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27 執着の終着
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氷岬は強面で端正な顔に見つめられて、どきりとした。
「俺はお前を独占したい。部下ってだけじゃ、足りない」
「ええと、結婚の前に、こう……恋人同士とかの、お試し期間は」
「俺とお前の間にそんなん必要ねぇだろ。十一年の仲なんだから」
「まぁ……そうですが」
番の幸せを確認出来た今となっては、煌誠のパートナーとなることに不服はない。
今まで通りの生活をするだけで、そこに法律的な縛りが発生するだけだ。
「何が不満だ?」
「不満……は、ないのですが」
なぜだろう。
なぜか、素直にペンを動かせない自分がいる。
「氷岬は俺と結婚したくねぇのか?」
「そういうわけではなくて……」
上手く言葉にできなかった。
いやそれ以前に、自分の気持ちがよくわからなかった。
ただ、川底にこびりつく藻のように、もやもやとした何かが胸の奥に沈んでいるだけで。
「俺が嫌いか?」
「そんなわけないじゃないですか」
そう反射的に答えて、気づいた。
煌誠は、氷岬の気持ちが気にならないのだろうか。
自分が恋愛的な意味で煌誠を好きかどうかは今のところ未知数で、結婚などという法的な縛りをしてしまえば互いに面倒なことになるだろう。
「じゃあ問題ない」
明るい言葉にパッと顔を上げた氷岬の視線の先で、嬉しそうに微笑む煌誠がいた。
「……やっぱり、恋人同士からはじめませんか?」
一応、提案してみる。
「必要ない」
「私が煌誠さんを、恋愛的な意味で好きになれなかったとしても、後悔しませんか?」
自分の想う相手が自分を想ってくれないことは、辛いだろう。
その辛さはお互い、肉親相手ではあるが、知っているはずだ。
氷岬がそう尋ねると、煌誠は考えてもいなかったかのように目を瞬いた。
「……ん? お前が俺を好きになるなんてこと、あるわけないだろう」
「え?」
「お前が想い続けるのはこれからも運命の番だけだろうし、それでいい。それがお前から番を奪った罰なんだから、甘んじて受けるさ。……その代わり、俺はお前が欲しい」
煌誠の言葉に、氷岬の心が震える。
煌誠にとって、第二次性なんて、本当に関係ないのだ。
ただ純粋に、氷岬という人間を欲してくれている。
「……わかりました。でも、なんで自分なんでしょうか……」
自分のどこにそんな魅力を感じるのか、逆に氷岬は不思議に思う。
「お前は生意気でどこか抜けてるところが可愛い。物怖じしないし、度胸もある。優しいところも気配り上手なところもすげぇ好きだし、エロいところも滅茶苦茶気に入ってる。あと」
「もういいです」
「裏切られたら処分すればいいって今までは思ってた。お前だけなんだ、裏切らないで欲しいと思うのは」
「煌誠さん……」
「それに」
「まだ続くんですか?」
照れくささを隠すように眉間に皺を寄せた氷岬の眼鏡を、煌誠はそっと外す。
「出会った時から、この綺麗な顔もすげぇ好みだった。いつからだったかな……他の女やΩを抱いても、お前の顔がチラついて、全然楽しめなくなったんだ。マジで十年も手を出さなかった自分を褒めたい」
「こんな時に、他の方との性事情をちらつかせる煌誠さんは嫌いです」
氷岬はムッとなって口を挟む。
煌誠はその尖った唇に口付けると、そのまま舌先を捻じ込んで唾液を啜った。
「……嫉妬してくれるなんて、嬉しいもんだな」
「嫉妬?」
煌誠に指摘されて、氷岬は目を丸くする。
嫉妬? この自分が?
いやしかし、以前は煌誠がどんな相手と一晩を過ごそうが全く気にならなかったのに、むしろ邪魔してはいけないと思っていたのに、今では想像しただけで胸の奥がムカムカする。
「……嫉妬……しているのかも、しれません」
「はは、お前の素直で嘘がつけないところも、大好きだ。ヤクザとしてはどうかと思うが」
「そんな私を組みに引きずり込んだのは、ご自分ですからね」
煌誠や伊吹からヤクザとして駄目出しされることの多い氷岬は、少しムキになって答える。
「ああ。一生離してやんねぇ」
煌誠はそう言って、氷岬をぎゅっと抱き締めた。
氷岬はその腕に自分の手をそっとのせて、瞳を閉じる。
運命の番じゃなくても、自分はきっとこの人のことが、好きなのだ。
――それは強制力のある本能ではなく、二人の時間と経験と関係が、作り上げた感情だ。
「私も、多分好きです、煌誠さん」
ぽつりと呟けば、がば、と煌誠が離れて氷岬の顔を覗き込んだ。
「多分かよ」
口角を歪ませて、笑う。
「泣かないでください、煌誠さん」
「大の大人が泣いて堪るか」
一生好きだなんて言われるとは思っていなかった煌誠が、そっぽを向いて強がる。
「でも、また今度言ってくれ。いや毎日言ってくれ」
「多分好きです」
「……そのうち、多分はとってくれ」
「ちょっと図々しくないですか、煌誠さん。いや知ってましたけど」
二人でふは、と同時に笑って、もう一度抱き締め合った。
βとαという珍しい組み合わせの夫夫が熱烈に愛し合うようになるのは、もうすぐ先の未来のことである。
~fin~
「俺はお前を独占したい。部下ってだけじゃ、足りない」
「ええと、結婚の前に、こう……恋人同士とかの、お試し期間は」
「俺とお前の間にそんなん必要ねぇだろ。十一年の仲なんだから」
「まぁ……そうですが」
番の幸せを確認出来た今となっては、煌誠のパートナーとなることに不服はない。
今まで通りの生活をするだけで、そこに法律的な縛りが発生するだけだ。
「何が不満だ?」
「不満……は、ないのですが」
なぜだろう。
なぜか、素直にペンを動かせない自分がいる。
「氷岬は俺と結婚したくねぇのか?」
「そういうわけではなくて……」
上手く言葉にできなかった。
いやそれ以前に、自分の気持ちがよくわからなかった。
ただ、川底にこびりつく藻のように、もやもやとした何かが胸の奥に沈んでいるだけで。
「俺が嫌いか?」
「そんなわけないじゃないですか」
そう反射的に答えて、気づいた。
煌誠は、氷岬の気持ちが気にならないのだろうか。
自分が恋愛的な意味で煌誠を好きかどうかは今のところ未知数で、結婚などという法的な縛りをしてしまえば互いに面倒なことになるだろう。
「じゃあ問題ない」
明るい言葉にパッと顔を上げた氷岬の視線の先で、嬉しそうに微笑む煌誠がいた。
「……やっぱり、恋人同士からはじめませんか?」
一応、提案してみる。
「必要ない」
「私が煌誠さんを、恋愛的な意味で好きになれなかったとしても、後悔しませんか?」
自分の想う相手が自分を想ってくれないことは、辛いだろう。
その辛さはお互い、肉親相手ではあるが、知っているはずだ。
氷岬がそう尋ねると、煌誠は考えてもいなかったかのように目を瞬いた。
「……ん? お前が俺を好きになるなんてこと、あるわけないだろう」
「え?」
「お前が想い続けるのはこれからも運命の番だけだろうし、それでいい。それがお前から番を奪った罰なんだから、甘んじて受けるさ。……その代わり、俺はお前が欲しい」
煌誠の言葉に、氷岬の心が震える。
煌誠にとって、第二次性なんて、本当に関係ないのだ。
ただ純粋に、氷岬という人間を欲してくれている。
「……わかりました。でも、なんで自分なんでしょうか……」
自分のどこにそんな魅力を感じるのか、逆に氷岬は不思議に思う。
「お前は生意気でどこか抜けてるところが可愛い。物怖じしないし、度胸もある。優しいところも気配り上手なところもすげぇ好きだし、エロいところも滅茶苦茶気に入ってる。あと」
「もういいです」
「裏切られたら処分すればいいって今までは思ってた。お前だけなんだ、裏切らないで欲しいと思うのは」
「煌誠さん……」
「それに」
「まだ続くんですか?」
照れくささを隠すように眉間に皺を寄せた氷岬の眼鏡を、煌誠はそっと外す。
「出会った時から、この綺麗な顔もすげぇ好みだった。いつからだったかな……他の女やΩを抱いても、お前の顔がチラついて、全然楽しめなくなったんだ。マジで十年も手を出さなかった自分を褒めたい」
「こんな時に、他の方との性事情をちらつかせる煌誠さんは嫌いです」
氷岬はムッとなって口を挟む。
煌誠はその尖った唇に口付けると、そのまま舌先を捻じ込んで唾液を啜った。
「……嫉妬してくれるなんて、嬉しいもんだな」
「嫉妬?」
煌誠に指摘されて、氷岬は目を丸くする。
嫉妬? この自分が?
いやしかし、以前は煌誠がどんな相手と一晩を過ごそうが全く気にならなかったのに、むしろ邪魔してはいけないと思っていたのに、今では想像しただけで胸の奥がムカムカする。
「……嫉妬……しているのかも、しれません」
「はは、お前の素直で嘘がつけないところも、大好きだ。ヤクザとしてはどうかと思うが」
「そんな私を組みに引きずり込んだのは、ご自分ですからね」
煌誠や伊吹からヤクザとして駄目出しされることの多い氷岬は、少しムキになって答える。
「ああ。一生離してやんねぇ」
煌誠はそう言って、氷岬をぎゅっと抱き締めた。
氷岬はその腕に自分の手をそっとのせて、瞳を閉じる。
運命の番じゃなくても、自分はきっとこの人のことが、好きなのだ。
――それは強制力のある本能ではなく、二人の時間と経験と関係が、作り上げた感情だ。
「私も、多分好きです、煌誠さん」
ぽつりと呟けば、がば、と煌誠が離れて氷岬の顔を覗き込んだ。
「多分かよ」
口角を歪ませて、笑う。
「泣かないでください、煌誠さん」
「大の大人が泣いて堪るか」
一生好きだなんて言われるとは思っていなかった煌誠が、そっぽを向いて強がる。
「でも、また今度言ってくれ。いや毎日言ってくれ」
「多分好きです」
「……そのうち、多分はとってくれ」
「ちょっと図々しくないですか、煌誠さん。いや知ってましたけど」
二人でふは、と同時に笑って、もう一度抱き締め合った。
βとαという珍しい組み合わせの夫夫が熱烈に愛し合うようになるのは、もうすぐ先の未来のことである。
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