている。
しかも、公共の場でそんなプライバシーに踏み込んだことを話し出すなんて、私は怒りを抑えることが出来ずに突っかかろうとした。
「すげー美人から迫られても、ぴくとも動かなかったって?」
「何言ってるんですか、いい加減にして下さい!!」
私はその魔導士の胸倉を掴もうとしたが、そいつに伸ばした手は肝心のアクイットに止められてしまった。
「あー、はい。そうですね」
アクイットは淡々と、無表情に答える。
「やっぱり!いやー、勿体ないねぇ。先輩達に相談した?」
ニヤニヤ笑いながら話を続けるその男を殴りたくて私は暴れたが、アクイットに両手をちょっと抑えられるだけで全く身動きが取れなくなった。
「いえ、このままで良いので」
アクイットは普通に答えるのだが、自分の同僚が公衆の面前で辱めを受けたことに腹が立ちすぎて、私の目には涙が溜まった。
「アクイット、何でっ!……離してって!」
「え?何でって、昔毒を盛られてから、勃たなくなった」
ち、ちがーう!!そっちの「話して」じゃない!「離して」だ!!
しかし、アクイットが飄々とそう言うのに、逆にその魔導士はたじろいだ。
平民は、毒なんて盛られない。つまりアクイットはそうした毒を盛られるような身分だと気付いたのだろう。
「へぇ。お前も大変だな。まぁ、これからも女の本当のよさを知らないで生きるってのは可哀想だが、他の楽しみ見つけて頑張れよ」
「ありがとうございます」
何で、何で嫌味しか言えない奴に、お礼なんて言えるんだ!!
私は俯いた。涙が零れる。
私がいくら憤っても、私が文句を言う立場でないことはわかっていた。
二人の会話の中では既に着地点を見つけていて、収束したのだから。
「うぅ~~……」
その魔導士が去ると、私はテーブルに突っ伏した。
「メティル、大丈夫か?」
「……大丈夫じゃないのは、アクイットでしょ……」
「いや、俺は全く問題ない。お前が怒ってくれて、嬉しいくらいだ」
「何よそれ……」
私は、三年一緒に仕事をしていてアクイットが怒ったところを見たことがなかった。
「何よ、それ……毒を盛られたって、何よ……」
毒を盛られた時も、同じように怒らなかったのだろうか?今みたいに、無表情なまま、苦しんでいることを誰にも悟らせなかったのだろうか?
「メティル、ちょっと来い」
泣き出した私の腕を引いて、アクイットは自分の部屋に場所を移した。そして、自分の過去を教えてくれた。
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