それはもう、終わった恋だから

イセヤ レキ

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「静流」
「ん?」

少し酔っているかもしれないな、と窓ガラスに反射する自分の顔を見て思いながら、振り向く。
思っていたより近くに汰一がいて、一瞬驚いた。
じり、と一歩下がって距離をとる。

「……その、子ども」
「子ども?」
「お前のSNSで、ここ四年間くらいずっと赤ちゃんの頃から写ってた、双子の子ども」
「ああ、姉さんの子どもかな。僕の姪っ子」

静流はなんの話かと目を一度ぱちくりとしたあと、無意識にふわりと笑った。

静流にとって保育園の子どもたちは勿論みんな可愛いが、双子の姪っ子たちは特に目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。

実家に住んでいる静流の徒歩五分離れた家に姉夫婦が住んでいて、共働きである姉夫婦はしょっちゅう静流に子守りを頼むのだ。
正直、姉の旦那よりも静流のほうが双子から父親だと認識されているような状態である。


「やっぱり、静流の子ども、じゃない?」
「うん、違うけど。……え? なに、それがどうかしたの?」

唐突にプライベートに首を突っ込まれ、静流は眉を顰めた。

汰一と別れてから三人の人と付き合ったが、どれもスパンは短く、汰一との思い出を塗り替えるほどの魅力はなかったのだ。
ただ、勝手に美化されている可能性が高いな、と静流は思い込もうとしているのだが。

「静流がその、俺と別れてから、男と付き合ったって聞いて」

付き合った人の中で、最初の二人は女性だった。
その時に童貞は捨てたが、エスコート静流は自分から女性を誘うことが極端に少なく、結局二人とも愛されていると思えない、と言い残して静流の元から去って行った。

そして最後に付き合ったのが男性だったのだが、静流と似てとても穏やかな性格で良い人だったし色々計画もしてくれたけれど、彼はベッドで「ウケ」だった。
静流は上手くリードできず、自然消滅的に関係は終わった。
ちなみに彼と付き合って初めて、「ウケる側」を「ネコ」と呼ぶのだと知った。

「……それって汰一に関係ある?」
「だって、子どもが欲しいから俺と別れたのに、男とって」
「は? なにそれ、子どもが欲しいから別れたのは、汰一のほうでしょ」

責められるように言われ、一度抑えたはずの静流の怒りが再燃する。

その怒りに触れてか、はっと何かに気づいたかのように、汰一の顔色が変わった。
戸惑うような、伺うような表情から、真剣そのものの表情へと。

「違う。俺はずっと、静流しか好きじゃない」

真っ直ぐにそう言われても、静流は警戒心が強まるばかりだった。
子どもが欲しくて自分と別れた結果、自分より好きな女性ができなかったと言われたところで、何も嬉しくはない。

「はは……、僕を振った癖に、調子がいいヤツだな」
「好きで別れたわけじゃない。静流が、子どもが好きだから……! 子どもが好きで、保育士になるって進路を決めるくらい、本当に好きなんだって知ったから」
「うん。そりゃあ、好きだよ。ずっと関わっていきたいと思ったから進路に選んだし、実際保育士やってて、毎日物凄く楽しいし、癒される」

それ以上に、大変なこともあるけど。
保育士は子ども以上に親との関わりも大事だって、当時は知らなかったし。


「だから! お前がいつか、子どもが欲しいからって理由で俺と別れるならと思って、話したんだ。でも、本当は心のどこかで期待してた。お前が俺を、選んでくれるんじゃないかって」
「……え?」

汰一の歪んだ表情を見ながら、静流は少しだけ動揺した。

「静流は俺に別れたくないって、言わなかった。子どもは欲しいって、やっぱり思ってるんだって知って」

静流は懸命に、別れた当時の会話を思い出そうとした。
けれども靄がかかったみたいに、上手く思い出せない。


僕は汰一が良いって、一言でも言ったか?
好きだって、愛してるって、一生一緒にいようと汰一が言ってくれた時に、わかったと受け入れる以外に、僕もだよと、返事をしたか?


そのことに気付いた時、ぐわん、と静流の視界がたわんだ気がした。


「俺じゃ、静流の思い描く幸せな家庭は、どう足掻いても絶対に叶えてあげられないから。でもあのまま一緒にいたら、好きすぎて、手放すなんて無理だったから!」
「……だから、別れた?」
「ああ。でも、静流が男と付き合ったって聞いて、死ぬほど後悔してる」

汰一がぐっと距離を縮めて、静流をしっかりと抱き締めた。
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