見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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1章 ローヌの決闘

15.辺境の地へ

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「行かないでルカさん! あなた無しでどうやって生きていけばいいの?」

「そういうわけにはいかないだろ。
 ロゼ、これを受け取ってくれ」

「え? これを私に?」

 装具を渡そうとすると、ロゼはうるうるさせた目でオレを見ていた。

 ロゼの好きそうなシチュエーションだが、別にオレは恋人と離れ離れになるわけでもない。

「いや、ナイヤに渡しておいてくれ。」

「ナイヤ様を選ぶの?」

「そんなんじゃないから。これはナイヤの治療の道具。お前しか渡せる奴いないだろ。」

「自分で渡せばいいじゃないですかぁ~」

 ほほふくらませるロゼ。年上のはずだが、おふざけが多すぎて面倒な女だ。決闘隊では人気の秘書官のようだが、いまいち理由がわからない。

「オレは嫌われてるの。この転属てんぞくの話しも、きっとあいつらが考えたんだろ。」

「まあ、それはそうでしょうね。ルカさんみたいな下級で戦いも強くない人が、ナイヤさんと仲良くお話ししてたら、それだけでムカつきますよね。」

「だろ? だから、ロゼに頼むしか無いだろ?」

「えー、私もルカさんの味方だと思われると困るんですけど?」

「まあ、そういうなって。今度ローヌ地方のお土産みやげ買ってくるから。帰れたらだけど…」

「OKです。頼みごとなんでもお聞きしますわ。」

 わかりやすい奴である。
 あれ以来、オレは訓練にも参加しておらず、ナイヤとは会っていない。
 失望されたか、いまだに仲間の同意を得られてないのか、どちらにせよ今日出発するオレには確かめる時間はない。
 念の為、装具の改良版とそのスベアの2本を置いていくことにした。
 いくらオレに近づいてほしくないとしても、ナイヤの怪我を心配するならば、とりまき連中も装具の着用ぐらいは認めるだろうと思った。
 それとて確認することはできないが、まあ、これはオレの自己満足の作業である。この際、ナイヤに届くか届かないかは問題ではなかった。

「ところで、本当にこの部屋は片付けなくて良いのか? 集めた小道具がたくさんあるので助かるが、普通は引っ越さなければならないんじゃないのか?」

「大丈夫です。勤務地きんむちは変わりますが、所属は第一兵団のままとなっています。
 騎士の皆さんは、ルカさんを追い出したかったみたいですが、王様が許さなかったそうです。
 ということで、このお部屋はまだルカさんの物です。」

「そっか。。。」

 感謝すべきなのかもしれないが、王様の爬虫類はちゅうるい的な顔が目に焼き付いて離れない。あの時間はなんだったのだろうと、今でも不思議に思う。

「ロゼは、王様の顔を見たことあるか?」

「とんでもありません。命じられない限りご尊顔そんがんすることなど許されていません。
 ルカさんは拝見はいけんされたんですよね?
 きゃー、どんなお顔だったのか聞きたーーーい! でも、聞くのも反逆になるのでできなーーい。いいなー。
 うわさでは、この世のものとは思えない美しい顔だとか。
 馬鹿だけど、美男子だと聞いてます」

「そうだな。美しい顔だったかもな。オレにはよくわからないなけど…。」

 王のことを思い出すだけで胸騒ぎがした。
 王に会ったことで、またトラブルに巻き込まれるのではないだろうか?
 ナイヤに関わったときでさえトラブルが発生したのだ。ナイヤで経験したからこそ胸騒ぎがするのだろうか?
 ああ、平和な日本に帰りたいなー。





 輸送隊の馬車に揺られて4日。オレは支援物資と共に辺境の地に赴任ふにんすることになった。

 ローヌ地方は、シュブドーのはるか西に位置する山岳地域だ。
 この地には、周囲を山々で囲まれたローヌ王国という小さな国があった。
 シュブドー王国とは同盟を結んでいる。
 この山岳地帯の西か北に魔王が支配する地域があると言われているが、はっきりとはわかっていない。
 分かっているのは、2ヶ月ほど前に突然襲ってきた魔王軍が、ローヌ地方から侵入してきたということだけだった。

「ルカです。第一兵団決闘隊から配属されました。以後よろしくです」

 第二兵団は団員の数だけでは、シュブドー王国最大の軍隊といえる。
 だが、その主な任務は国境警備なので一隊一隊の規模はとても小さく士気しきも低かった。

 パラバラと気持ちのこもってない拍手でオレは迎えられた。
 ローヌ方面隊は最近拡充されたとのことだったが、非戦闘タイプのサポートメンバーを含めても50名ほどの小規模な団体だった。

 ローヌ方面隊の宿営地は、ローヌ盆地の中腹に作られていた。
 といっても、丸太で作られた山小屋のような建物が三つあるだけで、周囲を囲む木の防護柵もとぎれとぎれだった。
 小屋は、会議室兼隊長専用宿舎、作業小屋、食料保存庫という用途が決まっていて、隊長以外の隊員は周辺に設置された大型のテントで寝泊まりすることになっていた。一つのテントを、四、五人で共用する。

 テントの自分のスペースに荷物を置くと、オレはすぐに隊長の待つ小屋に戻った。
 任務について話があるという。

「お前の任務については話を聞いている。」

 第二兵団の隊服は、グレーを基調としいる。隊長の服には、黒の縁取りや刺繍ししゅうが施されているが、オレの制服はシンプルにグレーのみだった。
 
斥候せっこう隊員という役割を用意した。名目は、この地域の調査やローヌ王国の偵察となっている。」

 隊長は、黒髪でやせせぎみの中年の男だ。常に眉間みけんにシワを寄せて、イライラしているような表情だった。

「もちろん斥候せっこうというのは、この隊だけの肩書で、お前の本当の目的は敵国への潜入だ。ローヌ王国市民になって、できるだけ王国中枢に近づくのだ。」

 眉間のシワを更に深くして、隊長は言った。
 だが、すぐに、木の抜けたような表情になり、話す内容も変化した。

「ということになっているが、別に潜入しなくてもいいと、私は思ってる。」

「え? いいんですか?」

「もちろんダメだ!」

 なんだ? 調子が狂う話し方だ。

「だが、よく考えてみろ? お前は密偵みっていの経験など無いだろう? 上層部に聞いたが、密偵みっていの経験ゼロ、訓練もしてないという。そんな者に高度なスキルを要する密偵みっていができるわけがない。ちがうか?」

「その通りです…」

「だが、命じられた以上、やるしか無い。ヤラねば、お前が死ぬことになる。」

「ですね…」

「でも、密偵みっていすれば、たぶんローヌ側に見つかって死刑だろう。スパイ行為はどの国でも重罪だからな。」

「……」

「だから、本気で仕事をシないほうが良いだろう。」

「わかりました。」

「わかってはダメだ。死など恐れるに足らん!」

 やっとロゼから離れられたと思ったら、ここにも変なやつがいた。

 
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