見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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1章 ローヌの決闘

27.ナイヤの出兵前夜①

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 太陽が西の空に傾き始めた時刻。
 ナイヤは王都内のガラていおとずれた。自室もあり自分の家のような場所であるが、平時にこの屋敷に戻ることはなかった。第一兵団の騎士としてガラ家の家名を高めると決めてから、屋敷には戻るつもりはなかった。

「父上、出兵しゅっぺいの挨拶に参りました。」

「…次はローヌか。
 お前が行く必要があるのか? 辞退はできないのか?」

「王の命です。武功ぶこうを上げて参ります。」

「なぜ、お前が出兵せねばならぬのか…」

「お許しください。」

 一層いっそう、お父様はけられてしまった…。

 鬼神ガラと呼ばれていたころの面影はもはやない。
 兄を亡くしても顔色一つ変えなかった父親が変わりはじめたのは、半年ほど前、私の怪我に気づいた頃からだった。魔王軍に負けた時、それまで病知やまいしらずだった父親が倒れ、心臓が弱っていることを医者から知らされた。
 最愛の息子を亡くし、今度は娘まで失うかもしれないという現実が、鬼神の鉄の心も身体もむしばんでしまっていた。

 私のせいだ…。

 自分の不甲斐ふがいなさに腹が立つ。
 ルカという兵士との関わりも、怪我を治して再び父親が安心する顔を見たかっただけなのに、結局、父親を心配の種を増やすことになってしまった。

 そして、今度はローヌ出兵で心配を掛けることになった。
 不敗の戦士の話は、決闘デュエルたずさわるものなら誰でも知っていた。
 ローヌと戦った戦士は、死をまぬがれたとしても眠ったまま意識をまさなかったり、人が変わったように無気力になったりしている。毒か魔法か呪いか、なんらかの原因が考えられたが、シュブドーの名医でもまだ解明できていない。
 この恐ろしい事実は、戦いをいどむ国々には大きな脅威だった。各国の王は、まずは負ける可能性を考え、お気に入りの戦士は出場させなかった。どんなに高名な戦士でも、万が一に敗れれば、使い物にならなくなる。さほど豊かでもないローヌの地にリスクを掛ける価値はなかった。

 ナイヤも騎士団のエースとして君臨くんりんしていた頃なら、ローヌとの決闘デュエルに出場することを命じられることはなかっただろう。
 だが、シュブドーの貴族の勢力図は大きく変わってしまっている。
 今や、政治の場でたびたびガラ家と対立してきたアシド派の貴族グループが、騎士団の大半を構成していた。
 北部三国への侵攻でも、活躍したのはアシド派の騎士であり、王の周辺の高官もアシド派が勢力を増している。
 すでに『ガラ家は没落した』と噂するものまでいる始末だった。

 聞くところによると、ローヌ侵攻もアシド派によって提案されたものらしかった。。
 アシド家にとって、ガラ家の息の根を止める機会に思えたのだろう。
 
 奴らの思い通りにはさせない!!
 連中は分かっていない。
 やはり治療を受けたのは正解だった。ひざは完治した。
 今の私なら、誰にも負ける気がしない。
 ローヌの不敗神話を破るのは私だ。そして、以前のお父様とガラ家を取り戻すのだ。

 ナイヤは拳をにぎりしめた。
 
 落胆らくたんする父親に別れをげ、宿舎に戻るために屋敷を出た。

 そこに、守衛とめている男を見つけた。第二兵団のグレーの隊服、胸や方に紋章の刺繍ししゅうがあるということは士官クラスを意味する。

「どうか面会させてください。大事なお話があるのです」

 守衛が止めるのも聞かずに、兵士は屋敷の主への面会を求め続けていた。

「どうした?」

「ガラ様、怪しきものゆえ放っておきましょう。」

 屋敷の前で待機していた背の高い男が駆け寄ってきた。古くからガラ家に仕えてきた貴族の一族の生まれであるタイユは、幼い頃からナイヤの護衛として付き従っていた。忠実で頼れる付き人だが、心配症なところがうとましく感じることもある。

「ならば、タイユが話を聞いてまいれ。」

 タイユは一瞬不満げな表情を見せたが、ナイヤがにらむとため息をついて男の方に向かった。そして、戻ってきた。

「ネグロ様の知り合いで、大事な話があるとのことですが…
 …嘘だと思います。
 ネグロ様が相手をするタイプには見えません。」

「兄の知り合い?」

 アマーロ家の養子となったネグロは、元はガラ家の養子で、ナイヤとは義理の兄という関係にあった。

「話を聞こう。」

「ガラ様!」

「ネグロは私の兄だ。家が変わっても兄弟にはちがいない。それに、第二兵団の士官なら心配することもないだろう。」

 タイユは「やれやれ」という表情のまま付いてきた。

「ガラ家になに用だ」

 男は片膝を地面につけて臣下の姿勢をとった。若くはない兵士だった。隊服は汚れ破れているところもあった。

「ローヌについて重要な話があります。」


 ナイヤとタイユは屋敷の主である父親には内緒で、ガラ家の屋敷の中に第二兵団の男を招き入れた。隠したのは、余計な心配をさせたくなかったからだ。
 いつもは慎重なタイユも強くは反対しなかった。
 タイユもローヌの情報に興味が引かれたようだった。

「タイユ。どう思う?」

 ローヌ方面隊隊長という肩書の男を部屋に待たせておいて、ナイヤはタイユに尋ねた。
 すぐにでも話を聞きたかったが、時期が時期だけにアシド派の罠の可能性も考えざるを得なかった。

「話を聞いてみるだけ聞いてみましょう。私も当主様と同じで、ローヌ侵攻は危険と考えてます。奴の話が嘘であっても、そのことを理由に王に出兵の再考のお願いすることができるかもしれません。」

「わかった。まずは話を聞こう。」

 部屋に入ると、男は静かに待っていた。表情は真剣で、覚悟のようなものを感じた。戦士の顔である。
 ふと、ナイヤは自分を叱りつけた奇妙な若者ルカのことを思い出した。下級市民のくせに、貴族の自分を叱ったのである。

「私は、タイユ。第一兵団決闘デュエル隊に所属している。ガラ家のものには、私から伝える。まずは、貴殿の名前を聞かせてほしい。」

 椅子に座った男と面接を初めたのは、タイユだった。
 ナイヤは、部屋のすみに立って二人の様子を眺めていた。

「私の名はルジュマン。第二兵団ローヌ方面隊を指揮しておりました。
 申し訳ないが、ガラ家の方以外とは話ができませぬ。」

 タイユは、振り向いてナイヤに目配せした。
 ナイヤも目で賛同した。

「直接話はしないが、あの方はガラ家の血筋のお方だ。だから、安心して話せ。
 それでも我々の言葉が信用できないというなら、お引取り願おう。」

 ルジュマンという男はしばらく悩んだ後、ゆっくりと話し始めた。

 
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