「あなたを愛することはない」と百日前に言った「私」の顛末

イセヤ レキ

文字の大きさ
13 / 21

13 恋人との別れ

しおりを挟む
「――は? オレリア、今なんて言った?」
「別れましょうと、申し上げました」
「いやいや、俺たち楽しく付き合ってたよな」
「楽しく……」

確かに、楽しかった。
私はマクシムが好きだったから、彼が私に全ての支払いを押し付けていたとしても、仲間の店から法外な金額を請求されたとしても、ほかの女性と目の前でイチャイチャされたとしても、何かおかしいと感じながらも、ただ彼の隣にいられることが嬉しく、楽しい気持ちに縋っていた。

「俺は別れないからな。もしかして、やっぱり貴族がいいと思ったのか? あのリナートとかいう奴のせいか?」
「彼は関係ありません」

確かに、私を楽しませようとしてくれるリナートのお陰で、自分が楽しむためのデートしかしないマクシムに違和感を覚えることはできた。
しかし、リナートのせいでマクシムと別れるのかと言われれば、それは違う。

恋心という目隠しを取って改めてマクシムを見たとき、別れるべきだと結論づけただけだ。

「ほかの男に求婚されたからって、この俺を振ってあっさり乗り換えるなんて、この前まで俺にベタ惚れだった癖にあり得ねぇだろ!」

貴族も使う喫茶店のテラス席で、マクシムはその逞しい大きな拳でドン!とテーブルを叩いた。
初めてそんな行為をされて、私の肩はびくん、と跳ね上がる。

「そういやお前、俺と寝ようとしなかったのも――」
「お話中のところ、失礼いたします。第八騎士団のマクシム副団長でしょうか?」
憤怒の形相を浮かべるマクシムに、騎士団のマントを羽織った人が三人、近付いた。

「なんだよ、お前。俺は今日、非番なんだよ」
「団長がお呼びです」
「ああ?明日聞きゃいいだろ」
「すみません、言葉が足りませんでした。本日は緊急の団長会議がございまして、十人の団長がマクシム副団長をお待ちしております」
「……もしかして、昇格の話か何かか?」

マクシムは「話はまた今度な」と私に言い捨て、その人たちと去っていった。


その日、マクシムは重要な規約違反を犯したとして騎士団を退団させられた。
さらに数日後、それ以外のいくつかの詐欺や暴行、違法賭博などの犯罪容疑で逮捕された。

そんな記事を書かれた新聞を父から渡された私は、急な展開についていくことが出来ずに、ただ呆けた。

「……だから言っただろう? もう彼と付き合うのは、やめなさい」
父はまだ私が彼に想いを寄せていると思ったらしく、辛そうな表情でそう私に言った。

そうか、私は確かに政略結婚をした両親の間に生まれたけれども、愛されてはいたのだ。
父が最近毎日身に着けているカフスボタンを見ながら、じんわりと胸が温かくなる。

万が一、妄信的に彼を好きだった頃であれば、私は何かの間違いだと、逆に新聞すら信じなかったかもしれない。
このタイミングで良かったと、私は父に微笑んで言った。

「ありがとうございます、お父様。私はマクシム様と別れる予定だったので、そこまでショックを受けておりませんから、ご心配なさらないで下さい」

私の言葉に父は一度目を丸くしたあと、わかりやすく笑顔になる。
「そうだったのか! それは最近聞いた話の中で、一番の朗報だ!」
「ご心配をおかけしてすみませんでした。今度こそ、もっと良い人を自分の目で見つけます」
「オレリア、リナート卿との婚約はどうする気だ!」

私は父ににっこりと笑っただけで、なんの返事もしなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...