それはもう、終わった恋だから

イセヤ レキ

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「しずせんせい、ばいばい~」
「はい、さようなら。また来週ね」

母に引かれながらもこちらを振り返り、小さな手をぶんぶんと懸命に振る可愛い園児に、「しずせんせい」こと町田まちだ静流しずるはにっこり笑いかけた。

男性であるが、ふんわりとした雰囲気の静流は園児からも保護者からも同僚からも癒されキャラとして親しまれている。

仕事もそつなくこなす美形であるが、静流が独身である女性の同僚やシンママからのアプローチをそこまで受けないですむのは、本人は気づいていないが特に仕事中はあまり男らしさを感じさせない性格だからなのかもしれない。

「町田さん、今日は延長保育もないし、掃除を終えたらもう上がっていいわよ」
「はい、ありがとうございます」

静流は月曜の事前準備と掃除を終えると、「お疲れ様です」と声を掛けながら同僚のベテラン保育士にぺこりと頭を下げて仕事場を離れた。

静流がちらりと左手を持ち上げてその手首に光る腕時計を見れば、まだ十八時半。
普段の週末であればこのままスーパーに寄っておつまみを適当に買い晩酌でもするのだが、今日は同窓会がある。

今日は珍しく予定通りに仕事が終わったなと思いながら、自宅とは逆方面に向かうホームに立つ。
そして、この辺りで一番大きな飲み屋街のある駅方面へと向かった。


***


「久しぶり」

賑やかに話すグループを見つけて、静流はホッと息を吐いた。
卒業してからはほぼ会うこともないけれど、中高時代を一緒に過ごした仲間はやはり安心する。

ただし、男子校だからか傍目から見てとってもむさくるしい。
もう大人だと主張していた汗臭く泥まみれだった少年たちは、爽やかなコロンや煙草の香りを身に纏う程度には成長したが。

「遅かったな町田!」
「ごめんね、仕事だったんだ」
「よう、みんな集まってるぞ」
「土曜まで仕事かー、お疲れさん」
「お、来たぞ~! 俺らの癒しが~」
「皆もう出来上がってるみたいだね」

集合時間より一時間遅く合流した静流は、「静流、こっちこっちー」という声に誘導されて、空いている席へと着席した。

「静流はひとまずビールでいい?」
「うん」
「コートこっちにかけるから、預かるよ」

静流は埃がたたないようもそもそとコートを脱ぐと向かいでハンガーを持ったまま待ってくれる友人に脱いだコートを渡してふんわり微笑んだ。

「ありがとう、陽那樹ひなき
「ううん、静流が同窓会来るの、卒業以来初めてじゃない? 会えて嬉しい~」

可愛くニコニコと笑う陽那樹から純粋な好意を向けられ、静流は先程別れた園児を思い出して、ふふ、と小さく笑う。

「食べ物も好きなの頼めよ」

そんな静流に、陽那樹の隣に座っていた海霧かいむが、オーダー用のタブレットをこちらに向けた。

「海霧も久しぶり。でも、たくさん余ってるから大丈夫だよ」

働き盛りの男たちが注文した大皿には確かに少しずつ料理が残されているものの、明らかな残飯で到底美味しそうには見えないし、一食分として足りるとも思えない。
そして何より、本当に美味しいものはとうに空になった上、その皿すらも片付けられたあとだ。

相変わらず控え目な性格の静流に、二人は顔を見合わせる。

「遠慮しなくていいから、新しいの頼みなよ~」
「そうだ、あとから来たんだから、自分が好きなのだけ頼め」

陽那樹がタブレットを反対側から覗き込みながら、「これとか美味しかったよ」と静流に教える。
二人は変わらず優しいなぁ、と思いながら静流は「じゃあ、お魚でも食べようかな」と笑顔で答えた。


同窓会は、不思議だ。
お酒を一緒に飲むことが出来なかった時代を、当時はああだったこうだった、何が楽しかった何が嫌だった、とお酒を一緒に飲みながら語り合うのだ。

陽那樹は笑い上戸なんだな、とか。
海霧は眠くなるタイプなんだな、とか。
当時は知る由もない側面を知りながら楽しい思い出話に花を咲かせつつ、静流は当時と同様周りのメンバーの話に相槌を打ってはふんわり笑った。

それでも、違和感は拭えない。

皆、ぎゃあぎゃあと賑やかに話しながら、静流を気にしてある人物の話題を極力避けている。
そしてそれを、静流はひしひしと感じてしまう。

――ああ、気を遣わせてしまっている。

やはり同窓会に来るべきではなかったかな、と思いながら、それでも今だけはと懐かしい日々に浸った。
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