見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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2章 カタハサルの決闘

9.特クラス

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 ペレス先生の講義が終わると、多くのものはその場に残り食事会や宴会が始まった。早めに食事を済ませた者の中には他のサークル会場に向かうものや、明日にそなえて早めに休むものもいた。
 オレとレトワールもそのまま一階の食堂で夕食をりながら話そうと思ったのだが、「おとなり開いてますか?」と近づいてくる女性が多いので、二階席に移動することにした。
 二階席はとくクラスと講師だけの専用エリアになっているので、他のクラスの奴隷どれいたちの邪魔じゃまが入る心配がなかった。
 オルトンたちが二階のスペースに陣取じんどっていたら気まずいかな?と危惧きぐしたが、二階席に知った顔はいなかった。
 
 布でぐるぐる巻にされた左腕ひだりうでの状態を気遣きづかって、レトワールは食事を運んでくれた。食堂はんでいて、片手で食器トレーを持って運ぶのは正直難しかったので、心底しんそこありがたかった。
 先に二階席のテーブルに腰掛けて待っていると、自分の分の食事を持ったレトワールが戻ってきた。

「腕はどうしたんだい?」

 席につきながらレトワールは尋ねた。

決闘デュエルで折れた。」

 ふと、戦ったルサンヌのことを思い出した。

「へえ。聞いていいのかな? 勝ったの?」

 レトワールの青い目が輝いた。

「勝った。でも、怪我したからいい勝ち方とは言えない。」

「そんなことないさ! 決闘デュエル戦士は勝たなきゃだめさ。勝てば、栄誉えいよを得られるじゃないか。負傷も名誉になる。」

「まあね。」

 自分の父親のことを思い出すが、レトワールには関係ない。オレは否定しなかった。

「君は、とても強いんだろう? 貴族じゃないものがとくクラスになるなんて通常はありえないことだから。
 でも、強いなら、どうしてここに来ることになったんだ?
 シュブドーなら負け無しの大国じゃないか。お金に困っているとも思えないし、売られる理由がないんじゃないか?」

 ダオスタから部分的に聞かされていたが、オレは説明する必要はないと思った。説明するにしても、話がややこしすぎる。
 オレは、さっきから気になっていることを改めて尋ねてみることにした。

「そうそう。とくクラスって、なに?」

「ああ、そうだったね。気になるよね。
 奴隷どれいのカテゴリーは、国によっていろいろ呼び方があるみたいだけど、サロスの奴隷どれいは3クラスに分かれているんだ。他の国には、簡単な労働しかできない奴隷どれいの取引もされているけど、ダオスタさんは中級以上の奴隷どれいしか扱わないらしい。」

 オレは食事に手を付けることもなく、黙って聞いた。

「中クラスがここでは最下位のクラス。上クラスが二番目。そして、とくクラスが10人くらいいる。
 とくクラスのメンバーは、大抵の国でエース戦士に成れそうな実力者や、将来性のある有望株ゆうぼうかぶの戦士だね。」

「なんか、オレはそれには当てはまらないような気がするな…。」

「そうかな? 私みたいな国の中枢ちゅうすうにいた貴族もとくクラスになるようだけど、君は貴族じゃないから、その線はありえないし…。」

「レトワールさんは、どこの貴族だったの?」

 レトワールは困ったように微笑んだ。

「ここでは貴族は関係ないから、呼び捨てでいいよ。テゼルで大貴族って言われていたときも違和感いわかんがあったし、正直なところ今のほうが気が楽なんだ。」

「テゼル? 北方三国!」

「シュブドーでは、そう呼んでたらしいね…。私たちの国では神聖三国って呼んでたけどね。ま、ぜんぜん神聖じゃなかったんだけど…。」

 レトワールは少し俯いた。声も少し沈んだ。

 シュブドー王国が、ローヌに侵攻する前に滅ぼしたという北に位置する国の一つがテゼルだった。伝説によれば、この世界を作った神が生まれた地だと云われている。
 シュブドー王国は、かつて一度もテゼルを攻めたことはなかった。長年の友好国であり、同盟国であり、シュブドーもテゼルを神の国として認めて自らテゼルを守るように接してきたはずだった。
 オレはその話をローヌで聞かされ驚き、ローヌの危機を感じたのだった。
 なぜシュブドーがこれまでの伝統を破ってまで、テゼルを攻めたのかは知らない。

「神聖じゃなかった?」

「神に守られし神聖な国だったなら、滅ぶことはなかったはずなんだ。だから、神聖じゃなかったのさ。
 私も、テゼルの大貴族なのに結局何もできなかった。役立たずなんだよ。貴族の血なんてものはね。」

 レトワールは力なく笑った。

「貴族もいろいろ大変なんだな。オレからすると生活は安定していて、迫害はくがいを受けることもなく、幸せそうに見えたけど、、、まあ、シュブドーの貴族も苦労しているみたいだったから、案外あんがい大変なのかもね。
 だけど、テゼルのことはレトワールのせいじゃないと思う。国力の差はどうしようもない。個人の力でどうにかできるものじゃないよ。」

「そうか。そうかもしてない。君のような戦士のいるシュブドーを甘く見すぎていたのかも知れない。思い上がりだったのかもしれないな。
 オルトンは怒るだろうけど…。
 でも、ありがとう。」

「そういえば、あの女の人たちも戦士だったのか? そうは見えなかったけど?」

 ふと、オルトンの近くにいた女二人を思い出した。レトワールの言う通りなら、彼女たちも高位な貴族ということなのだろうか? 戦士には見えなかったが。

「あ、とくクラスの条件は他にもあるよ。例えば、ハイランクの魔術師とか、医術に優れているものとか。あの二人は…」

「それだ!」

 オレは声をあげた。

「どうしたの?」

「ダオスタは勘違かんちがいしたんだ。オレに医官のスキルがあると思ったんだ。」

「え? 君、医官なの? 医官なのに決闘デュエルしたの? うん? やっぱり戦士だよね?
 もしかして両方できるってこと?」

 レトワールは目を丸くした。

「いや、だから勘違かんちがいされたんだ。オレは医官じゃないし、本当は決闘デュエル戦士でもないんだ。」

「そんなわけないよ。」

 レトワールはさわやかに笑った。まったく信じてもらえてない。

「負傷したとはいえ、決闘デュエルで勝ったんでしょ? 決闘デュエルはそんなに甘いものじゃないよ。まぐれで勝てるようなものじゃない。
 テゼル最強と呼ばれたオルトンでも、シュブドーの騎士には勝てなかったんだ。」

 そこまでは笑顔だったが、急にレトワールは暗い表情をした。」

「ルカはすごいね。強いのに、強さをひけらかそうとしない。とくクラスなのに威張ったり自慢したりもしない。
 オルトンに君の謙虚さが少しでもあれば、オルトンはもっと強くなれるのにな。」
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