5 / 7
5
しおりを挟む
「静流」
「ん?」
少し酔っているかもしれないな、と窓ガラスに反射する自分の顔を見て思いながら、振り向く。
思っていたより近くに汰一がいて、一瞬驚いた。
じり、と一歩下がって距離をとる。
「……その、子ども」
「子ども?」
「お前のSNSで、ここ四年間くらいずっと赤ちゃんの頃から写ってた、双子の子ども」
「ああ、姉さんの子どもかな。僕の姪っ子」
静流はなんの話かと目を一度ぱちくりとしたあと、無意識にふわりと笑った。
静流にとって保育園の子どもたちは勿論みんな可愛いが、双子の姪っ子たちは特に目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。
実家に住んでいる静流の徒歩五分離れた家に姉夫婦が住んでいて、共働きである姉夫婦はしょっちゅう静流に子守りを頼むのだ。
正直、姉の旦那よりも静流のほうが双子から父親だと認識されているような状態である。
「やっぱり、静流の子ども、じゃない?」
「うん、違うけど。……え? なに、それがどうかしたの?」
唐突にプライベートに首を突っ込まれ、静流は眉を顰めた。
汰一と別れてから三人の人と付き合ったが、どれもスパンは短く、汰一との思い出を塗り替えるほどの魅力はなかったのだ。
ただ、勝手に美化されている可能性が高いな、と静流は思い込もうとしているのだが。
「静流がその、俺と別れてから、男と付き合ったって聞いて」
付き合った人の中で、最初の二人は女性だった。
その時に童貞は捨てたが、エスコートされ慣れていた静流は自分から女性を誘うことが極端に少なく、結局二人とも愛されていると思えない、と言い残して静流の元から去って行った。
そして最後に付き合ったのが男性だったのだが、静流と似てとても穏やかな性格で良い人だったし色々計画もしてくれたけれど、彼はベッドで「ウケ」だった。
静流は上手くリードできず、自然消滅的に関係は終わった。
ちなみに彼と付き合って初めて、「ウケる側」を「ネコ」と呼ぶのだと知った。
「……それって汰一に関係ある?」
「だって、子どもが欲しいから俺と別れたのに、男とって」
「は? なにそれ、子どもが欲しいから別れたのは、汰一のほうでしょ」
責められるように言われ、一度抑えたはずの静流の怒りが再燃する。
その怒りに触れてか、はっと何かに気づいたかのように、汰一の顔色が変わった。
戸惑うような、伺うような表情から、真剣そのものの表情へと。
「違う。俺はずっと、静流しか好きじゃない」
真っ直ぐにそう言われても、静流は警戒心が強まるばかりだった。
子どもが欲しくて自分と別れた結果、自分より好きな女性ができなかったと言われたところで、何も嬉しくはない。
「はは……、僕を振った癖に、調子がいいヤツだな」
「好きで別れたわけじゃない。静流が、子どもが好きだから……! 子どもが好きで、保育士になるって進路を決めるくらい、本当に好きなんだって知ったから」
「うん。そりゃあ、好きだよ。ずっと関わっていきたいと思ったから進路に選んだし、実際保育士やってて、毎日物凄く楽しいし、癒される」
それ以上に、大変なこともあるけど。
保育士は子ども以上に親との関わりも大事だって、当時は知らなかったし。
「だから! お前がいつか、子どもが欲しいからって理由で俺と別れるならと思って、話したんだ。でも、本当は心のどこかで期待してた。お前が俺を、選んでくれるんじゃないかって」
「……え?」
汰一の歪んだ表情を見ながら、静流は少しだけ動揺した。
「静流は俺に別れたくないって、言わなかった。子どもは欲しいって、やっぱり思ってるんだって知って」
静流は懸命に、別れた当時の会話を思い出そうとした。
けれども靄がかかったみたいに、上手く思い出せない。
僕は汰一が良いって、一言でも言ったか?
好きだって、愛してるって、一生一緒にいようと汰一が言ってくれた時に、わかったと受け入れる以外に、僕もだよと、返事をしたか?
そのことに気付いた時、ぐわん、と静流の視界がたわんだ気がした。
「俺じゃ、静流の思い描く幸せな家庭は、どう足掻いても絶対に叶えてあげられないから。でもあのまま一緒にいたら、好きすぎて、手放すなんて無理だったから!」
「……だから、別れた?」
「ああ。でも、静流が男と付き合ったって聞いて、死ぬほど後悔してる」
汰一がぐっと距離を縮めて、静流をしっかりと抱き締めた。
「ん?」
少し酔っているかもしれないな、と窓ガラスに反射する自分の顔を見て思いながら、振り向く。
思っていたより近くに汰一がいて、一瞬驚いた。
じり、と一歩下がって距離をとる。
「……その、子ども」
「子ども?」
「お前のSNSで、ここ四年間くらいずっと赤ちゃんの頃から写ってた、双子の子ども」
「ああ、姉さんの子どもかな。僕の姪っ子」
静流はなんの話かと目を一度ぱちくりとしたあと、無意識にふわりと笑った。
静流にとって保育園の子どもたちは勿論みんな可愛いが、双子の姪っ子たちは特に目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。
実家に住んでいる静流の徒歩五分離れた家に姉夫婦が住んでいて、共働きである姉夫婦はしょっちゅう静流に子守りを頼むのだ。
正直、姉の旦那よりも静流のほうが双子から父親だと認識されているような状態である。
「やっぱり、静流の子ども、じゃない?」
「うん、違うけど。……え? なに、それがどうかしたの?」
唐突にプライベートに首を突っ込まれ、静流は眉を顰めた。
汰一と別れてから三人の人と付き合ったが、どれもスパンは短く、汰一との思い出を塗り替えるほどの魅力はなかったのだ。
ただ、勝手に美化されている可能性が高いな、と静流は思い込もうとしているのだが。
「静流がその、俺と別れてから、男と付き合ったって聞いて」
付き合った人の中で、最初の二人は女性だった。
その時に童貞は捨てたが、エスコートされ慣れていた静流は自分から女性を誘うことが極端に少なく、結局二人とも愛されていると思えない、と言い残して静流の元から去って行った。
そして最後に付き合ったのが男性だったのだが、静流と似てとても穏やかな性格で良い人だったし色々計画もしてくれたけれど、彼はベッドで「ウケ」だった。
静流は上手くリードできず、自然消滅的に関係は終わった。
ちなみに彼と付き合って初めて、「ウケる側」を「ネコ」と呼ぶのだと知った。
「……それって汰一に関係ある?」
「だって、子どもが欲しいから俺と別れたのに、男とって」
「は? なにそれ、子どもが欲しいから別れたのは、汰一のほうでしょ」
責められるように言われ、一度抑えたはずの静流の怒りが再燃する。
その怒りに触れてか、はっと何かに気づいたかのように、汰一の顔色が変わった。
戸惑うような、伺うような表情から、真剣そのものの表情へと。
「違う。俺はずっと、静流しか好きじゃない」
真っ直ぐにそう言われても、静流は警戒心が強まるばかりだった。
子どもが欲しくて自分と別れた結果、自分より好きな女性ができなかったと言われたところで、何も嬉しくはない。
「はは……、僕を振った癖に、調子がいいヤツだな」
「好きで別れたわけじゃない。静流が、子どもが好きだから……! 子どもが好きで、保育士になるって進路を決めるくらい、本当に好きなんだって知ったから」
「うん。そりゃあ、好きだよ。ずっと関わっていきたいと思ったから進路に選んだし、実際保育士やってて、毎日物凄く楽しいし、癒される」
それ以上に、大変なこともあるけど。
保育士は子ども以上に親との関わりも大事だって、当時は知らなかったし。
「だから! お前がいつか、子どもが欲しいからって理由で俺と別れるならと思って、話したんだ。でも、本当は心のどこかで期待してた。お前が俺を、選んでくれるんじゃないかって」
「……え?」
汰一の歪んだ表情を見ながら、静流は少しだけ動揺した。
「静流は俺に別れたくないって、言わなかった。子どもは欲しいって、やっぱり思ってるんだって知って」
静流は懸命に、別れた当時の会話を思い出そうとした。
けれども靄がかかったみたいに、上手く思い出せない。
僕は汰一が良いって、一言でも言ったか?
好きだって、愛してるって、一生一緒にいようと汰一が言ってくれた時に、わかったと受け入れる以外に、僕もだよと、返事をしたか?
そのことに気付いた時、ぐわん、と静流の視界がたわんだ気がした。
「俺じゃ、静流の思い描く幸せな家庭は、どう足掻いても絶対に叶えてあげられないから。でもあのまま一緒にいたら、好きすぎて、手放すなんて無理だったから!」
「……だから、別れた?」
「ああ。でも、静流が男と付き合ったって聞いて、死ぬほど後悔してる」
汰一がぐっと距離を縮めて、静流をしっかりと抱き締めた。
108
あなたにおすすめの小説
俺の好きな人は誰にでも優しい。
u
BL
「好きなタイプは?」と聞かれて世界で一番多く答えられているのは間違いなく「優しい人」だろう。
相手の優しいところに惹かれ、気づいた時には引き返せないところまで恋に落ちている。
でも次第に気付くのだ。誰だってみんな「優しい人」ではなく「"自分だけに"優しい人」が好きなのだと。
ロランは、"誰にでも優しい男"、フィリオンに恋をしてしまい、地獄のような日々に身を焼かれていた。
そんなとある日「この恋、捨てたいな…」と溢したら「それ、捨てようとすんの、やめてくんね?オレ、あんたがアイツを見る視線に興奮すっからさ」と遊び人で有名な男、ヒューゴに言われる。
彼は、自分を好きな人間には興味がなく、別の誰かに恋い焦がれている人間の目が好きな変態らしい。
そんな身勝手な遊び人とちょくちょく話すようになってからというもの、フィリオンの様子はどんどんおかしくなっていく。
恋を捨てたい男と、恋を捨てるなと言う男と、優しさが狂い始めていく男の話。
※作者の意思ではなくキャラの意思で結末が決まります。ご要望は受け付けられませんのでどちらとくっついても美味しいと思う方のみお読みください。
※中世ヨーロッパ風学園ものです。
※短編(10万文字以内)予定ですが長くなる可能性もあります。
※完結までノンストップで毎日2話ずつ更新。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
恋人がキスをしてくれなくなった話
神代天音
BL
大学1年の頃から付き合っていた恋人が、ある日キスしてくれなくなった。それまでは普通にしてくれていた。そして、性生活のぎこちなさが影響して、日常生活もなんだかぎくしゃく。理由は怖くて尋ねられない。いい加減耐えかねて、別れ話を持ちかけてみると……?
〈注意〉神代の完全なる趣味で「身体改造(筋肉ではない)」「スプリットタン」が出てきます。自己責任でお読みください。
届かない「ただいま」
AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。
「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。
これは「優しさが奪った日常」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる