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19 パーティーでの会話
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「大丈夫か?」
「うん……えと、凄く気持ち良かった、よ?」
僕は羞恥心で顔を赤くしながらも、素直な感想を口にする。
「そうか、なら良かった……」
ホッとした表情の清流に自分から顔を寄せてちゅ、と口付け、「お休みなさい」と伝えた。
一瞬目を見開き、そのあと嬉しそうに顔を綻ばせた清流が、僕の頬にキスをお返しをする。
「おやすみ、世那。また明日」
清流に抱きしめられるようにして、僕たちは眠りにつく。
この腕の重みも、すうすうと規則正しい気持ち良さそうな清流の寝息も、この三ヶ月ですっかり慣れ親しんでしまった。
三ヶ月経っても清流は僕を好きでいてくれると、信じたい。
その行動にやましいことなんてないと、思ってる。
――なのに。
お酒も入っているのにどうしても、今日のパーティーで部下たちから聞いてしまった話が気になって、僕は寝付けないでいた。
***
業界最大手から父の会社に転職した清流は、若いのに僕と同じ課長という管理職に就いた。
だから会社にいる全社員から注目を浴びている。
若い男性社員から見れば出世の邪魔をするライバルであるし、若い女性社員から見れば将来有望な恋人候補だ。
何か聞かれたら、僕たちが同級生だということは公表するけれども、お試し期間の間は住所も移動していないことだし同居していることは伏せておこう、という方向で清流とは話がついた。
それでも帰りが一緒だったり朝が一緒だったり、二人がいるところを見られてしまう可能性もあるから、お互いの家に泊りに行く程度には仲が良いという設定だ。
会社の役職に就いている重鎮たちは、「どんな奴なんだ?」と僕に聞いてくるから、僕は当たり障りなく「昔から頭がいい奴でしたよ」と笑顔で答えている。
「カッコイイですよね!」と話し掛けてくる若い女性社員には「昔からモテてたよ」と答えたし、若い男性社員には「僕よりよっぽど出来る奴だから」と紹介していた。
ヤンキーだったという事実は伏せたけど、嘘は言っていない。
そしてそれは、今日のパーティーで僕の周りから重鎮たちが去り、ちらほらと部下たちが集まって来た時のことだった。
『天海課長、飲んでますか~?』
気さくに声を掛けてくれたのは、僕を慕ってくれている年下の男性社員だ。
僕が開発部からいた時から声を掛けたかったけど、自分と関わりがなくて声を掛けられなかった、営業部に来て貰えて嬉しい、と上手に上司をヨイショする能力のある部下である。
そんな彼が、女性社員に囲まれている清流を眺めながら言った。
『天海課長って、相楽課長と同級生なんですよね?』
『うん、そうだよ』
『あんな大企業からうちにわざわざ転職したなんて、何か理由があるんですかね~』
『うーん、前の会社は大手なだけあって、仕事が休みなしで随分と大変だったみたい』
これも、嘘ではない。
『じゃあやっぱり、彼女と会う時間が欲しかったんですかね』
話したかった本題はこれか、と直ぐに気付けるような、ニンマリといった顔で彼は続ける。
『彼女?』
『相楽課長って、女子社員からの人気が凄いですけど、彼女いますよね?』
『えーっと、どうだろう』
プライベートなことはわからない、と言葉を濁そうとしたけど、彼は空気を読んでくれなかった。
流石酔っ払い、怖いものなしだ。
『ちょっと天海課長、お互いの家に遊びに行くくらい仲が良いのに、知らないっていうのはないんじゃないですか~』
ここで仲が良い設定を逆手にとられて、僕は苦笑いするしかない。
『実は僕、営業先で、相楽課長と会ったことあるんです。背も高いしイケメンだから覚えていたんですけど、半年前くらいに綺麗めな女の人とホテルに入っていくの、見たことがあって。そのことは最近まですっかり忘れていたんですけど、ついこの間、偶然同じホテルに同じ人と腕を組んで入っていくの、見たんですよ』
『へ……え、そうなんだ』
表情筋が上手く使えているのか、わからなかった。
「うん……えと、凄く気持ち良かった、よ?」
僕は羞恥心で顔を赤くしながらも、素直な感想を口にする。
「そうか、なら良かった……」
ホッとした表情の清流に自分から顔を寄せてちゅ、と口付け、「お休みなさい」と伝えた。
一瞬目を見開き、そのあと嬉しそうに顔を綻ばせた清流が、僕の頬にキスをお返しをする。
「おやすみ、世那。また明日」
清流に抱きしめられるようにして、僕たちは眠りにつく。
この腕の重みも、すうすうと規則正しい気持ち良さそうな清流の寝息も、この三ヶ月ですっかり慣れ親しんでしまった。
三ヶ月経っても清流は僕を好きでいてくれると、信じたい。
その行動にやましいことなんてないと、思ってる。
――なのに。
お酒も入っているのにどうしても、今日のパーティーで部下たちから聞いてしまった話が気になって、僕は寝付けないでいた。
***
業界最大手から父の会社に転職した清流は、若いのに僕と同じ課長という管理職に就いた。
だから会社にいる全社員から注目を浴びている。
若い男性社員から見れば出世の邪魔をするライバルであるし、若い女性社員から見れば将来有望な恋人候補だ。
何か聞かれたら、僕たちが同級生だということは公表するけれども、お試し期間の間は住所も移動していないことだし同居していることは伏せておこう、という方向で清流とは話がついた。
それでも帰りが一緒だったり朝が一緒だったり、二人がいるところを見られてしまう可能性もあるから、お互いの家に泊りに行く程度には仲が良いという設定だ。
会社の役職に就いている重鎮たちは、「どんな奴なんだ?」と僕に聞いてくるから、僕は当たり障りなく「昔から頭がいい奴でしたよ」と笑顔で答えている。
「カッコイイですよね!」と話し掛けてくる若い女性社員には「昔からモテてたよ」と答えたし、若い男性社員には「僕よりよっぽど出来る奴だから」と紹介していた。
ヤンキーだったという事実は伏せたけど、嘘は言っていない。
そしてそれは、今日のパーティーで僕の周りから重鎮たちが去り、ちらほらと部下たちが集まって来た時のことだった。
『天海課長、飲んでますか~?』
気さくに声を掛けてくれたのは、僕を慕ってくれている年下の男性社員だ。
僕が開発部からいた時から声を掛けたかったけど、自分と関わりがなくて声を掛けられなかった、営業部に来て貰えて嬉しい、と上手に上司をヨイショする能力のある部下である。
そんな彼が、女性社員に囲まれている清流を眺めながら言った。
『天海課長って、相楽課長と同級生なんですよね?』
『うん、そうだよ』
『あんな大企業からうちにわざわざ転職したなんて、何か理由があるんですかね~』
『うーん、前の会社は大手なだけあって、仕事が休みなしで随分と大変だったみたい』
これも、嘘ではない。
『じゃあやっぱり、彼女と会う時間が欲しかったんですかね』
話したかった本題はこれか、と直ぐに気付けるような、ニンマリといった顔で彼は続ける。
『彼女?』
『相楽課長って、女子社員からの人気が凄いですけど、彼女いますよね?』
『えーっと、どうだろう』
プライベートなことはわからない、と言葉を濁そうとしたけど、彼は空気を読んでくれなかった。
流石酔っ払い、怖いものなしだ。
『ちょっと天海課長、お互いの家に遊びに行くくらい仲が良いのに、知らないっていうのはないんじゃないですか~』
ここで仲が良い設定を逆手にとられて、僕は苦笑いするしかない。
『実は僕、営業先で、相楽課長と会ったことあるんです。背も高いしイケメンだから覚えていたんですけど、半年前くらいに綺麗めな女の人とホテルに入っていくの、見たことがあって。そのことは最近まですっかり忘れていたんですけど、ついこの間、偶然同じホテルに同じ人と腕を組んで入っていくの、見たんですよ』
『へ……え、そうなんだ』
表情筋が上手く使えているのか、わからなかった。
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