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「キャロライン、何処に行ってたんだ!心配したよ?仕事場に行っても、外に出たきり帰って来てないって聞いて……!!」
私が住むには質素で狭く、そして地味で不釣り合いな部屋には呼んでもいない背の低い男がいた。
「私がどこにいようが自由でしょう?それより、勝手に部屋に入らないで下さる?」
私は先程、傷んでいた髪の毛をこの田舎にある唯一の美容院で艶を出し、綺麗に編み上げさせ、爪も磨かせた。
服は、こんなところで買うよりも伯爵家に奉公していた時に持ち出した服の方がまだマシだから、着替える為に帰宅したのだ。
キャロラインと呼ばれた女は、先程ユリアナが着ていたドレススカートを思い出して、歯軋りする。
あれは、私の様な女が着てこそ、本当にその仕立ての良さがわかると言うものだ。
あんな、胸も小さければ、女としての魅力を全く感じられない小娘が着ても、宝の持ち腐れとしか言いようがない。
私がサージス様と添い遂げる事になったら、あのドレススカートは私のものに……いえ、小娘のお下がりなんて私には似合わない。新しく買って頂けば良いのだわ。
━━とにかく、今はこの背の低い男が邪魔だ。
さっさと出ていって欲しい。
着替えが出来ないではないか。
「そりゃ、この家はキャロラインに貸したけど……元々僕の実家だし、帰ってきても良いだろう?」
「……」
五月蝿いわね。
人に貸した時点で、あんたの家じゃないって事がわからないのかしら?
明日にでも、鍵を替えてやる。
「ああ、そんな事より……大変だ、今この町にサージス様がいらっしゃっているんだ。キャロライン、君が見つかれば、どんな目に合うかわからない。今すぐ隣町に行こう。僕が馬車を借りてくるから」
「は?何を馬鹿な事言ってるの?サージス様は、私を探しに来て下さったのでしょう?」
男は驚愕したが、それは女の神経を逆撫でさせた。
「あんたの話を鵜呑みにした私が馬鹿だったのよ!サージス様が私を罰するなんて……こんな田舎でこの私が畑仕事だなんて……本当はあんたが私とサージス様の仲を引き裂いただけでしょう!?」
「キャロライン、君こそ何を言っているんだ!!あんな事をしておいて、まだあの家で働けるとでも思っていたのか?」
「当たり前でしょう!結果として、あの小娘はピンピンしているのだし、サージス様はこの私が好きなのよ?私がいなくなってからも、サージス様の色恋の噂なんて耳に入ってこないじゃないの!!」
「……サージス様は、ご結婚されたよ」
今度は女が驚愕した。
「は!?……そ、そんなの嘘よ!!誰とよ!?」
「こちらの領地を治めるガルダー伯爵の長女、サラ様とだよ」
「……あの、幼なじみの女……?まさか、嘘よ。サージス様は、あの女に全くご興味なかったわ」
「そうかもしれない。けど、ご結婚されたのは事実だよ」
「そんな……!!では、ここへは何しに……!?」
「わからない。目的地は教わるけど、目的は聞いたことがないから」
「使えないわねぇっ!!……いいわよ、なら私が直接聞くわ。どうせ、政略結婚でしょう!?私が見つかれば、離婚なさるわ!」
顔色を真っ青にさせた男を無理矢理部屋から追い出して、女は急いで着替えた。
ああもう、余計な時間をとられたわ!!
早く急いで戻らないと……!
サージス様が、私を探しに移動されているかもしれない!!
女は、取るものも取らずに部屋の外に出た。
ドアの前には男がいたが、悲鳴をあげながら走り去れば、追ってくる事はなかった。
☆☆☆
キャロラインは急いで先程サージスを見かけた菓子屋に向かったが、既にサージスの姿はなかった。
ああもう、何処にいらっしゃるのかしら……!!
時間は夕刻。
店の前でキョロキョロと見回したが、普段の10倍多い観光客は、皆同じ方向へと歩いて行く。
……そうだ、今日は花火大会だ。
とすれば、サージス様が私を探しにきたのでなければ、花火目的で来た可能性が高い。
今日はきっと、宿屋に泊まるだろう。
この田舎で一番高い宿屋は……
キャロラインは、顔を正面に向けた。
そこには両開きの大きなドアが開放されており、中の様子がうかがえる。
キャロラインは、ドアからそろりと中を覗きこんだ。
直ぐ正面にはフロントがあり、長いカウンターが備えられている。
左側にはトイレ。
右側には広々したロビーがあった。
ロビーを確認したキャロラインは、瞳を輝かせた。
ああ、サージス様……!!
直ぐ様駆け寄ろうとしたが、サージスは一人ではなかった。
ロビーの円卓を6人で囲んでいる。
サージスはキャロラインに対して真後ろを向いて座っており、左隣にユリアナ、右隣にカダルが座っている。カダルの反対隣にいるのはサラだが、ユリアナの隣は見たことのない少女で、少女とサラの間に座るのは一際体格の良い、がっしりとした野性味溢れる男だった。
━━やはり、体裁を保つ為の偽装結婚ね。夫婦だと言うのに、隣にすら座らないだなんて。
キャロラインは、ニヤリと嗤う。
知らない面子が二人いて一瞬躊躇したが、直ぐに気を取り直した。
この機会を逃せば、次またいつサージスと会えるのかわかったものではないからだ。
コホン、と咳払いし、走って少し乱れた髪を細部まで整えた。荒い呼吸を落ち着かせて、美しい所作でサージスに近寄る。
「━━サージス様、ご無沙汰しております」
美しいと持て囃された微笑をその顔に貼り付け、小鳥の様と讃えられた声に最大限の媚をのせて、キャロラインは愛しい人との再会を果たした。
私が住むには質素で狭く、そして地味で不釣り合いな部屋には呼んでもいない背の低い男がいた。
「私がどこにいようが自由でしょう?それより、勝手に部屋に入らないで下さる?」
私は先程、傷んでいた髪の毛をこの田舎にある唯一の美容院で艶を出し、綺麗に編み上げさせ、爪も磨かせた。
服は、こんなところで買うよりも伯爵家に奉公していた時に持ち出した服の方がまだマシだから、着替える為に帰宅したのだ。
キャロラインと呼ばれた女は、先程ユリアナが着ていたドレススカートを思い出して、歯軋りする。
あれは、私の様な女が着てこそ、本当にその仕立ての良さがわかると言うものだ。
あんな、胸も小さければ、女としての魅力を全く感じられない小娘が着ても、宝の持ち腐れとしか言いようがない。
私がサージス様と添い遂げる事になったら、あのドレススカートは私のものに……いえ、小娘のお下がりなんて私には似合わない。新しく買って頂けば良いのだわ。
━━とにかく、今はこの背の低い男が邪魔だ。
さっさと出ていって欲しい。
着替えが出来ないではないか。
「そりゃ、この家はキャロラインに貸したけど……元々僕の実家だし、帰ってきても良いだろう?」
「……」
五月蝿いわね。
人に貸した時点で、あんたの家じゃないって事がわからないのかしら?
明日にでも、鍵を替えてやる。
「ああ、そんな事より……大変だ、今この町にサージス様がいらっしゃっているんだ。キャロライン、君が見つかれば、どんな目に合うかわからない。今すぐ隣町に行こう。僕が馬車を借りてくるから」
「は?何を馬鹿な事言ってるの?サージス様は、私を探しに来て下さったのでしょう?」
男は驚愕したが、それは女の神経を逆撫でさせた。
「あんたの話を鵜呑みにした私が馬鹿だったのよ!サージス様が私を罰するなんて……こんな田舎でこの私が畑仕事だなんて……本当はあんたが私とサージス様の仲を引き裂いただけでしょう!?」
「キャロライン、君こそ何を言っているんだ!!あんな事をしておいて、まだあの家で働けるとでも思っていたのか?」
「当たり前でしょう!結果として、あの小娘はピンピンしているのだし、サージス様はこの私が好きなのよ?私がいなくなってからも、サージス様の色恋の噂なんて耳に入ってこないじゃないの!!」
「……サージス様は、ご結婚されたよ」
今度は女が驚愕した。
「は!?……そ、そんなの嘘よ!!誰とよ!?」
「こちらの領地を治めるガルダー伯爵の長女、サラ様とだよ」
「……あの、幼なじみの女……?まさか、嘘よ。サージス様は、あの女に全くご興味なかったわ」
「そうかもしれない。けど、ご結婚されたのは事実だよ」
「そんな……!!では、ここへは何しに……!?」
「わからない。目的地は教わるけど、目的は聞いたことがないから」
「使えないわねぇっ!!……いいわよ、なら私が直接聞くわ。どうせ、政略結婚でしょう!?私が見つかれば、離婚なさるわ!」
顔色を真っ青にさせた男を無理矢理部屋から追い出して、女は急いで着替えた。
ああもう、余計な時間をとられたわ!!
早く急いで戻らないと……!
サージス様が、私を探しに移動されているかもしれない!!
女は、取るものも取らずに部屋の外に出た。
ドアの前には男がいたが、悲鳴をあげながら走り去れば、追ってくる事はなかった。
☆☆☆
キャロラインは急いで先程サージスを見かけた菓子屋に向かったが、既にサージスの姿はなかった。
ああもう、何処にいらっしゃるのかしら……!!
時間は夕刻。
店の前でキョロキョロと見回したが、普段の10倍多い観光客は、皆同じ方向へと歩いて行く。
……そうだ、今日は花火大会だ。
とすれば、サージス様が私を探しにきたのでなければ、花火目的で来た可能性が高い。
今日はきっと、宿屋に泊まるだろう。
この田舎で一番高い宿屋は……
キャロラインは、顔を正面に向けた。
そこには両開きの大きなドアが開放されており、中の様子がうかがえる。
キャロラインは、ドアからそろりと中を覗きこんだ。
直ぐ正面にはフロントがあり、長いカウンターが備えられている。
左側にはトイレ。
右側には広々したロビーがあった。
ロビーを確認したキャロラインは、瞳を輝かせた。
ああ、サージス様……!!
直ぐ様駆け寄ろうとしたが、サージスは一人ではなかった。
ロビーの円卓を6人で囲んでいる。
サージスはキャロラインに対して真後ろを向いて座っており、左隣にユリアナ、右隣にカダルが座っている。カダルの反対隣にいるのはサラだが、ユリアナの隣は見たことのない少女で、少女とサラの間に座るのは一際体格の良い、がっしりとした野性味溢れる男だった。
━━やはり、体裁を保つ為の偽装結婚ね。夫婦だと言うのに、隣にすら座らないだなんて。
キャロラインは、ニヤリと嗤う。
知らない面子が二人いて一瞬躊躇したが、直ぐに気を取り直した。
この機会を逃せば、次またいつサージスと会えるのかわかったものではないからだ。
コホン、と咳払いし、走って少し乱れた髪を細部まで整えた。荒い呼吸を落ち着かせて、美しい所作でサージスに近寄る。
「━━サージス様、ご無沙汰しております」
美しいと持て囃された微笑をその顔に貼り付け、小鳥の様と讃えられた声に最大限の媚をのせて、キャロラインは愛しい人との再会を果たした。
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