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時は少し遡る。
部屋から出たサラとカダルは、一階に戻った。
カダルは、フロント横に備わったロビーの椅子を引きながらニヤニヤしてサラに言う。

「サラ、サージス様達の様子を見てきなよ。俺は、カッシードとシュリー嬢が到着しても大丈夫な様にここにいるからさ」
「……う、ん……わかった…//」

サラは、濡れ出した下半身に力を込めて水音をたてない様に気を付けながら、一歩一歩足を出す。

サラの膣やアナルの状態なんて誰も知る筈がないのに、皆が知っていてヒソヒソ話しているかの様な妄想にとらわれながらも、向かいにある菓子屋に向かった。


菓子屋の出入口付近にいたユリアナとサージスは直ぐに見つかったが、サラは足を止める。

サージスは無表情だったが、明らかに不機嫌だった。
理由は恐らく、ユリアナと仲良さそうに話す若い男の店員だろう。

これは楽しそうだ、見物してやろうとそのままサラが眺めていると、痺れを切らしたサージスが、その店員を威嚇するかの様にユリアナの腰を引いた。

無邪気に笑い掛けるユリアナと、その店員の距離感が気に食わなかったのだろう。

冷笑しながら、何か言っている。
あ、店員の顔が青くなった。


……そこまで見物し、そろそろ店員が不憫だから助けてやろうと思った時だ。
サラは、自分以外の女が二人の様子を見ている事に気付いた。

サージスはあの通り、人目を惹く容姿をしているから、最初はイケメン鑑賞でもしているのかと思った。
が、何か違う。
サージスやユリアナを見る瞳には、様々な感情が溢れさせているのだ。
恋情、嫉妬、不安、期待━━そんな、いくつもの感情が出ては消え、出ては消え、と混じりあっていた。
単なる通りすがりの他人ではないらしい。
しっかりと化粧をし、それなりに綺麗な顔をしているが、身に纏う服はどちらかと言うとみすぼらしい出で立ちだった。

……何だか、見覚えある気がするな……


サラがうーん、と首をひねっていると、その時サラを見つけたユリアナが「サラ姉様!サラ姉様も、こちらへいらして下さいませんか?シュリーさんへビスケットをプレゼントしたいと思っているのですが」と声を掛けた。

「ああ、わかった」 
サラがユリアナに答え、再び視線を戻した時には、既に女はいなかった。

 

☆☆☆



無事に買い物を済ませたユリアナ達はロビーにいるカダルの元へ戻ってきたが、シュリー達が到着するまでの時間、サラとユリアナはサージスとカダルに「二人で話しておいで」と促され、サラ達が泊まる部屋に二人きりとなった。

話したい事は沢山あるが、話さなければならない大事な事はたった一つだ。
サラは、今回の小旅行を企画した自分から切り出すべきか、ユリアナの話を先に聞くか悩んだが、直ぐに後者を選んだ。

まず、ユリアナの精神状態を把握してから、彼女の気持ちを大事にしていきたい。

「……直接会うのは合同結婚式以来だな、ユリアナ。……辛くはなかったか?」
「……はい、サラ姉様。少し前の私でしたら……辛い、と答えていたかもしれませんが……今は、幸せです、とお答え出来ます」

キッパリと言い切ったユリアナに、サラは少し目を見張った。

ユリアナと先日通信した時、初夜の次の日に通信した時とは明らかに違い、表情が明るくなっていて安心したのだが、ここまでとは思わなかった。
最悪サージスを敵に回してでも、何とかユリアナだけは助けなければと考えていたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。

それでも、サージスに脅されているが為の発言、という可能性はまだ排除出来ない。
サラから見て、ユリアナを手に入れる為であれば、そんな手段さえサージスは厭わないだろうと思われた。
ユリアナの様子から、恐らくそれはなさそうだったが、まだ探りを入れる必要はある。
ユリアナに、自分が抱えるカダルへの想いを伝える為にも、不安要素はなくしておきたかった。


「幸せか?サージスと……いる事が?」
サージスと身体を繋げて平気か、とは聞く事が出来なかった。
しかし、ユリアナはそんなサラの思いも正しく拾い上げている。
「はい。最初は、酷く戸惑いましたし、怖くもありました。……兄様に、天罰が下ったら、どうしようかと」
「天罰?」
「……私達の行いを、神が赦すと思えないからです」
「……」
「私は、兄様との行為が嫌だった訳ではないのです。禁忌に触れる事で、兄様が……兄様の身に、何か悪い事が起こってしまうかもしれない事が、嫌でした」
「そうか…」
「それと、もう1つはその行為によって、サラ姉様とカダル様を裏切ってしまう事が、私には許せませんでした……」

実にユリアナらしいな、と思った。
自分の事は、二の次で。
周りの人間に、ひたすら自分の幸せをわけたいと願っている、心優しいユリアナ。
昔からその本質はブレる事なく、見た目だけでなく心も澄んで、とても綺麗な彼女。

「ありがとう」
サラが思わず感謝を伝えると、ユリアナは首をゆっくりと振った。
「お礼なんて、おっしゃらないで下さい、サラ姉様。……私は、私は結局……兄様といる事を、選びました。禁忌であっても、サラ姉様達を裏切る事だとわかっていても……」

ユリアナは、ハラハラと、それは美しい涙を溢した。
それはサラから見ても、絵に描かれた妖精の様な、儚く美しい光景だった。 
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