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綾乃①

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私の彼氏の話をしましょう。

友人に半ば騙され、出場した大学ミスコンの企画者で、その場のノリで私に告白?したお調子者。
そこで断れる人いますか?いるかもしれませんが、私はとにかく沢山の興味本位な視線から逃げたくて、俯いて首を縦に振ることしか出来なかった。

それを、後悔はしていない。
初めてお付き合いをした彼は、自分の感情にどこまでも正直で、どこか憎めなくて、明るく、パッと見雰囲気イケメンで。
初めて身体を許した時も、一応1ヶ月は待ってくれたし、自分本位で気持ち良くはなかったけど、縁があって結ばれた気がして嬉しかった。

まぁ、馬鹿だ馬鹿だ、とは思ってましたよ。酒に酔って路上でストリップ始めたり、原付バイクで車を縫うように走って事故ったりしてたから。

でもね、ここまでとは思わなかった。

付き合ってから一年位経って、良いところも悪いところも知って、それなりに情もわいて。パチンコでスッた!と泣きつかれれば、仕方ないなぁと少しカンパしてでも、くよくよしない生き方やぐいぐい引っ張ってくれる好ましいところもあって、付き合い続けて。

……その結果が、これですか。
彼氏は、笑顔でのたまった。
綾乃あやの!今日はこいつらとスワッピングしようと思って呼んだんだ!」
「……スワッピング?なぁに、それ?」
「夫婦とか恋人とかで相手を変えてセックスすんだよ。俺の綾乃にこいつが夢中になっているトコとか見れば、めっちゃ興奮するわ」
「……はい?」

今日はダブルデートしようぜ!と誘われてやってきた彼氏のお友達のお部屋。
基本的に人見知りだし、ダブルデートとやらには全く興味はないどころか避けたいけど、彼氏が嬉しそうに提案するものだから頷いてしまって。
どうしてダブルデートなのに外じゃないんだろう?と思いながらも、もしかしたら鍋パでもするつもりなのだろうかと自らを納得させてやってきたその部屋で、彼氏はお部屋に到着するなりとんでもない発言をかましてくれました。
彼氏の友達は、見かければ挨拶位はする程度のお付き合い。彼氏が入会している映研サークルの仲間で、名前は確か……侑史ゆうし、だった気がする。そしてその更に隣には、派手なつけまつげをした美人な女性。二人して私の彼氏のとんでも発言に動じないという事は、初めからそれ・・が目的だと知っていたのだろうか。

「ほら、俺らのセックスもマンネリ化してきたじゃん?ここで一回、新しい刺激入れてさー、お互いの魅力を再確認できたら最高だよな!」
「……」
何言ってるんだろう、このお馬鹿さんは。最低としか思えませんが?
「お互いに見せ合いながらすれば、こう……嫉妬とか掻き立てられる最高のシチュエーションだろ?綾乃が良いなら、同じ部屋でお互いを見ながらとかさ─…」
「ストップ!……本気ですか?」
「本気も本気!ほら、折角来て貰ったのに、侑史達待たせて悪いからさー、さっさとヤろうぜ」
唖然とした私を置いてきぼりにし、彼氏は私の目の前で女性の腰に手を回して侑史君の部屋のソファーへ誘い座ると、なんとディープキスをし始めた。
「……」
彼氏と見知らぬ女のキスを見なきゃいけないこの状況に頭の判断がつかず、悲しい気持ちが胸いっぱいに広がり、目に涙が溜まる。

いやいや泣いてなるものですか。ここは一つ、怒鳴って彼氏の目を覚まして別れて逃げよう。
私がすぅ、と息を吸い込んだタイミングで、ス、とブルーのチェック柄のハンカチが目の前に差し出される。驚いてハンカチを差し出した持ち主を見れば、侑史君が私の耳に口を寄せて、「……大丈夫?涙、流れてる」と教えてくれた。
一生懸命耐えたつもりだったけど、私の涙の防波堤はあっさり決壊してしまった様だ。

私がおずおずとそのハンカチを受け取ると、「ここにいるのは辛いよね、ちょっと部屋リビングの外に出ようか」と小さな声で苦笑して言う。私は渡りに船とばかりに頷く。ここには居たくない。
「ぁんっ……」
艶めいた声に驚いて、反射的に顔を上げてしまったことを後悔した。
ソファに女性を押し倒した彼氏は、嬉々として彼女の胸をまさぐり、躊躇なく深いキスを続けている。
私は慌てて隣に立つ侑史君を見たが、彼は無表情だ。……私と同じでこの光景はやはり辛いのだろうか?無理してないだろうか?それとも、彼氏の提案を飲んだだけあって平気なんだろうか?
いまいち侑史君の気落ちはわからなかったけど、彼はそんな戸惑う私の手を引っ張ってリビングを後にした。

連れて行かれた先は寝室で、私はベッドを見た瞬間に警戒して足を止める。
侑史君はそんな私の反応を予想していたのか、「大丈夫、絶対に綾乃さんが嫌がる事はしないって約束する」と言って、「俺はこっちの椅子に座るからさ」と、寝室の窓際にあるパソコンデスクの椅子に座ってくれた。
「ありがとう」
私は彼にお礼を言ってそっと寝室に入り、ベッドの隅に座らせて貰う。
その場で踵を返して侑史君の部屋を飛び出さなかった位には、私の中に「信用してもいい」という気持ちと、彼氏に裏切られたというショックで「もうどうなってもいい」という気持ちがあったのだ。
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