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寝取り令嬢と呼ばれた私に元恋人が愛を囁く

9 これで良かった

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「……あの、ここが私の部屋ですか?」

リンツに聞くと、彼はゆっくりと頷く。

「お気に召しましたか?」

「はい」



私は実は花柄が好きではないのだが、この部屋はまるで自分が調度品をあつらえたかのように私の趣味のもので溢れていた。

この部屋を誂えた人とは少なくとも趣味が合いそうだ、と思い嬉しくなる。



「リスロ様がこの部屋をミランダ様向けにと指示を出したのです。気に入って頂けたなら良かったです」

皺を深めてにっこり笑うリンツに、次はリスナー様の部屋まで案内して貰った。



リスロ様が私の雇用主かと思うが、リスナー様も私にとって大事な人だ。

粗相がないように気を引き締めて部屋の中に入った。



「君がミランダ嬢か。会えて嬉しいよ」

「初めてお目にかかります、ミランダと申します。これからしばらくお世話になります」

私が緊張しながら言うと、リスナー様はベッドの上で身体を起こし、笑って言って下さった。

「そう畏まらずに、自分の家だと思って楽にしなさい」

「はい、ありがとうございます」



伯爵家も、名門だっただけあって屋敷は立派だったか、辺境伯の屋敷はそれ以上だ。



ちっぽけな男爵家を懐かしく思いつつ、お姉様のことを思い出す。



お姉様は、元気でやっているだろうか?

クルト様がいるのだから、問題ないに違いない。

これからは薄情な妹のことは忘れて、生まれてくる赤ちゃんにだけ気を配ってほしい。



「それにしても、君ほどの美人は生まれて初めて見たな。長生きしてみるものだ」

リスナー様はほっほと笑う。

私も笑って、しばらくリスナー様の話し相手をした。



「……そうかそうか、今までよくひとりで頑張ったねぇ」

……あら?何故だろう、リスナー様の話術が巧みなのか、それとも本当は自分の中に鬱屈したものがあったのか。



気付けば私は、クルト様も知らない話まで……過去の恋人を忘れられない話や、別れる羽目になった事件のことまでベラベラと話していた。



……自己紹介だったはずなのに、何故ここまで。



リスナー様が自分と奥様の馴れ初めを話して下さった辺りから、私も自分の話をせねば的な流れになった気がする。



相手がこんなにお年を召した方でなければ、きっと話せなかっただろう。

リスナー様は私の会話の合間に、常に私の味方をしてくれた。

お姉様もずっと私の味方をしてくれたけれども、全てを話すことは出来なかったから。



「しかし、若さ故かねぇ。ほんの少しだけでもいい、君の大好きな人達に、君の気持ちを正直に伝えていれば、何かが変わったかもしれないよ」

「……そうですね」





しかし、正直に話せば私の初恋の彼は犯罪者になったかもしれないし、お姉様は裁判をおこしたかもしれない。

好きな人達が、私の身に起きたことであれこれ悩む姿を見たくはなかった。



私の不注意でしか、なかったのだから。



私がまたあの時に戻って、正直に話しただろうかと言われれば、やはりそれはノーだ。



「でも、これで良かったのです」

私は笑みを漏らす。
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