異世界転移した勇者は普通その国の王女や聖女と結ばれるものだ……と思っていた時もありました

イセヤ レキ

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「うわぁ……」

エシャールの転移陣によって連れて来られた場所は、素人目に見ても価値が高いとわかる調度品で溢れたシックで落ち着いた雰囲気の部屋の中だった。


「エシャール、ここはどこ?」
「私たちの家です」
「こんなに素敵なところに住んでいいんだ……」


緋色は嬉しくなって、大人ひとりが余裕で寝転ぶことができる目の前のソファにゴロンと転がった。

そんな子どもっぽい行為を咎めることなく、エシャールは緋色の頭側に腰を下ろすと、緋色の頭を撫でた。


「……あれ? の家って?」
「緋色はこの世界に不慣れで大変でしょう? ですので、私もここに住みます」
「いいの? それは凄く、心強いな……」


魔王討伐の旅で親しくなった人たちは、緋色とは違い、本来の仕事に戻ると聞いていた。

だから、これで全員とお別れなのだと思っていた。


心細さを隠していたものの、知り合いのいないところからスタートする新生活だと思っていたので、親しい友人とのルームシェアがはじまると知った緋色はぱぁと顔を輝かす。

エシャールはこの国の筆頭魔術師だから日中はいないだろうし、家の中のことは暇を持て余している自分がやればいい。


「ご近所さんに挨拶して、近くに借りられる畑があるか聞いてみたいな」
「畑、ですか?」
「うん。憧れのスローライフだ」


緋色はもともと、高校を卒業したら農業を営みたいと思っていた。

ソファでゴロゴロして寝心地を確かめていた緋色は、ゆっくりと起き上がって窓に駆け寄る。

この家に庭があるのか、確認しようとしたのだ。


どんな眺望がのぞめるのかと緋色がひょいと外を見れば、そこには雲が広がっていた。


「……え? く、雲……?」


どれだけ標高の高いところに建っている家なのかと、緋色は目をしばたく。


「緋色は畑が欲しいのですね。今すぐ手配しましょう」
「ちょっと待って。ねえエシャール、ここはどこ?」
「天空城です」
「……ん? んん?」


なぜ自分の家だと紹介された場所が天空城なのかと、緋色は首を傾げる。


「物凄く辺鄙なところに建ってるってこと?」
「天に浮いているので、建っているという表現が適しているかどうかはわかりませんが、そうですね。しかし、要所に向かいたい時などは常時稼働する転移陣を用意していますので、心配しなくても大丈夫ですよ。国一番の商業施設に繋がる転移陣もありますので、不便はかけません。緋色用の畑を準備させたら、そこにも直通の転移陣を展開しておきますね」


にこやかに説明するエシャールとは反対に、やや顔色を悪くする緋色。

エシャールは簡単に転移陣と言うが、たったひとつの転移陣を作るのに主要都市の一年分の予算がかかると聖女ローラが言っていたような気がして、恐縮したのだ。


「えと、もっと普通の家なのかと思ってたんだけど……」
「ああ、説明不足でした。あまり怖がらせたくはないのですが、緋色は元勇者ですので、色んな意味で狙われやすいのですよ」


だから、誰の手も届かない場所で大切にお守りしないと、とエシャールは真剣な表情で続ける。


「そっか、ありがとう。でも、エシャールは大変だったよね。手間をかけさせちゃってごめんね」


狙われると聞いて、緋色は身震いをした。

勇者の装備がなければ、緋色は街のごろつきにすら対抗する術を持たない、ただの人だ。

むしろ、ただの人よりも貧弱な部類に入るかもしれない。


「いいえ。この家を準備する過程は、むしろこの上ない幸せでしたよ。さて、お茶でも飲んで少しゆっくりしましょうか。あとで、家の中をご案内しますね」
「うん、ありがとう」


エシャールは、家に常駐のホムンクルスを三体用意したと説明し、ホムンクルスに命じてお茶を持ってこさせ、二人はしばらくそこで落ち着いた時間を過ごした。
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