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13 恋人との別れ
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「――は? オレリア、今なんて言った?」
「別れましょうと、申し上げました」
「いやいや、俺たち楽しく付き合ってたよな」
「楽しく……」
確かに、楽しかった。
私はマクシムが好きだったから、彼が私に全ての支払いを押し付けていたとしても、仲間の店から法外な金額を請求されたとしても、ほかの女性と目の前でイチャイチャされたとしても、何かおかしいと感じながらも、ただ彼の隣にいられることが嬉しく、楽しい気持ちに縋っていた。
「俺は別れないからな。もしかして、やっぱり貴族がいいと思ったのか? あのリナートとかいう奴のせいか?」
「彼は関係ありません」
確かに、私を楽しませようとしてくれるリナートのお陰で、自分が楽しむためのデートしかしないマクシムに違和感を覚えることはできた。
しかし、リナートのせいでマクシムと別れるのかと言われれば、それは違う。
恋心という目隠しを取って改めてマクシムを見たとき、別れるべきだと結論づけただけだ。
「ほかの男に求婚されたからって、この俺を振ってあっさり乗り換えるなんて、この前まで俺にベタ惚れだった癖にあり得ねぇだろ!」
貴族も使う喫茶店のテラス席で、マクシムはその逞しい大きな拳でドン!とテーブルを叩いた。
初めてそんな行為をされて、私の肩はびくん、と跳ね上がる。
「そういやお前、俺と寝ようとしなかったのも――」
「お話中のところ、失礼いたします。第八騎士団のマクシム副団長でしょうか?」
憤怒の形相を浮かべるマクシムに、騎士団のマントを羽織った人が三人、近付いた。
「なんだよ、お前。俺は今日、非番なんだよ」
「団長がお呼びです」
「ああ?明日聞きゃいいだろ」
「すみません、言葉が足りませんでした。本日は緊急の団長会議がございまして、十人の団長がマクシム副団長をお待ちしております」
「……もしかして、昇格の話か何かか?」
マクシムは「話はまた今度な」と私に言い捨て、その人たちと去っていった。
その日、マクシムは重要な規約違反を犯したとして騎士団を退団させられた。
さらに数日後、それ以外のいくつかの詐欺や暴行、違法賭博などの犯罪容疑で逮捕された。
そんな記事を書かれた新聞を父から渡された私は、急な展開についていくことが出来ずに、ただ呆けた。
「……だから言っただろう? もう彼と付き合うのは、やめなさい」
父はまだ私が彼に想いを寄せていると思ったらしく、辛そうな表情でそう私に言った。
そうか、私は確かに政略結婚をした両親の間に生まれたけれども、愛されてはいたのだ。
父が最近毎日身に着けているカフスボタンを見ながら、じんわりと胸が温かくなる。
万が一、妄信的に彼を好きだった頃であれば、私は何かの間違いだと、逆に新聞すら信じなかったかもしれない。
このタイミングで良かったと、私は父に微笑んで言った。
「ありがとうございます、お父様。私はマクシム様と別れる予定だったので、そこまでショックを受けておりませんから、ご心配なさらないで下さい」
私の言葉に父は一度目を丸くしたあと、わかりやすく笑顔になる。
「そうだったのか! それは最近聞いた話の中で、一番の朗報だ!」
「ご心配をおかけしてすみませんでした。今度こそ、もっと良い人を自分の目で見つけます」
「オレリア、リナート卿との婚約はどうする気だ!」
私は父ににっこりと笑っただけで、なんの返事もしなかった。
「別れましょうと、申し上げました」
「いやいや、俺たち楽しく付き合ってたよな」
「楽しく……」
確かに、楽しかった。
私はマクシムが好きだったから、彼が私に全ての支払いを押し付けていたとしても、仲間の店から法外な金額を請求されたとしても、ほかの女性と目の前でイチャイチャされたとしても、何かおかしいと感じながらも、ただ彼の隣にいられることが嬉しく、楽しい気持ちに縋っていた。
「俺は別れないからな。もしかして、やっぱり貴族がいいと思ったのか? あのリナートとかいう奴のせいか?」
「彼は関係ありません」
確かに、私を楽しませようとしてくれるリナートのお陰で、自分が楽しむためのデートしかしないマクシムに違和感を覚えることはできた。
しかし、リナートのせいでマクシムと別れるのかと言われれば、それは違う。
恋心という目隠しを取って改めてマクシムを見たとき、別れるべきだと結論づけただけだ。
「ほかの男に求婚されたからって、この俺を振ってあっさり乗り換えるなんて、この前まで俺にベタ惚れだった癖にあり得ねぇだろ!」
貴族も使う喫茶店のテラス席で、マクシムはその逞しい大きな拳でドン!とテーブルを叩いた。
初めてそんな行為をされて、私の肩はびくん、と跳ね上がる。
「そういやお前、俺と寝ようとしなかったのも――」
「お話中のところ、失礼いたします。第八騎士団のマクシム副団長でしょうか?」
憤怒の形相を浮かべるマクシムに、騎士団のマントを羽織った人が三人、近付いた。
「なんだよ、お前。俺は今日、非番なんだよ」
「団長がお呼びです」
「ああ?明日聞きゃいいだろ」
「すみません、言葉が足りませんでした。本日は緊急の団長会議がございまして、十人の団長がマクシム副団長をお待ちしております」
「……もしかして、昇格の話か何かか?」
マクシムは「話はまた今度な」と私に言い捨て、その人たちと去っていった。
その日、マクシムは重要な規約違反を犯したとして騎士団を退団させられた。
さらに数日後、それ以外のいくつかの詐欺や暴行、違法賭博などの犯罪容疑で逮捕された。
そんな記事を書かれた新聞を父から渡された私は、急な展開についていくことが出来ずに、ただ呆けた。
「……だから言っただろう? もう彼と付き合うのは、やめなさい」
父はまだ私が彼に想いを寄せていると思ったらしく、辛そうな表情でそう私に言った。
そうか、私は確かに政略結婚をした両親の間に生まれたけれども、愛されてはいたのだ。
父が最近毎日身に着けているカフスボタンを見ながら、じんわりと胸が温かくなる。
万が一、妄信的に彼を好きだった頃であれば、私は何かの間違いだと、逆に新聞すら信じなかったかもしれない。
このタイミングで良かったと、私は父に微笑んで言った。
「ありがとうございます、お父様。私はマクシム様と別れる予定だったので、そこまでショックを受けておりませんから、ご心配なさらないで下さい」
私の言葉に父は一度目を丸くしたあと、わかりやすく笑顔になる。
「そうだったのか! それは最近聞いた話の中で、一番の朗報だ!」
「ご心配をおかけしてすみませんでした。今度こそ、もっと良い人を自分の目で見つけます」
「オレリア、リナート卿との婚約はどうする気だ!」
私は父ににっこりと笑っただけで、なんの返事もしなかった。
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