26 / 27
26 一足飛びの提案
しおりを挟む
氷岬が朝起きると、煌誠は風呂に入れたり水を飲ませたりして甲斐甲斐しくお世話をした。
そして落ち着いたあと、薄い紙を一枚テーブルの上に置いて「結婚するぞ、氷岬」と告げる。
「……本気ですか?」
子どもが生まれる家族形成は男同士でも女同士でも普通だが、子どもを望めないパートナー同士の結婚はごく僅かだ。
結婚の多様性が認められるようになった最近では、出来ないわけではないが珍しいことに変わりはない。
煌誠がこうした冗談を言わないことは理解しているつもりだが、それでも思わず確認してしまう。
「煌誠さんは、若頭として跡取りを」
「俺が親父から言われてるのは、結婚しろってことだけだ。子どもを作れなんて、言われていない」
「そうかも、しれませんが」
言われていないからといって、期待されていないわけではないだろう。
「実際親父だって、βの男同士で結婚してるだろ。俺だけが駄目だと言われる義理はねぇ」
「それは……確かに、そうですね」
組長はβの女性と一度結婚したものの、夫婦生活が上手くいかず、跡取りを作る前に離婚した。
そして、前組長が死んで跡を継いた時、βの男性と再婚したのだ。
「わかったら、さっさとサインしろ」
「因みに、拒否権は」
「あるわけねぇだろ」
「ですよね」
煌誠の暴君ぶりは相変わらずだ。
しかし、それを憎めないのは、なぜだろう。
氷岬は煌誠から差し出されたペンを受け取って婚姻届を眺め、証人欄を見てとっくに組内の了承を得ていたことを知る。
証人欄には、組長の名前とオジキの名前が記載されていたのだ。
「後悔はして欲しくないので、うかがいますが。これを出したところで、これから先、煌誠さんに好きな人が出来たら、どうするつもりですか?」
これだけ組に資金を提供した自分を、邪魔になったからという理由で殺すことはないだろうが、念の為氷岬は煌誠に尋ねた。
離婚しろと言われればするつもりだし、万が一にも殺されるくらいなら、今のままのほうがお互いのためにも断然いいだろう。
氷岬の問いに、煌誠は開いた口がふさがらない、とでも言うかのように目を見開いて固まった。
「煌誠さん?」
「お前……いや、マジでわかってねぇのか?」
「何をですか?」
「鈍いにもほどがあるだろ……いや、肝心なところで氷岬が抜けてるのはいつものことだが」
「ちょっと酷くないですか、煌誠さん。仮にも組の稼ぎ頭に向かって」
難しいことは氷岬に丸投げの若頭に言われたくはないと、氷岬は口を尖らせる。
煌誠はそんな氷岬の後頭部に手をかけて自分の顔に寄せると、ちゅ、と唇を合わせるだけのキスをした。
「煌誠さん?」
「氷岬。俺はお前が好きだから、結婚するんだ」
「……え?」
煌誠は俯いて、自分の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
それは煌誠が照れた時の仕草だと、氷岬は知っている。
「俺が人生をかけて傍にいたいと思った相手は、お前だけだ、氷岬」
「……煌誠さん……」
顔を上げた煌誠は真剣な顔をしていた。
そして落ち着いたあと、薄い紙を一枚テーブルの上に置いて「結婚するぞ、氷岬」と告げる。
「……本気ですか?」
子どもが生まれる家族形成は男同士でも女同士でも普通だが、子どもを望めないパートナー同士の結婚はごく僅かだ。
結婚の多様性が認められるようになった最近では、出来ないわけではないが珍しいことに変わりはない。
煌誠がこうした冗談を言わないことは理解しているつもりだが、それでも思わず確認してしまう。
「煌誠さんは、若頭として跡取りを」
「俺が親父から言われてるのは、結婚しろってことだけだ。子どもを作れなんて、言われていない」
「そうかも、しれませんが」
言われていないからといって、期待されていないわけではないだろう。
「実際親父だって、βの男同士で結婚してるだろ。俺だけが駄目だと言われる義理はねぇ」
「それは……確かに、そうですね」
組長はβの女性と一度結婚したものの、夫婦生活が上手くいかず、跡取りを作る前に離婚した。
そして、前組長が死んで跡を継いた時、βの男性と再婚したのだ。
「わかったら、さっさとサインしろ」
「因みに、拒否権は」
「あるわけねぇだろ」
「ですよね」
煌誠の暴君ぶりは相変わらずだ。
しかし、それを憎めないのは、なぜだろう。
氷岬は煌誠から差し出されたペンを受け取って婚姻届を眺め、証人欄を見てとっくに組内の了承を得ていたことを知る。
証人欄には、組長の名前とオジキの名前が記載されていたのだ。
「後悔はして欲しくないので、うかがいますが。これを出したところで、これから先、煌誠さんに好きな人が出来たら、どうするつもりですか?」
これだけ組に資金を提供した自分を、邪魔になったからという理由で殺すことはないだろうが、念の為氷岬は煌誠に尋ねた。
離婚しろと言われればするつもりだし、万が一にも殺されるくらいなら、今のままのほうがお互いのためにも断然いいだろう。
氷岬の問いに、煌誠は開いた口がふさがらない、とでも言うかのように目を見開いて固まった。
「煌誠さん?」
「お前……いや、マジでわかってねぇのか?」
「何をですか?」
「鈍いにもほどがあるだろ……いや、肝心なところで氷岬が抜けてるのはいつものことだが」
「ちょっと酷くないですか、煌誠さん。仮にも組の稼ぎ頭に向かって」
難しいことは氷岬に丸投げの若頭に言われたくはないと、氷岬は口を尖らせる。
煌誠はそんな氷岬の後頭部に手をかけて自分の顔に寄せると、ちゅ、と唇を合わせるだけのキスをした。
「煌誠さん?」
「氷岬。俺はお前が好きだから、結婚するんだ」
「……え?」
煌誠は俯いて、自分の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
それは煌誠が照れた時の仕草だと、氷岬は知っている。
「俺が人生をかけて傍にいたいと思った相手は、お前だけだ、氷岬」
「……煌誠さん……」
顔を上げた煌誠は真剣な顔をしていた。
50
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる