異世界転移した勇者は普通その国の王女や聖女と結ばれるものだ……と思っていた時もありました

イセヤ レキ

文字の大きさ
1 / 7

1

しおりを挟む
「さて、魔王討伐に成功した勇者、緋色ヒイロよ。そなたの願いを申してみよ。どんな願いであっても、できることは叶えると約束しよう」


名前を呼ばれた金井緋色は鷹揚に頷く王様から視線を外し、その隣で微笑む王女セーラと聖女ローラを交互に見た。

第一王女のセーラの隣には、緋色と一緒に五年間魔王討伐の旅に出ていた戦士のカヌイが。

そして第二王女であり聖女でもあるローラの隣には、魔王討伐に付き添ったローラの護衛騎士ウィランが、その細い腰に手をかけてこちらを見下ろしている。


「ええと……では郊外でもいいので、一軒家と日々の暮らしの保障をお願いします……」


緋色は俯いて、本心ではない願いを口にした。



高校二年生で異世界転移し、この国へ勇者として召喚されてしまった、金井緋色。

勇者といっても、特別な力があるわけではなかった。

この世界の人間には扱うことができない「勇者の装備」を身に付けて剣をふるうだけというイージーモードな戦いをしながら、三年かけて魔王を討伐しただけだ。

順当にいけば、緋色の同級生たちはもう大学生になっている。


クラスの人気者でもなんでもない、ただ多少造作が整っているだけでそれ以外は普通の緋色がなぜ召喚されたのかはわからなかったが、彼は二人の王女を見た時にびびっときた。

この二人のどちらかと結ばれるために、この世界にやってきたのだと。


しかし、女性へ積極的にアプローチすることが出来ない緋色は、勇者という最強の立場を与えられても王女二人に選ばれることはなかった。

三年という歳月で、遠く離れた王国にいたセーラはもちろん、一緒に行動していた聖女ローラともフラグが立つことはなく、緋色をこの世界へ召喚した筆頭魔術師のエシャールと友情を築いただけで、旅は終わってしまった。

いつも女性から遠巻きに眺められるだけで、親しくなることのない緋色の本当の願いは、やはり異世界転移の鉄板らしく、王女との結婚だったりする。

しかし、ぼんやりとした淡い恋心……ですらない憧れというだけで、セーラに対して熱烈に求愛するカヌイや誰よりも率先してローラを守ってきたウィランを前にして、その願いを口にすることは出来なかった。


言えばきっと、王様は願いを叶えてくれただろう。

だからといって、二組のカップルの邪魔は出来ない。


かといって、勇者の装備というアイテムを外され一般人に戻った緋色が、この世界でなんの後ろ盾もないまま生きていくのは難しいだろう。


召喚された際に元の世界へ戻ることは出来ないと言われているし、そもそも母親からは高校卒業したらさっさと働いて家を出て行けと邪魔者扱いされていたので、戻りたいとも思わない。

ただ、唯一の楽しみだった漫画を完結まで読むことができなくて、それだけが心残りといえば心残りだ。

本音を言えば勇者として召喚された時、それらの漫画のように、王女たちと結ばれハッピーエンドを迎えるものだと期待してしまったのだけど。


「聞いていた通り、勇者は欲がないな。わかった、最高級の待遇を約束しよう。……ではエシャールよ、あとは任せた」
「かしこまりました」


この異世界に飛ばされ、右も左もわからない緋色にずっと付き従ってくれたエシャールが、国王の命で優雅に頭を下げる。

聞いたところ、勇者の装備は魔術師がいてはじめてその真価が発揮されるものであり、召喚される勇者は魔術師と世界で一番相性のいい人間が引き寄せられるのだとか。

だからかどうかはわからなかったが、緋色とエシャールは確かにこの三年の間に親友と呼べるほどの仲になっていたし、勇者一行の中で緋色が一番に頼るのはエシャールで、エシャールはそんな緋色から片時も離れることがなかった。

異世界という文化の違いに戸惑う緋色をエシャールはいつも優しく導いてくれて、他の仲間たちからの「エシャールの言うことを聞いていれば間違いない」という言葉もあり、全幅の信頼を寄せていた。


そんなエシャールが緋色の足元に移動陣を展開し、自らもその中に入る。

金色の瞳を優しく緩ませ、男でも見惚れるような笑みを浮かべて緋色に話し掛けた。

「では参りましょうか、緋色」
「うん……って、どこに?」
「私たちの家ですよ」

え、と思う間もなく。

緋色は足元から噴きあがる金色の光に染められ、その場……玉座の間から、エシャールとともに、掻き消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。 ※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。 ※画像は男の子メーカーPicrewさんよりお借りしています。

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

異世界から戻ってきた俺の身体が可笑しい

海林檎
BL
異世界転生で何故か勇者でも剣士でもましてや賢者でもなく【鞘】と、言う職業につかされたんだが まぁ、色々と省略する。 察してくれた読者なら俺の職業の事は分かってくれるはずだ。 まぁ、そんなこんなで世界が平和になったから異世界から現代に戻ってきたはずなのにだ 俺の身体が変なままなのはどぼじで??

処理中です...